氷河 単語

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ヒョウガ

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氷河(英:glacier、独:Gletscher)とは、重力によって長期間にわたって流動する、と氷の塊である。

概要

積もったあと解けないままを越したのことを万年(多年性渓)と言うが、これはまだ氷河ではない。万年の中の物質としてのフィルンと言い、このフィルンの上にさらにが積もることによって圧密される。それによって密度が増すと、フィルンどうしの間の隙が埋まり、繋がる。こうして氷に転化したフィルンは、概ね純氷に近い0.9g/cm3ほどまで密度が増大する。なおも圧密され続けた氷河氷はしだいに十cm単位の単結晶に成長する。こうして氷河が出来る。

特に山岳氷河は重力により谷間ゆっくり滑るように流れる。その速さは氷河の規模や傾斜、あるいは地質によって異なり、同じ氷河の中でも場所や深さによって変わってくるが、おおむね年に数十~数m程度である。

氷河の面積や規模は、地球歴史上変動を繰り返している。一般的に言うところの氷河期という言葉は、今よりももっと寒かった時代を漠然とす言葉として定着し、寒さの厳しい時代、というニュアンスから「就職氷河期」という言葉も誕生して久しい。ただこの氷河期と言う言葉、学術用語としてはやや意味するところがぼんやりしている。「氷河時代」「氷期」「最終氷期」のいずれも氷河期と呼ばれうるが、これらはどれもちょっとずつ違う言葉である。
地理学や氷学の用語では、地球上に大陸氷床が存在した時代を氷河時代と呼び、地球歴史において、複数回の氷河時代が存在したということが分かっている。このうちおよそ7.3億年前から6.4億年前には、断続的に1億年近くもの間地球表面全体が凍結するほどの強力な氷河時代があったとされている(スノーボールアース仮説)。
この意味では、南極大陸氷床が存在する現在地球もまた立な氷河時代である。最新の氷河時代は約260万年前から現在まで続く第四紀氷河時代と呼ばれるものである。しかしながら、一つの氷河期の中にも、ミランビッチサイクルと呼ばれる太陽からの日射量の長期的な変動ので、ざっくり寒い寄りの時期と暖かめの時期が交互で存在し、前者を氷期後者氷期と氷期の間の時期という意味で間氷期と呼んでいる。現在は、7万年前から1万年前にかけて続いた最後の氷期のあとの時代であり、この最後の氷期が最終氷期現在の時期はまだ「間」ではないことから後氷期と呼んで区別している。この最終氷期は日本では縄文時代とがっつりカブっており、ナウマゾウだのなんだのが日本を歩いていた時代である。

分類

明確に分類などが定義されているわけではないが、山地に分布する山岳氷河と、大陸を覆う規模の氷床(大陸氷河ともいう)に大別される。
現在、氷床はグリーンランド南極大陸にしか存在していないが、それでも体積では約99が氷床で、山岳氷河は1ほどである。

氷河がり出すと、これは氷河から分離して氷山となる。南極大陸では陸から分離せず棚氷として上にも巨大な氷原を形成している個所があり、最大のロス棚氷では面積は約50万m2にも及ぶ。日本面積が約37.8万m2であるから、日本まるまる1個に更に北海道がもう1個ついてくるほどの広大面積が、上の氷として浮かんでいるということになる。浮かんでいるとはいっても、陸地上の氷河と連続していること、全体で数m以上の厚みがあることなどで、実は上であるということにはまったく気付けない。1912年白瀬矗率いる大日本帝国南極探検隊が上陸し、大和として領有をした地域こそ、このロス棚氷の上であった。

山岳氷河もその規模などで山氷河、氷河などと分類があるが、その区別に明確な定義はない。

地形と氷河

氷河の流動は地形を作る外的要因の一つであり、氷河によってできた地形を氷河地形と言う。氷河によってが削られてできるU字やそれが沈したフィヨルド、山の斜面にお椀のような特徴的な跡を残すカール(圏)などが代表例だろう。浸食だけでなく、底部の氷によって削られた岩が氷河の末端モレーンと呼ばれる堆積地形を作ることもある。

また、氷河そのものではなく、その周辺においても、氷河の存在が地形形成にしたものがあり、これらは周氷河地形と呼ばれる。日本では北海道北部の宗谷丘陵などが代表例である。

地形とは言えないが、削られた岩が下流部の基盤岩にこすれながら流動していくことで基盤岩にできる氷河擦や、ある岩が氷河によって運ばれたあと氷河が解けて取り残されることで、付近の岩石と種類の全く異なる岩がぽつんと存在する迷子などもまた、氷河がかつてそこにあったことを示す拠である。

