
※京劇(中国の古典演劇)における孫悟空
西遊記(さいゆうき)とは、中国明代に成立した小説である。
中国四大奇書、中国四大名著の一つで日本でもよく知られている。著者は不明。
概要
孫悟空や猪八戒などの異能の存在を従えて、唐の法師玄奘がはるか西の果て天竺までへお経を取りに旅をする冒険譚。
日本でも愛されており、西遊記をモチーフにした作品は数多くある。
如来や玉帝が出るなど道教、仏教の神仏が混合して登場する。
7世紀の唐の玄奘によるインドへの取経の旅という史実をもとに作られている。
玄奘の旅は神秘化していき、玄奘が異形のものを従えてインドへお経を取りに行くという民間伝承が形成され、それをもとにしたテキストが作られ、それらが明代に西遊記としてまとめられたようだ。
最終的な作者は不明。広く知られているものとして、呉承恩が著者であると言う説もある。実際、著者として呉承恩と表記してある版も中国・日本などで数多く出版されている。
「17世紀に編纂された地方の記録誌に、呉承恩が『西遊記』を著したという記載がある」ことなどが呉承恩を著者とする主な根拠とされる。
しかしこの説には批判も数多く、
「その記載にある『西遊記』は小説であると言う根拠は無く、そもそもその記録誌は普通は小説を挙げるような性質のものではない」
「17世紀の蔵書家が記した蔵書目録の中に『呉承恩 西遊記』とあるが、それは地理学の書の項目に記載されている」
「『西遊』という言葉は西に旅行することを意味するありふれた言葉である」
「『西遊記』というタイトルの本は当時の中国には他にもあったことが確認されている」
などの理由から「呉承恩が書いた『西遊記』はこの小説のことではなく、旅行記等の小説以外のジャンルの本である」という説も強くなっている。
だが、呉承恩がこの小説の著者であることが否定されたとしても、幾人か挙げられているその他の作者候補にも決定的な根拠は欠けている。
結局のところ、この『西遊記』の著者は不明と言うことになる。
物語
物語の流れは以下の通り。
- 孫悟空が登場して、天界で暴れ、五行山に封じられる
- 観世音菩薩が取経する候補を探す
- 玄奘が天竺の如来の下まで取経の旅をする
- 如来から経を得る
主な登場人物
- 孫悟空(孫行者)
- 花果山山頂の仙石から生じた「石卵」より生まれた猿。三、四百年の間「美猴王」と称して猿の王として暮らすが老いが不安になり、不老不死を求めて須菩提祖師に弟子入り。修行により觔斗雲、変化、自分の毛を小猿に化かす術などの仙術を習得する。 また入門のとき孫悟空という名前をつけられる。
その後は牛魔王をはじめとする妖仙達と義兄弟となり、自分のしたいように暴れ回り、自ら「斉天大聖」を号して天界でも大暴れするが、玉帝の要請を受けた釈迦如来によって五行山に封じられる。
500年後、観音菩薩の取り計らいにより取経する玄奘のお供に選ばれ、玄奘により封印を解いてもらう。このとき玄奘の口車に乗せられて金の嵌った頭巾を被る。これは緊箍呪という呪文を唱えると孫悟空の頭を痛めつけるもので、以後孫悟空は玄奘の言うことを守るようになる。
玄奘とは喧嘩別れしたり破門されたり窮地を救ったりまた弟子にしてもらったりしつつ、使命を見事果たした。この功績により、未来では記別されて「闘戦勝仏」となる事を約束される。
- 三蔵法師玄奘
- 実際に存在した玄奘をモデルに作られた人物。現実の玄奘も天竺、つまりインドに仏典の研究をするために旅に立った。しかしこれは国禁に反したものであった。そうして手に入れた膨大な経典は新たな宗派が興る礎になるなど多大な影響を与えた。帰国後は経典の訳を専ら行い、彼以前の訳を旧訳、彼以降の訳を新訳という。
- 作中では三蔵法師として登場するが、三蔵とは経、律、論という仏教の教えに精通しているという意味である。「西遊記」では唐の皇帝の義兄弟であり、かつて天界にいたが仏法を信じなかったため下界に落とされたとされる。観音菩薩の命を受け天竺への旅に出る。数々の苦難に見舞われながらも孫悟空ら弟子の力を借り、見事天竺へと至り使命を果たす。この功績により、未来では「旃檀功徳仏」となる事を約束される。
