日本人男性2名身代金要求人質事件とは、2015年にシリアで発生した人質事件である。
首相官邸や外務省では「シリアにおける邦人拘束事案」と呼称している。
2015年1月20日、民間人軍事会社CEO(以下Y氏。引用文中もこれに改める。家族など関係者についても同様に本名は記載しない)と2014年11月に拘束されたフリージャーナリスト(以下G氏。記事内の扱いはY氏と同様)の日本人男性2名にする処遇が、ISILとみられる組織から発表された。動画形式でYoutube上に公開された。
脅迫映像内容は、NHKワールド[1]の報道番組NEWSLINEの引用から始まり、安倍晋三首相が演説している報道画面から身代金要求映像に切り替わる。人質である日本人男性2名(左がG氏、右はY氏)がオレンジ色の死刑囚人服(アフガニスタン紛争やイラク戦争の戦争犯罪者やテロリストが収容されたグアンタナモ湾収容キャンプの囚人服を模したもので、復讐を意味すると言われている)を着せられ、砂漠上に跪かされている。中央の黒覆面の男(いわゆるジハーディ・ジョン)が人質の間に立ち刃物を振り回し、
「日本の総理大臣へ。貴方の住む日本国はイスラム国から8,500kmも離れているのに、〝十字軍〟(アメリカ合衆国が主導する対ISILの有志連合(軍事同盟))への参加を進んで志願した。我々の女性や子ども達を殺害し、イスラム教徒の家屋を破壊するため、誇らかに1億ドルを提供した。従ってこの日本人(G氏)の命には1億ドルかける。
またイスラム国の拡大を防ぐため、イスラム戦士と戦う背教者の養成にも1億ドルを提供した。そのため、こちらの日本人(Y氏)の命にも別に1億円をかける。」「日本国民に告ぐ。お前達の政府はイスラム国と戦うため、2億ドルの支出をするという最も馬鹿げた決断をした。この日本人人質を救出するため、日本政府に2億ドルを支払うという賢明な判断を日本国民が促す時間は72時間。もし説得できなければ、このナイフが悪夢の凶器と化すだろう。」
と身代金要求を英国訛りの英語で述べた。要するに、「72時間以内に日本政府が2億ドル(約236億円)を支払う」か、「日本国民が自らの政府に圧力を掛け2億ドルを支払わせる」。さもなければ、人質の日本人男性2名を殺害すると脅迫している[2]。期限”72時間”の時刻は、1月23日の午後、正確には午後2時45分頃とされている。
なおこの2億ドルは「イスラム国」から逃れた難民対策として周辺国に供出された支援金と同額である。人道的支援(非軍事的資金援助)と明確に発表したが、間接的に「反イスラーム」に加担していると勘違いされた可能性もある。日本国自衛隊はISIL側が述べた〝十字軍〟、もといアメリカを中心とした有志連合(軍事同盟)に参加しておらず、空爆などの軍事行動は勿論、軍事的資金援助もしていない。
この騒ぎに便乗して、わざわざISIL関係者へ送信する者も現れた[3]。「人質となった男性の命」をさらに危険なものにするTweetを行うジャーナリストもいた。民進党の有田芳生もこの動きに便乗した[4]アルジャジーラはこの騒動を「異常な方法で反撃している」と報じ、衆議院議員の佐藤正久氏は「敢えて日本を危険に晒すことはない」と批判。[5]。国内外に物議を醸した。
1月22日、イスラーム法学者の中田考氏は「政府の要請があればイスラム国に渡航して仲介する用意がある」と表明し、「あまりにも短時間であり、イスラム世界のためにならない」というメッセージをアラビア語でも発信した。[6]。同日、ジャーナリストの常岡浩介氏もまた、「日本政府から協力要請は届いていない」とし「北大生イスラム国渡航未遂事件の強制捜査により公安が情報を奪い、人質解放への道が遠のいた。」と警察を批判する発言した[7]。米国政府は非公式に「ISILへの身代金支払いは拒否するように」と日本政府に伝えた[8]。
23日、G氏の母親が息子の解放を呼びかける記者会見を開いた。
日本政府は20日午後、当人質事件を確認。ヨルダンの首都アンマンにある日本大使館に現地対策本部を設置し、外務副大臣・警察庁「国際テロリズム緊急展開班」を同国に派遣。情報収集を開始した[9]。周辺国や宗教指導者など様々なチャンネルを駆使して、人質解放を目指す。歴訪中の首相はパレスチナ自治区では会談のみ行い、同自治区内での視察を取りやめた。またアメリカ・フランス・オーストラリア・イギリスの各国の首脳・外務大臣に協力を要請した。
日本時間24日午後11時頃、ISILとみられる組織が「Y氏の殺害写真[10]を持たされ、手枷をはめられオレンジ色の死刑囚人服(イラク戦争後にグアンタナモ刑務所で虐待されたイラク兵の囚人服と同色であり、復讐を意味しているという話がある)を着せられたG氏のナレーション付き静止画動画」をYouTube上で公開し、政府も確認した。
菅官房長官は「沙汰の限りの許容しがたい愚挙である。残るG氏には危害を加味しないよう確と要求する」と発言した[11]。安倍首相は「現在あらゆる手段を講じて事件解決に取り組んでいる。その中でY氏が殺害されたとみられる写真がインターネットに配信されました。ご家族の心痛は察するに余りあり、言葉もない。このようなテロ行為は言語道断であり、許しがたい暴挙である。強い憤りを覚える。断固として批難する。改めてG氏に危害を加えないよう、そして即時の解放を強く要求する。日本政府は継続してテロに屈さず、国際社会と共に、積極的な平和と安定に貢献していく。今後も邦人解放に向けて政府を挙げて取り組む。」と午前1時30分頃の記者会見で述べた[12]。