環境と氷河

過去の環境

現在でこそ氷床はグリーンランド南極大陸にしか存在していないが、かつてはより広い地域に氷床が分布していた。最終氷期の最寒冷期は約2万年前であり、この時期には北半球のかなりの部分で氷河が存在していた。代表的なものが、現在カナダと五大周辺をまるまる覆っていたローレンタイド氷床と、スカンジナビア半島を中心に北海スコットランド、南はユトランド半島の付け根くらいまでに広がっていたスカンディナビア氷床(フェノスカンディア氷床)である。

これらとグリーンランドをあわせた3つの大氷床は、陸上に膨大な量の低温のH2Oを固定することになるため、地球の気に小さくないを及ぼした。例えば、何らかので氷床の一部が解け、北大西洋に大量の淡をもたらし続けることで起こるとされる、ダンスガード・オシュガーイベントがある。
実は北大西洋では、メキシコ湾からの暖かい流が冷却されて塩分濃度が増し、中に沈み込むという現象がみられる。沈み込んだ海洋深層水として世界中を巡った後、だんだんと暖かくなって浮上しながらメキシコ湾に戻ってくるという一連の循環、循環なすのだが、氷床の融解で北大西洋周辺の表層が淡まみれになると、であるメキシコ湾からの流はい段階で沈んでいき北大西洋には届かなくなる。暖流が届かなくなれば、スペインでさえ日本東北北海道くらいという高緯度にあるヨーロッパ周辺は緯度相応に寒冷化する。この寒冷化は非常にしく、数十年で10℃という地球温暖化裸足逃げだすほどの高速で寒冷化が進んだ。そして寒冷化によって氷床が大西洋に解けだす現象が弱まり、流の沈み込む位置が北上して、次第に温暖化していく。するとあるタイミング氷床の一部が解け、北大西洋に流れ込み…という無限ループである[1]。このダンスガード・オシュガーイベントによる寒冷化は北大西洋周辺にもを及ぼしたようである。

最終氷期が終わり後氷期に入っていけば、これらの氷床は解けだして準を120mも引き上げた。これは世界的な現象であり、日本でも縄文進と呼ばれる面上昇があった。[2]

現在の環境

現在、氷河を取り巻く環境問題と言えば、もっぱら地球温暖化であろう。スイスでは、1850年頃から氷河の体積は60以上減少した。しかも2024年には昨年で2.5の体積を失うなどこの傾向は加速している。南極氷も、北極べればかなり耐えていたのだが、2010年代から減少が顕著になっている。

そんななかで、過去の気変動の知見を集めて現在への示唆を得るために、古気の復元の試みが世界中で行われている。南極氷床の氷は数十万年ぶんのをため込んでおり、氷の中にわずかに残った気泡は、当時の空気成分のままで閉じ込められているのだから、氷床を掘削した氷のサンプル(氷床コアを調べることでCO2やCH4の濃度の変遷を把握することが出来る。

また、氷そのものを調べるわけではないが、氷がもとは蒸発したものだという視点から古気把握するの試みもある。のH2O中の酸素には、圧倒的多数を占める16Oと、わずかに存在するその安定な同位体18Oが存在するが、蒸発するのはより軽い16Oばかりであるため、蒸発したきり氷になって陸上に固定されに戻らない、つまり氷河の形成が活発な寒冷な時期には、海洋酸素中の18Oの率がわずかに上昇する。ある時期に生きた生物化石に含まれる炭酸カルシウムから、16Oと18Oの存在を調べることによって、その時期の陸上の氷河の規模が分かる。つまりどれだけ寒冷であったかわかるのである。

日本における氷河

かつて存在したか?

日本に氷河が存在「するか」はもちろん、「かつてしていたか」についても、非常に大きな議論があった。

先述の通り、地球は寒冷な時期(氷期)と温暖な時期(間氷期)を繰り返してきたというのは今でこそ当然のように認識されているが、そのような学説が初めて提示されたのは1840年ごろで、しい議論の末学会の通説と言えるまで定着するのには半世紀かかった。日本明治時代を迎えたのはそんな議論が渦巻く中であり、日本に来たお雇い外国人のなかにも、氷河時代という最新の学説を日本紹介したものや、お雇いでなくとも、果たして地球上のいたるところに氷河が存在するほど寒かった時期があるのか、ヨーロッパ以外でも調を行うことために訪日した学者もいた。大森貝塚で有名なエドワード・モースも、東京で氷河についての講演を行っている。

