- アレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)による長編小説。
- 1.を原作とするジュゼッペ・ヴェルディの歌劇。
- ニコニコ動画内で「演奏してみた」の動画をうpしていた演奏者。現在は活動停止。
- 妖怪ウォッチシリーズの登場キャラの1人。
本記事では1.および2.について記述する。
1.の概要
1848年に発表された作品。原題は「La Dame aux camélias」。また後にデュマ自身の手で戯曲化もされている。
デュマの体験を元にしており、高級娼婦(クルチザンヌ)マリー・デュプレシがモデルとなっている。
高級娼婦とは王侯貴族など、身分の高い男を客とする娼婦のこと。美しさだけではなく教養や知性が求められ、王の愛人(公妾)として権勢を振るった女性も多い。
マリーもその例にたがわず、気品ある美貌と高い教養が評判となり、「ドゥミ・モンド」と呼ばれる裏の社交界では、彼女を崇拝する男性が引きもきらなかった。「椿姫」の名にたがわず椿(キャメリア)の花を好み、胸に椿を飾った姿は数点の肖像画として伝わっている。デュマの他にもフランツ・リストを始めとした芸術・知識階級の男性と広く交流したが、肺を病み、僅か23歳で儚い生涯を閉じた。
デュマはマリーに恋をしたが、現実では叶う事がなかった。そのためマリーをモデルとした高級娼婦、マルグリット・ゴーティエを創造。華やかな世界に咲いた徒花の純愛と、悲しい最期までを描いている。
あらすじ
1847年の春。語り手である「私」は、先頃肺結核で亡くなった女の家で競売が行われているのを知り、興味本位で参加する。『マノン・レスコー』の本を見つけた「私」はそれを落札するが、直後にアルマン・デュヴァルという青年が取り乱した様子でやってきて、その本を譲って欲しいと願い出る。それはかつてアルマンが亡くなった女、『椿姫』と呼ばれた高級娼婦マルグリット・ゴーティエに贈ったものだった。
快諾した「私」は訳ありな様子のアルマンから、過去の二人に何があったのかを聞き出す。
以後はアルマンによる述懐となる。
夜の世界に生きるマルグリットは、一月のうち25日は白い椿を、残り5日は月の障りを意味する赤い椿を身に着けた事から『椿姫』と呼ばれていた。
美貌と高い知性と才気により、彼女の周りには取り巻きや身分の高い男性が引きもきらず、贅沢三昧の日々を送っていた。しかし彼女自身はそんな生活に空しさを覚え、また肺を病んで先が長くない事を自覚しつつ、我が身を憂いていた。
そんなある日、彼女の「お友達」から紹介された青年・アルマンとの出会いが、マルグリットを変える。実直なアルマンの、うわべだけではない誠実な愛の告白を受け、戸惑いながらも二人は互いに想い合う仲となったのだった。
マルグリットは派手な生活を捨て、アルマンと共にパリ近郊の別荘で幸福な日々を送る。アルマンには内緒で宝石やドレスを売って苦しい生活の足しにするが、今やそんな事は苦ではなかった。しかし息子が高級娼婦に現を抜かしていると知ったアルマンの父が来訪、マルグリットに息子と別れるように告げ、その幸せも終わりを告げる。
マルグリットはアルマンを想う心から、わざと彼に嫌われる道を選んだ。別荘を出てかつての高級娼婦としての仕事に戻り、新たなパトロンの囲い者となったのだ。恋人の心が離れたと誤解して彼女をなじり、公衆の面前で侮辱するアルマン。嘆きながらも、それが彼の為になるのだと耐えるマルグリット。
アルマンは傷心を抱いたまま外国へと旅立ち、残されたマルグリットの容態は悪化の一途を辿る。莫大な財産も失われ、世間からは忘れ去られ、かつての取り巻き達も皆去ってしまったが、それでも彼女はアルマンを愛し続けていた。
帰国後に真実を知らされたアルマンは急ぎパリへと向かう。だが間に合わず、哀れマルグリットは孤独のうちにその短い生涯を終えたのだった。
死に目にも会えず、彼女の遺書を託され、全てを知ったアルマンは深く嘆き悲しんだ。だが「私」にすべてを語ったことで心の重荷を下ろし、マルグリットの墓に詣で、故郷へと帰る。
