霊感商法とは、悪徳商法の1つである。
合理的に実証できない能力による知見と称して「現在、あなたやあなたの親族に重大な不利益が発生している」と告げたり「将来、あなたやあなたの親族に重大な不利益が発生するだろう」と予告したりして不安をあおり、「重大な不利益を回避するには、この商品を買うことが必要不可欠である」と告げて商品を買わせることを霊感商法という。
合理的に実証できない能力というのは、例えば、霊感[1]、霊界の様子を見通す能力[2]、宗教的な力、超能力、予知能力、天使と対話する能力、カルマを読み取る能力、占いをする能力、といったものである。
重大な不利益を予言するなどして不安を煽ることは、相手の「意思決定の自由」を侵害して相手の自由意思の形成を阻害して相手を困惑させることである。困惑というのは法律用語で、合理的な判断ができない心理状態のことを指す[3]。
「意思決定の自由」は日本国憲法第13条で保障される自己決定権の一部である。また、思想・良心の自由に関して広義説(内心説)を採用する場合、「意思決定の自由」は思想・良心の自由の一部になる。このため、不安を煽って「意思決定の自由」を侵害することは人権を蹂躙する行為である。
刑法第222条で脅迫罪が規定されており、一般人が畏怖するような表現でもって害悪の告知をして相手の「意思決定の自由」を侵害することを取り締まる条文になっている。
重大な不利益を予言して不安を煽ることは、害悪の告知をしていないので脅迫罪に該当しないが、しかし、脅迫罪によく似た行為である。
霊感商法で買わせる商品は、印鑑、数珠、仏像、壺、多宝塔、経典、絵画、イコン(キリスト教の聖なる絵画)などである。
霊感商法は、販売者が「重大な不利益を確実に回避できる凄い商品である」と誇大に宣伝して売りつけるので、商品価格が高額になりやすい。統一教会は普通の本を3千万円で売りつけたことがある(動画)。
2018年6月から霊感商法の被害者は消費者契約法に基づいて契約を解除できるようになり、強く保護されるようになった。
ごく普通の神社や寺院が、護符やお守りや破魔矢や縁起熊手や絵馬やおみくじを販売したり、法要や地鎮祭の謝礼を受け取ったりしている。そうしたことは日本社会において伝統的に広く受け入れられている。
これらも大抵は科学的根拠などは無いものの有料であるため、霊感商法との区別をどこで付けるかが問題となる。
簡単に区別する方法があり、「重大な不利益が発生すると告げて不安を煽り立てる」「長時間説得するなどの好ましくない販売方法を取る」「あまりにも高額である」といった、社会通念に照らして悪質な手法を採っている場合に霊感商法と見なす、というものである。
一方で、消費者契約法の定義を用いて区別する方法があり、①合理的に実証できない能力による知見と称している、②重大な不利益が発生すると述べて不安をあおっている、③「この商品を買えば重大な不利益を確実に回避できる」と誇大な宣伝をしている、という3条件を全て満たすときに霊感商法と見なす、というものである。
神社の神主が「自分は予知能力があり、あなたが交通事故で重傷を負う未来が見える」というふうに合理的に実証できない能力の知見として不安を煽り、「この交通安全のお守りを買えば交通事故を確実に回避できる」と断言してお守りを売りつけた場合は、霊感商法となる。
神社の神主が「警察の調べによると、あなたは交通事故に遭う可能性がある」と言ったり、警察から取り寄せた交通事故の悲惨な動画を見せたりして、合理的に実証できる知見として不安を煽り、「この交通安全のお守りを買えば交通事故を確実に回避できる」と断言してお守りを売りつけた場合は、①の条件を欠いているので霊感商法にならない[4]。
神社の神主が、たいして不安を煽らず、「この交通安全のお守りを買えば交通事故を回避できるかもしれない」と控えめな言い方でお守りを売った場合は、霊感商法にならない。
霊感商法を行う宗教団体として、統一教会、明覚寺(本覚寺)、法の華三法行、神世界などが挙げられる。
