マイナス金利政策 単語


ニコニコ動画でマイナス金利政策の動画を見に行く

マイナスキンリセイサク

6.4千文字の記事
  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • LINE

マイナス金利政策とは、中央銀行が行う金融政策の1つである。

日本中央銀行である日本銀行や、EU中央銀行であるECB(欧州中央銀行)が、2021年11月現在の時点で導入している。
 

概要

定義

中央銀行短期金融市場で形成される短期金利の中の1つを政策金利と定め、その政策金利がゼロを下回ってマイナスになるように誘導する金融政策をマイナス金利政策という。
 

マイナス金利政策の手法

日本を例にとって説明すると、以下のようになる。

銀行日銀に現金を預けるなどして日銀当座預金を得ている。この日銀当座預金は、よその銀行へ送金する預金者が現れたり、大量の現金引き出しをする預金者が現れたりすると、減少してしまう。銀行準備預金制度によって日銀当座預金の必要額を決められているのだが、その必要な金額を下回りそうになることがある。

日銀当座預金が不足した銀行は、なんとかして日銀当座預金を補給しなければならない。そのときに使われるのが短期金融市場銀行間取引市場コール市場である。コール市場の中でも担保コール市場が中心的で、そこで形成される担保コール翌日物金利(1営業日単位の貸し借りの金利)が「日銀当座預金を借りるときの金利」の代表格である。

コール市場日銀当座預金を貸す銀行は、自分が持っている日銀当座預金のうち、準備預金制度によって定められている必要額だけを手元に残し、それ以外の日銀当座預金を貸し付ける。準備預金制度によって定められている必要額を法定準備預金額といい、それ以外の日銀当座預金過準備という。

すべての日銀当座預金に一切の金利が付かない時代が長く続いたが、2008年11月から過準備に+0.1利子が付くようになった。このため担保コール翌日物金利も基本的に+0.1を上回るようになった。「日銀当座預金のまま持っておけば+0.1利子が付く。それより低い金利でコール市場で貸し付けたら損をしてしまう」という心理が働くからである。

2016年2月から「過準備の大部分には引き続き+0.1の金利が付くが、過準備の一部分には-0.1の金利がつき、罰金が科せられる」という制度になった。これがいわゆるマイナス金利政策である。

コール市場に参加する銀行は「ウチの銀行は『-0.1の金利が付く過準備』を持っている。そのまま持っていると罰金を喰らうから、他の銀行に貸し出そう。プラス利子なんてもらわなくていい。-0.1よりもほんのちょっと高い程度の利子でいい」と考え、マイナス金利で貸し出すようになった。2021年10月28日担保コール翌日物の金利は-0.03程度になっている。
 

金利の深掘り

-0.10の金利を-0.20にするといったような、過準備の一部に対するマイナス金利の幅をさらに大きくすることを「金利の深掘り」と表現することが多い(検索例exit)。
 

短期金利がマイナスになり、世の中の短期金利がマイナスになる可能性が発生する。そうなったら貸し手が苦しみ、借り手が楽になる

短期金融市場で形成される金利を短期金利という。短期金融市場銀行間取引市場コール市場担保コール翌日物金利は短期金利の代表である。担保コール翌日物金利は他のすべての短期金利に対して大きなを及ぼす。

担保コール翌日物金利のマイナス金利をガンガン深掘りしていくと、銀行企業に対して1年以内の期間で貸し付けるときの金利もマイナスになる可性が出てくる。手形貸付手形割引の形式で銀行企業に1年以内の期間で貸し付けるとき、企業は、返済するお金よりも多くの金額を借りることができるようになる。

また、担保コール翌日物金利のマイナス金利をガンガン深掘りしていくと、一般市民普通預金や1年以内定期預金の形式で銀行お金を預けるとき、預金金利がマイナスになる可性が出てくる。「●万円を1年定期預金で預けたのに、満期が来たとき●万円よりも少ないお金をもらうことになった」ということになる。

