新本格とは (シンホンカクとは) [単語記事]

新本格とは、綾辻行人のデビュー（1987年）以降ブームとなった本格ミステリ作品および作家のこと。

概要

大正時代、江戸川乱歩のデビューから本格的に始まった日本の探偵小説は、探偵による謎解きを中心にした「本格もの」と、怪奇幻想風味がメインの「変格もの」とに分類されたが、戦前はどちらかと言えば変格ものが中心であった。その後、戦時中は当局の検閲のため、探偵小説は事実上執筆を禁じられてしまうが、戦後になると、横溝正史の活躍や高木彬光、鮎川哲也などの新人の登場で探偵小説は復興。戦前はあまり多くなかった本格ミステリの長編が数多く書かれるようになった。

しかし1958年、松本清張の『点と線』がベストセラーとなったことをきっかけに、リアリズムを重視した社会派推理小説が台頭し、「謎の屋敷と胡散臭い住人」「暗躍する怪人・殺人犯」「超人的な推理力を持つ素人名探偵」のような人工的な舞台・モチーフを用いた古典的な本格ミステリは古臭いものとして退けられるようになっていった（いわゆる「本格ミステリ冬の時代」）。
ところが社会派推理小説も、推理味の希薄な作品の濫発により、60年代半ばには勢いを失う。70年代に入ると、角川映画の仕掛けた横溝正史ブームが巻き起こり、短命に終わったが探偵小説専門誌「幻影城」が登場して泡坂妻夫や連城三紀彦、竹本健治らがデビューするなど、推理小説にかつてのロマンの復権を求める動きが生じていた。

そんな中、1981年に島田荘司が『占星術殺人事件』でデビューし、数少ない本格ミステリらしい本格ミステリの書き手として名声を得る。
その島田が講談社ノベルスの編集者・宇山日出臣とともに本格ミステリの新人発掘に乗り出し、1987年に綾辻行人が『十角館の殺人』で講談社ノベルスからデビュー。
また同時期に、東京創元社も国内ミステリの新刊の刊行に乗り出して新人発掘を開始。
その結果、講談社ノベルスからは法月綸太郎、我孫子武丸、歌野晶午など、東京創元社からは折原一、有栖川有栖、北村薫、山口雅也などの作家が綾辻の後を追うように続々とデビューを果たし、上の世代から顔をしかめられながらも、若い読者の熱狂的な支持を得て、本格ミステリの人気が復興した。

そのような状況の中、綾辻のデビューを仕掛けた講談社ノベルスが発明した、これらの本格ミステリを総称するレッテルが「新本格」である。初出は綾辻の第2作『水車館の殺人』講談社ノベルス版のオビに書かれた「ミステリーの醍醐味！『十角館の殺人』に続く香気あふれる新本格推理第2弾！」という宣伝文句。

大雑把に言えば、綾辻行人以降にデビューした本格ミステリ指向の作家、およびそれらの作品が新本格。ただし、それ以前から活動していて新本格作家との交流も深く、ムーヴメントに大きな貢献を果たしている島田荘司、笠井潔、竹本健治も新本格に含まれる場合がある。

第一世代（綾辻、法月、有栖川など）の頃は「古典的な本格ミステリのルネッサンス」的な意味合いに近かったが、麻耶雄嵩の登場とその後の京極夏彦を経てのメフィスト賞系への流れから、「本格ミステリのお約束を意識しつつそれを外していく」ような作品へ徐々にイメージが変遷していった（そういう意味合いでの「新本格」という言葉の使い方の典型例が、西尾維新の『新本格魔法少女りすか』だろう）。
そのせいか、綾辻以前の「本格」と綾辻以降の「新本格」を別のジャンルのように思っている人も多いようだが、新本格にはある程度固有の特徴（後述）があるものの、基本的には「新本格」とは「新世代の作家による、それまでの本格ミステリの歴史を踏まえた本格ミステリ」ぐらいの意味である。今じゃ新本格初期の作品が古典になっちゃったけど。

