『異世界鉄道 〜元鉄オタが鉱山持ち領主の三男に生まれた場合〜』とは、
於田縫紀によるライトノベル作品である。
概要
2022年1月からカクヨムで連載開始。2023年6月に本編連載終了完結。外伝・前日譚『異世界ロボット』(完結)のほか閑話や番外編の掲載が随時おこなわれている。王国および貴族領の地図、鉄道路線図や車両などの設定は作者の公式サイトにおいて制作公開されている。
2023年に行われた第5回『ドラゴンノベルス小説賞』の〈部門賞〉「ファンタジーマニアック」部門を受賞し、2024年8月にKADOKAWAのドラゴンノベルスレーベルから書籍化された。書籍版のイラストはゆーにっとが担当している。
2024年8月1日から31日まで東武鉄道の半蔵門線や日比谷線に直通する車両のドア横の広告スペースに、本作品の広告が掲示された。
あらすじ
伯爵家の三男坊であるリチャードは、高等教育学校卒業後、実家シックルード家の公社の一つであるマンブルズ鉄鉱山の公社長に就任していた。趣味であるゴーレム車操縦時に事故を起こし負傷するが、その際に日本人かつ鉄オタ(模型鉄)だった前世の記憶がよみがえった。この世界では化石燃料も電気も無く、魔法・魔力を用いて動力源としており、リチャードが管理する鉄鉱山でも、動物を形代としたゴーレムを使い採掘から搬送までおこなっていた。
リチャードは鉄道知識を活かしてそれまでの採掘~選鉱場への運搬過程の改善を企画、線路を敷きゴーレムでトロッコを牽引させる方法を提案する。公社長権限で実行を指示し、カール率いる工房の技術力と行動力で実現に至る。輸送効率化改善がなされたことで、領主代行からもさらなる鉄鉱山内の設備投資が許可される。中心部から離れた採掘坑と繋ぐケーブルカーや短距離ながら製鉄場への貨物輸送鉄道が実現し目覚ましい業績を上げる。一方珍しい運送施設があるとリチャードの父から妹のパトリシアに伝わった結果、パトリシアやその友人のご令嬢をおもてなしすることになる。おもてなしには飲み物や日本の駅弁を楽しめるように調整を尽くす。
その後、末弟のジェフリーの高等教育学校中退と鉄鉱山公社長就任のために、領有公社の中でも規模の小さいマッケンジー森林公社の公社長に異動しなければならなくなる。業績低迷の元凶を分析・理解し、解決の為森林鉄道を敷く事を決め、実行する。元々輸送能力の低減からボトルネックになっていただけであったため、森林鉄道により木材出荷が一挙に推進され、劇的な業績向上を実現する。その成功から都市間鉄道の構想が広がっていく…。
登場人物
- リチャード・トレビ・シックルード
- 元日本人の鉄オタ(模型鉄)である転生主人公。シックルード伯爵家三男で、領有公社であるマンブルズ鉄鉱山の公社長。やや病弱ではあったが優秀で、高等教育学校から最優秀の称号は貰えなかったものの優秀学生と認定されている。本人曰く『平民でもっと優れていたのはいたが、貴族への忖度があった』と至って謙虚である。魔法も水属性と土属性が専門家以上のレベル4、風属性と火属性は専門家補佐もしくは専門家のレベル3と貴族の平均以上に行使でき、戦闘になると護衛のマルキスより強い。そのため一人でぶらつきたがる。その一方社交(貴族政治)は苦手でパーティーにも顔を出さず、交友関係はあまり広くない。ゴーレム車を速く走らせたい願望を趣味として取り組んできたが、事故を起こした後は鉄道趣味が復活した結果、ゴーレム車への関心は薄れつつある。前世由来の非常に広範な鉄道知識のほか、料理・スイーツにも造詣が深く、その知識を使用人に公開し試作させている。かつて領主が使用していた屋敷を譲り受け一人暮らししている。
- ローラ・ランリル・スティルマン
