圏(けん, 英:category)とは数学において対象とそれらの間の関係を表す射の集まりのことをいうが、圏論とはその圏に関する理論のことである。
集合論で言う集合や写像、それらの合成などの概念を包括的に扱い、一見するとまったく異なる数学的対象の背後に隠れた共通構造や一般的性質を考察するための強力な道具。しかしその分抽象度が高くとりつきにくい分野でもある。図式やグラフがやたらと出てきたり豊穣とか忠実とか充満とか聞きなれない単語も頻出する。
俯瞰的議論の強力な武器であるが、抽象論にこだわるあまり圏論研究者は群や位相空間など具体的な構造に落とし込んで議論することをおろそかにする傾向があるとか、一方で具体的な理論を研究する人には抽象的すぎて応用のし甲斐がないので毛嫌いされているとか色々あるらしい。両方を融合させるには並外れた頭脳が必要なので難しいことなのだろう。
C が圏(category)であるとは、 まず C の対象(object)の集まり Ob(C) があって、 その中から任意の2つの対象 A, B∈Ob(C) に対し射(morphism, あるいは矢印(arrow)または図式(map))と呼ばれる抽象的な関係性を考え、その射の集合 HomC(A, B) が定まる時、以下の公理を満たすものをいう。(Homはhomomorphismの略)
(1) A≠A' または B≠B' のとき HomC(A, B)∩HomC(A', B')=∅ 。
(2) A, B, C∈Ob(C) に対し射の結合と呼ばれる写像
HomC(A, B)×HomC(B, C) | → | HomC(A, C) |
(u, v) | ↦ | v∘u |
が次の条件を満たす。
(2.a) 各対象 A∈Ob(C) に対し 1A∈HomC(A, A) となる 1A が存在し、 u∘1A=u, 1A∘v=v が任意の u∈HomC(A, B), v∈HomC(C, A) について成立する。
(2.b) 任意の u∈HomC(A, B), v∈HomC(B, C), w∈HomC(C, D) に対し w∘(v∘u)=(w∘v)∘u が成立する。
(1) は互いに素(mutially disjoint)、(2) は合成(composition)、(2.a) の 1A は恒等射(identity morphism)、(2.b) は結合律(associative law)と呼ばれる。そして圏を用いて数学的構造や性質を研究する理論を圏論(category theory)と呼ぶ。
分かりやすくかみ砕いて言うと、以下の条件を満たすときにCは圏となる。
これらの関係は、理論が複雑になるほど込み入ってくるため、文章で書き下すことが難しくなる。そこで、対象と射の関係を可換図式と言う方向付きグラフで表現する。HomC(X,Y)が集合でないようなものはメタ圏と呼ばれるが、具体的な操作ができるので集合として考えた方が都合がいいことが多い。例えば圏論において重要な定理である米田の補題はHomC(X,Y)が集合であること(局所小という)を前提としている。
この定義の何がいいかと言うと、恒等射の存在によって対象と恒等射を同一視することができ、各対象の構造を考えることなく射のみによって議論をすることができるようになる点である。例えば集合論では全射と単射の定義に集合の要素を用いるため2者が全然違うものに見えるが、圏論的な定義ならば全射と単射は互いに射を逆の方向にしたもの(双対)だとすぐにわかるようになる。
ある圏と別の圏を比較したい時がある。圏と圏を結ぶ写像のことを関手(functor)という。また、関手と関手を比較したい時もある。関手と関手を結ぶ写像を自然変換(natural transformation)という。
Ob(C)はその性質から、集合より広いレベルの概念となり、クラス(class)と呼ばれる。クラスは「全ての集合の集合」のような集合論では定義できないようなものも含むことができ、そのような場合は真のクラスという。Ob(C)が真のクラスではなく集合であるような場合は小さな圏という。真のクラスは集合として扱えないので、大きな圏には集合論的な操作を可能にする枠組みとして宇宙(universe)と呼ばれるものを導入する。宇宙は例えば集合論で考えられる操作全てを抽象化し、内部に包括するような概念である。宇宙はある数学系を構成する一つの世界といっても差し支えないだろう。宇宙際タイヒミュラー理論に代表される宇宙という言葉はこれのことを指す。
例として圏論で自然数を表現してみる。ここで、自然数は0から始まるものとする。
1+2=3という式を眺めてみる。