現在では発祥から35年以上が経ち、新本格以降の本格ミステリというジャンルの拡散・多様化、総本山であった講談社ノベルスの（というかノベルスという媒体そのものの）衰退などにより、現在の本格というジャンルをひとつの潮流と見なすこと自体が難しく、「新本格」という言葉自体、ほぼ歴史用語と化した感がある。じゃあいつ頃までが「新本格」なのか、というのはまた難しい問題で（有栖川有栖によれば京極夏彦のデビューまで、笠井潔によれば東野圭吾『容疑者Xの献身』までということになるが）、そのへんは後世の評価を待つべきかもしれない。
少なくとも、平成生まれ以降の世代にとっては「新本格」は生まれる前から存在したものなので、新しくもなんともないというのは確かである。既に『点と線』から『十角館の殺人』までの期間よりも、『十角館』以降の期間の方が長くなっているわけで、2010年前後から登場してきた80年代～90年代生まれの作家たちによる現代本格を新たにカテゴライズする用語がそろそろ必要な時期なのかもしれない。

評論界隈では（「新本格」は講談社の宣伝文句であるということから、東京創元社など他社の作品も含めた総称として）笠井潔の命名した「第三の波」という表現を使うことが多い。90年代には「ニューウェイヴ・ミステリ」とか呼ばれていたこともあるが既に死語。

前述の通り、代表的な新本格作家はほとんどが講談社（講談社ノベルス）か東京創元社からデビューしている。仕掛け人である講談社ノベルスが新本格の総本山であり、東京創元社デビューの作家も大抵の場合は講談社ノベルスで作品を発表したことがある。
21世紀のはじめには光文社が「Ka pp a-One 登竜門」というメフィスト賞の後追い的な賞を創設し、石持浅海、東川篤哉などを送り出した。この企画は短命に終わったが、後に「カッパ・ツー」として再起動し、阿津川辰海を送り出している。

ちなみに「新本格」という言葉自体は、綾辻以前にも1960年代半ばに読売新聞社の刊行した叢書《新本格推理小説全集》などで使われていたことがある。社会派推理小説の代表格として本格の敵のように扱われがちな松本清張はこの叢書の序文で、社会派推理小説の推理要素の形骸化を嘆いて「本格は本格に還れ」と述べている。また、笹沢左保はデビュー当初、自身を「新本格派」と称したりしていた。

そういえば新伝綺って何だったんだろう？

新本格バッシング

今現在ではなかなか信じられないが、新本格ムーブメントの初期においては、当時のミステリ評論・ファンダム界隈では新本格に対して批判的な評論家や古参ミステリマニアが多く、新本格作品は（それを推薦した島田荘司も含めて）かなりバッシングを受けていた。

新本格批判としての「人間が描けていない」という言葉は、その批判の是非はともかくとして新本格に関心がある人なら（そういう批判そのものよりも、むしろ「当時そういうことがよく言われていた」という文脈で）一度は目にしたことがあるだろう。ちなみにここでの「人間が描けてない」というのはだいたい「キャラが立ってなくて登場人物の見分けがつかない」という意味である。

現在、比較的確認しやすい新本格バッシングのテキストとしては、当時の『このミステリーがすごい！』における「覆面座談会」での新本格批判がある。この覆面座談会は1997年に出た『このミステリーがすごい！傑作選　「覆面座談会」完全収録＆最恐のブックガイド』にまとめられている。
ただ、これは今読むと新本格そのものについてはそこまで強いバッシングはしておらず、むしろ島田荘司批判という側面が強い。
実態としては、この覆面座談会とよくやりあっていた産経新聞のコラム「遮断機」や、SRの会・怪の会（幻影城ファンクラブ）といった古参のファンダムが発行する同人誌が主な新本格バッシングの舞台だったようだ（そのため、リアルタイムの新本格読者でもバッシングがあったことを知らず、講談社文庫版『十角館の殺人』の鮎川哲也の解説で初めてバッシングされていたことを知った、という声もある）。

新本格が叩かれた理由は、英米で既に古典的な本格がほぼ絶滅し犯罪小説や冒険小説が主流であることから、ミステリーはそういう方向へ進化するものであり、古臭い本格ものへ先祖返りするのは退化である、とする考え方（ミステリの進歩史観）が中心にあったようだが、他にも「単純に小説としてヘタだったから」説や「若い世代の書く同世代向け青春小説っぽさがオッサン世代にはついていけなかったから」説などがある。
実際、新本格の中でも北村薫『空飛ぶ馬』や山口雅也『生ける屍の死』なんかは総じて好評を集めていたので、新本格全てが叩かれていたというわけではない。ただ少なくとも、新本格と呼ばれた作品群に拒否反応を示した評論家や古参のミステリマニアが見過ごせないほどには存在した、というのは事実である。

