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フルオロウラシル(Fluorouracil)とは、抗がん薬である。5-FU(ファイブエフユー)。
概要
フルオロウラシル(5-FU)は、ピリミジン系の代謝拮抗薬である。ウラシルの5位の水素原子がフッ素原子に置き換わった構造をもつ。1956年に合成され、1962年から医療に用いられてきた。核酸合成阻害作用を有し、広範な抗腫瘍効果を示す。たとえば胃がん、大腸がん、乳がんなどに有効で、世界中で汎用されている。
- 注射剤 - 胃がん、肝がん、結腸・直腸がん、乳がん、膵がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、食道がん、肺がん、頭頸部がん、小腸がんに適応。
- 錠剤 - 胃がん、結腸・直腸がん、乳がん、子宮頸がんに適応。
- 軟膏剤 - 皮膚がんに適応。
5-FUは代謝され、活性体の5-フルオロデオキシウリジン酸(FdUMP)や5-フルオロウリジン三リン酸(FUTP)となる。FdUMPはチミジル酸合成酵素を阻害し、DNAの合成を阻害する。FUTPはRNAに組み込まれ、リボソームRNAの合成を阻害する。また、FdUMPはチミジル酸合成酵素と補酵素の5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸とともに強固な三元複合体を形成し、その酵素活性を阻害、DNAの合成を阻害する。5-FUの抗腫瘍効果増強のため、還元されて5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸となるレボフォリン酸(レボホリナート)が併用される。
プロドラッグ
5-FUは作用持続化やターゲティング(標的がん細胞への移行性向上)などを目的として、プロドラッグ(代謝されて5-FUとなる薬)が開発されている。また、抗腫瘍効果の増強や副作用低減を目的とした合剤も上市されている。
- テガフール(フトラフール®) - 5-FUのプロドラッグ(作用持続化)。
- ドキシフルリジン(フルツロン®) - 5-FUのプロドラッグ(ターゲティング)。
- カペシタビン(ゼローダ®) - 5-FUのプロドラッグ(ターゲティング)。
副作用
5-FUの副作用として、骨髄抑制による血球減少、白質脳症(ふらつき、口のもつれ、昏睡など)、重度の下痢、出血性腸炎などがある。重篤な副作用が発現した場合は5-FUを減量または中止する。ほかにも多彩な副作用を示すが、悪心・嘔吐は軽度リスク群に分類される。ただし、FOLFOXやFOLFIRIにおいては中等度リスクのオキサリプラチンまたはイリノテカンを併用するため、予防のため制吐薬も併用する。
特徴的な副作用として、手足症候群(手掌・足底発赤知覚不全症候群)がある。ピリピリ・チクチクと刺すような痛み・しびれに始まり、発赤や紅斑、腫脹(むくみ)、水疱(水ぶくれ)、角化(皮膚表面が硬くなり厚くなること)、落屑(皮膚表面が剥がれ落ちること)などが起こる。予防のためには、手足に強い刺激を与えないことが重要となる。具体的には、熱い風呂やシャワーを避ける、長時間の歩行や立ち仕事を避ける、洗剤や水に触れないよう手袋を使って家事をする、包丁やハサミを使う際は強く握りしめない、手足は強く擦らずに優しく洗って清潔を保つ、適度に保湿クリームを使うなど。
薬物相互作用
5-FUと抗ヘルペスウイルス薬のソリブジンを併用すると、5-FUの骨髄毒性により死に至ることがある。これは、ソリブジンの代謝物が5-FUの代謝酵素ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼを不可逆的に阻害し、組織中の5-FU濃度を上昇させることによる。造血機能が著しく減少し、白血球減少や血小板減少などの重篤な血液障害を引き起こして死亡した例もあり、ソリブジン製剤は自主回収に至った。
レジメン
大腸がんの化学療法は5-FUが治療の中心となる。レボホリナート(Folinic acid)と5-FU(Fluorouracil)に、オキサリプラチン(Oxaliplatin)またはイリノテカン(Irinotecan)を併用すると高い奏効率や生存期間の延長が認められたため、標準治療となっている。それぞれの医薬品名からFOLFOX(フォルフォックス)やFOLFIRI(フォルフィリ)と呼ばれる。カペシタビン(Xeloda®)とオキサリプラチンを併用するレジメンは、XELOX(ゼロックス)などと呼ばれる。さらに分子標的治療薬を1剤追加するレジメンもある。また、制吐薬としてグラニセトロンやデキサメタゾンなどが併用される。
mFOLFOX6
5-FU+オキサリプラチンを2週ごとに投与。“m”は“modified(修正)”の意味。
FOLFIRI
XELOX
カペシタビン+オキサリプラチンを3週ごとに投与。
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研究
関連項目
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