- ちなみに「日本で三蔵法師を女性が演じるようになったのはドラマで夏目雅子が三蔵法師を演じてから」と語られることがある。しかしこれは厳密には正しくなく、1953年のドラマ「少年西遊記」でも既に三蔵法師は笠間桐子という女性の子役が演じている。「女性が演じることが定着したのは夏目雅子の影響も大きい」といった程度の表現が正確なようだ。
- 猪悟能(猪八戒)
- 福陵山に住む妖仙。豚の頭を持つ。
元は天の川にて水軍を統率する「天蓬元帥」だったが、女好きだったため酔っぱらって嫦娥(月の仙女)においたをしたため、玉帝により下界に落とされた。うっかり雌豚の胎内に宿ってしまい、黒豚の妖怪になってしまう。母体を食い破って生まれ、人食いを行うようになるが、観音菩薩と縁を結び慈悲を乞い、取経者の弟子となるべく「五葷三厭」(辛い野菜五種と犬・鴨・魚の肉)すなわち「八戒」を絶つ決心を立てる。
その後は精進料理だけを口にしていたが、取経者を待つのにくたびれて人里へと降り、とある商家に強引に婿入り。高翠蘭を娶り夫婦となる。大変な大食らいだったが精進を貫き、妻にも危害を加える事はなかった。しかし「化物が婿というのは体裁が悪い」と考えた舅が、たまたま旅をしていた玄奘に頼み、孫悟空と戦う事に。相手が待ちかねていた取経者と知るとすぐに降参し、二番目の弟子となった。
玄奘一行の中ではコミカルに描かれており、明るい性格と女好き&食いしん坊としての描写が成される。生臭や女犯などの煩悩と戦いつつ、禁忌を犯す事はなかった。
未来では「浄壇使者」となる事を約束されるが、ほかの三人が仏や聖者なのに自分だけが「使者」なのに納得できず不満を漏らす。が、釈迦如来によれば浄壇使者の役割は祭壇の供物を好きなだけ食べられるというものであり、彼にふさわしい役である事が明かされる。
- 沙悟浄(沙和尚)
- 流沙河に住まう妖仙。特徴的な動物の意匠を持つ上記二人と異なり、印象的な特徴のみ記載があるため、モデルとなった対象の説が多々存在。それらは深沙神とも、ヨウスコウカワイルカとも、ヨウスコウアリゲーターとも言われている。水に縁ある為に日本の派生作品では河童とされることが多いが、原作は中国の作品であるため当然ながら本来は河童というわけではない。
元は天界にて天帝を守護する「捲簾大将」だったが、蟠桃会で天帝の杯を落として割った罪により下界に落とされた。七日ごとに鋭い剣で脇腹を貫く罰を受けており、飢えと寒さに耐えかねて人を襲うようになった。
ある時取経者を探してやって来た観音菩薩に襲いかかるが、菩薩の一行である事を知ると平伏して慈悲を乞うた。それまでに殺した9人の僧侶(一説には玄奘の前世)の髑髏を数珠繋ぎにして首にかけ、次に来る取経者に帰依するよう観音菩薩は言い残して立ち去る。
その後流沙河へやって来た三蔵一行と一戦構えた後に帰依し、三番目の弟子として玄奘の供をする。使命を果たした後は「金身羅漢」となる未来を約束される。
- 玉龍(白龍馬)
- 西海龍王敖閏の第三子。火事を起こしたため死刑にされかけたところを観音菩薩に救われた。空腹から玄奘の馬を食ってしまい、白馬に変じて玄奘の乗馬となる。なお悟空は天界で馬の世話係「弼馬温」をやっていた事もあり、馬の扱いには慣れていた。
作中活躍する場面は少ないが、未来において「八部天竜」となる事を約束されている。
- 哪吒太子
- 托塔李天王の三子。孫悟空を退治するために天から使わされたものの、返り討ちに遭う。
- 顕聖二郎真君
- 玉帝の甥。玉帝の命を受け孫悟空と戦う。悟空との戦いでは妖術による化け比べによって追い詰め、太上老君の助勢もあって生け捕る事に成功する。
- 如来
- 仏様。釈迦如来。孫悟空に身の程を知らしめ、五行山に封じる。天竺雷音寺にいる。
- 恵岸行者
- 観音菩薩の一番弟子であり、哪吒太子の兄・李木吒。猪八戒・沙悟浄を相手どり戦った。
- 金角大王・銀角大王
