地上の楽園とは、平たく言うと「すばらしいところ」を表現する言葉の一つである。
そのまま楽園的な場所を指して使う場合もあれば、「楽園と喧伝されているが実際には楽園とは程遠い場所(ディストピア)」を皮肉って言う場合もある。
「楽園」は「天にあるもの」だという概念は中世ヨーロッパのキリスト教芸術などで既に現れているため、地上にある素晴らしい場所を「『地上の』楽園」と呼ぶ素地は少なくともその当時からはあったものと思われる。
その一例としては、14世紀初めごろにイタリアの詩人ダンテ・アリギェーリが著したキリスト教叙事詩『神曲』が挙げられる。その第二部『煉獄篇』において、ダンテは地上にある煉獄の山を登っていくが、その山頂にあるのは「Paradiso Terrestre」、すなわち「地上楽園」である。そこは地上にあって天国に最も近い場所であり、そしてアダムとイブが神に追放されるまで暮らしていた地であったという。
対して、皮肉としての「地上の楽園」の用法としては、イギリスの経済学者トマス・ロバート・マルサスの1798年の名著『人口論』での使用が確認できる。マルサスは同書のある章で、無政府主義(アナキズム)の先駆者ウィリアム・ゴドウィンの著作『政治的正義』について論じる。ゴドウィンが語る、政治制度を廃して知性と博愛が育む幸福な理想社会について、マルサスはその魅力を讃えながらも「想像上の美しい幻影にすぎない」と理路整然と退けていく。その文脈内において、ゴドウィンの理想社会に対し「terrestrial paradise」つまり「地上の楽園」という表現が使用されるのである。
現代の日本では、皮肉ではない使い方としては風光明媚な土地を称賛する言葉として用いられることが一般的である。特にいわゆる「南の島」「リゾート地」などを表現して使用されることが多い。例えばセブ島、タヒチ、セーシェル、バリなど。
そして、揶揄する形での使い方としては朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を指して使用されることが多い。これは、1959年から始まる在日朝鮮人の「帰国事業」に端を発する。これは在日朝鮮人を北朝鮮に移住させるという事業であったが、この事業が行われた際に朝鮮総連が北朝鮮を「地上の楽園」と表現しつつ、移住後の素晴らしい生活を広告して盛んに参加者を募った、という背景があるため。この言葉を信じて北朝鮮に渡った人々のその後の苦難はよく知られている。
ニコニコ動画においても、この言葉がタグとして使用されている動画がいくつか確認できる。北朝鮮関連の動画が多いようだが、他には動物に囲まれて楽しんでいる動画や、南の島の光景の動画、独裁者シミュレーションゲーム「トロピコ」シリーズのプレイ動画などにも使用されている。
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最終更新:2025/12/24(水) 15:00
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