- ヒロイン。シックルード領に隣接するスティルマン伯爵家次女で、リチャードの妹パトリシアの学友。リチャードとは過去に面識があり、それ以来リチャードに好意を持っている。鉄鉱山の業績を向上させたリチャードが森林公社長(実質的に左遷)になることをパトリシアから聞き、スティルマン領の公社長に迎えたいと提案するほど。高所からの眺めを愛好するほか、鉄道にもただならぬ興味を示している。
- パトリシア・トレビ・シックルード
- シックルード伯爵家次女で高等教育学校在籍中。リチャードの5歳下で同母兄妹ということもあり仲が良く、リチャードには気安い態度を取る。長兄のウィリアムやリチャードが優秀なため、自身も勉学を励まないといけないと躍起になっている。リチャードと違い社交は得意な方で、父親の伯爵から情報収集や工作も頼まれている。ローラとは親友で、ローラが兄を慕っていることを知り、出会いの機会をセッティングするべく夏休みにシックルード領に招待する。
- カール・ゲイガー
- 鉄鉱山の工房長。王立工科学校の講師だったが、リチャードがゴーレム車の性能改善に自ら取り組む様子を見て意気投合した。リチャードの卒業に合わせて講師の仕事を辞めてシックルード領に付いてきた。リチャードの右腕的存在で、リチャードから提案されたものにすぐ理解を示し、図面も要さずに製作してしまうほど。魔法の実力も高い。
- キット
- 工房でカールの部下であり後輩。平民出身ながら王立の研究所に在籍していたが、予算不足のため自身の研究継続が困難になる。カールの誘いで工房に入り、事実上の工房管理者として事務処理に携わる一方、研究も精力的に進めている。
- ニーナ
- リチャード邸の女性ハウスキーパー兼家宰。医療レベル4の高能力者のためリチャードが怪我をした際の診察を行っていた。本家から来た手紙をリチャードに取り次いでいる。
- ブルーベル
- リチャード邸の女性コック兼キッチンメイド。人見知りかつ引っ込み思案で自室とキッチンと食料庫にしか出てこないらしい。リチャードから前世の記憶にある料理やスイーツの再現を提案されることが多くなったが、そんな無茶ぶりを受け止め、さらに美味しさにこだわり抜いて再現している。結果、本人も達成感がある様子だが、熱中しすぎて徹夜も辞さないことも。
- マルキス
- リチャードの護衛兼秘書。シックルード家から付けられた諜報要員でもある。リチャードが外出する際にゴーレム車を用意したり、必要な伝令を本家に伝えるためのメッセンジャー要員でもある。
- ウィリアム・トレビ・シックルード
- シックルード家長男。シックルード領で貴族外交で領内を空けがちな父に代わり領内の内政を統括する領主代行を務める。リチャードにとっては年の離れた同母の長兄で、リチャードが公社の操業で好成績を出し追加予算を要望した際には認可している。用意周到に策を敷いているらしくリチャードはそこのところを少し苦手にしている。ウィリアムにとってはリチャードと気軽に話せる関係でそこのところは快いと感じているようである。既婚。
- ジェフリー・トレビ・シックルード
- リチャードの異母弟でパトリシアの異母兄。母親はクララベル。学校に通うため王都に行ってからは放蕩三昧で学校も退学になってしまう。リチャードの後任としてマンブルズ鉄鉱山の公社長に就くが…。
- ジョフローワ・トレビ・シックルード
- シックルード伯爵家当主。社交シーズンは貴族政治のため王都に詰めて王家屋敷に滞在している。子女子息は長女レティシア(結婚、別家へ)、長男で領主代行のウィリアム(既婚)、次男ヘンリー(スペアとして王都で官僚生活、既婚)、三男リチャード、四男ジェフリー、次女パトリシアの六子がいる。成果を出しているリチャードに褒めた言葉を掛け、リチャード本人には言わないが娘のパトリシアにはリチャード達が開発した新施設の感動を伝えていた。亡くなった第一夫人とは恋愛結婚であったが、筆頭伯爵家のダーリントン伯爵家から半ば押し付けられた第二夫人クララベルとジェフリーの素行問題に頭を痛めている。
- アンドリュー