しかしそんな上の世代の拒否反応とは無関係に若い世代は新本格を支持し、評論界にも新本格を肯定する若い世代が登場していった。

新本格初期の代表的な作品に、明らかに褒めてなかったり、なんかピントのずれた文庫解説がついているのが散見されるのは（例：法月綸太郎『頼子のために』講談社文庫旧版の池上冬樹の解説）、だいたいこの世代間ギャップと進歩史観のせいである。

なお、新本格が若い読者に受けたのは、単純に謎解き重視の本格ミステリの新作を求める読者がいたというだけでなく、読者と同世代の作家たちによる青春小説としての需要や、御手洗潔や火村英生といったかっこいい名探偵が活躍するキャラクター小説としての需要もかなり大きかったと思われる。
また新本格というミステリ史のひとつの大きな区切りが出来たことで、若い読者にとっては「膨大な数の古典を読まなくても、とりあえず綾辻行人以降の作品を読めば今のミステリに追いつける」という認識が生まれ、ミステリファンを名乗るためのハードルがそれまでよりぐっと低くなった。
古典の名作を読んで育ったミステリマニアが、同種のマニアに向けて書いたはずの新本格の作品群は、古典を知らない若い層に新鮮なエンターテインメントとして大受けしてしまったわけである。

そういった古典を読まず新本格で育った読者、新本格に本格ミステリ以外の要素を求めて読む読者の存在に、あくまで古典ミステリマニアとしてミステリマニアのためのミステリを書いているという認識だった第一世代の作家たちが戸惑っていた様子は、当時の対談やインタビューなどから窺える。

結果、そういった「新本格育ちの世代による新本格のキャラ読み」路線の極致ともいえる清涼院流水が登場した際、主に強い拒否反応を示したのは、新本格バッシングの被害を受けた新本格第一世代の作家や、同様に古典を読んで育ち初期新本格を支持した若い世代の評論家たちだった。これに関して、かつてバッシングの被害者だった側が、自分より下の理解しがたい世代に対してバッシングの加害者側に回るという歴史の繰り返しだった、という皮肉な見方をする者もいる。

結局清涼院流水とその影響を受けた一派は狭義の本格からは離れていったが、2010年代になって、さらに若い世代によるライトノベル的なキャラクターや世界観と本格ミステリの論理性を両立する作品群が登場した際、ついていけない上の世代の反発はやはり多少あるものの、全体としては受け入れられて高く評価されている現状を鑑みると、流水一派の巻き起こした騒動にも意義はあったのかもしれない。

特徴

前述の通り新本格はもともと「新世代作家による本格」ぐらいの意味なので、旧来の（綾辻以前の）本格ミステリと本質的に違うもの、というわけではない。ただ、「新本格っぽい」という形容があるように、新本格によく見られる特徴的な作風というものはいくつかある。大雑把に挙げれば、

作品が「これまでの本格ミステリの歴史」を踏まえている（ミステリマニアの登場人物による、過去の名作に対するメタ的な言及など）
奇天烈な館や名探偵など、リアリズムを度外視した本格ミステリ的な道具立てを意識的に多用する
小説としての完成度よりも、トリックやロジックの面白さ、意外性などを第一に追及している
クローズド・サークルもの^[1]や叙述トリック^[2]が多い

といったところだろうか。もちろん全ての作品がこれに当てはまるわけではないが、綾辻・有栖川・法月・我孫子といった第一世代から現代に至るまで、「本格ミステリというジャンルの様式やお約束に自覚的であること」が新本格の新本格らしさ、であるとは言えるだろう[要出典]。

「『本格冬の時代』はあったのか」論争

前述した新本格前史を大雑把に要約すると「松本清張以降、社会派がミステリー界を席巻し、『本格ミステリ冬の時代』が到来した。それに対する若い世代の反発から生まれたのが新本格」ということになる。

新本格のトップバッターである綾辻行人の『十角館の殺人』の中に、ミステリマニアの登場人物が社会派を揶揄し古典的な本格の魅力を称揚する台詞があり、これが「新本格」の決意表明として受け取られたこともあり、このわかりやすい構図はミステリ史におけるある種の通説となっている。

