自由貿易(free trade)とは経済学の用語であり、保護貿易の反対語である。
自由貿易とは、関税などの規制を撤廃して自国産業や外国産業に対する保護を放棄しつつ民間人に貿易を行わせる政策のことをいう。
自由貿易は様々な長所を持っているので、本記事の『長所』の項目で解説する。
自由貿易は様々な短所を持っているので、本記事の『短所』の項目で解説する。
自由貿易は様々な性質を持っているので、本記事の『性質』の項目で解説する。
自由貿易を推進する人たちは様々な言い回しを駆使するので、本記事の『自由貿易を推進する人たちが好む言い回し』の項目で解説する。
自由貿易が進展すると国際的資本移動の自由化と国際的労働力移動の自由化が進む。
「自由貿易が進むとヒト・モノ・カネが自由に移動するようになる」と言われるが、モノの移動の自由は貿易の自由を指し、カネの移動の自由は国際的資本移動の自由を指し、ヒトの移動の自由は国際的労働力移動の自由を指す。
とはいえ、自由貿易がどれだけ進展しても国際的労働力移動の自由化は完全に達成されず、部分的に達成されるだけである。地球上の諸国は言語や文化の統一性が乏しく、人々は「地球上のどこの国に引っ越ししても現在と同じような生活をすることができる」と確信しにくいからである。
一方で、自由貿易が進展すればするほど国際的資本移動の自由化が大きく進展していく。資本というのは移動するときに言語や文化の壁を気にする必要がないからである。
国際金融のトリレンマに従うと、世界中の国は①閉鎖経済の国と、②大国開放経済の国と、③固定相場制を採用する小国開放経済の国の3つに分類される。ただし、④変動相場制を採用する小国開放経済の国も存在しており、経済学において重要な分析対象になっている。
この①~④のなかで、国際的資本移動の自由化を導入していて自由貿易との相性が極めて良い国は②と③と④である。
自由貿易を支持する経済理論で最も有名なものは比較優位である。
比較優位とはイギリスの経済学者デヴィッド・リカードが提唱した考え方で、ごく簡単に言うと「国家は、自国の得意とする分野の生産に特化すべきであり、自国が得意としない分野において自国生産をとりやめて貿易によって賄うべきである。つまり国際分業をすべきである。そうすると資源の効率的配分が行われ、世界全体の実質GDPが増大する」というものである。
比較優位に対しては反論もあり、「比較優位に従って自国の得意とする分野の生産に特化すると、外国の需要に左右される不安定な国になる。モノカルチャー経済の国がそのようになっている。世界情勢が不安定になって地政学的な緊張が高まって外国の需要が大きく変化すると大打撃を受ける脆弱な国になり、経済安全保障を達成できなくなる」といったものが挙げられる。
自由貿易はイギリスのアダム・スミスやデヴィッド・リカードといった古典派経済学の支持者によって唱えられた。
世界中の経済学部で採用されている教科書を執筆したN・グレゴリー・マンキューも自由貿易を大いに尊重する立場の経済学者である。
人類が大々的に自由貿易を実践した時代の代表例は、第一次世界大戦の直前までと冷戦が終わったあとの2回である。
第一次世界大戦の直前までは、イギリスが中心となって主要各国が金本位制を採用しつつ自由貿易を拡大し、第一次グローバリゼーションと呼ばれるほどになった。
1991年にソ連が崩壊して冷戦が終結したあと、アメリカ合衆国が中心となって自由貿易を拡大し、第二次グローバリゼーションと呼ばれるほどになった。この時期に自由貿易の拡大に貢献したのが世界貿易機関(WTO)である。
アメリカ合衆国は世界最強の覇権国家であり、他の国への影響力が大きい。
そのアメリカ合衆国で自由貿易が拡大した時代というと、1994年から2017年までである。1994年1月1日にNAFTAが発効し、この日から米国は自由貿易の国になった。バラク・オバマ民主党政権が2017年1月に終わるまで、アメリカ合衆国は総じて自由貿易の国であり続けた。バラク・オバマ政権はTPPの加盟に前向きで、NAFTAによってメキシコやカナダ経由で外国産の物品が安価に流入することを問題視せず、輸出の拡大を目指していた。
自由貿易を推進するには、複数の国家が同時に関税を引き下げるなどの貿易政策を実行することが有効である。そのため複数の国家が自由貿易協定を結ぶことがある。