動画冒頭に「これは日本政府とG氏の家族が受け取ったものだ」と白抜き英字が表示され、G氏とされる男声の英語ナレーションが付けられており「拘束されていた2人のうちY氏を殺害した」とする内容で、YouTube上で動画を公開した。日本政府は、この情報について信憑性を吟味し、正確な情報収集に努め、人命第一で対応するよう指示している。さらに動画内では、
「私はGだ。ご覧の写真は、私の同室のY氏がイスラム・カリフ国の領内で殺処分された時のものだ。貴方がたは警告と最終期限を与えられていた。だから拘束された者たちは彼らの言葉通りになったのだ。安倍(首相)、貴方がY氏を殺した。貴方は私が拘束されたことを脅威として真剣に受け止めず、72時間以内に行動を起こさなかった。」
「愛しい妻よ、愛している。2人の娘にも会いたい。絶対に、安倍が私で同じ過ちを繰り返すことの無いように、決して諦めずに、家族、友人、インディペンデント・プレスの同僚たちと協力して、日本政府に圧力をかけ続けなければならない。」
「イスラム国の要求は簡単なものとなった。彼らは公明正大だ。もはや金銭は要求していないから、テロへの資金提供は心配しなくていい。彼らの要求はただ一つ、収監中の姉妹サージダ・アッ=リーシャーウィーの釈放だ。これは単純な話で、つまり貴方がたがサージダを彼らに引き渡せば、私も解放されるということだ。」
「現状を鑑みても、これは実際に可能なことであり、しかも日本政府は石を投げて届くくらい近くにいる。何と、日本政府代表は皮肉にもヨルダンに滞在しており、イスラム国の姉妹サージダはヨルダン当局に収監されている。 繰り返し強調させてもらうが、私の生命を助けるのはとても簡単な事だ。ヨルダン当局から姉妹サージダを彼らに引き渡せば、私は即座に解放されるだろう。私は彼女の為の交換物なのだから。」
「妻よ、これがこの世での私の最後の時間になるかもしれず、私の声は死人の言葉になりそうだ。今聴いた言葉を私の遺言にしてはならない。どうか安倍に私を殺させないで欲しい。」
という趣旨の内容が英語で述べられている。G氏の肉声とされる。該当動画はISILの白黒旗や報道機関「アル・ハヤト」のロゴは挙げられておらず、公式サイトではアップロードされていない[13]。
サージダ・ムバーラク・アトルース・アッ=リーシャーウィーは、ヨルダンで2006年死刑判決を受けたイラク人女性テロリスト。2005年にヨルダンの首都アンマンで死傷者170名以上(うち死者60名弱)以上を出した連続ホテル自爆テロ事件の実行犯の一人であり、彼女自身はベルト型爆発物が不発に終わり生存した。彼女はイスラーム国の前身である「イラクのアル=カーイダ機構」の指導者アブー・ムスアブ・アッ=ザルカーウィーの側近の娘であったとみられている[14]。
ヨルダン国内では、同じくイスラーム国に拘束されているヨルダン人の空軍パイロット(以下M氏)と先に人質交換すべきだ(サージダ死刑囚と当パイロットの人質交換の話はこの事件以前より存在した)という意見や、「そもそもテロリストを釈放すべきでない」という意見もある。ヨルダン国王・アブドゥッラー2世も「ヨルダン人パイロット解放が最優先事項」とヨルダン国内メディアに発言した。
25日、ISIL運営の公式ラジオ局はY氏の殺害を認めた。[15]。
日本時間27日23時頃、新たな動画が公開された。今回も手錠を掛けられたG氏が、画像を手に持ち英語で話す。ただし画像はY氏ではなく、ヨルダン人パイロットのM氏である。黒背景白抜き文字で「G氏からG氏の家族・日本政府への第2の広報メッセージ」とタイトルが表示された後、男声の英語が続けられる。
「私はGだ。妻・日本国民・日本政府へ。これが私からの最後のメッセージになると言われた。」
「またこうも言われた。『お前の自由を邪魔する障壁はヨルダン政府であり、彼らがサージダの引き渡しを遅らせているからだ。だから日本政府にこう伝えるのだ。〝ヨルダン政府にあらゆる政治的圧力をかけろ〟』と。」
「残り時間はどんどん減っていっている。私は彼女の為の交換物だ。どうして、この問題がそんなに理解困難なものに見えるのだろうか。彼女(サージダ)は10年間ずっと囚人である。でも私は数ヶ月間しか拘束されていない。(貴方がたにとって)彼女は私のための交換物なのだから、直接交換すればいい。これ以上問題を引き伸ばしたところで、ヨルダン政府はパイロット(M氏)の死の責任を負うことになり、その後に私が彼の後を追うことになる。」
「私に残された生命の時間はあと24時間しかない。そしてパイロットの(時間)はより少ない。頼む、私たちを見殺しにしないでくれ。どんなに時間稼ぎをした所で、2人とも殺されたことを思い知るだけだ。ボールは今、ヨルダン側のコートにある。」
2015年2月1日(現地時間は1月31日夜)、ISILがG氏を殺害したとする映像をインターネットに公開した。
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