イラン神話とは、現在のイラン地域に伝わる神話である。
あくまでも便宜上の名称であり、ペルシャ神話とも。
概要
雑な理解でいえば、『王の書(シャー・ナーメ)』がすべての基礎となっている神話群。この本は伝えられるところによると、サーマーン朝の宮廷詩人・ダキーキーが命令で作り始めたが、この男は殺されてしまったため、フェルドウスィーが後を継いで1010年に完成した、とのことである。とはいえ完成まで30年ほどの長い年月がかかったため、完成時点ではすでに王朝はガズナ朝に代わっていた。
7世紀にササン朝ペルシアがイスラーム教徒に駆逐されて以後はイスラーム/アラブによる支配が及んでいたこの地域であるが、イスラーム王朝ではあったもののサーマーン朝では以前のペルシャ文化の復興が進み、ガズナ朝もそれを継承した。そういった背景が『シャー・ナーメ』の編纂を成らしめたとも言える。以後のサファヴィー朝などのイスラーム化を予期するかのように、ちょうどいい感じで古きペルシャ人の伝承が残った形となる。
この神話であるが、要約するとペルシャの王たちの事績をまとめる伝統と、ゾロアスター教に代表される二元論が主軸となる。二元論とは要するに、善と悪が壮大な戦いを繰り広げるアレであり、善の神・アフラ・マズダーと邪神・アンラ・マニュ(アフレマン)との戦いが有名な『アヴェスター』の記述が代表的である。
こうした伝承はササン朝にも受け継がれ、『クワタイ・ナーマグ(君主の書)』、『ハザール・アフサーン(千物語)』などの散逸した書物が、民間伝承として語り継がれていき、パフラヴィー語文化圏の『デーンカルド(聖教大成)』、『ブンダヒシュン(最初の創造)』などの書物に細々と残る。
まあ、要約すると、フェルドウスィーはササン朝から残る古い伝承や、アラビア語圏に伝わる英雄叙事詩などを組み合わせて、イランの神話をまとめた、ということになる。ただし、この伝承というのが、アフガニスタン南部のスィースタンのものに依拠したため、古来から伝わってきていない、ロスタムといった英雄が誕生する。
なお、イラン神話の典型例として、英雄は絶頂を迎えても必ず幸せを迎えて終わらない、という結末がある。また、王は薄情で冷淡であり、敵も味方もやたらと血がつながっている、という特徴もある。
主な登場人物
- アフラースィアーブ
- 敵・トゥーラーンの王。『アヴェスター』ではアフレマンが作ったザッハーク(アジ・ダハーカ)、セカンダル(アレクサンドロス3世)と並ぶ、三大悪魔のひとつ。
- 孫・カイ・ホスロウとの戦いに敗れるが、後にテュルク系の人々から信仰されていく。
- アーラシュ
- ウルフシャと呼ばれる弓の名手。アフラースィアーブとの戦いで王・マヌーチェフルを助けた。
- アルジャースプ
- 邪教の国・ヒヨーンの王。
- アルダシール
- アルタクセルクセスの変化した名前で、ダレイオス3世の子孫。
- アルダヴィンに気に入られるが、王子に憎まれたことから身の危険を感じ、王家の女性と駆け落ちした。最終的には王の証・ファッルを得る。
- イスファンディヤール
- カエサルの孫。無敵の勇者になったが、父・ゴシュタースプに嫌われ、ロスタムと戦わされて滅んだ。
- カイ・ホスロウ
- カイ・カーウースの孫。ピーラーンに助けられたり、ビージャンを助けたり、ピーラーンを倒したり、父の仇・アフラースィアーブを倒したり、色々してる。
- カーヴェ
- ザッハークを倒した鉄鍛冶。この功績で慕われたが、王位はフェリドゥーンに譲った。
- カユーマルス
- 森羅万象の起源。
- ガルシャースプ
- アジ・スルヴァラやガンダルヴァを退治した英雄。
- 世界の終わりにザッハークを倒すともいわれている。
- キュロス
- アケメネス朝ペルシャの王。大体本人の事績が拡大解釈された感じなのでパス。
- ゴシュタースプ
- カイ・ホスロウの孫。イスファンディヤールの死後、後悔によって孫・バフマンに譲位した。
- ゴルダーファリード
- 女戦士。トゥーラーンの戦士・ソフラーブに恋心を持たれ、それを利用した。
- ザール
- 銀髪のザールの異名を持ち、主君のゴシュタースプの猜疑心から狙われる。
- しかし、その一方で息子のロスタム達は殺し合いをし、自身もバフマンに追われた。
- ザッハーク
- 凶悪の権化。要約するとアジ・ダハーカ。この神話では2回ほど敵として出てくる。
- 世界の終末にガルシャースプに殺されるとされる。
- ジャムシード
- 人間に秩序をもたらしたが、次第に傲慢になって王の象徴・ファッルを失い、二つに切り裂かれた
- スィヤーウシュ
- カイ・カーウースの子で、潔白の象徴。トゥーラーンに亡命するが、そこでも疑われて殺された。
- この子供が、カイ・ホスロウ。
- スキュテス
- スキタイの始祖。ヘラクレスの息子で、戦斧・盃・軛がついた鋤の三神器を得たという。
- セカンダル
- アレクサンドロス大王の事。伝承によってキャラの揺れが激しい。
- ソフラーブ
- ロスタムの子。父と知らずロスタムと殺し合いをし、ロスタムに殺された。