もっとも多くの国家が参加する自由貿易協定は、GATTやその後継のWTOが主導する多国間交渉のあとに決まる自由貿易協定である。GATTやWTOが主導する多国間交渉のなかで近年のものは、1986年から1994年までかかったウルグアイラウンドと、2001年から2014年までかかったドーハラウンドである。
GATTやその後継のWTOが主導する多国間交渉は非常に時間がかかるので、それを補完するように、GATTやWTOほどではないが多数の国家が参加する自由貿易協定が結ばれるようになった。欧州各国のECやその後継のEU、北米3国のNAFTA、南米諸国のメルコスール、大平洋に面する諸国のTPP、東南アジアと北東アジア諸国のRCEP、東南アジア諸国のAFTA、南アジア諸国のSAFTA、アフリカ諸国のAfCFTA、大西洋に面する諸国のTTIPなどである。
もっとも早く交渉が進むものは2国間の自由貿易協定である。ただし2国間の自由貿易協定の交渉は経済的に実力がある国家が主導してその国家が有利になるように進んでしまい、経済的に実力がない国家が泣き寝入りする可能性があるという欠点がある。2国間の自由貿易協定の代表例はFTAとEPAであり、FTA(自由貿易協定)とEPA(経済連携協定)はだいたい同じようなものだがEPAの方がより包括的で「投資環境の整備」や「ビジネス環境の整備」や「知的財産保護の強化」等を含む協定となっている[1]。FTAは日米FTAや米韓FTAなどが有名である。EPAは日墨EPA(日本・メキシコEPA)や日EU・EPAなどが有名である。
政府にとって自由貿易は簡単に実行できる。政府は、輸入関税や輸入割当制度を廃止するという容易な行動を起こすだけで自由貿易を実行できる。
輸入関税や輸入割当制度を実行するだけでも人的資源やノウハウを必要とするのだが、輸入関税や輸入割当制度で保護すべき産業はどれなのか判別することにも人的資源やノウハウを必要とする。一方で輸入関税や輸入割当制度を廃止することは人的資源もノウハウも必要とせず、ごく簡単に実行できる。
自由貿易を採用すると、輸入関税や輸入割当制度を担当する公務員を削減することができ、政府購入を減らすことができる。公務員の雇用は政府購入の一部であるからである。政府購入を減らすとクラウディングアウトの逆となり、実質利子率が下がり、企業が資金を借り入れるときに支払う利払い費用を減らすことができ、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなる。
自由貿易になると企業が海外の巨大な市場に商品を売り込めるようになり、企業の収益が増加しやすくなる。
自由貿易になると海外の安価な製品を購入できるようになり、原材料費や消耗品費といった企業の費用が減少しやすくなる。
自由貿易を促進すると、労働運動が弱体化し、労働者の賃金が労働市場で形成される均衡水準よりも高くなる現象が抑制され、企業が人件費という費用を減少させやすくなる。
ここでいう労働運動は、労働者が使用者に対して賃金の最低額を労働市場で形成される均衡水準よりも高く設定して構造的失業の発生を甘受しつつ労働者の生活水準の向上をもたらすように要求する行為のすべてを指す。「労働者が労働三権を行使して使用者と労働協約を結ぶ」という本格的なものも含むし、「労働者が使用者に聞こえるように賃金の安さを愚痴って使用者が効率賃金仮説に基づいて賃上げをするように誘導する」という簡易的なものも含む。
自由貿易が進展すると国際的資本移動の自由化が進み、資本量が多くて実質資本レンタル料が小さい先進国から資本量が少なくて実質資本レンタル料が大きい発展途上国へ資本を移動させて工場などの事業所を移転させることが可能になる。このため自由貿易が進展すると、資本量の多い先進国において労働運動をする労働者に対して株主が「君たちが労働運動をするのなら、我々は先進国で企業を廃業し、発展途上国で企業を創業する。先進国で工場などの事業所を閉鎖し、発展途上国で工場などの事業所を建設する」と発言できるようになる。そうした言葉を聞かされる先進国の労働者は「自分たちが労働運動をすると事業所が閉鎖されてしまう」と思い込むようになり、労働運動をする気力を失っていく。