自然数は具体的な「対象」になるというイメージがある。であれば、足し算は対象を別の対象へ移す関数なので「射」ということになる。しかし、f:A→Bという射の書き方に+を当てはめると+:(1,2)→3ということになるので、ドメインとコドメインの構造が異なるということになってしまう。射は合成できるので、f:A→B、g:B→Cであり、g∘f:A→Cとなるが、1+2+3=6などをこの式にうまく当てはめる事ができない。
そこで、発想を転換してみる。+を射の合成∘に当てはめる。1+2+3=6 という式を、 p=h∘g∘f→(なにか)→(なにか)とみるのである。f=1、g=2、h=3、p=6、+を合成∘とするとうまくあてはまる。
つまり、自然数0,1,2,3…は「対象」ではなく「射」、+は「射」ではなく「射の合成」と考えるとよいのである。
では、上で(なにか)と書かれたものは対象であるが、「射」である自然数は何を何に移しているのであろうか。実は対象はなんでもいい。A,BあるいはXなどと置いてもいいし☆や♡などと置いてもいい。HomC(☆,☆)を、自然数の集合Nと同一視するということだ。
圏論では具体的な構造を捨象し、その動きである射に注目するためである。☆は自然数によって☆自身に移されるとみればよい。各自然数は☆を☆に移すので自己同型写像だが、そのなかで0だけが単位律を満たすので0のみが恒等射である。つまり、1☆=0。
また、掛け算×を考える。2×3=6などを見ると、やはり自然数は射、×は射の合成ということになる。この場合は恒等射は1となる。
この考え方はそのままモノイドや加群、モナドなどに応用することができる。
ただし、上記のように考えた場合そうなる、ということなので、例えば自然数を定義域、値域とした関数f(x)=ax+bを用意し、g∘f(x)=g(f(x))を合成と考えれば、f,g,…が射、h(x)=xが恒等射、そのとき自然数全体の集まりは対象となる。
上記の考え方において、自然数は対象ではなく射である。対象はなんでもよい(☆などと置く)。足し算+は射の合成であり、恒等射は0。同様にして、掛け算×は射の合成であり、恒等射は1。
「圏論の基礎」は "Categories for the working mathematician" の翻訳である。
掲示板
19 ななしのよっしん
2019/08/11(日) 11:54:29 ID: ryX5cu/dD+
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扱っているトピックは圏論だけじゃないけどおすすめ
20 ななしのよっしん
2022/07/03(日) 23:19:09 ID: YYY1V2voED
分かりやすいと思った入門動画。自分みたくいきなり本や解説pdfを読んでも挫折しやすいと思う
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圏と関手 【 圏論とモナド #1 / 数学 解説 】:豊穣ミノリ / Hojo Minori
(激しくおすすめ。13分、15分、15分の3回シリーズ)
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高校生でも雰囲気だけわかる圏論:Masaki Koga [数学解説]
(具体例を板書しながらガッツリやる感じ。30分)
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圏論で数学の"あたりまえ"を知ろう!:無名
(ボイロ解説。圏論はなんのためにあるか、ざっとどんなものかわかる。11分)
21 ななしのよっしん
2022/07/15(金) 16:15:36 ID: W+xTP9dWkA
圏の定義においてhomsetが互いに素という条件いらない気がして、あると逆に面倒になりそうな気がする
例えばSetで、Hom_{Set}(∅,∅)とHom_{Set}(∅,{*})はどちらも空写像のみを要素とする1点集合だが、ZF公理系では普通はどちらも空集合として実現されるので、厳密に言えば互いに素ではない
互いに素であることが役に立つのは射全体の集まりに言及したいときだと思うので、それをしないこの記事では不要に思える
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最終更新:2025/03/28(金) 12:00
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