- ダーラーブ
- カエサルの弟の娘を捕らえ結婚したが、息が臭かったため送り返した。
- なお、この息子がセカンダル(アレクサンドロス)というだいぶ時系列がゆがんだ設定になっている。
- ダレイオス
- 1世のこと。大体本人の事績が拡大解釈された感じなのでパス。
- ハフトヴァード
- アルダシールと戦ったケルマーンの王。息子が七人(ハフト)なのでハフトヴァード。
- ビージャン
- ロスタムの孫。マニージェに慕われて捕らえられるが、カイ・ホスロウにマニージェと一緒に連れ帰らされた。
- ファルハード
- ホスロウ2世とシーリーンの恋に巻き込まれて死んだ石工。
- 脇役だが人気は高いらしい。
- フェリドゥーン
- ジャムシードの孫。ザッハーク退治によって姉妹を嫁にするが、息子が殺しあった結果、孫のマヌーチェフルに3人の息子の首を突き付けられた。
- ロスタム
- ザールの息子で主人公格。ここまで書いてきたように勇者として活躍するが、わが子を殺し、終には弟・ジャガードと相打ちになって死んだ。
各種系図
※上にいる人は太字かつ下線
ビシューダーディー朝
カユーマルス | ||||||||||||||||
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│ | ||||||||||||||||
スィヤーマク | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
フーシャング | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
タハムーラス | ||||||||||||||||
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├ | ─ | ─ | ─ | ┬ | ─ | ─ | ┐ | |||||||||
│ | ・ | |||||||||||||||
シャハルナーズ | = | ザッハーク | ジャムシード | ・ | ||||||||||||
│ | ・ | |||||||||||||||
│ | ・ | |||||||||||||||
メヘラーブ | = | スィーンドフト | ・ | |||||||||||||
│ | ・ | |||||||||||||||
│ | ・ | |||||||||||||||
ザール | = | ルーダーベ | アルナワーズ | = | フェリドゥーン | = | シャハルナーズ | |||||||||
│ | │ | │ | ||||||||||||||
│ | │ | ┌ | ┴ | ┐ | ||||||||||||
ロスタム | パシャング | = | イーラージース | トゥール | サルム | |||||||||||
│ | ||||||||||||||||
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マヌーチヒル | ||||||||||||||||
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ナウザル | ||||||||||||||||
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┌ | ┴ | ┬ | ─ | ┐ | ||||||||||||
│ | │ | ・ | ||||||||||||||
トゥース | グスタハム | ・ | ||||||||||||||
│ | ザヴ | |||||||||||||||
│ | │ | |||||||||||||||
ザラースブ | │ | |||||||||||||||
ガルシャースブ |
カヤーニー朝
カイ・クバード | ||||||||||||||||
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┌ | ─ | ┴ | ┬ | ─ | ┬ | ─ | ┐ | |||||||||
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スーダーベ | = | カイ・カーウース | = | ガルスィーウズの孫娘 | カイ・アーラシュ | カイ・バシーン | カイ・アルミーン | |||||||||
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┌ | ┴ | ┐ | └ | ┐ | │ | |||||||||||
ファリーブルズ | リーヴリーズ | │ | │ | |||||||||||||
│ | │ | |||||||||||||||
ジャリーレ | = | スィーヤーウシュ | = | ファランギース | カイ・アウランド | |||||||||||