自由貿易が進展すると国際的資本移動の自由化が進み、資本量が多くて実質資本レンタル料が小さい先進国から資本量が少なくて実質資本レンタル料が大きい発展途上国へ資本を移動させて工場などの事業所を移転させることが可能になり、実際にそうした行動を起こす企業が増え、多国籍企業が出現する。そうした多国籍企業の経営者は先進国の労働者と発展途上国の労働者を目で見て比較する立場となり、先進国の労働者に向かって「我々経営者は、君よりも安い賃金で君と同じ働きをする労働者を、発展途上国においていくらでも見つけることができる」と言ったり、「発展途上国の労働者に君たちと同じ賃金を支払うと、君たちよりもずっと活発に働いてくれる」と言ったりするようになる。実際には、資本量が少ない発展途上国なら労働市場で形成される実質賃金の均衡水準が低くなるだけのことであり、そのことはコブ=ダグラス生産関数からも明白なのだが、そういうことを無視し、先進国の労働者が低能で発展途上国の労働者が優秀であるかのように嫌みたらしく言ってのけ、先進国の労働者を罵倒する。そうした言葉を頻繁に聞かされる先進国の労働者たちは「自分たちは高い賃金をもらう資格があるのだろうか・・・」と自信を喪失していき、労働運動をする気力を失っていく。
自由貿易が進展すると、資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国の企業は、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国の企業が生産した製品との価格競争にさらされる。そして先進国の企業の経営者は労働者に向かって「発展途上国で生産された製品と価格競争するには、賃金を削減するしかない。さもないと企業が倒産する。労働運動をして賃金を労働市場で形成される均衡水準よりも上昇させている余裕などないのだ」と言って不安を煽る。そうした言葉を聞かされる先進国の労働者は「自分たちが労働運動をすると会社が倒産してしまう」と思い込むようになり、労働運動に対して罪悪感すら感じるようになり、労働運動をする気力を失っていく。
自由貿易を促進すると、労働運動が弱体化し、戦闘的労働組合が御用組合に変化していき、労働者の賃金が労働市場で形成される均衡水準よりも高くなる現象が抑制される。そうなると企業は費用の大部分を占める人件費を大いに削減することができる。
ちなみに、自由貿易が進展すると国際的資本移動の自由化が進み、資本量が多くて実質資本レンタル料が小さい先進国から資本量が少なくて実質資本レンタル料が大きい発展途上国へ資本を移動させて工場などの事業所を移転させることが可能になり、先進国の資本量が減っていき、先進国の労働市場で形成される実質賃金の均衡水準が低くなっていく。このことは「底辺への競争」と表現される。
資本量が多くて労働市場で形成される実質賃金の均衡水準が高い先進国において農林水産業の分野で自由貿易を実行すると、資本量が少なくて労働市場で形成される実質賃金の均衡水準が低い発展途上国から流入する安価な商品に対抗できなくなり、農林水産業の廃業が相次ぐ。
そうなると農林水産業に従事していた労働者が製造業・サービス業に流入し、部門間シフトが起こる。そして製造業・サービス業の企業において労働者の需要が一定であるのに労働者の供給が増え、賃金が低下する。製造業・サービス業の企業は、費用の大部分を占める人件費を大いに削減することができる。
農林水産業は都市化が進んでいない田舎で行われることが多く、製造業・サービス業は都市で行われることが多い。つまり農林水産業の自由化を進めると都市への人口流入が進む。
ある産業分野で自由貿易を促進すると、その産業分野に属する企業は海外の安価な製品に対抗することを強制されるようになる。そのため、その産業分野において、複数の同業の企業が提携したり合併したりしてスケールメリットを生かして低価格の製品を大量に販売することが流行する。
スケールメリットを享受する企業は、商品の価格が低価格であっても大量に販売することで十分に収益を得られるようになる。
ある産業分野において市場に参加するすべての企業が協定を結んで提携することをカルテルといい、ある産業分野において市場に参加するすべての企業が合併して1つの独占企業になることをトラストという。自由貿易が進展した産業分野に属する企業は、カルテルやトラストに近い行動をとるようになる。
自由貿易が促進されると、企業の提携や合併が進んでいく。企業の合併が進んで巨大企業が誕生すると、その巨大企業は協力企業(下請企業)に対して価格交渉しやすくなり、外注費のような「協力企業に支払う費用」を減少させやすくなる。
