Blenderとは、モデリングからレンダリング、アニメーション、映像のノンリニア編集やエフェクト適用までの一連の作業を行う事が出来る、統合型3DCG作成ソフトの1つである。
概要
Blender(ブレンダー)はオープンソースで開発されている3次元コンピュータグラフィックスソフトウェアのひとつで、無償で利用することができる。
ゴムボールなどのやわらかい物体の表現(softbody)、布のシミュレーション、ボーンによる多関節表現や時系列順にポーズを記憶させ、任意のカーブでアニメーション動作をさせるシーケンス機能(キャラクターアニメーションなど)、アニメのような輪郭とベタ塗りで表現するトゥーンレンダリング、物理性質に準じた光線の追跡を行い写実的な光の表現を可能とするCyclesレンダラ、粘土をこねるようにして有機的な形状を容易に作成することのできるスカルプトなどなど、商用の3DCGソフトウェアにも引けをとらない充実した機能を持つソフトウェアである。
中期には専用のゲームエンジンを内蔵しており、インタラクティブなゲームを作ることも可能ではあったが現行バージョンには搭載されていない。
またマルチプラットフォームを前提に設計されているソフトウェアのため、Windows(64bit)、Linux(64bit)、Mac OS Xまで用意されているのも大きな特徴である。[1]
もともとIRIXのみで動作するように開発され、これはBlenderがもともと社内で保有するIRIXマシンで動作させることを目的としていたことに起因する。[2]
これまでにWindowsやLinux、FreeBSD、BeOS、Solaris、Mac OS Xなどに移植された。尚、対応が打ち切られたものもあり、2021年12月現在、対応しているのはWindows、Linux、Mac OS Xとなる。もともとは無償(ただしオープンソースではない)で公開されていたソフトではあるが、一部機能が有償化され、オープンソース化までその体制が続いた。[3]
操作性
独特の操作方法であり初心者に向かない…というのはずっと昔の評価であり、現在では正確ではない。アップデートにより操作方法は一貫しており、ソフトウェアとしての完成度を高めている。
操作方法は特殊だが、慣れれば他のソフトを凌駕する効率を発揮する。例えばマウスの、
に分担する事で誤クリックの可能性を排除し、高速でモデリングする事を可能としている。
画面構成も完全カスタマイズ可能であり、操作画面を自由に分割、結合でき、その分割画面の全てを3Dビュー、テクスチャUVビュー、プロパティビュー等に自由に切り替える事が出来るため、自分にとって最も使いやすい画面構成にする事が出来る。
座標の数値などを直接打ち込む方法や左右対称モデリング等も得意とするため、かっちりしたモデルも組みやすく、Pythonスクリプトも使えるため、ゲーム用の3Dモデルエクスポータを自作して自作ゲーム開発に利用する事にも向いている。
歴史
もともとはオランダの映像制作会社であるNeoGeo社[4]の内製ツールとして開発されたTracesというソフトが起源である。その後、Blenderと名前を変え、NeoGeo社より無償で配布されていた。尚、この時点ではレイトレーシングを行うレンダリング方式は採用されておらず、スキャンライン方式だった。
その後、新たに設立されたNot a Number(NaN)社がスピンオフという形でBlenderを開発することとなり、引き続き、無償で配布されていた。(その後、一部の機能はB-key、C-keyと呼ばれる機能解除キーを購入してアンロックする方法として有償化された。その後、ベースの無償版のBlenderとBlender Publisherという機能増強版という形式で提供されたが、多くの機能は無料で使用することができた。)
このころから、投資家からの投資などもあり、SIGGRAPHなど、多くのイベントに出展が開始された。また一時期、PlayStation向けの認定ツールの一つとしてもリストされていた。
Blenderは高機能で使いやすく無償で使用できたためアマチュアCG制作者の間で人気があった。ところがNaN社は2002年に破産する。これによりBlenderが失われるのがもったいないと考えた元NaN社のプログラマとオープンソース開発者たちは債権者からソースコードを買い取ってBlenderをオープンソースソフトウェアにしようとBlender財団を設立して世界中から寄付を募った。これは形態的には現在のクラウドファンディングであり、これが実施された当時はこの言葉はまだなかった。尚、当時、このクラウドファンディングに参加した人は現在でもBlender Foundation設立メンバーとして最新版のソースコードの中に名簿として収録されている。
半年後、目標だった10万ユーロの積み立てを達成。BlenderのソースコードはGPLにより公開された。が、ここからが苦難の道の始まりであった。
開発を継続するにあたり、問題が発生した。Blenderのソースコードのコメントはすべてオランダ語で書かれていたのだ![5]
他国から参加している開発者たちは慣れないオランダ語のコメントを一つずつ翻訳する作業から始めねばならなかったのだ。さらにソースコード自体もプログラミングの定石から逸脱したこんがらがりのスパゲッティプログラムだったため、その解析にかなりの時間を要した。
そんなこんなでNaN社破産から1年後、ようやく最初のフリーソフトウェア版Blenderであるバージョン2.26が完成。その後多数の開発者たちにより様々な機能が追加されていくこととなった。そのため各機能の操作性が一貫しておらずBlenderを初心者から遠ざける一因ともなってしまった。
2.5以降は急速にバージョンアップが進み、機能も追加・改良された。商業ソフトに引けをとらない性能となるが、2.6まで日本語環境がなくなった。