いずれにせよ、金利がマイナスになると貸し手が大いに苦しみ、借り手がたっぷり得をする。金銭債権者が苦に陥り、金銭債務者が楽になる。
 

長所 景気刺激の効果を期待できる

マイナス金利政策の長所というと、金銭を借りようという気運が高まりやすくなり、民間の需要が増えやすくなり、気刺の効果を期待できるところである。
 

短所 窃盗事件が増えて治安が悪化する

マイナス金利政策の致命的な欠点というと、タンス預金が増えて窃盗事件が増えてしまうことである。

マイナス金利政策を採用して金利の深掘りをすると、銀行は一般市民普通預金や1年以内定期預金の金利をマイナス金利にするようになる。

マイナス金利の程度がわずかなら、「銀行に現金を預けて銀行預金にしておくのは安全だし、銀行振込もできて便利だ。その安全と便利さを享受するための費用としてマイナス金利を慢して受け入れよう」と一般市民が考える。

しかし、マイナス金利をどんどん深掘りすると「もう慢できない」と一般市民が考えるようになり、銀行預金をおろして現金にして、現金を自宅の金庫に保管するようになる。いわゆるタンス預金である。

タンス預金にする一般市民が増えると、世の中に跳梁跋扈する窃盗犯にとってのような状況となる。行く先々の民家に大量の現金が転がっている状況なので、り切って窃盗に励むことになる。近ごろの窃盗犯はちょっと頑丈な金庫であってもまったくひるまず、金庫ごと持っていってしまう。

こうして窃盗事件が増え、治安が悪化する。このためマイナス金利を大きく深掘りするのは非常に難しいとされる。
  

日銀の補完当座預金制度

2008年10月31日以前の日銀は、すべての日銀当座預金に対して一切の金利を付けていなかった。

日銀当座預金
名称 過準備 法定準備預金額
金利 0

 
2008年10月31日日銀の金融政策決定会合において、補完当座預金制度exitを導入して過準備に+0.1の金利を付けることが決められ、同年11月から実行していった。準備預金制度銀行に保有を義務づける法定準備預金額には金利が付かない状況が続いた。

日銀当座預金
名称 過準備 法定準備預金額
金利 +0.1 0

 
2016年1月29日日銀の金融政策決定会合でマイナス金利政策の導入を決め、同年2月から実行していった。日銀当座預金を基礎残高と政策金利残高とマクロ加算残高という3つの階層に分け、基礎残高に+0.1、政策金利残高に-0.1マクロ加算残高に0、それぞれ付利する。実際のところは、過準備の大部分が基礎残高になって+0.1利子が付き、過準備の一部分が政策金利残高になって-0.1利子が付き、法定準備預金額がマクロ加算残高になって0利子が付く、という制度である[1]2019年9月の時点で基礎残高が約208兆円、政策金利残高は約19兆円、マクロ加算残高は約155兆円となっており、マイナス金利が付利される政策金利残高は日銀当座預金全体の5%程度に過ぎない[2]

日銀当座預金
名称 過準備の大部分 過準備の一部分 法定準備預金額
名称 基礎残高 政策金利残高 マクロ加算残高
金利 +0.1 -0.1 0

 

量的金融緩和とマイナス金利政策

量的金融緩和を導入しつつマイナス金利政策を導入した日本

日本において量的金融緩和が大規模になったのが2013年4月で、量的金融緩和が大々的に行われている最中の2016年1月にマイナス金利政策が導入された。

量的金融緩和は1年をえる残存年数の国債(長期国債)を買いオペするので、短期金利べて長期金利があまり高くならない状態になりやすく、長短金利差が縮小しやすく、イールドカーブフラット状態になって寝ている状態になりやすい。そうなると銀行の収益力が悪化し、銀行の経営に打撃が加えられる。銀行とは基本的に短期金利で資金を調達して長期金利で資金を貸し付けて利(りざや)を稼ぐ業態だからである。
 

