キャッシュレスとは、現金を使用しない支払い方法(決済方式)の一つである。
概要
支払い(ペイメント)の方法のうち、現物での金銭を伴わないものの総称。簡単に言えば「実物の硬貨やお札を使わなくても支払いができるもの全部」をひっくるめてキャッシュレスと呼ぶのである。
客と店との間で一般的に行われる商売において、ものやサービスを受け取りその対価として支払うものには、長らく硬貨(貨幣)やお札(紙幣)が使われてきた。
海外のキャッシュレス
欧米などではキャッシュレスが大幅に進んでいる。というより、むしろ日本が遅れているレベルである。
特にキャッシュレス先進国と呼ばれているのがスウェーデン(80%以上)、韓国(90%以上)などであり、ほぼ流通している現金は皆無に等しい。スウェーデンは現金の流通が減った(現在の流通量は1.2%)ことで現金の生産・維持コストが軽減でき、現金が銀行からなくなったことで強盗事件は90%以上も減少したという。今まで現金保管場所に使われていた場所は事務所になるなど新しい活用がなされている。
また、まだ少数ながら海外では、手ぶらでの決済を試験的に始めているところもあり、スマホレス・カードレスな社会も展望が見え始めている。
スウェーデンでは自身の皮膚の下に個人情報が登録されたICチップを埋め込んでそれを支払いに使っている人も出始めている。近年で急速にキャッシュレスを普及させている中国などでは、中国人民のデータは残らず中央政府のコンピューターと連動していることもあり、監視カメラなどに顔を認識させればその個人のアカウントに紐付けられて自動精算されるところもある。
日本のキャッシュレス
各地ではカードの決済端末が設置され、Suicaをはじめとする交通系ICカードや、クレジット・ブランドプリペイド・ブランドデビットなどのカードに対応するようになっている。
2022年の時点で、日本の民間消費におけるキャッシュレスの比率は36%に達している。[1]
利点
運搬(持ち運び)が不要
最大のメリットである。100万円で買い物をする場合、現金では大型あるいは大量のケースに入れていかなければならない。しかしクレジットカードやICカードなどで100万円分入れていけば持ち運びはカード1枚で済む。
また、データによる送金ならば、現金があるのを狙ってくる強盗などといった物理的な窃盗や襲撃が通用しなくなるため、セキュリティを増やす必要も設置する必要も削減できる可能性がある。
データ化による恩恵
様々なものがデータ化されている現代社会においては、各国の金融機関や官公庁などが追跡しやすくなるほど履歴や内容が残っているため、どれだけの金が動いたかで経済的な予測やトレンドになっているものの把握、収支計算が必要な事務処理などでの効率化が期待できる。
更には、不正な金の流れというのも各国が把握しやすくなる。なので、出どころや送金先、金が動いたことによる犯罪(脱税・マネーロンダリング)や国家で行われる作戦の推測など、金に絡む予測や戦略が立てやすくなるという面もある。
事件・問題
対応機器の必要性
キャッシュレスになったのは良いが、実際にはそれに対応した機器や決済手段がなければ意味はない。交通系ICカードにいくら入れていても行った先で交通IC決済が対応していなければ支払うことはできないし、JCBのクレジットカードを持っていっても店がVISAだけだったらアウトである。現金をなくすだけでなく、それに変わる共通した支払いが無ければ消費者は自分にあった支払い方法を自分で探し選んでいかなければならなくなってしまう。
そういった問題は消費者だけでなく店やサービス側も困る問題である。キャッシュレスといっても変わりとなる決済手段はいくつもあるため、規格やサービスが乱立してしまっては、そのための対応機器を揃えなければ支払いに使ってもらえなくなるので、最悪消費者が離れてしまう危険性もある。
不正アクセスによるリスクの可能性
上記では大量の物質的マネーがなくなったというのがメリットとして挙げられているが、それは逆を言えば「ボタン一つでいつでも現金のレベルを上回る大量のマネーデータが奪われるリスクを負うことになった」とも言えるのである。
各国の金融機関や企業に不正アクセスを受けた場合、その人の購入内容や取引内容、決済の日時から名前・住所・電話番号などの個人データまで、ありとあらゆるものが取られる危険性にさらされる。
当然これらを防御・保全しつつキャッシュレスを実現していかなければならないため、防衛のための費用や対応機器をまた揃える必要がある。ある意味では物理的なマネーを防御するのと大差ないとする声もある。