さてそんななかに、ウィーン大学に勤めたアルプス山脈の氷河研究者で、この説の急先鋒だったアルブレヒトペン教授に師事した日本人学生がいた。
その名を山崎直方(やまさきなおまさ)。後の日本地理学会の設立者であり、中学校[3]における地理教育に心血を注ぎ、現在地理教育に大きな足跡を残した人物である。
留学から帰った後に飛騨山脈白馬岳で氷河地形と思しきものを発見した山崎日本にかつて氷河が存在したことを確信し、1902年に著名な講演「氷河果して本邦に存在せざりしか」を行う。
これを文章化して『地質学雑誌』に掲載された論文は現在でもCiNiiなどで確認出来るが、ここでもその一部を引用する。

私はこの辺の山を跋渉して火山の構造を究めて行きましたがその時に始めて信濃越中の界なる嶽なる高山において氷河の跡があったのを発見したであります
(中略)
それは彼の辺の山にカールと申しまする所の地形を作って居る所があった。カールうのはどうう地形であるかと申しますると、高峰の頂上に丁度えぐった様に半円形をなしている一つの絶壁を作っている、この絶壁がそのまま麓まで急斜して居るのではなくて、中に至って止まってここに坦な地がある。それからまた再びズッと傾斜が急になって居る、かくの如き地形の所々に見えたのである。殊に倉とう山の辺などは蓮華温泉のすぐ西の方に当たる所でありますがその処にこうう地形が著しくよく見えて居ります。
(中略)
カールはどうして出来るのであるかと申しますると、が沢山そこに積っていってしたがってその為に生じた氷の浸蝕作用の為に出来たのであります
ところが今日ではこの地方にさほど多くのが積もり、またこれが氷河となって居らぬのに、何故沢山所々にカールが見えるのか。定めてもともと沢山なが積って居ったものであろう、氷がそこに堅まっていったものであろうとうことと想像したのであります

────1902年9月山崎直方「氷河果して本邦に存在せざりしか」より
記事作成者によって漢字仮名等は現代式のものに直してある。

山崎のこの講演は、日本での氷河地形の存在をはじめて明確に摘した記念すべきものだったが、まだ当時の地理学研究は下地が整っておらず、後に続くものがほとんどいなかった。なにせ、いくつか提案されていた英語のglacierの日本語訳が「氷河」に統一され始めたばかりというレベルで、いわばあまりにもすぎたのである。実際、かつての日本にも氷河が存在していたのは間違いなかろうとされるのにはまだ30年ほどかかることになる。

1942年には、1905年に山崎が調を行った立山カールを教え子が再調し、師の名を取って山崎カールと命名した。山崎カール1945年には天然記念物に定され、今に至るまで大切に保護されている。

現在存在しているか?

日本現在氷河と呼べるものがあるかどうかには、こちらも長く議論されていた。先述の通り、ただを生き延びただけでは氷河とは言えない。日本に万年が存在していることは明らかだが、それが氷河と呼べるのか、つまり万年が氷化して流動しているかについては、長らく否定的な見解が多数を占めていた氷化した万年の存在自体は、1960年代から日本アルプス大雪山などで既に報告されていたが、氷河らしい流動を確認できていなかったのである。流動をする論文も存在はしたが、そういったにおける流動は、まだ氷化していない積雪層の滑動を、その下の氷も動いているのだと拡大解釈したものが多く、認められてこなかった。

また、積雪による氷河の蓄積と、融解による氷河の消耗が釣り合うライン衡線と呼ぶ。この衡線の高度に届かずとも、少なくともある程度近ければ環境次第で氷河が維持できることになるのだが、1950年代後半に現在日本における衡線高度は4000m程度とされてからというもの、日本の山は低すぎて氷河は存在しえないと考えられるようになっていた。しかし、この衡線高度計算は降を考慮しない簡易的なもので、1988年には立山の内蔵助渓の底部で氷河流動の拠が確認され、少なくとも流動を停止した元氷河であることが判明するなど、4000m前後という数値が高すぎることは明らかだった。

21世紀になって、降を考慮した日本アルプス衡線高度が2970mであるという計算が為されると、標高3015mである立山では氷河がかろうじて残存している可性がにわかに高まり、調研究が加速した。そして2012年には、岳の小窓渓と三ノ渓で、約30mの厚さと1000mほどの氷体が存在し、しかも最小でもに30cmほどの氷体の流動が確認された。また立山の御前沢渓でも同様のデータがあり、これら3つの渓は、それまで報告されてこなかった日本における現存の氷河であると認められた。現在までに7つの氷河が報告されているが、いずれも地球温暖化によって将来は危ぶまれている。

関連動画

関連リンク

関連項目

脚注

  1. *ただし、ダンスガード・オシュガーイベントについては研究途上にあるといってよく、熱循環の停止論だけでは説明できない点もある。
  2. *ただし、おそらくいわゆるアイソスタシーによって、日本進は西ヨーロッパのそれよりも顕著だったようである。
  3. *旧制中学校であるため5年制。
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