これらの団体が行う霊感商法は1980年代から問題になり、1987年~96年にかけて、1万件、6800億円の被害と相談件数があったという。神世界が起した事件では大学教授や警官が関わっていたなど、大きな問題となった。
明覚寺(本覚寺)は、組織的な霊感商法を理由として、裁判所に宗教法人法第81条に基づく解散命令を出され、「法人格を有していて税制優遇を受ける宗教団体(宗教法人)」でいられなくなり、「法人格を有しておらず税制優遇を受けない宗教団体」になった[5]。
「このままでは重大な不利益が発生する」と告げて不安をあおることをせず、「この商品を買うと大きな利益が確実に転がり込む」と告げて商品を買わせることは開運商法と呼ばれる。
開運商法は、販売者が「大きな利益が確実に転がり込む凄い商品である」と誇大に宣伝して売りつけるので、商品価格が高額になりやすい。この点は霊感商法と同じである。
霊感商法の被害者は消費者契約法によって保護される。一方で開運商法の被害者は、社会生活上の経験が乏しい場合に限り、消費者契約法第四条第3項第三号によって保護される可能性がある。
賭博は「賭博参加権を買うと大きな利益が運次第で転がり込む」と告げて賭博参加権を買わせるものである。
賭博は「大きな利益が運次第で転がり込む」と宣伝するものであり、霊感商法や開運商法よりも宣伝が控えめである。
賭博参加権は少額の単位で販売されることが多い。日本の中央競馬は馬券の最小購入単位が100円である。賭博の参加者は、少額のお金を賭けるか高額のお金を賭けるか、自由に選ぶことができる。
賭博でお金を失ったものは法律で一切救済されない。霊感商法の被害者は消費者契約法で確実に保護されるし、開運商法の被害者の一部は消費者契約法で保護される可能性があるのだが、それらとは対照的である。
一部の言論人は「霊感商法にはまって自己破産になることは、パチンコ・パチスロ・競馬・競艇・競輪といった賭博にはまって自己破産になることと同じようなものである」と論ずることがあるが[6]、やはりそうした論理は無理があるように思われる。
霊感商法 | 開運商法 | 賭博 | |
定義 | 合理的に実証できない能力による知見と称して「このままでは重大な不利益が発生する」と告げて不安をあおり、「この商品を買えば重大な不利益を確実に回避できる」と告げて商品を買わせる | 「この商品を買うと大きな利益が確実に転がり込む」と告げて商品を買わせる | 「賭博参加権を買うと大きな利益が運次第で転がり込む」と告げて賭博参加権を買わせる |
宣伝の様子 | 誇大な宣伝である | 誇大な宣伝である | 控えめな宣伝である |
購入金額 | 高額になりやすい | 高額になりやすい | 参加者の意思により高額になったり低額になったりする |
法律による保護 | 購入者は消費者契約法で保護される | 社会生活上の経験が乏しい購入者に限り、消費者契約法によって保護される可能性がある | 参加者は法律で救済されない |
霊感商法の被害者にとって救済措置となるものが消費者契約法第四条第3項第六号である。
消費者契約法第四条第3項・・・消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
同条同項第六号・・・当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、当該消費者又はその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、若しくは将来生じ得る重大な不利益を回避することができないとの不安をあおり、又はそのような不安を抱いていることに乗じて、その重大な不利益を回避するためには、当該消費者契約を締結することが必要不可欠である旨を告げること。
被害者がマインドコントロールされている間は加害者から被害者にお金が戻らないが、被害者がマインドコントロールから解き放たれればこの法律により霊感商法の契約を取り消して加害者から被害者にお金を戻すことができる。
霊感商法は、販売者が「確実に重大な不利益が発生する」と予言して相手を困惑させて、相手の「意思決定の自由」を侵害して、相手の自己決定権を侵害して、そうした上で売りつけるものである。
