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宇多天皇（867～931、在位：887～897）とは、日本の第59代天皇である。諱は定省。
概要
父・光孝天皇は多くの皇子・皇女に恵まれたが、天皇は自分一代と考えて子女の大半を源氏に臣籍降下させた。定省親王もそのひとりで、一時期は源定省と名乗っていた。しかし、光孝天皇が病に倒れたため、孝行心の厚く兄弟の中でも特に優れていたと言われる定省が親王に復帰し、翌日皇太子になった直後に光孝天皇は崩御、定省は臣下から一足飛びに天皇に即位した。一度臣籍降下しながら、皇籍に復帰した天皇は有史以来彼一人である（子の醍醐天皇は、生まれた時は源氏であった）。
阿衡の紛議
ところが、光孝天皇の関白を務めた藤原基経は、宇多天皇の即位を快く思っていなかった。天皇は藤原摂関家との血縁が薄く、天皇自身も藤原氏に頼らない親政を強く願っていたからである。
宇多天皇と基経の対立は、彼が即位した直後に始まった。天皇は基経を関白に再任するべく「阿衡に任ずる」と詔勅を出したが、この阿衡の表記が問題となった。元々阿衡とは摂政・関白の別称だが、基経お抱えの学者・藤原佐世は「阿衡は位だけで実権のない名誉職」と基経に告げ、怒った基経は職務をボイコットして出仕しなくなってしまった。詔勅を起草したのは橘広相という宇多天皇の信頼厚い学者だが、佐世は広相をライバル視しており、彼を追い落とすために讒言したという背景がある。
基経は菅原道真の取りなしで出仕拒否を取りやめたが、宇多天皇は事を収拾するために、広相をやむなく罷免し、「阿衡に任ずる」という勅書を撤回せざるを得なくなった。藤原氏の権力が天皇を上回ることを事実上示したこの事件で、若き宇多天皇はさぞ屈辱を感じたに違いない。
菅原道真の起用
目の上のたんこぶだった基経が891年に病没すると、天皇は摂政・関白を置かず、藤原摂関家以外の貴族を多数登用し、自らの政権の支えとした。その代表例が菅原道真であり、彼の進言によって200年以上続いた遣唐使を廃止するなど、様々な政治改革を行った。これは後に寛平の治と呼称され、天皇の理想の治世とされる延喜・天暦の治の原点となった。
897年、宇多天皇は子の敦仁親王（醍醐天皇）に譲位し、その2年後には自ら建立した仁和寺で出家した。法皇となった天皇は、彼が初めてである。ところが、さらに2年後の901年、道真は藤原摂関家の氏長者・藤原時平の讒言によって、醍醐天皇から謀反の疑いで太宰府に左遷されてしまう。法皇の右腕でもあった道真だが、時平は言うまでもなく、醍醐天皇にとっては父が付けたお目付役のような存在で、彼を疎ましく思っていたという。法皇は道真の流罪を止めさせようと天皇に面会を求めたが、時平の部下に阻まれ果たせなかった。
これにより摂関家中心の政治に逆戻りしてしまったが、8年後に時平が若くして病死。醍醐天皇も病気がちになったため、法皇は政治の実権を取り戻し、穏健派で道真とも親しかった藤原忠平（時平の弟）と協調しながら執政を行った。醍醐天皇が道真の祟りとも言われる病で亡くなると、翌年にその後を追うかのように宇多法皇も崩御した。
陽成院との対立
宇多天皇は一度源氏姓を名乗っていたこともあり、若い頃は天皇としての実権も不安定であった。そんな彼のことを、基経とは別の意味で面白くないと思う人物がいた。光孝天皇の先の帝、陽成院である。基経により天皇の座を追われ不遇を託っていた彼にとってかつて臣下の身分だった宇多天皇を帝として仰ぐことをよしとせず、日頃から鬱憤が溜まっていたという。宇多天皇は同母姉妹の綏子内親王（兄妹か姉弟かは不明）を陽成院の后にすることで融和を図った。
陽成院と綏子内親王の中は睦まじかったが、子宝には恵まれなかった。その一方、朝廷内には陽成院と別の后との間に生まれた元良親王などを次の天皇に推す動きもあり、宇多天皇が31歳の若さで譲位したのは、自分の嫡子に天皇を譲ることで反対派を牽制したという説もある（それが道真の失脚に繫がってしまうのは、彼の誤算かもしれないが・・・）。
ぬこ好きの天皇
父の光孝天皇は、冬に七草を摘んでプレゼントしたり、毎日自炊を欠かさない料理好きだったが、宇多天皇が好きだったのはズバリ猫。子孫の一条天皇も「枕草子」で猫を溺愛したと知られているが、宇多天皇は自身の日記「寛平御記」に詳細が記されている（上記の阿衡事件についても語られている）。ちなみに「寛平御記」は、現存する天皇が記した最古の日記である。
日記には、光孝天皇から送られた黒猫についてとにかく詳細が記されているのだが、その中でも「先帝の賜はる所に因りて、微物と雖も殊に懐育の心有るのみ」という文章が特に知られる。現代語に訳すると、「こ、これは別に親父がくれたから育ててるだけで、別に愛してなんかいないんだからねっ！」。なんというツンデレと言うべきか？
このおかげで、ネットでは宇多天皇を黒猫好きのツンデレとして、本来の業績とは別のところで有名になってしまった。宇多天皇 猫を検索すると、「寛平御記」における彼の猫の可愛がる様子がさらに詳しく記されているので、興味のある人は覗いてみると良いかもしれない。
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関連項目
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