大和言葉とは、文献以前から伝わる漢語と外来語を除いた日本語固有の語である。和語、倭語とも。
概要
古くは、和歌の意味で「やまとのことのは」とも言われたが、現在は漢語やそれをもととする和製漢語、外来語と相でない語を区別するために使われる。また、語だけでなく古代の日本で話されていた言語そのものを指す場合もある。
大和言葉の特徴として、
- 音節はCV(単子音と単母音)で構成される。母音のみの場合もあるが、その場合語頭にしか母音のみの音節は立たない。
- 語頭にラ行音が立たない。これは朝鮮語、モンゴル語、トゥルク諸語といったアルタイ諸語との共通点である。
- 語頭に濁音、半濁音が立つ語が限られている。
- 強調や、負の意味がついて語頭が濁音となる語。「ずるい(<する)」、「ぶつ(<うつ)」など。
- 他の語から意味を変える際、濁音化したもの。「ちち(父)」、「はは(母)」からの転である「じじ(爺)」、「ばば(婆)」等。
- 本来語頭になかったが、歴史的変化によって、語頭に濁音が現れたもの。古代にさかのぼると「ば(場)」、「じ(路、旧かな遣いではぢ)」、「ばら(薔薇)」、「だく(抱く)」、「でる(出る)」等の語は本来、「には」、「みち」、「いばら、うばら、むばら」、「いだく」、「いづ」といった濁音が語頭に立たない語である。
- 助詞「が」、「ば」などは常に前に単語がある語。
- 上記の系統のものを除くと、本来、大和言葉の語頭に濁音、半濁音があるものは「ビュービュー」、「ピカピカ」といったオノマトペになる。
があげられる。
周辺言語との関連
古代朝鮮語
地理的に一番近く、また、古代も文字資料の無い時代から交流があったことはわかってはいるが、明確に朝鮮語と日本語が同源あるいは強い関連があるかどうかははっきりしていない。
確かに、音韻体系として語頭にラ行音が立たないことや、文法構造としてSOV語順(主語、述語、目的語語順)で膠着語、修飾の順序がAN(形容詞、名詞順)であるという共通点があるが、言語類型論からすれば決定的な共通点ではない。むしろ、この形は世界の言語の多くの割合を占める。他にも文法は著しい一致を見せるが言語連合としても考えられる範疇である。
音節は大和言葉は完全な開音節語なのに対し、朝鮮語はきわめて典型的な閉音節語である。
共通と見える語彙は古代にあっても数十あるが、それも漢語すなわち文献以前からも中国語の影響と思われるものがあり、それを除けばいくつかの借用語(カササギ、寺)はあったようだが、それ以上の関係は現在知られておらず、そもそも比較となるべき古代の朝鮮語(百済語、新羅語、高句麗語)が再建をされていない。さらにこれら古代の朝鮮で話されていた言語と、現代朝鮮語あるいは資料によってさかのぼれる中期朝鮮語との関連すらもはっきりしていないため朝鮮語と大和言葉の関連は比較的近い地域にある二つの言語である以上に意味は無い(古代日本の影響を多分に受けた伽耶諸国や任那で話された言葉が日本語との関連がある可能性があるが、それは日本語の方言が伽耶や任那で話されたというだけで朝鮮語と日本語の関連を示すものではない)。
むしろ、現代朝鮮語のほうが中期朝鮮語あるいは古代朝鮮語より(莫大な漢語と和製漢語のせいで)日本語に近いと思われる。
琉球語
朝鮮語とは対照的に、はっきりとした音韻対応が確認されており、琉球語と大和言葉が同源であることはほぼ確実である。琉球語には大和言葉では廃れたかほとんど使われていないような語もあり、これらからさらに古い言語(日本祖語)の再建も期待される。
古代中国語
文化的に古代日本に多大な影響を与えた中国であるが、言語も一定の影響与えている。一般に大和言葉と考えられるうま(馬)、うめ(梅)は、中国語古音「mma」、「mme」が日本語の音韻体系に合うよう変化したものであると明らかにされている。その他、「きぬ(絹)」、「くに(国)」、「ふみ(文)」、「かね(金)」など、大和言葉として扱われる言葉も中国語由来であると考えられる語が多くある。
以下対応の可能性のあるものをいくつか中古音と比較する。なお、これらは偶然の一致の可能性や、借用の時期が異なる場合がある事に注意する必要がある。
- 梅/muai/⇔うめ
- 馬/ma/⇔うま
- 菊/kiuk/⇔きく
- 郡/ghiun/⇔くに(国)
- 奧(新字体:奥)/ʔɑu/⇔おく
- 兼/kiem/⇔かねる
- 簡/kæn/⇔かみ(紙)
- 奇/kie/⇔くすし、けし
- 絹/kiuεn/⇔きぬ
- 金/kiem/⇔かね、かな
- 文/miun/⇔ふみ
- 塞/sək/⇔せき(関)、せく(堰く)
- 染/ziεm/⇔しむ、しみる、そめる
- 占/tsiem/⇔しめる
- 度/dhak/⇔たび
- 君/kiun/⇔きみ
- 殿/dhien/⇔との
- 筆/piet/⇔ふで
- 麦/mæk/⇔むぎ
- 目/miuk/⇔め
- 悪/ʔak, ʔuo/⇔あし、わろし
- 靴/hiua/⇔くつ
- 鄙/pji/⇔ひな
アイヌ語あるいは蝦夷の話していた言葉
地理的に近い、アイヌ語であるが、日本語との関連は余り見出せない。「カムイ(<かみ(大和言葉)」などの日本語からの借用が多少アイヌ語にある程度である。但し、「四谷」、「渋谷」など関東圏で見られる「谷」を「や」、「やつ」と読む地名はアイヌ語由来である可能性がある。
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関連項目
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