- 平頂山蓮華洞を住処とする兄弟の魔王。その正体は太上老君の金炉・銀炉の守る童子で、五つの法宝を盗んで下界に逃げ、妖仙となっていた。玄奘一行相手に様々な妖術をかけ苦しめるが、最終的に悟空の計略で「紫金紅葫蘆」「羊脂玉浄瓶」に吸い込まれて封印。その後太上老君に宝を返すと童子達は解放され、玄奘一行に対する試練の為に悪役を演じていた事が判明する。
- 牛魔王
- 火焔山を支配する魔王。妻に羅刹女、愛人に玉面公主。息子に紅孩児。
悟空とは義兄弟の盃を交わしている。かつては「平天大聖」と号し、悟空と共に天界の軍を相手どって戦った。その正体は巨大な白牛で、様々な妖術と武具を操る。
妻そっちのけで玉面公主の元に入り浸っていたが、芭蕉扇を巡る争いの中で遺恨が発生。妖術合戦の末に天界からの加勢によって捕縛されるが、死んだと思っていた紅孩児が生きていた事で改心。その後は妻ともども菩薩に従い帰依した。
- 羅刹女(鉄扇公主)
- 翠雲山芭蕉洞に暮らす地仙。火焔山の炎を消せる宝「芭蕉扇」の所有者。牛魔王の妻だが、愛人に入れ込んで帰ってこない夫にご機嫌斜め。息子に紅孩児を持つが、過去に悟空との戦いで打ち負かされたのを死んだと思い込み、恨みを抱いている。
聳え立つ火焔山を前に天竺へと向かいたい玄奘一行から悟空が使者に立ち、芭蕉扇を貸してくれるよう頼みに行くが、我が子の仇と信じる相手に羅刹女は激怒。宝剣を手に襲いかかり戦うが形勢不利となり、紆余曲折の果てに牛魔王と共闘して悟空達を大立ち回りを演じる。最終的に牛魔王が調伏され、芭蕉扇を差し出した。
- 紅孩児
- 牛魔王と羅刹女の息子。枯松澗火雲洞の主で、見た目は幼い少年。「聖嬰大王」と号して巨大な火焔槍を操り、水では消えない「三昧真火」の術を会得している。
登場は両親よりもだいぶ前。親に捨てられた子供を装い、木にくくりつけられた状態で玄奘一行を呼び止めるが、悟空はすぐに正体を見破って殺そうとした。しかし機先を制して玄奘を連れ去って食おうとし、悟空達との戦いになる。最終的に悟空の要請を受けた観世音菩薩によって捕らえられ、改心して仏門入り。観世音菩薩の弟子・善財童子となる。
西遊記(テレビドラマ)
日本では西遊記は人気で、過去何度もテレビドラマ化されている。
なお、放映時期、放送局、シナリオ、天竺についたか否か、と若干の違いこそあるものの、三蔵法師は女性が演じる、孫悟空・沙悟浄・猪八戒の3人をお供とするのはいずれも共通しているため、これが(日本での)スタンダードになっていると思われる。
ちなみに、放送されていた『西遊記』がどれをさすかによって、大体その人の年代・世代が分かる。
1978年の日本テレビ版
少し前の世代においては、1978年より1980年まで日本テレビ系列で放映された『西遊記』『西遊記2』があまりにも有名である。
今となっては若い頃のマチャアキや西田敏行などの名優が見られることで有名だが、何より当時三蔵法師を女優の夏目雅子が演じたことについては国内外からさまざまな議論を呼び、冒涜とさえ見なされることがあるという内容が本記事掲示板>>56にも投稿されている。しかしながらそのハマり役ぶりは見事なもので、のちに他の作品でも女優が三蔵法師を演じる事例が現れるなど三蔵法師のイメージを一変させ、多大な影響を与えた。夏目雅子自身の人気を高めるキッカケになった作品でもある。
主題歌はゴダイゴが担当し、テーマ曲の「Monkey Magic」「ガンダーラ」はヒットし今も歌い継がれる名曲となった。
これは"Monkey"として輸出され、悟空をモンキー、八戒をがピグシー、悟淨をサンディ、三蔵をトリピタカとした上で放映され、英語圏など西遊記になじみのない西洋各国でも人気を博した。
ちなみに本当は三部作にするつもりだったものの、視聴率が振るわず『2』で終わってしまったという経緯があり、本編は天竺到達前で終わるという尻切れトンボな結末を迎えている。その後1985年の夏目雅子逝去により、完結編を実現する機会は永久に失われてしまった。
TOKYO MXなどで時々再放送されているほか、DVD-BOXが市販されているので現在でも視聴は比較的容易である。
・テレビドラマ比較・早見表
西遊記をモチーフにした作品
関連動画
ゲーム「西遊記」
人形劇「飛べ!孫悟空」(1977年-1979年)
関連項目