大企業Aと大企業Bが個別に独立して分裂していたときは、大企業Aに納入する協力企業は大企業Aから値下げを求められても「我々には大企業Bに納入するという選択肢がある」ということができ、値下げ要求に対する対抗力を維持することができる。
しかし大企業Aと大企業Bが合併して巨大企業Cが誕生すると、巨大企業Cに納入する協力企業は巨大企業Cから値下げを求められたときに「我々には巨大企業C以外の大企業に納入するという選択肢がある」と言いにくくなり、値下げ要求に対する対抗力が弱体化していく。
自由貿易になると、政党に献金をしたり国会議員に会ったりして自分の産業を輸入関税で保護してもらおうとする企業が減る。つまり、レントシーキングに励む企業が減る。
自由貿易になると、企業はレントシーキングから解放され、交際費などの費用を減らすことができる。
自由貿易になると海外の安価な製品を購入できるようになり、食費などの家計の費用が減少する。
19世紀のイギリスにおいて穀物法に基づく関税があり、イギリス国内の穀物農家を保護していた。その穀物法を廃止することを支持した人々は「穀物法を廃止して関税をなくせば食卓が豊かになる」という主張を好んだ。
貿易とは国境の垣根を越えて外国と交渉する行為を積み重ねるものであり、国際的に活躍する人が存在することで成り立つものである。そして、自由貿易はそうした貿易の量を拡大する政策である。
このため自由貿易を支持すると、「自分は国際的に活躍する人を尊重している」という気分になれるし、「自分は国際的に活躍する人の仲間である」という気分になれる。
その気分は「自分は国際的に活躍できておらず、国際的に活躍する人たちの仲間に入れていない」という劣等感を持つ者にとって癒しの効果がある。自由貿易にはそうした癒やしの効果がある。
日本の公用語の日本語は国際的言語ではなくローカル言語である。そのことは日本語話者が日本で大学教育を受けると強く実感することができる。日本に住む日本語話者の大学生は、英語で書かれた論文を読むことや英語で論文を書くことをしばしば強制される。
日本に住む日本語話者の知識人は、多かれ少なかれ「自分は日本語という国際的言語ではないローカル言語を使っていて、国際的に活躍できておらず、国際的に活躍する人たちの仲間に入れていない」という劣等感を抱く傾向があるのだが、自由貿易を支持するとそうした劣等感を多少なりとも癒すことができる。
自由貿易には癒やしの効果がある。つまり自由貿易は癒し系の貿易政策である。
「自由貿易で国家間の相互依存が深まれば国家間の戦争が起こらなくなり平和が生まれる」と言われることがある。
たとえば、トーマス・フリードマンというジャーナリストは『レクサスとオリーブの木』という著書の中で「自由貿易で国家間の相互依存が深まれば国家間の戦争が起こらなくなる。マクドナルドの店舗がある国どうしでの戦争は起こらない」という内容の黄金のM型アーチ理論(マクドナルド理論)を唱えた。
それに対して「自由貿易の体制になったとしても必ず平和になるわけではない」という反論が寄せられることがある。
第一次世界大戦の直前においてイギリスとドイツの間における貿易は非常に規模が大きかった[2]。それ以外の国々でも自由貿易が盛んであり、第一次グローバリゼーションと表現されるほどだった。しかし、1914年7月28日に第一次世界大戦が始まった。
ウクライナ戦争の直前において第二次グローバリゼーションと呼ばれるような自由貿易の時代であり、ロシアとウクライナは自由貿易をしていた。しかし、2022年2月24日にウクライナ戦争が始まった。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、農林水産業の分野で自由貿易を実行すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢に対抗できず、農林水産業の廃業が相次ぐ。
農林水産業を主力産業にしている地方は製造業やサービス業が発展していないことが多い。このため、農林水産業を主力産業にしている地方は、農林水産業が衰退すると人口を減少させて人口空白地帯を発生させることが多い。
