ドッグファイトとは、戦闘機による格闘戦をさす言葉である。
搭載砲又は誘導ミサイルによる射撃を効果的に行う為に、会敵した双方が近距離で相手の後ろへ回り込もうとする機動を伴った戦い方を言う。
犬がケンカする際に互いに相手のしっぽを追いかける様子に似ている事からドッグファイトと呼ばれるようになった。(日本では巴を連想させる事から巴戦とも呼ばれる)
ライト兄弟が世界初の動力飛行を成し遂げてから10年後に第一次世界大戦が始まると、航空機はすぐに観測や偵察に使われるようになった。しかし両軍が観測機を使用するようになると、双方の観測機が空中で対峙する事態が発生するようになった。
最初は拳銃やライフル銃で撃ち合う程度だったが、フランスのローラン・ギャロスが操縦席の目の前に機関銃を取り付け、プロペラに鋼鉄製の防弾板を取り付けてプロペラが銃弾で破損するのを防ぐ方式を考案し、1915年4月より使用し始めた(初期の航空機は機体後方にプロペラがあるプッシャー式だったが、性能向上が見込める、機体前方にプロペラを付ける牽引式に切り替わっていた。)。ある時ギャロスの機体は攻撃を受けてドイツ陣内に不時着し押収されてしまう。ドイツ軍は航空機メーカーのフォッカー社のアントニー・フォッカーに模倣を命じたが、調べたところ、羽根に当たった弾丸の一部が後方に跳ね返って危険であることがわかり、フォッカーはチームと共に弾丸がプロペラに当たらないように機関銃の発射のタイミングを調整する機構を開発、ドイツは何ヶ月にもわたり空中戦で優位に立った。イギリスもすぐに対抗できる戦闘機の開発を急ぎ、ここに「ドッグファイト」の時代の幕が開けた。
1917年には両軍は編隊を組むようになった。イギリス軍は戦闘に入ると二機ずつのペアに別れ攻撃と援護を分担する手法をとった。太陽を背にして上から敵に向かい敵の目をくらませたり、攻撃後に雲に入って隠れるといった戦術も生み出された。
続く第二次世界大戦では航空機の高性能化、搭載火器の強化が進み、戦場の空で戦闘機同士のドッグファイトが展開された。
大陸で腕を磨いた日本海軍のゼロ戦搭乗員はこの戦い方を多用したが、未熟な搭乗員がベテランとドッグファイトしても勝ち目がないと判断した米軍は戦術を転換し、機体の防御力及び速度を向上させ、経験の浅い搭乗員でも一定以上の戦果を望める一撃離脱戦法へ切り替え対応、日本機を押し返すようになった。急降下が苦手なゼロ戦にとって一撃離脱は天敵といえたが、末期にもポートダーウィンや関東でゼロ戦とドッグファイトをした連合軍が大きな被害を出している。
欧州各国でも編隊による一撃離脱の有用性が広く認められていたが、もちろんドッグファイトも有用であり、ドイツ空軍は機動性で勝るイギリス機相手に、Bf-109で開戦間もない時期から楽ではない戦いを強いられる。 戦争末期になるとドイツ空軍は世界初のジェット戦闘機Me-262を投入したものの、これは旋回性能ではプロペラ機に劣っており、ドッグファイトになると不利になることから、ドイツ空軍は一撃離脱に徹するように指示しドッグファイトを禁止した。
第二次世界大戦後は朝鮮戦争などでドッグファイトが行われたものの、やがて航空電子機器や誘導弾の発達により、航空機銃と共に不要論が台頭してくる。
1950年代~60年代になるとミサイル万能論の台頭により高い運動性と航空機銃そしてドッグファイトは不要と考えられるようになった。その結果米国のF-4の初期型、ソ連のMig-21PFでは固定武装としての機銃が廃止された。しかしベトナム戦争で機銃を装備しない新鋭のF-4が機銃を装備した旧式のMig-17に苦戦。さらに印パ戦争や中東戦争、フォークランド紛争で機銃による撃墜が発生し機銃やドッグファイトは決して過去のものではない事が証明された。その結果Mig-25やMig-31といった例外を除き現在でも多くの戦闘機がドッグファイトを遂行する能力を有している。