2.8では今まで初心者にとって最もとっつきにくい要素であったUIに大幅な変更が加えられた。もはや別物とも言える分かりやすい構成となり、好評を得ている。
10年以上ぶりのメジャーアップデートとなった3.0ではアセットブラウザーの追加やCyclesの改良がおこなわれた。
各種商用3D制作に比べ、長らく後塵を拝する印象があった感があるが、インディゲーム制作の高まりや、アニメスタジオでの採用[6]、ゲーム会社やテック企業[7]によるスポンサーシップなども広がってきており、その存在感は年々大きくなってきている。またVR制作においてもUnityと併せ、使用されることが多いソフトの一つである。
組織体制
Blenderは組織として、以下のような構成となっており、基金、ソフトウェア開発、物販、イベント運営(Blender CON)、作品制作などを行っている。
Blender Foundation
非営利団体としてフリーでオープンソースな3DCGソフトウェアを提供することを目的とする組織で、寄付金などはこちらが管理する。
Blender Institute
Blender Foundationからの資金や物販による収益などを元に、事務所や雇用、ストア運営、イベント運営など、実運営を行っているのがこのBlender Instituteで、組織としてのBlenderが語られる場合、Blender Instituteによる活動を示している場合が多い。
Blender Studio
Blenderを使用した作品群を制作するスタジオである。尚、独自のウェブサービスも販売しており、こちらを購読すると収益はBlender Studioに入る。購読すると制作中の作品の情報を入手したり、各種トレーニングビデオなどにアクセスすることができる。
Blenderの作品群はBlenderの機能開発の方向性を定め、またその成果を公開する役目も担っており、制作はBlenderの開発版を使用して行われることが多い。[8]
非営利方針
Blender開発元のBlender Foundation(BF)は、ソフトの使い方や技術者の講演の様子などを収めたムービーを2008年からYouTube上で公開していたのだが、2017年にblenderユーザーから動画が見れないと言う報告を受け、BFはYouTubeへ説明を求めた。
それに対してYouTubeからのメールでの返答は
「ムービーの広告を有効にする必要があるとの専門家からの情報を受け取りました。有効にすると、あなたのムービーはアメリカ国内で視聴可能になります」
BFのトン・ローセンダール氏は『非営利目的であり完全広告フリーの方針である』ことを伝えた上で『YouTubeの規約が変更されたのか』と問いただした。それに対し
「あなたの問題について、専門家と協議しているのでしばらく待ってほしい」
という回答。
それ以降、2018年6月12日までにBFに対しての回答が送られてこなかった為、
ローセンダール氏は再度、YouTube側に状況を尋ねるメールを送ると
「調査が続いているので待ってほしい」
との回答だった。
しかし、それから3日後の6月15日にBFのYouTubeチャンネルのムービーが世界中でブラックアウトされ、BFは実質的にYouTube上から締め出される事態に発展。
ローセンダール氏は事前説明なしにムービーを視聴不可にしたYouTubeの対応に対して、抗議するムービーをYouTube上にアップロード、その中で、BFのYouTubeチャンネルにあったムービーを別のサイトに移動させる事にしたと語っている。
関連動画
関連商品
関連項目
- 3D
- 3DCG
- Python - スクリプトの記述に用いられている。Windows以外はそもそもインストールしていないと動かない。
- MikuMikuDance
インポートが出来るツールやスクリプト、改造版があるため、連携して用いられることがある。
なお、MikuMikudanceの制作者の樋口優氏はBlenderの操作性に難があるため制作したという。 - タグ検索 blender で
外部リンク
- 本家総本山:http://www.blender.org/
- 日本語情報サイト:http://blender.jp/ ※ただし個人による非公式
- Get Blender!:http://www.blender.org/download/get-blender/
脚注
- *2.81以後、各プラットフォームにおいて32bit対応は廃止された。
- *トン・ローセンダール氏により、当時、シリコングラフィックスのコンピューターを6万ドルで購入したものの、ソフトを買う予算がなく、自作することになったという経緯がインタビューで語られた。
- *後述のクラウドファンディングの際にある程度の目標に達した(いわゆるマイルストーン到達)際に有償版とそのキーが公開された。過去の有償版とそのキーを含む、古いバージョンについては公式サイトよりダウンロードすることも可能。
- *ゲーム機のNeoGeoとは無関係。実際、NeoGeo社の設立はゲーム機のNeoGeo以前となる。
- *ただし、オランダ語でのコメントがコード解読に際して実際にどの程度の障害となったか、という点に関しては諸説あり、やや誇張して広がった、という話もある。
- *特にエヴァンゲリオンシリーズを制作するスタジオカラーによる採用や、プロジェクトスタジオQによる開発・スポンサーシップ、などの他、地球外少年少女など、その使用を広く公開しているケースも増えてきている。
- *所謂GAFAM企業は全てスポンサーについている状態になっている。
- *開発と、制作が並行するため、アーティスト側、開発側の連携が行われる。
- 21
- 0pt