災害時に使えないことがある
硬貨や紙幣はそれ自体でも支払えるが、ICカードや(クレカ・デビットなどの)ペイメントカードは通信によって残高や支払い枠のチェックを行うため、災害で通信網あるいは送電網が被災した場合はその瞬間に「金属がちょっと乗っただけのプラスチックカード」と化す。
2018年9月に発生した北海道の胆振においては、停電などにより決済端末が機能しなくなったことで決済情報が処理できず、買い物ができない人が続出した(決済ができたのは非常用電源などを稼働できたセブンなどの大手コンビニのみでしかも一部店舗のみ)。
また、2018年11月に発生した韓国の通信大手KTの通信ケーブル火災においては、消火作業に約10時間、復旧作業に数日を要した。そのあいだ一般の通信回線や光ケーブルなど80万人以上の通信網が失われ、KTは急きょ移動基地局車などを投入する対応に追われるなどした。
日本では交通系ICの発達が著しく各地でクレカと共に使われるケースが増えていた。韓国も当時の段階でキャッシュレス決済の比率が90%に達していた。これらのケースは、通信ライン一つに頼るキャッシュレスの脆弱さを改めて浮き彫りにした事故となっている。
なお、ポータブル型CATやインプリンタを用意している店舗では停電時にもクレジットカード決済は可能である。
ただし、日本国内で発行されているクレジットカードは2020年代よりインプリンタでの決済が不可能なエンボスレスカードに移行しつつある。
適応できない人もいる
- キャッシュレス先進国のスウェーデン事情 (産経WEST 2018.12.13 20:13)
- 「キャッシュレス」が進む中国でも使いこなせない高齢者の存在が課題に (財経新聞 2018年11月30日 12:43)
- 高齢者のデジタルデバイド “取り残さない”デジタル社会の実現に向けて (Huawei Japan 2018.07.06)
日本においても、現在でも現物のお金を入れて切符を買う人を見たことはないだろうか。こういった傾向は高齢者、障害者や小さい子などに見られる。
実際のところは「キャッシュレス = 先進的」は必ずしも当てはまるわけではない。キャッシュレスもそうだが、新しい技術が数字の上では「効率的でより多くの生産性が見込める」としても、そういったものに弱い人でも理解できる既存技術がまだ残されていればその人達は当然分かりやすい方に流れていく。より多様な人達がいる社会においては、その新技術を使いこなせる人が多くなければ意味はないのである。
キャッシュレスの進んだ国として知られるスウェーデンだが、例外としてクリスマスの市場・露店では現金払いが多く残っている。また、高齢者のなかには現金を使う習慣が残っている人もいるため、レストランの支払いなどで現金を出して断られている姿もみられるなど、一部の人置いてきぼりの普及がまかり通っている側面もある。
また、物理的に触れられる紙幣やコインの方が視覚障害者にとっては安心でき、あればあるだけ消費してしまう依存症型の患者などは毎日限られたぶんだけ渡せる方が管理しやすいため、そういった人たちを抱える国ではキャッシュレス推進にはずみがつかない状況となっている。
また、アメリカにおいては、決められた最低限の残高を維持することが銀行口座を保てる条件となっている。月々の手数料が発生することもある。そういった事情から銀行口座を維持できずクレジットカードやデビットカードを持つことすらできない貧困層というのもおり、それらの層はキャッシュレスを推進して現金を断る店を「低所得者に対する人種差別だ」としている。
さらには、キャッシュレスになるということはすべての購入データがデジタル化され、カード会社や金融ブランドなどにそのデータが渡る。つまり購入した記録や動向などから個人に関するデータが企業などに使用される可能性もあるということである。それらのデータを企業に利用されたくないというプライバシーの観点から現金払いを好む人もいる。
そういった様々な事情や理由が重なっているため、必ずしもキャッシュレスが全世界・たくさんの人に普及できる環境が育っているとは言い難い。
関連動画
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関連項目
関連リンク
脚注
- *2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました 2023.4.6
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