奇書とは、珍しい書物のこと。
限定的な使い方だが「発行部数が少ないなどの理由で入手・閲覧の機会が限られる」珍しい書物は、通常「稀書」または「稀覯書」と呼ばれる。
日本においては、奇抜・不可思議なアイディアや設定を取り入れた異端文学というニュアンスの傾向が強い。
日本の三大奇書は、夢野久作『ドグラ・マグラ』(1935年)、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』(1935年)、中井英夫『虚無への供物』(1964年)とされる。これに竹本健治『匣の中の失楽』(1978年)を加えて四大奇書ともいう。
『匣』は入らないという見解もあるらしいが、それに関しては後述。
中国では「面白い・優れた書物」というニュアンスで使われ、中国三大奇書には『水滸伝』『三国志演義』『西遊記』があげられる。四大奇書の場合はこれに『金瓶梅』が加わる。
構想・執筆に10年以上の歳月をかけ、作者が没する前年の1935年に刊行。探偵小説家・夢野久作の代表作。
蜜蜂が唸るような機械音の中、狭い部屋のベッドの上で『私』は目覚めた。
しかし磨硝子の窓に映る顔に見覚えはなく、自分の名前すら忘れている事に気づいて恐慌状態に陥る。許嫁を名乗る女が隣室から泣きながら「お兄さま」と呼びかけるが、それとても覚えがなく、そのまま『私』は気絶してしまった。
翌朝、突如として若林教授と名乗る男が訪れ、ここは九州大学の精神病科の病室だと説明する。そして『私』はある事件の重要な鍵を握る人物である事、若林教授の研究を完成させるためにも失われた記憶が重要だと告げるのだった。
研究室に連れていかれた『私』は、記憶に関わるとされる膨大な資料を読まされることになる。しかし資料を読むほど混乱していき、徐々に『私』は自分自身のことが分からなくなっていく……
読者を限定する難読書と評される壮大な知識の集大成から、「推理小説の一大神殿」と称される。
ボスフォラス以東にただひとつしかないという降矢木(ふりやぎ)家のケルト・ルネサンス式の大城館。
かつて黒死病(ペスト)の死者を詰め込んだ城館に似ていると評された為に「黒死館」と称されるこの屋敷で、弦楽四重奏団のひとり・ダンネベルク夫人が不可解な形で毒殺された。
探偵・法水麟太郎はこの謎を解く為に依頼を受け、黒死館を訪れる。
降矢木家はかつて天正遣欧少年使節の一員・千々石ミゲルが「妖妃」と呼ばれるトスカーナ大公妃ビアンカ・カペルロと関係を持った結果生まれた私生児を祖とする。そして四重奏団の4人は幼くして降矢木家13代目・降矢木算哲によって連れてこられ、以来40年間一度も館を出た事のない西洋人の男女だった。
昨年算哲が自殺したばかりの黒死館において、ダンネベルク夫人に端を発した恐ろしい見立て殺人が繰り返される。法水は膨大な知識を駆使し、この事件に当たるが……
1954年、青函航路で起こった「洞爺丸事故」をきっかけに構想された、中井英夫の代表作にしてアンチミステリの傑作。
宝石商として財をなした氷沼家。
しかしこの家では祖父・光太郎が函館大火、長女・朱美が広島で原爆により死亡。更に洞爺丸事故で長男・紫司郎と三男・菫三郎が水死と、立て続けに変死が相次いでいた。
洞爺丸事故から3ヶ月後、下町のゲイバーで光田亜利夫は友人で探偵小説家志望の奈々村久生に「アイちゃん」こと氷沼藍司と引き合わせる。藍司は紫司郎の長男で氷沼家の現当主・蒼司の従弟だった。
久生はこれから氷沼家で起こる殺人事件の被害者と犯人、殺人方法を推理してみせると言い放つが、やがて本当に藍司の家族が『病死』する。客人の藤木田老人も交えて三者三様の犯人と殺害方法を推理する一行だったが、やがて第二の『事故死体』が発見され……
『匣の中の失楽』を「第四の奇書」と認定するか否かという問題について、ひとつ事実関係を述べておくと、実はこの三作が「三大奇書」と呼ばれるようになったのは、第四の奇書とされる『匣の中の失楽』が出た後のことである。
もっとも、この三作を日本探偵小説史上における特異な作品として、一括りにして別格扱いする風潮は『匣の中の失楽』が出る前から存在した(埴谷雄高がこの三作を日本探偵小説ベストスリーに挙げて「黒い水脈」と呼んだ、とか言われているが、これは確定ソースがなく、わりと怪しい)。
少なくとも『匣の中の失楽』が「幻影城」で連載開始した際、編集長の島崎博がこの三作(と、なぜか半村良の『石の血脈』)を列挙して、これらに「匹敵する大長編」と予告したのは事実である。
でもって『匣の中の失楽』の連載が終了し、単行本として刊行された際に、新刊評で評論家の二上洋一がこの三作をまとめて「三大奇書」といい、『匣の中の失楽』を「第四の奇書」と呼んだ(「幻影城」1978年10月号)のが、この三作をまとめて「三大奇書」と称した文章の(現在確認されている限り)最初のものである。
というわけで、「三大奇書」が既にあったところに『匣の中の失楽』が出てきて「第四の奇書」と認定されたわけではなく、「第四の奇書」である『匣の中の失楽』が出てきたことによって「三大奇書」が規定されたのである。実際、竹本健治も「三大奇書」という呼称は聞いたことがなかったという。
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https://twitter.com/takemootoo/status/750730802762162176
なので、『匣』が奇書に入るかどうかという議論はこの経緯を踏まえるとあんまり意味がなかったりする。『匣』がなければこの三作が「三大奇書」と呼ばれること自体なかったかもしれないからだ。
舞城王太郎の『ディスコ探偵水曜日』がミステリ評論家の千街晶之によって五大奇書と評され、また山口雅也の『奇偶』、古野まほろの『天帝のはしたなき果実』など「第五の奇書」を名乗る作品はいくつか書かれている。しかし上記の「四大奇書」成立経緯を踏まえると、四大奇書に続く「第五の奇書」が新しく誕生することは考えにくい。
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19 ななしのよっしん
2024/04/29(月) 00:57:11 ID: Oum/tRNYKv
日本三大奇書や日本四大奇書、第五の奇書の例に挙げられている小説は全部いわゆるアンチミステリだけど国内に置ける奇書って枠組み自体がそういうかなり限定的な話なんですかね?
20 ななしのよっしん
2024/04/29(月) 01:02:27 ID: HUAYOWtxGR
それで誰も困らないし、何の問題もないからな
21 ななしのよっしん
2024/04/29(月) 01:10:44 ID: Oum/tRNYKv
ああいや、記事の概要の欄にもそういった前提はとくに書いていなかったので一応確認したくて
どうもありがとう
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最終更新:2025/03/17(月) 18:00
最終更新:2025/03/17(月) 17:00
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