人口空白地域は草ぼうぼうの荒れ地になるので、凶悪犯罪者が凶悪犯罪の証拠品を隠滅するのに最適の場所である。それが発生すると凶悪犯罪者が凶悪犯罪の証拠品を隠滅しやすくなり、凶悪犯罪者が凶悪犯罪を犯しやすくなり、治安が悪化する。
ここでいう凶悪犯罪とは、殺人のような暴力犯罪の行為も含むし、人体に有害な化学物質を含む廃棄物を大量に不法投棄して水源に害を与えるような知能犯罪の行為も含む。
凶悪犯罪が発生して治安が悪化すると、人々は生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加えられることにおびえながら生活するようになり、労働や資本管理に集中できなくなる。労働者なら職務専念義務を果たせなくなり、労働強化の逆が起こり、労働時間を確保しても生産が増えなくなり、国家全体の生産技術が劣化する。国家全体の生産技術が劣化すると実質GDPや実質賃金や実質資本レンタル料や労働生産性Y/Lや資本生産性Y/Kがすべて下落するが、そのことはコブ=ダグラス生産関数で計算すれば明白である。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、農林水産業の分野で自由貿易を実行すると、農林水産業の廃業が相次ぎ、地方で人口空白地域が発生して都市に人口が集中し、「面」を支配する領域国家から「点と線」を支配する都市国家に変貌していく。人類の歴史は、中国でもインドでもメソポタミアでも地中海沿岸でも、都市国家から領域国家へ発展していった点が共通している。このため、都市国家へ逆戻りすることを推進する自由貿易は人類の歴史に逆行する政策と言える。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において製造業やサービス業の分野で自由貿易を実行すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢に企業が苦しめられる。そして製造業・サービス業の企業において「労働者の賃金を増やすと企業が倒産する」という判断が広まり、労働運動が弱体化し、労働者の賃金が労働市場で形成される均衡水準よりも高くなる現象が抑制される。そうなると労働者は可処分所得を高めることができなくなり、消費を増やすことができなくなる。そして労働者は激しい消費を伴うことが予想される結婚に対して前向きに考えなくなり、人口の大部分を占める労働者の結婚率が低下し、その結果として人口が減少する。
人口が減少すると、政府は移民の導入を進める。移民の流入によって国家における言語や文化の統一性が弱まり、国民どうしが意思疎通を入念に行うことが難しくなり、国家において情報が十分に流通しなくなり、消費者から生産者へ商品の善し悪しの情報を伝える機能が弱まり、企業の内部で生産方法について情報を伝える機能が弱まり、国家全体の生産技術が劣化する。国家全体の生産技術が劣化すると実質GDPや実質賃金や実質資本レンタル料や労働生産性Y/Lや資本生産性Y/Kがすべて下落するが、そのことはコブ=ダグラス生産関数で計算すれば明白である。
自由貿易が進展すると国際的資本移動の自由化が進み、資本量が多くて実質資本レンタル料が小さい先進国から資本量が少なくて実質資本レンタル料が大きい発展途上国へ資本を移動させて工場などの事業所を移転させることが可能になり、実際にそうした行動を起こす企業が増え、多国籍企業が出現する。そうした多国籍企業の経営者は先進国の労働者と発展途上国の労働者を目で見て比較する立場となり、先進国の労働者に向かって「我々経営者は、君よりも安い賃金で君と同じ働きをする労働者を、発展途上国においていくらでも見つけることができる」と言ったり、「発展途上国の労働者に君たちと同じ賃金を支払うと、君たちよりもずっと活発に働いてくれる」と言ったりするようになる。
こうした罵倒の言葉を浴びせられた労働者は自信を喪失する。自信を喪失した人は自分以外の誰かを攻撃することで自信を取り戻そうとする習性があるのだが、自由貿易によって自信を喪失した先進国の労働者たちもそういう習性を持っている。ネット上で、あるいは政治活動で、もしくは経済論議で、対立相手を過度に攻撃する行為に傾倒するようになる。その結果として、先進国で憎悪(ヘイト)が広がり、憎悪言動(ヘイトスピーチ)や憎悪犯罪(ヘイトクライム)や憎悪主義(ヘイト主義)が盛んになり、社会の分断が深まっていく。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において製造業やサービス業の分野で自由貿易を実行すると、先進国において企業経営者が労働者を罵倒するようになり、労働者の自信が破壊される。自信を失った労働者は何かを攻撃して自信を取り戻すことに夢中になり、さらには自分より劣った者を軽蔑して見下して自信を取り戻すことに夢中になる。