- リチャードの叔父で現シックルード伯爵の弟。シックルード領有公社の一つであるテルフォード製鉄場の公社長を務めており、業績も好調に推移している。リチャードからさらなる業績改善案があった際にも受け入れ会談で対面している。
- クララベル
- シックルード伯爵の第二夫人でジェフリーの母親。出身であるダーリントン伯爵家でもワガママ放題と散財浪費しており、厄介払いの体もあり資金援助のアメでシックルード家に押し付けられた。王都のシックルード家の屋敷に滞在し、領地の屋敷には寄付かない。
- リーランド
- 異世界鉄道の時代には故人とされる。リチャードにとっては大叔父にあたり(くしくも三男坊)、先々代の鉄鉱山の公社長。人手に頼っていた鉄鉱山の採掘をゴーレムを使うことで効率化と安全性を向上させ業績改善に寄与させており、シックルード家が子爵家から伯爵家への昇爵のきっかけとなった。外伝『異世界ロボット』の転生主人公で、元日本人のロボットアニメオタ。経済活性化で新たに建設した街に付けた名にその名残がある。
- ダルトン
- 鉄鉱山の採掘管理部長。リーランドが公社長に務めていた時も在籍していた。カールが来る前の技術担当役員でもありゴーレムの整備管理はある程度出来る。若いころから前頭部が薄くなり始めていたが、ジェフリーが鉱山長になった後は劇的に後退してしまった。
- ジェームス・ラルトネー・スティルマン
- スティルマン伯爵家長男で、スティルマン領の領主代行。リチャードが世に出した鉄道を、領都の抱える問題解決につながると期待し、見学を申し入れた。ローラは同母妹で仲が良い。
世界について
- フェリーデ王国
- 舞台となる国で王都はバンドン[1]。封建制がとられ、王国内は貴族により間接統治されている。
- シックルード領
- 王国北東部にあるアサバスカ川流域の領地で領都はスウォンジー。端的に言って「山間の田舎」。主に鉄や木材を産出し、特に鉄鉱石産出量の増加が領内生産全体を向上させている。農業・牧畜もそこそこ盛ん。
- スティルマン領
- シックルード領の西に位置し、海や汽水湖の近くで交易の中心となる領地。領都ガナーヴィンは王国北部地域で最大級の賑わいを持つが、人口の多さに道路整備が追い付いておらず、ゴーレム車の渋滞に悩まされている。
- 魔法レベル
- 各属性のレベル1は概ね誰でもが使える簡単な魔法を使える。レベル3からは専門家か、専門家補佐のレベルとなり使用出来る人材も限られる。イメージとしては土魔法レベル3は大型特殊自動車免許らしい。トンネル掘削は土属性魔法レベル5以上が必要。
- ゴーレム
- 魔法で作られる、動物を模した魔法機械。内燃機関が存在しないこの世界における主要な動力源。操縦には土属性魔法レベル3が必要。
- ゴーレム車
- この世界の中~長距離の移動・運搬手段で、馬車の馬をゴーレムに置き替えた車両。高価で操縦者もそういないため平民には高嶺の花だが、パワー・スピードとも進化の限界にある様子。
- 公社
- 貴族家が領内で事業を行うための組織。複数の貴族が手を結んで事業を行う場合は「組合」となる。シックルード領には「マンブルズ鉄鉱山」「テルフォード製鉄場」「マッケンジー森林公社」の3つが存在する。
- 工房
- マンブルズ鉄鉱山の一部署で、元はゴーレム含む設備一式を整備・改良する部署であった。リチャードも私費を投入して待遇を充実させており、王都の研究所が貴族のポスト争いや予算カットで腐敗する中、溢れた優秀な人材が集まってきている。但し在籍者はカール工房長を筆頭に軒並み変人であり、次第に本業と並行して自主開発や基礎研究に取り組み始め、今やリチャードもその業務・研究内容を把握しきれないほど。
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関連リンク
関連項目
脚注
- *書籍版では未登場。