舞台化・映像化
1850年の初演以来、戯曲『椿姫』は現在まで上映され続けている人気演目である。
戯曲におけるマルグリットで最も著名なのは、ジャン・コクトーによって「聖なる怪物(モンストル・サクレ)」と讃えられた女優、サラ・ベルナールである。アルフォンス・ミュシャによるポスターでは白一色の豪奢なドレスに身を包み、髪に白椿を飾る姿が描かれている。
1978年にはジョン・ノイマイヤーによりバレエ作品として上演。全編を通じてショパンの楽曲が使用され、衣装の色になぞらえた「青のパ・ド・ドゥ」「白のパ・ド・ドゥ」「黒のパ・ド・ドゥ」が知られている。特に「黒のパ・ド・ドゥ」は人気が高く、ガラ(特別公演)で演じられる機会も少なくない。
また『椿姫』を翻案したミュージカル『マルグリット』が2008年に発表。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』の脚本・作曲者による共同制作で話題を呼び、好評を博した。舞台を第二次世界大戦中のパリに移し、ナチス占領下での激しくも儚い愛と群像劇が展開される。
映画化も数多く行われており、とみに知られているのは1936年の映画で、マルグリットをグレタ・ガルボが演じている。破滅的な生き方の末、死の床に伏しながらも恋人を慕い続ける迫真の演技は絶賛され、同年のアカデミー主演女優賞を獲得している。本作をして彼女の代表作と評する人も少なくない。
2.の概要
1858年に発表されたオペラ。タイトルは「ラ・トラヴィアータ(La traviata)」、訳すると「道を踏み外した女」「堕落した女」になる。またマルグリットは「ヴィオレッタ」、アルマンは「アルフレード」となっているなど、原作の小説とは微妙に異なる。
高級娼婦が題材ということもあり、イタリアでは「不道徳な内容」として問題視されたが、最終的に「最後にヒロインが改悛して死ぬ」のを理由に、検閲をパスしたという話が伝わっている。
ただしこの作品、初演は「歴史的失敗」だったという記録が残っている。というのも、楽曲の完成から上演までたった数週間しかなかったのだ。準備不足から演奏も歌もめちゃくちゃ、観客からは大ブーイングが沸き起こったとか。「蝶々夫人」「カルメン」と並び、有名オペラ3大失敗などと言われている。
その後は充分な練習期間を置いて上演し、徐々に評価を上げる事に成功。今日ではヴェルディの代表作としての扱いを受け、世界中で上演され続ける人気演目である。
第一幕で歌われる「乾杯の歌」は華やかで、美酒に酔いしれ恋の喜びを歌い上げる名曲である。
第二幕ではアルフレードを想い身を引いたヴィオレッタに対し、怒りを露わにしたアルフレードが夜会で彼女を罵倒し、賭け事で得た金を叩きつけて侮辱するという場面が入る。泣き崩れながら愛ゆえに耐えるヴィオレッタ、彼女の名誉を穢したとして決闘を申し込むパトロンのドゥフォール男爵、息子の狼藉を知り面罵するアルフレードの父、我に返り自分のした事を恥じるアルフレードの複雑なアンサンブルは、屈指の名場面。
第三幕の終盤、死の床に眠るヴィオレッタは愛するアルフレードと再会。彼女の心を知ったアルフレードの父から謝罪されて仲を許されるが、自身はもうすぐ死ぬのだと悟る。そして「不思議だわ、新しい力が沸いてくるよう」と喜びを歌いながら事切れ、人々が嘆き悲しむ中で幕は下りる。
......が、肺結核で死ぬ場面で時間をかけて朗々と歌う姿にツッコミを入れる人もいるとかいないとか。作品によってはヴィオレッタがにわかに起き上がり、舞台を走り回って倒れ伏すなんて演出もあったりする。まあ細かい事は気にするな。
1982年には映画化され、『トラヴィアータ/1985・椿姫』として日本でも公開。テレサ・ストラータスとプラシド・ドミンゴが主演し、豪奢なセットや衣装やエキストラなど、破格の予算で制作されている。
関連動画
関連項目
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