自由貿易が進展した国では陰謀論を主張する人が現れやすい。「自分を含むごく少数の人が危機感を持っていて、自分以外の大多数の民衆は何も気づいていない」と脳内設定することで、「危機感を持っていない大多数の民衆」への軽蔑を無限に行って自信を取り戻すことができる。
また、自由貿易が進展した国では「外国語を理解できない人に対する軽蔑」が発生しやすい。外国語を理解できるかどうかの能力はすぐに判明する。意識高い系と呼ばれる人たちのようにビジネスの会議で外国語を使用してみたり、大きなイベントの標語に外国語を使用してみたりする[3]。そうした外国語を理解できずにキョトンとした表情をする人を見つけたら、すぐさま「外国語を理解できない人に対する軽蔑」をすることができる。
また、自由貿易が進展した国では、外国に対する軽蔑が発生しやすい。自国よりも劣ったところがあるように見える外国を紹介してそうした外国を笑いものにすることが流行する。そのように外国を笑いものにして軽蔑すると自信を取り戻すことができる。
また、自由貿易が進展した国では、一定の職業に対する軽蔑が発生しやすい。劣ったところがあるように見える職業を紹介してそうした職業を笑いものにすることが流行する。そのように一定の職業を笑いものにして軽蔑すると自信を取り戻すことができる。自由貿易が進展した国では株主資本主義が流行し、「民尊官卑の思想を広めて公務員を人々が馬鹿にするように誘導して政府購入を減らして実質利子率を引き下げて企業の利払い費用を減らして企業が税引後当期純利益を増やせるようにしよう」と考える人が増え、民尊官卑という職業差別が流行する。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において製造業やサービス業の分野で自由貿易を実行すると、先進国において企業経営者が労働者を罵倒するようになり、労働者の自信が破壊される。自信を失った労働者は何かを攻撃して自信を取り戻すことに夢中になり、攻撃的言動を繰り返す政治家を強く支持するようになる。
アメリカ合衆国におけるドナルド・トランプ、日本における小泉純一郎や安倍晋三が攻撃的言動を繰り返す政治家の代表例である。いずれも自らに従わない勢力に対してレッテル貼りをして攻撃することに余念が無い政治家であり、ドナルド・トランプなら「彼はfar left(極左)だ」、小泉純一郎なら「彼は抵抗勢力だ」、安倍晋三なら「彼は日本を貶めようとしている」といったレッテル貼りを得意とした。
ドナルド・トランプは2021年1月6日にアメリカ合衆国議会議事堂占拠事件を引き起こしたが、これも彼の攻撃的言動が招いたものだった。
自由貿易が進展した国では、名誉毀損罪や侮辱罪で訴えるスラップ訴訟をして相手の「表現の自由」を攻撃する政治家が増える。自由貿易によって自信を破壊されていて「何かを攻撃することで自信を取り戻したい」と思っている先進国の労働者は、そうした政治家を「敵に対して一歩も引かずに攻撃している人」と思い込み、「自分がしたいことを実行している人」と思い込み、強く支持することになる。
また、自由貿易が進展した国では政党間の対立が激しくなり、党派政治の色が濃くなり、「超党派の合意」とか「党派を超えた交流」というものが失われていく。このことはアメリカ合衆国で顕著であり、特に2010年代以降になって共和党と民主党の対立の激しさが明らかになっている。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において製造業やサービス業の分野で自由貿易を実行すると、先進国において企業経営者が労働者を罵倒するようになり、労働者の自信が破壊される。自信を失った労働者は何かを攻撃して自信を取り戻すことに夢中になり、外国を攻撃することを支持するようになり、戦争の原因となる。
