抗鬱薬おじさん(こううつやくおじさん)とは、漫画『東方鈴奈庵』に登場したモブのオッサンの通称である。
『東方鈴奈庵』5巻、34・35話「誰がデマゴギーを広めるのか 前編・後編」に登場した、特に名前も出ない人里の一般人である。人間の里に広まっていた「今年の末にも世界が終わる」という噂に不安を感じ、鬼気迫る表情で博麗神社に参拝していた。霊夢もその様子が気になり、相談に乗ったことで世界終末の噂が広まっていることを知る。
時期的には『東方深秘録』『東方紺珠伝』の少し後であり、まだ都市伝説異変が収まりきっていなかった頃である。こうした相次ぐ異変も不安を掻き立てたのであろう。もし世界終末の噂が広まりすぎると、都市伝説異変の効果で本当に世界(幻想郷)の終わりが顕現しかねないと考えた霊夢と魔理沙は、それぞれ原因を突き止めるべく方々を調べて回ることになる。
ふたりの調査が空振りに終わるなか、街中で「これは凄いぞ!」と大声を張り上げる人物がいた。そう、冒頭に出てきたおじさんである。おじさんはその手に「抗鬱薬」と書かれた袋を持ちながら、
最近世界の終わりが近いという噂で
不安で眠れないし汗も止まらず目眩や頭痛に悩まされていたんだが
それらが一気に解消された
いやあ、これなら世界の終わりも怖くない!
同じ症状に悩まされていたら薬売りに聞いてみたら良いぜ
と喧伝していた。こうして抗鬱薬おじさんが誕生したのであった。めでたしめでたし。
※ 幻想郷外の皆さんは、抗鬱薬は医師の診断の下で使ってください。
…とまあ、話にそこまで関与していないただのモブキャラクターなのだが、
…などの要素から妙な人気を獲得しており、『鈴奈庵』随一の癒し要素となってしまった。なんだこのオッサン。気がつけばMMDモデルはあるわ、第13回東方Project人気投票で95位になるわと、例の易者みたいに変な脚光を浴びている。
ぽっと出のモブキャラクターなのだが、実はよく似た風貌の人間が『東方鈴奈庵』4巻、23話「煙草と狸と無銭飲食 後編」で東風谷早苗の説法の聴衆として登場している(25ページ3コマ目)。もしかすると、今後もモブキャラとしてさりげなく登場するかも?
ちなみに、おじさんの持っていた薬には「兎角同盟製薬(秘)印」とも印刷されており、薬売りから買ったということから、薬の出本は永遠亭であることが察せられる。話の本筋で霊夢と魔理沙が異変の原因を探っていたが、その中で「月の民は浄土思想(=世界終末思想)を持つ」という推測から鈴仙を問い詰めている。もしかすると、そこから抗鬱薬の需要を知ったのかもしれない。
なお、霊夢と魔理沙が調べていた「なぜこの噂が出回ったのか」の大元は結局不明のままであった。一方で俯瞰していたマミゾウは、鈴奈庵の外来本が原因だと確信していた。また鈴奈庵か。そしてこの噂から人妖問わず活気づいている様を見て「仮にもし誰かの仕業だとしたら、妖怪すべてのみならず、人間も活性化する事を望んでいる奴」と推測していたが、はたしてそんな奴どこのスキマにいるのだろうか?
この話でおじさんが聞いた世界終末は、今年の末にも「弥勒の世」がやってきて、世界は泥の海に沈み、人類は滅亡するというものであった。作中で聖白蓮も言っているが、弥勒菩薩は釈迦の入滅後56億7000年後に地上に降り立ち衆生を救うという、いわば救世主である。それがどうしてか「今年の終わりに人類滅亡」になってしまった。
実は弥勒菩薩信仰も一様ではなく、時代が下ると「すごい遠い未来に降臨」という部分が省かれて「もうじき弥勒菩薩が降臨なされる、いや降臨してくれ」という下生信仰が登場している。天変地異や戦争疫病などで困難にあえぐ人々が、そんな超遠い未来ではなく、今苦しんでいる自分たちを救ってほしいという願いから生まれたものなのかもしれない。救世主を求める(現状の打破を求める)という性質から、たびたび体制に対する反動勢力にも利用されてきた歴史があり、かつて中国で存在した白蓮教なども下生信仰を基にしていた。
弥勒の降臨が前倒しされるのはともかく、救世主のはずが世界滅亡の話にされてしまったのは、同じく仏教の末法思想の影響があると思われる。釈迦入滅後、その教えが正しく伝わる時代がある程度過ぎると、その教えの届かない「末法の世」が来るとされているものである。ニンジャヘッズにはおなじみの形容詞「マッポー」とはこれである。「釈迦の教えが届かない」というものは、人々には転じて「世界が終わる」、いわゆる終末論として認識された。
いつがその「末法の世」なのかと諸説あるが、日本では平安時代後期の永承7年(1052年)がその年だとされていた。今が末法の世だと知った民衆は混乱に陥り、心の拠り所を仏に求めた。後に親鸞や日蓮らによる「鎌倉新仏教」が興ったのも、この末法の世を背景としている。
地蔵菩薩、いわゆるお地蔵さんは弥勒信仰に基づくものの一環で、弥勒が到来するまでの間を守ってくれるものだとして信仰を集めた。話の後編でもお地蔵さんが設置されているのも、ここに由来すると考えられる。
作中で世界終末の噂が広まった一因に、人里で真偽不明の絵図入りチラシが撒かれていたことにある。
ここで登場しているチラシ・世界轉覆奇談(せかいひっくりかえるめずらしきはなし)は、明治時代に伝わった噂、そして出版された実在の書籍である。検索するときは「世界転覆奇談(せかいてんぷくきだん)」のほうが見つかりやすい。
明治14年(1881年)、海外から「今年の11月15日に世界が滅亡する」という噂が伝わり、広まったという。横浜で売られていたフランス語新聞の記事が発端であるらしく、そこからいろんな新聞社やら出版社やらが群がってこれをネタにしたようである。これを読んだ民衆は不安に駆られ、その不安を利用して商売にしていたわけである。その後、警察に取り締まられて騒ぎは沈静化した。
この噂の概要は、以下の通り。
この話をネタにした書籍がいくつか現存している。いずれもこの話を迷信・妄言と断じており、こんなもの信じないようにと啓蒙している。ノアの箱舟などが話のベースと考察している書も見られた。これらは国立国会図書館に残っており、2015年11月より4冊がインターネット上で公開されている(外部リンク参照)。ちなみに、この話が雑誌に掲載されたのが2016年1月号(12月発売)と妙にタイミングがいい。
射命丸文はこのチラシを自身の新聞に掲載し、前述の書籍のように「信じるべきではない」と警句を発したうえで人里で販売した。しかし、チラシの絵図そのものを紙面に載せていたため、本人の意図に反して噂の拡散に貢献してしまった。おそらく、前述の書籍なども同じように迷信を封じるはずが、逆に拡散する結果になっていたのではなかろうか。
しかしマミゾウも言っているが、いつの世も人は終末論が大好きである。
いやあ、これなら世界の終わりも怖くない!
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最終更新:2025/03/21(金) 06:00
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