永久磁石同期電動機とは、永久磁石を回転子に用いた電動モーターである。英語では"Permanent Magnet Syncronous Motor"と表記され、それぞれの頭文字をとって「PMSM」とも呼ばれる。自動車や、一部の鉄道車両などで使用されている。
ここでは鉄道車両のPMSMについて主に解説する。
三相交流モーターの一種で、固定子コイルが発生する回転磁束によって回転する。したがって回転子以外の構造は誘導モーターと同じで、インバータによるVVVF制御で駆動される。
一方、回転子は永久磁石と鉄心で構成されており、回転子にはコイルが無い。したがって整流子とブラシが不要なのも同じだが、回転原理は誘導モーターとは異なる。
PMSMの回転原理は直流モーターに近い。固定子コイルの回転磁束が、回転子の永久磁石の磁束に対し一定の角度差(:位相角)を持つことで、回転力(:トルク)となる磁力が発生する。一定の位相角を保つことでトルクが生じることから、回転子は回転磁束と同じ速さで回転する。PMSMの"Syncronous(:同期)"とは、回転子が回転磁束と同じ速さで回転するという意味だ。
位相角がずれるとトルクが大きく低下するため、回転子位置の測定が必須で、より厳密な制御が要求される。そのため、インバータ装置1台で1基のモーターを制御するのが基本だ。
自動車や鉄道車両では、永久磁石を回転子内部に埋め込んだ構造のIPMSMと呼ばれるタイプが使われる。IPMSMでは永久磁石だけでなく、回転子鉄心にも「リラクタンストルク」と呼ばれるトルクが作用する。磁石が鉄製品を引きつける現象を利用したトルクと考えればよい。
鉄道車両では、最初はE331系などの車軸直接駆動方式(DDM)向けのモーターとして採用され、現在では東京メトロなど大手私鉄の車両を中心に、少しずつ普及している。
主流である誘導モーターと比較すると、回転子に電流が流れないので
という長所がある。特に、低速回転でも誘導モーターほど効率が大きく低下しないのが一番の強みで、これがE331系などのDDMやHD300形機関車でPMSMが採用された理由である。ただしその反面、
であることから、システム全体としての導入費用は少々高くなる傾向がある。在来線の通勤電車や地下鉄のような、停止・発進を頻繁に行う運用に向いていると言える。
※某知恵袋で「突入電流」とか「トルク脈動による振動」などと回答されてるけど、全然違います。
鉄道車両のPMSMでは、モーターの小型化のためにセンサー類を省略し、代わりにモーター電流(:出力電流)から誘起電圧を演算することで回転子位置を測定する方式(:センサレス制御)が一般に用いられる。ただし、停止~低速域では誘起電圧が低いため回転子位置の測定ができず、制御ができなくなる。
IPMSMでは、固定子コイルに一定の交流電圧を掛けても、回転子位置に応じて電流の波形が僅かに変化する。この性質を利用したセンサレス制御が、高周波重畳と呼ばれる方式だ。すなわち、停止~低速域では数100Hzの高周波を重畳した交流電圧をモーターに掛け、出力電流のひずみ波形を演算することで、回転子位置を測定する。
ただしインバータの制御により電流をひずませるため、どうしても耳につきやすい電磁騒音が生じる。これが、PMSMの電車が発進・停止時に発する音の正体だ。そのため高周波重畳方式は、誘起電圧が低い停止~低速域でのみ用いられる。
回転中のPMSMでは、永久磁石の磁束によりブレーキ力となる誘起電圧が常に発生する。誘起電圧は速度に比例して高くなるため、車両によっては、高速域での惰行時にもインバータが誘起電圧を抑える制御を行う。このことから「PMSMの電車は、高速域では惰行ができない」という言説や、それに基づいた発言が散見される。
惰行時にインバータが動作する場合、回転磁束が永久磁石の磁束と相対するよう電流を流すことで、永久磁石の磁束を弱め、誘起電圧を抑える制御を行っている。ここで流れる電流は、電圧に対して位相が90°進んだ力率0の無効電流なので、消費電力は0であり、いくら電流が増えても加速も減速もしない。転じて、惰行しているのと同じ状態となる。
そもそもPMSMであっても、惰行時に必ずインバータが動作している訳ではない。実際に観察してみると、たとえば京急新1000形(1367編成)では90km/h以下での惰行時にはインバータは動作しないし、速度に関わらず惰行時のインバータ動作がまったく無い車両(東京メトロ16000系など)もある。
したがって、「PMSM車は惰行ができない」という言説はま っ た く の 誤 解である。
回転子に永久磁石を含むPMSMは、「高速域では誘起電圧が上昇して加速しづらくなる」と思っている人が少なくない。しかし、京急新1000形(1367編成)や特急車である東武500系など、PMSMで優れた高速性能を発揮する車両を知れば、その言説には疑問符が付くはずだ。
先述のとおりIPMSMは、永久磁石によるトルクと、回転子鉄心に生じるリラクタンストルクを併用して回転する。高速域での運転も多い鉄道車両のIPMSMでは、リラクタンストルクの割合を大きく取った設計がなされる。その結果、永久磁石によるトルクは相対的に少なくなるので誘起電圧が低くなり、高速域で高い出力を発揮するPMSMとなる。
またIPMSMは、インバータ出力電圧が最大で一定になる高速域では、電流の位相角を進めることで逆磁界によって永久磁石の磁束を弱める「弱め磁束制御」を行う。永久磁石によるトルクが少ないIPMSMであれば、弱め磁束制御によって永久磁石の磁束を完全に打ち消すことができるので高速域でも出力が落ちず、理論上無限に加速できるのだ。
したがって、「PMSM車は高速域が弱い」とは一概に言えないことがわかるだろう。
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最終更新:2025/12/23(火) 23:00
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