イギリスを中心とした第一次グローバリゼーションのあとに第一次世界大戦が発生したし、アメリカ合衆国を中心とした第二次グローバリゼーションの最中に2022年のウクライナ戦争が発生した。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において製造業やサービス業の分野で自由貿易を実行すると、製造業・サービス業の企業において労働運動が弱体化し、労働者の賃金が労働市場で形成される均衡水準よりも高くなる現象が抑制される。そうなると使用者は労働者に対して残業を依頼しやすくなり、労働者は残業を行って生活費の足しにしようと考えるようになり、両者の思惑が一致して残業が増え、長時間労働の多い国になる。長時間労働が増えて疲労した労働者は、休みの時間に政治について考えたり活動したりすることを敬遠するようになり、選挙の投票を怠るようになる。
また、資本量が多い先進国において製造業やサービス業の分野で自由貿易を実行すると、製造業・サービス業の企業において労働運動が弱体化し、労働組合が労働者に投票をしつこく呼びかけなくなる。
以上のような要因が重なって、自由貿易が進展した先進国において選挙の投票率が落ちていく。
投票率が落ちると、組織票がものを言う選挙になり、大きな組織票を持つ宗教団体が政治の中心になる。日本においては創価学会の組織票が自民党や公明党を支えているし、アメリカ合衆国においてキリスト教福音派が共和党の岩盤支持層になっている。
また、投票率が落ちると、無党派層の浮動票の影響力が低下する。そうなると立候補者は無党派層の浮動票を狙わなくなり、「無党派層にすら嫌われるような初歩的な悪行をすることをやめよう」と思わなくなり、自浄作用を失っていく。
自浄作用を失った議員は不祥事に手を染めるようになる。たとえば、「派閥を結成してその派閥が主導して政治資金パーティーを開いて企業にパーティー券を買わせ、パーティー券収入を派閥の政治資金収支報告書に記載せず、パーティー券収入を議員に渡す。議員はパーティー券収入を自らの政治団体の政治資金収支報告書に記載せず、選挙運動員を買収する用途にも使える裏金にする」といった不祥事である。こうした不祥事が清和会や志帥会や宏池会といった自民党の有力派閥で行われていたことが2023年11月に発覚した。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、ある産業分野で自由貿易を促進すると、その産業分野に属する企業は、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国で作られた安価な製品に対抗することを強制されるようになる。そのため、その産業分野において、複数の同業の企業が提携したり合併したりしてスケールメリットを生かして低価格の製品を大量に販売することが流行する。
企業の合併が進んで巨大企業が誕生すると、その巨大企業は協力企業(下請企業)に対して価格交渉しやすくなり、協力企業からの値上げ交渉を断りやすくなる。
大企業Aと大企業Bが分裂していたときは、大企業Aに納入する協力企業は大企業Aに値上げ交渉をして断られたときに「我々には大企業Bに納入するという選択肢がある」ということができ、値上げ交渉の気力を維持できる。
しかし大企業Aと大企業Bが合併して巨大企業Cが誕生すると、巨大企業Cに納入する協力企業は巨大企業Cに値上げ交渉をして断られたときに「我々には巨大企業C以外の大企業に納入するという選択肢がある」と言いにくくなり、値上げ交渉の気力を維持できなくなる。
自由貿易が促進されると大企業の巨大化が進むので、大企業の協力企業は大企業に対して価格交渉しにくくなり、価格転嫁しにくくなり、収益を上げにくくなり、労働者の賃金を増やしにくくなる。そしてごく一般的にいうと、大企業の協力企業は中小企業である。ゆえに自由貿易が進展すると、中小企業の労働者の賃金が増えにくくなり、大企業の労働者の賃金と中小企業の労働者の賃金の格差が大きくなり、格差社会や階級社会に近づいていく。
格差社会や階級社会になると、「あの人は自分とは出来が違うのでとても話しかけられない」と考える人が増え、人々が積極的情報提供権(表現の自由)を行使しなくなり、社会の中で情報が流通しなくなり、国家全体の生産技術が劣化する。国家全体の生産技術が劣化すると実質GDPや実質賃金や実質資本レンタル料や労働生産性Y/Lや資本生産性Y/Kがすべて下落するが、そのことはコブ=ダグラス生産関数で計算すれば明白である。
