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アダムスミス

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アダム・スミス(Adam Smith)とは、とは18世紀のイギリスの道徳学者、哲学者、経済学者である。

概要

  • 経済学の父と呼ばれ、近代経済学の始まりの人である。
  • 代表作は「国富論(諸国民と富)」、「道徳感情論(道徳情操論)」。
  • スミスが1776年に国富論を出して以降から、ワルラスらの限界革命までの100年間を古典派の時代と言う。

略歴

1723年、スコットランドで誕生。グラスゴー大学で道徳哲学を学んで卒業した後、40年にオックスフォード大学に国内留学する。46年に大学を退学し、48年からエディンバラで文学を教え、51年にグラスゴー大学の論理学講師になった。52年道徳哲学教授になり、64年退職。それからは貴族の家庭教師として働き、それからは執筆業に専念していた。78年からは税関吏の仕事につく。

1759年に「道徳感情論」、76年に「国富論」を出版した。

その思想

スミスの思想を大まかに纏めると、

  1. 重商主義の批判→市場メカニズムの提唱。
  2. 道徳感情論→公平な観察者の思想。
  3. 資本蓄積の分析→労働価値説の発展。
 である。

重商主義の批判

市場メカニズムの確立。

そもそも重商主義とは?

  • 重商主義とは、一国の政府が貿易を通じて金を儲けよう。その為に政府が指導して自国の経済の保護をしよう、という考えである。
  • 18世紀当時のイギリスは、高い関税をかけて輸入を減らし、一方で輸出奨励金を出し自国の輸出を増やすなどの政策をとっていた。

スミスの批判

  • それに対しスミスは、神の見えざる手を通じた市場メカニズムの提唱、つまり「政府は経済のことに介入せず民間人の自由に任せるべき」だと主張した。
  • より端的に言えば「国民が国のことなんて考えずに、各自が自分の金儲けの事だけ考えていた方が、結果的に国の為になる」ということである。
  • 政府の介入をよしとはしていないが、スミスは無政府主義者ではなく、略奪や契約違反を防ぐ為の国家の司法システムの重要性も強調。その他、交通、通信、教育等も政府の仕事として、経済には関わらないが、市場の維持を目指した「小さい政府」を目標とした。
  • スミスは、本当の富とは、国に存在するお金の量ではなくて、消費できる生産物の量にあるとした。それに従えば、重商主義的な政策では国民は真の豊かさを得られないということになる。
  • いくらお金を持っていても、それを使えなければ人は幸せになれないのだ。

では生産性をあげる為には何をすべきか?

スミスは、消費できる生産物の量を増やす為には「分業」が必要であるとした。

例えば、一人で安全ピンを生産しようと思っても一日20本が限界だろう。しかし10人で安全ピンを作った場合は200本どころか48000本作れてしまった。一人あたり4800本である。

スミスの生きたイギリスはまだまだ手工業の時代だったので、特にこのような分業が効果を発揮した。

この理屈で言えば、関税などで貿易を制限することは分業を妨げる行為にあたる。

ではでは、分業を進める為には?

スミスは分業を進めるためには「資本の蓄積」が重要であると述べる。資本の蓄積とは、お金を使って材料や道具や機械を新しく買って市場規模を大きくすることだ。

資本の蓄積をするためには、金持ちはメイドを雇うみたいな「不生産的労働」を止めて、お金をその分を生産的なもの(生産的労働)に使うべきなのだ。スミスは、そうすることによって資本蓄積が進むと考えた。

労働価値説

スミスは、物の価値とはそれが作られる時に費やされた労働量によって決まるという労働価値説の基礎を発展させた。

モノの価値はどうやって決まるか?

経済学において、モノの価値がどのようにして決まるかはそれだけで一つの学問になってしまうほど難しい問題である。

スミスの時代には重商主義者によって「モノの価値は貨幣によって決まる」とされた。しかしながら、貨幣によって価値が決まると言っても、貨幣自体の値打ちもコロコロ変わるものである。悪鋳貨幣やインフレによって値段が倍になったからといって商品の価値が倍になる訳ではないのだ。

その他に「そのモノがどれほどのモノと交換できるか?」で価値が決まる交換価値説。「そのモノがどれだけ使えるか、便利か、で価値が決まる」使用価値説などというものがあるが、スミスはこれらを「水とダイヤモンドのパラドクス」と呼ばれる理論で批判した。

このパラドクスというのは、ダイヤモンドは沢山の食べ物と交換することができる。しかしそれ自体はキラキラ光るだけの石ころである。水は全ての生物にとって大変重要なものであるが、水だけでお店の商品を買うことは難しい。つまり交換価値と使用価値は矛盾してしまう。これが「水とダイヤモンドのパラドクス」である。

スミスの労働価値説

これを踏まえて、スミスは「モノの価値はそれに対して投下された労働量で決まる」という労働価値説を提唱する。

例えば、小麦を買おうと思ったら、その小麦を収穫する為に農家の人が働いた分だけ、自分も働いて得た何かを相手に渡す必要があるのだ。

しかしこれだけでは単に等価交換をしているだけに過ぎない。世の中が発展すると、労働量だけでなく利潤や地代もかかってくる。よって、モノの価値(価格)というのは最終的に「労働量(賃金)+利潤+地代」で決定される。これをスミスは「自然価格」と呼んだ。

スミスの労働価値説には二種類の観点が混在する。

  1. 投下労働説。その商品を作る時に費やした労働力の総量
  2. 支配労働説。その商品によって買える(支配出来る)他人の労働力の総量。
 この労働価値説は、後にリカードやマルクスによって更に深められ、古典派経済学の根幹をなした。
  

道徳感情論

  • よく勘違いされるが、スミスは自由経済の名の下に弱肉強食の世界を目指した訳ではなく、公平な観察者のに恥じない範囲内での利己の追求を求めていた。
  • 全ての人間には他人に共感できる能力がある。社会とはその共感によって秩序を保っている。
  • その秩序の下に人間は、具体的な人間ではない公平な観察者を自分の内部に作り、自己規制を行う。それがスミスの考える道徳哲学であった。

総括

  • 以上のように、スミスの思想は(古典派とは呼ばれてはいるが)現在の社会問題にも適応できる、生きた思想と言える。
  • スミスの貿易に関する考察は、現在の日本のTPP問題などに大きな示唆を与えてくれるであろう。
  • 「思想は物理的な力になりうる」というマルクスの言葉を引用するまでもなく、21世紀の今でもスミスを学ぶ価値は失われていない。名前や著書名だけは知っているという人が多いと思うが、図書館や書店で著作を見かけた時は、少し立ち止まって中を覗いてみるのも良いかもしれない。

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