エチオピア・エリトリア紛争では双方が中古のSu-27又はMiG-29を実戦に投入したが、中距離誘導弾で敵機を撃墜できなかった場合において、ドッグファイトと見られる戦闘が行われた。この戦いではロシア人の航空傭兵やアフリカ人パイロットが、R-73短距離誘導弾または機関砲を用い、ドッグファイトと思われる戦いで戦果を揚げた。
また領空侵犯機に対するスクランブルでは、侵犯機に接近し警告する必要がありドッグファイト戦技は必然的に重要なものとなる。
現代のジェット戦闘機においては、敵の機関砲に狙われた場合は4秒に1回90度旋回をしろと教えられる。
戦闘機の機関砲照準では、ジャイロが安定するのを待って機体のGを計算し、レーダーで測距をして見越し角を計算してからHUDにレティクルが表示される。つまりレティクルが安定するまでは2~3秒かかり、そこからパイロットが照準するのに4秒はかかる。その間に動いてしまえばコンピュータの計算はやり直しになるので、レティクルは永遠に安定しない。
もっとも、「当たらない」というだけであり、いずれは燃料がなくなって墜落するので、後ろにつかれた時点でおしまいではある。
航空自衛隊では今でもドッグファイトを重視し、戦技会が行われている。航空自衛隊の主要な任務に防空任務があり、日常的に領空侵犯措置が実施されているからだ。勿論、F-15の近代化アップデートなど視界外戦闘能力の向上も行われている。
一般レベルでは「今の時代はボタン押してミサイルでボーンだから、ドッグファイトは必要ない、昔の技術」又は「ドッグファイトカッケー!」の両極端なもので、時代の変化と戦術の変化を踏まえた正当な論評は、一部の軍事専門家や軍事マニアを除いては少ないかもしれない。
掲示板
58 ななしのよっしん
2023/04/02(日) 14:14:46 ID: 5L7A4DfZMr
「零戦神話の虚像と真実」で元テストパイロットの渡邉吉之がリングレーザージャイロ式の照準器でも4秒かかると説明してたから発信源の少なくとも一つは渡邉吉之。
激しい機動を行うと航法装置が狂うので現代戦闘機でも太陽の方向の把握と地文航法が重要らしい。
59 ななしのよっしん
2023/05/12(金) 21:22:32 ID: g7EZ1Uh0VV
実際の現代戦でどうかはともかく、フィクションの世界ではドッグファイトがいいに決まってる。
映画などで「遠距離からミサイルで攻撃」とかやってもつまらないから。
一番つまらないのは「敵機が上がってくる前に地上で破壊」だけど(アメリカがイラクでやったらしいが)。
60 ななしのよっしん
2023/05/24(水) 22:48:15 ID: AY2wuK6aiw
そもそも現代の空戦はミサイル撃つだけってのが間違った通俗的イメージなんよ。空対空ミサイルって必ず当たる超兵器だと思われることがあるけど、現実は全然そんなことないからな。
ミサイルは彼我の相対速度が大きすぎれば普通に曲がり切れなくて振り切られるし、射程距離より遠くに敵が逃げてしまえば燃料切れで追い付けなくなる。もちろんフレアやチャフで誘導が妨害される可能性もある。
だから戦闘機が機動して当たる状況を作り出してやる必要があるが、敵ももちろん同じことをやろうとするので、空戦は必然的に互いに有利な位置を奪い合うある種のドッグファイトのようなものになる。そこでは当然、機体や武装の性能だけでなく、味方同士の連携とパイロット個人の技量がものを言う。まあちょっとレシプロ時代のドッグファイトとは様相は違うかもしれないけどね。
だからフィクションは堂々と腕利きのエースパイロットを出して良いし、ジェット同士の空戦を描いても良いし、たまには失速機動で敵の意表を突いても良い。それは世間で言われているほど非現実的な描写ではないかもしれない。
急上昇ワード改
最終更新:2025/04/26(土) 13:00
最終更新:2025/04/26(土) 13:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。