こうした売買契約は、民法第90条の公序良俗規定の適用を通じて無効にすることができる。民法第90条の判例の1つに暴利行為の取り消しというものがある。他人の窮迫・軽率・無経験・無思慮などに乗じて、いちじるしく不相当な財産的給付を約束させる行為を暴利行為という。無思慮というのは、恐怖や不安を煽って「意思決定の自由」を侵害して自己決定権を制限することで人工的に作り出すことができる。
さらに、消費者契約法が2018年6月に改正されて第四条第3項第六号が新たに加えられた。これで民法第90条を使わずに霊感商法の売買契約を無効にできるようになった。
近代国家においては「契約の自由」というものが重視され、Aという人とBという人が契約を結んだ場合に政府や裁判所といった第三者がその契約に介入しないことが重視される。つまり、Aという人とBという人の経済的自由権が重視される。
しかし、経済的自由権などの基本的人権は、一切の制約を受けないものではなく、他者に危害を加えない範囲の中で尊重されるものでる。霊感商法の技術を駆使して他者の「意思決定の自由」すなわち自己決定権に危害を加えつつ他者の財産権に危害を加える人に対し、他者加害原理に基づいた公共の福祉を口実として経済的自由権という基本的人権を一部制限することは、大いにありうることである。
2018年3月1日の時点においてすでに消費者契約法が存在していたが、「霊感による知見として不安をあおられて契約してしまった消費者は、その契約を取り消すことができる」の条文が入っていなかった。
同年3月2日に安倍晋三率いる内閣が消費者契約法の改正法案を衆議院に提出した。このときは「霊感による知見として不安をあおられて契約してしまった消費者は、その契約を取り消すことができる」という条文が入っておらず、「社会生活上の経験が乏しい消費者は、不安をあおる告知を受けて契約してしまった場合に、その契約を取り消すことができる」という条文が入っていた。
その後の国会答弁で、福井照大臣は「霊感商法の被害者は、一般的な中高年であっても『社会生活上の経験が乏しい消費者は、不安をあおる告知を受けて契約してしまった場合に、その契約を取り消すことができる』の条文を適用することで救済できる」と述べた。
しかしその後の国会答弁で、福井照大臣は見解を変え、「『社会生活上の経験が乏しい消費者』が該当するのは若年層に限り、一般的な中高年は基本的に該当しない。ニートや引きこもりの中高年なら例外的に該当する」と述べて、「霊感商法の被害者が消費者契約法で救済されるのは、若年層か、ニートや引きこもりの中高年だけである」として、野党議員からの猛反発を受けた。
そして野党を含むほぼ全ての政党による修正案が出され、「霊感による知見として不安をあおられて契約してしまった消費者は、その契約を取り消すことができる」という条文が入り、衆議院と参議院の両方で可決されて成立した。
以上のように、「当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として~」の条文を作って霊感商法の被害者の救済を行ったのは、国会であって、安倍晋三率いる内閣ではない。
消費者契約法の改正法案は2018年(平成30年)3月2日に安倍晋三が率いる内閣によって提出された(資料)。このときの法案には「霊感による知見として不安をあおられて契約してしまった消費者は、その契約を取り消すことができる」という条文が入っておらず、「社会生活上の経験が乏しい消費者は、不安をあおる告知を受けて契約してしまった場合に、その契約を取り消すことができる」という条文が入っていた(資料
)。
これに対して5月11日の衆院本会議で様々な野党議員が「『社会生活上の経験が乏しい消費者』というのは若年層のみのことか。中高年は含まれないのか。霊感商法の被害に遭った中高年は消費者契約法で救済されないのか」と質問したが[7]、福井照消費者担当大臣は「社会生活上の経験を持つ中高年も、『不安をあおる告知を受けて契約してしまった場合に、その契約を取り消すことができる』という条文によって霊感商法による契約を取り消すことができる」と答弁した(資料)。