量的金融緩和の罪がマイナス金利政策に転嫁されている

マイナス金利で銀行の経営に打撃exit」と新聞記事などで表現されることがある。

しかしそうした記事をよく読むと、「利(りざや)の縮小で銀行経営が悪化している」と述べられていることが多い。つまり量的金融緩和の短所のことをマイナス金利政策の短所であるように述べていることが多い。

つまり、マイナス金利政策は量的金融緩和の罪を転されており、実の罪(濡れ衣)でかれている。
 

量的金融緩和を導入せずにマイナス金利政策を導入した場合

仮に、日本量的金融緩和を導入せずマイナス金利政策だけを導入していたらどうなっていただろうか。

量的金融緩和をせず、1年をえる残存年数の国債(長期国債)をできるだけ買いオペせず、短期金利べて長期金利がやや高い状態を維持して、長短金利差が大きい状態を維持し、イールドカーブがスティープ状態になって立っている状態を維持する。

そうした上で短期金利マイナスに誘導するマイナス金利政策を導入する。そうなると「短期金利が-3長期金利が-1」といったような状況になる。

この場合、長短金利差が大きくてイールドカーブが立っているので、銀行の収益力が高いままである。銀行の経営に打撃が加えられるわけではない。

ただし、本記事の『概要』で述べたように、マイナス金利を大きく深掘りすると一般市民銀行預金もマイナス金利になり、多くの一般市民銀行預金をおろしてタンス預金に変更するようになり、窃盗事件が頻発する危険性が高まり、治安悪化の懸念が高まる。
 

準備預金制度だけで信用創造を制限する世界でのマイナス金利政策

2021年の日本は準備預金制度とバーゼル合意(BIS規制)で信用創造を制限している

2021年日本は、準備預金制度バーゼル合意(BIS規制)の両方で信用創造を制限している。

準備預金制度による信用創造の制限よりも、バーゼル合意(BIS規制)による信用創造の制限の方が強力である。
 

準備預金制度だけで信用創造を制限する世界におけるマイナス金利政策

日本バーゼル合意(BIS規制)が導入されておらず、準備預金制度だけで信用創造を制限して銀行の貸出限度額を決めている場合、次のような例え話が成立する。
 

ニコニコ銀行という銀行があるとする。信用創造で作り出した預金額(貸出総額)が4兆6153億円で、準備預金制度によって準備率が1.3と定められていたので、日銀日銀当座預金を600億円預けていた(4兆6153億円×0.013=600億円)。それ以外は日銀当座預金を一切持たず、つまり過準備を一切持たず、国債を購入して資産として保有していた。

そんな中で日銀量的金融緩和を始め、ニコニコ銀行が保有する国債買いオペしてニコニコ銀行に400億円の日銀当座預金を与えていった。ニコニコ銀行は貸出総額4兆6153億円で、法定準備預金額が600億円で過準備が400億円ということになった。

日銀当座預金を合計で1000億円保有するニコニコ銀行の貸出限度額は7兆6923億円なのだが(1000億円÷0.013=7兆6923億円。この計算の詳細は準備預金制度の記事を参照のこと)、ニコニコ銀行は貸し出しを伸ばすことができず、相変わらず貸出総額が4兆6153億円のままだった。

日銀は、ニコニコ銀行に対して貸し出しを強要しようと思い、400億円の過準備のすべてに対してマイナスの金利をかけることにした。これがマイナス金利政策である。

ニコニコ銀行は、「400億円も過準備を持っていると、マイナス金利が付いて大損してしまう」と考え、過準備を減らすことにした。

 
ここまでは、マイナス金利政策導入までの経緯となる。日銀量的金融緩和によりニコニコ銀行1000億円日銀当座預金を持つようになって貸出限度額が増えたのに[3]、貸し出し限度額にほど遠い額しか貸し出していない。