変動相場制を採用する国で輸入関税を低くして輸入を増やして自由貿易を推進すると、それに応じて名目為替レートが上昇して自国通貨安になり、短期で物価が硬直的なので実質為替レートも上昇し、輸入が増えた分だけ輸出が増え、純輸出が一定を保ち、実質GDPが一定を保つ。輸出と輸入が増えるので貿易量が拡大する。
タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル=フレミングモデルでいうと、輸入関税の下落で純輸出需要が減るのでIS*曲線が左に平行移動し、均衡点が垂直のLM*曲線に沿って真上に移動する。
固定相場制を採用する国で輸入関税を低くして輸入を増やして自由貿易を推進すると、それに応じて名目為替レートが上昇して自国通貨安になりそうになる。中央銀行が自国通貨買い・外国通貨売りをして名目為替レートに下落圧力をかけて、名目為替レートを一定に保つので、輸出が一定になる。以上から、純輸出が減り、実質GDPが減り、マネーサプライMが減り、中央銀行の外貨準備高が減る。輸出が一定で輸入が増えるので貿易量が拡大する。
タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル=フレミングモデルでいうと、輸入関税の下落で純輸出需要が減るのでIS*曲線が左に平行移動し、名目為替レートを保つため中央銀行が自国通貨買い・外国通貨売りを行ってマネーサプライMを減らすのでLM*曲線が左に平行移動し、均衡点が左に移動する。
自由貿易を推進する人たちが好む言い回しというと「世界に置いていかれる」「世界中の国が発展し、日本だけが取り残される」「日本が世界の孤児になる」「バスに乗り遅れるな」といったものが挙げられる。いずれも国際的潮流に乗ることを奨める表現である。
この中でも「バスに乗り遅れるな」は人々の焦りを煽る性質を持つ巧妙な表現である。
1940年に首相に就任した近衛文麿はソ連・ドイツ・イタリアといった全体主義諸国の追随をしようとしていた。そうした近衛内閣の姿勢を支持する人たちが「バスに乗り遅れるな」と書き立てた(記事)。それ以降の日本において、国際的潮流に乗っていくことを支持する人がしばしば新聞などで「バスに乗り遅れるな」と書く傾向がある。2013年~2015年に日本がTPP加盟交渉をしているときに「TPPに参加するのが世界的潮流である。バスに乗り遅れるな」と書く人が多かった。
自由貿易を推進する人たちは「1991年にソ連が崩壊してロシアになり、ロシアが自由主義経済の一員になった。1940年代から1990年代まで続いた自由主義経済と共産主義経済の冷戦は自由主義経済の勝利で終わった」と語り、その上で「自由貿易を最大限に尊重すべきだ」と主張することがある。
ちなみに1948年から1994年まで続いたGATT(関税貿易一般協定)は、1930年代のブロック経済よりも自由主義を重んじるものであったが、1995年から続いているWTO(世界貿易機関)よりも保護主義を認めるものであって、自由主義と保護主義の中間に位置する協定だった。
GATTの体制では、農業・金融・電力・建設などの分野は貿易自由化の交渉から基本的に外されていた。貿易自由化の対象とされたのはもっぱら工業分野だったが、その工業分野においても様々な例外措置や緊急避難的措置(セーフガード)が設けられていた。例を挙げると、1956年から1981年の頃の日米両国はどちらもGATTに加入していたが、米国の要求により日本が綿製品・鉄鋼・繊維・カラーテレビ・自動車といった工業品の対米輸出を次々と自主規制することになった。GATTの体制における貿易は「管理された自由貿易」「マイルドな保護貿易」と言っていいようなものだった[4]。
冷戦で勝利した西側諸国のことを「自由主義経済の西側諸国」というのは決して正確な表現ではなく、やや無理がある表現である。
冷戦で勝利した西側諸国のことは「自由主義と保護主義の中間に位置するGATT体制を維持した西側諸国」と表現するのが正しい。
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最終更新:2025/03/29(土) 12:00
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