しかし、5月21日の衆議院消費者問題特別委員会で福井照大臣は「中高年の中で、就労経験等がなく、外出することもめったになく、他者との交流がほとんどないなど、社会生活上の経験が乏しいと認められる者のみが、消費者契約法により、不当勧誘による契約を取り消すことができる。それ以外の中高年は民法によって救済される」と答弁し(資料)、さらに「中高年は一般的に『社会生活上の経験が乏しいもの』ではない」という内容の答弁をした(資料
)。そして5月11日の本会議における答弁
を修正し、「若年層が霊感商法の被害に遭ったら消費者契約法により契約を取り消すことができる。中高年は民法で救済されることがある」とした(資料
)。
ところが、5月23日の衆議院消費者問題特別委員会で福井照大臣は「5月21日の『5月11日本会議答弁を修正する。若年層が霊感商法の被害に遭ったら消費者契約法により契約を取り消すことができる。中高年は民法で救済されることがある』という答弁を撤回する」と言いだした(資料)。「5月11日の衆院本会議の答弁に戻り、社会生活上の経験を持つ中高年も、『不安をあおる告知を受けて契約してしまった場合に、その契約を取り消すことができる』という条文によって霊感商法による契約を取り消すことができる」という見解に戻った。ほんの数日のうちに政府見解をコロコロと変え、大失態となった。
結局、5月23日の衆議院消費者問題特別委員会の最終局面で、「自由民主党、立憲民主党・市民クラブ、国民民主党・無所属クラブ、公明党、無所属の会、日本共産党及び日本維新の会の七派共同提案による修正案」が提出された(資料)。この修正案の中に「霊感による知見として不安をあおられて契約してしまった消費者は、その契約を取り消すことができる」という条文が入っている(資料
)。そして、全会一致で原案と修正案が可決された(資料1
、資料2
、資料3
)。
参議院が衆院を通過した法案を可決したのは6月8日であり、6月15日には公布・施行された(資料
)。
門田隆将という人物は40万フォロワーを持つインフルエンサーだが、Twitterで「安倍晋三は消費者契約法の改正などで敢然と霊感商法と闘った総理である」と論じているし(ツィート)、「安倍晋三は統一教会の天敵だった」と論じている(ツィート
)。
しかし、安倍晋三率いる内閣は、敢然と霊感商法と戦うような条文の入った法案を国会に提出していない。
敢然と霊感商法と戦うような条文を消費者契約法の中に入れたのは、安倍晋三率いる内閣ではなく、2018年5月23日の衆議院消費者問題特別委員会に出席した国会議員たちであるので、「2018年5月23日の衆議院消費者問題特別委員会に出席した国会議員たちが統一教会の天敵である」と表現する方が正しい。
安倍晋三や福井照という人物は統一教会との関係が深い政治家として知られている。福井照は2006年5月15日に統一教会に関連する天宙平和連合(UPF)の祖国郷土還元高松大会に祝電を送ったことを2006年6月20日の高知民報に報じられ(資料)、そのことを国会で指摘されている(資料1
、資料2
、資料3
、資料4
)。
2018年6月に消費者契約法が改正されて霊感商法の契約取り消しが可能になったので、霊感商法を行うような宗教団体は、商品を与える代わりに金銭を受け取る霊感商法から、金銭を無償で受け取る寄附・献金へ手法を変えるようになってきた。あるいは、いったん寄附・献金で金銭を受け取ってからそれとは別案件でプレゼントをするという手法もとるようになってきた(記事、動画1
、動画2
、資料
)。
このため、2022年12月10日に不当寄附勧誘防止法が国会で可決され、不安と恐怖を煽って困惑させて寄附を勧誘することが規制されるようになった。
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最終更新:2025/04/14(月) 08:00
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