デフレ脱却・回復のためには銀行の貸し出しが必須なのに、ニコニコ銀行は貸し出しの努力を怠っている。これはけしからんことだ」と日銀が考え、マイナス金利政策を導入したというわけである。
 

ニコニコ銀行過準備を減らすことを標に、貸し出しを増やす努力をした。世の中の「金を貸してくれ、金があれば事業が続く」という需要を必死になって探し出し、貸出総額を7兆6000億円にまで増やした。

貸出総額7兆6000億円に対して必要な準備預金は988億円である(7兆6000億円×0.013=988億円)。ニコニコ銀行日銀当座預金1000億円なので、過準備は12億円にまで減った。

ニコニコ銀行は「過準備はたったの12億円だけになった。12億円にマイナスの金利が付いても、たいした損失にならない」と考えた。

日銀は「ニコニコ銀行必死に貸し出しを増やしたおかげで、民間企業計に出回っているお金マネーストック)が増えた。これでデフレ脱却・回復の効果があるだろう」と満足した。


これがマイナス金利政策の成功例である。ニコニコ銀行に対して日銀が「過準備にマイナスの金利をかけて、じわじわと資産を削り取ってやるぞ」という脅迫をしたのが功を奏した。

以上のように、マイナス金利政策とは結構荒っぽい政策であることが分かる。「貸し出しを増やさないのならマイナス金利で資産の一部を収だ」と銀行に対して過酷な宣告をする。マイナス金利政策とは、日銀銀行に向かってムチをビシッと叩き付ける苛な政策である。
  

マイナス金利政策に関するありがちな誤解

新聞テレビ局などにおいて、次のような解説が行われることがある。
 

マイナス金利政策は銀行中央銀行に預ける預金のうち、準備預金制度で必要とされている金額をえる部分(過準備)に対してマイナスの金利をかける政策である。

マイナス金利政策によって、銀行中央銀行に預けている資金を引き出し、民間企業計に対する貸し付けに回すようになる。


下線を引いた部分が、間違っている箇所である。信用創造の記事でも解説されているように、銀行の貸し出しには現金とか資金が必要ない。

銀行は、信用創造によって手持ちの資金なしで貸し付けを行うことができる。「日銀当座預金を引きだして企業計への貸し出しに回す」ということをする必要がない。
 

関連リンク

関連コトバンク記事

関連Wikipedia記事

日本銀行の広報ページ

関連項目

脚注

  1. *三井住友DSアセットマネジメント・シニアストラテジスト市川雅浩exit
  2. *三井住友DSアセットマネジメント・シニアストラテジスト市川雅浩exit
  3. *ちなみに「準備率1.3日銀当座預金が600億円から1000億円に増えたら貸出限度額が4兆6153億円から7兆6923億円に増える」という点が、準備預金制度だけで信用創造を制限する世界らしいところである。準備預金制度だけでなくバーゼル合意(BIS規制)を併用して信用制限を制限する世界なら「準備率1.3日銀当座預金が600億円から1000億円に増えたら貸出限度額が4兆6153億円から7兆6923億円に増えるはずだが、バーゼル合意(BIS規制)による信用創造制限はまったく変わっていないので、結局、貸出総額は4兆6153億円から5兆円に増えただけだった」というようなことが起こりやすい。
この記事を編集する

掲示板

おすすめトレンド

ニコニ広告で宣伝された記事

記事と一緒に動画もおすすめ!
もっと見る

急上昇ワード改

最終更新:2025/04/25(金) 03:00

ほめられた記事

最終更新:2025/04/25(金) 03:00

ウォッチリストに追加しました!

すでにウォッチリストに
入っています。

OK

追加に失敗しました。

OK

追加にはログインが必要です。

           

ほめた!

すでにほめています。

すでにほめています。

ほめるを取消しました。

OK

ほめるに失敗しました。

OK

ほめるの取消しに失敗しました。

OK

ほめるにはログインが必要です。

タグ編集にはログインが必要です。

タグ編集には利用規約の同意が必要です。