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│ | │ | │ | ||||||||||||||
フィールド | カイ・ホスロウ | カイ・ルフラースブ | ||||||||||||||
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┌ | ┴ | ┐ | ||||||||||||||
ザリール | カイ・ゴシュタースブ | |||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
イスファンディヤール | ||||||||||||||||
ロスタム家
カリーマーン | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
ナリーマーン | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
サーム | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
女 | = | ザール | = | ルーダーベ | ||||||||||||
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│ | ├ | ─ | ─ | ┐ | ||||||||||||
│ | │ | │ | ||||||||||||||
│ | ザワード | シャハル・バーヌー・イラム | = | ロスタム | = | タハミーネ | ||||||||||
ジャガード | │ | │ | ||||||||||||||
│ | ソスラーブ | |||||||||||||||
┌ | ┴ | ┐ | ||||||||||||||
│ | │ | |||||||||||||||
バーヌー・グシャスプ | ファラーマルズ |
グーダルズ家
キシュワード | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
グーダルズ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
├ | ─ | ┬ | ─ | ┬ | ─ | ─ | ─ | ┬ | ┬ | ─ | ┐ | |||||
│ | │ | │ | │ | │ | │ | |||||||||||
ハジール | ナストゥーフ | ギーヴ | = | バーヌー・グシャスブ | ルッハーム | シャハル・バーヌー・イラム | バハラーム | |||||||||
│ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
マニージュ | = | ビージャン | ||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
┌ | ┴ | ┐ | ||||||||||||||
│ | │ | |||||||||||||||
アルダシール | シールーイェ |
トゥラーン王家
フェリドゥーン | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
トゥール | ||||||||||||||||
・ | ||||||||||||||||
・ | ||||||||||||||||
ザードシャム | ||||||||||||||||
│ | ||||||||||||||||
├ | ─ | ─ | ─ | ─ | ─ | ─ | ┐ | |||||||||
│ | │ | |||||||||||||||
ヴィーセ | バシャング | |||||||||||||||
├ | ─ | ┬ | ─ | ┐ | ┌ | ┴ | ┬ | ─ | ┐ | |||||||
│ | │ | │ | │ | │ | │ | |||||||||||
ビールサム | ピーラーン | 他 | ガルスィーワズ | アフラースィヤーブ | イダリーラス | |||||||||||
│ | │ | │ | ||||||||||||||
│ | 〇 | │ | ||||||||||||||
│ | │ | │ | ||||||||||||||
│ | カイ・カーウース | = | 女 | │ | ||||||||||||
┌ | ─ | ┤ | │ | ┌ | ┴ | ┬ | ─ | ┐ | ||||||||
│ | │ | │ | │ | │ | │ | |||||||||||
ルーイーン | ジャリーレ | = | スィーヤーウジュ | = | ファランギース | スルヘ | マニージェ | |||||||||
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フィールド | カイ・ホスロウ |
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