ただ、大雑把な要約なので実態とは少々ズレが生じるのは否めない。たとえば、新本格が勃興した80年代後半にミステリーの主流だったのは、清張風の社会派ではなく、西村京太郎を筆頭とするトラベルミステリーと、赤川次郎のユーモアミステリーだった。また、「冬の時代」とされた60年代～80年代前半にかけても、現代の目から見ても名作として名前が残る本格ミステリは多数書かれているし、社会派ミステリやトラベルミステリにも、本格ミステリ的な密室トリックやアリバイトリックは多々用いられていた。

というわけで後世の読者から、「70年代や80年代にも色んな名作が書かれてるのに『本格冬の時代』っておかしくない？　『冬の時代』なんて本当にあったの？」という疑義が呈されることがある。

「あったか無かったか」という問いに関しては、究極のところは当人の受け取り方次第なところがあり、当時書かれたミステリーを全部調べてその中に本格が何割あるか、と定量的に計測するのも「本格ミステリ」の定義が曖昧である以上現実的ではない。また「風潮」とか「雰囲気」というようなものは記録に残りにくいため、客観的に「あったか無かったか」と決定することはおそらくできない。

ただ言えるのは、現代と違い当時はどんな本が出ているかという情報や作品の評判を知る手段もはるかに限られていたということである。その一方、主にノベルスでトラベルミステリーやユーモアミステリーは量産されていたので、書店に並ぶ大量のミステリーの中から本格マニアが満足できる本格ミステリを探し出すことが非常に難しかったことは想像に難くない。また、本格の幅が非常に広がった現代の目から見れば充分に本格ミステリとして鑑賞できる作品が、当時の感覚では本格ミステリとは思われていなかったということも考えられる。

新本格初期の書き手たちが少なからず、自分たちの読みたい本格ミステリが無い・少ないことへの飢餓感から創作の筆を執ったことは本人たちの証言からしても確かである。というわけで「『本格冬の時代』は、少なくとも新本格初期の書き手たちの認識上においては確かに存在した（だからこそ新本格ムーヴメントが起こった）」というのが、実態に即した理解ではないだろうか。

新本格の大雑把な歴史

【この項は執筆者の独自史観が含まれます】

◎第一期（1987年～1993年頃）：綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸、歌野晶午、折原一、有栖川有栖、北村薫、山口雅也、芦辺拓、麻耶雄嵩^[3]らが続々と登場。新本格が「本格ミステリマニアの（主に若い世代の）作家が、本格ミステリマニアの若い読者に向けて書くミステリ」だった時代。上の世代からのバッシングを受けつつも若い世代に支持され、古典的な本格ミステリという形式のルネッサンスを軸としつつ、現代へと通じる本格の多様化の種が蒔かれる。
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◎第二期（1994年～1999年頃）：京極夏彦、森博嗣、清涼院流水、乾くるみ、浦賀和宏、殊能将之、霧舎巧らメフィスト賞の時代への突入。小説外で『金田一少年の事件簿』『名探偵コナン』『古畑任三郎』『かまいたちの夜』などの漫画・ドラマ・ゲームによって、本格ミステリというジャンル自体が大幅に大衆化し、その中で非ミステリマニアの作家である京極・森が本格ミステリで多数の読者を獲得したことで、第一期の頃の「新本格＝マニアによるマニアのための本格」というシンプルな構図が崩れる。さらに清涼院流水の登場によって新本格そのものが模倣される段階に入り、新本格に本格ミステリの外側にある価値観が流入、新本格以前を知る第一期の世代と、新本格が既に自明のものとしてあった次世代のズレが露呈する。
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◎第三期（2000年～2006年頃）：メフィスト賞が舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新らを送り出し、新青春エンタだの新伝綺だのファウストだの言い出した頃。清涼院流水の影響を受け、本格ミステリの形式を借りながら従来の本格ミステリの枠を完全に逸脱する作家たちが新本格の総本山だった講談社ノベルスから次々と登場したことに、第一世代の作家たちが強い違和感と本格の将来への危機感を訴えた混乱期。つまり太田が悪い。結局それらの作家は後に狭義の本格からは離れていき、危機感を覚えたベテラン勢はスタンダードな本格への原点回帰を指向した。この「本格とは何か」「本格とはどうあるべきか」を巡る混乱は、最終的に2006年の『容疑者Xの献身』を巡る本格論争に行き着くことになる。一方、辻村深月や道尾秀介のような、新本格の影響を受けつつも後に一般文芸で高く評価されることになる作家も登場する。
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◎第四期（2007年～2010年頃）：『容疑者Xの献身』論争を最後に第三期の混乱が落ち着きを見せ、本格ミステリと本格以外のジャンルの価値観の融和が図られはじめた時代。文芸界全体でライトノベルと一般文芸の垣根が崩れはじめた時代でもある。米澤穂信のブレイクによる日常の謎ブームの形成、三津田信三のブレイクによる本格とホラーの両立、歌野晶午や乾くるみによる叙述トリックの大衆化など、現代に繋がる多様性の種が開花し始める。第一世代の作家が力作を相次いで発表する一方、この時期のデビューは古野まほろ、深水黎一郎、詠坂雄二といった妙にマニアックな作家が多く、この時期には「さすがにそろそろ新本格も終わりじゃね？」という雰囲気も一部にあった。
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◎第五期（2011年～2016年頃）：円居挽、青崎有吾、森川智喜、早坂吝、井上真偽、白井智之、市川憂人ら、現代のポップカルチャーを背景に育った世界観・キャラクターと、本格ミステリの形式性・論理性へのこだわりとを両立した、主に80年代～90年代生まれの新人たちが続々と登場し始めた時期。また第四期の終わり頃から登場した米澤穂信『インシテミル』や円居挽『丸太町ルヴォワール』らに代表される、後期クイーン的問題から派生した本格ミステリにおける「真実」に対する懐疑的な態度から、真相の唯一絶対性よりも「推理（＝ロジック）それ自体の面白さ」を追及する多重解決ブームが訪れ、推理合戦・多重解決を成立させるための特殊な舞台・設定を導入する手法が珍しくなくなっていく。
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◎第六期（2017年～）：第五期の多重解決ブームが深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』と井上真偽『その可能性はすでに考えた』で行き着くところまで行ってしまったところへ、今村昌弘『屍人荘の殺人』が登場し、空前の特殊設定ミステリブームが到来する。青崎、白井、市川ら第五期にデビューしていた面々に加えて、阿津川辰海、方丈貴恵、潮谷験などが登場。浅倉秋成や相沢沙呼もブレイクし、特殊な設定を導入することによる新たなロジックの可能性、現代のポップカルチャーと本格ミステリの融合の可能性が若手作家たちによって追及されている。また過去の時代を舞台にした本格が高評価を受ける流れもあるが、これも「その時代ならではの論理・解決」が重視されるという意味で特殊設定ミステリブームと連動した現象かもしれない。

ニコニコ大百科に記事のある新本格(と思われる)作家

デビュー時期別に記載。名前横は生年ではなくデビュー年からの作家活動期間。デビュー当時は新本格系だったが後に本格を離れた作家や、デビューやメインは他ジャンルだが作品の中に新本格系のミステリがある作家も含む。

～1986年デビュー（プレ新本格）

1987年～1990年デビュー

1991年～1995年デビュー

1996年～2000年デビュー

2001年～2005年デビュー

2006年～2010年デビュー

2011年～デビュー

大百科に記事のある新本格（と思われる）作品

脚注

*現在のイメージからすると意外に思えるかもしれないが、「絶海の孤島」や「吹雪の山荘」といった閉鎖空間を舞台にした、いわゆる「クローズド・サークル」と呼ばれるジャンルのミステリーは、新本格以前には国内にはほとんど無い。「ミステリーといえばクローズド・サークルでの連続殺人を名探偵が解決するもの」というイメージは新本格の作品群と『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』が作ったものである。
*これまた新本格以前の作例は少なく、新本格以前には「叙述トリック」という言葉自体存在しなかったようだ。新本格バッシングには「新本格の連中は叙述トリックをよく使うけどあれはびっくり箱みたいなもので本格ではない、邪道」的な批判も結構あったようである。なお、新本格以前の貴重な叙述トリック作品は21世紀になってから再評価され文庫でリバイバルヒットしたりしている。
*ちなみに一般的（？）には「麻耶雄嵩からが新本格第二世代」とされているが、メフィスト賞がブイブイ言わせてた頃ならともかく、少なくとも令和の現代での作家評価と立ち位置からすれば、麻耶雄嵩はメフィスト賞系よりも第一世代側の作家（古典本格マニア型の作家）という見方の方が普通であると思われるので、本記事では麻耶雄嵩を第一期に含めている（独自研究）。
*デビューがいつなのかというのが非常に判断しにくい作家なので、ここでは「本格ミステリ作家」としての本格的な活動開始を『仮題・中学殺人事件』の出た1972年として扱う。

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