礼号作戦とは、大東亜戦争中の1944年12月26日に実施された日本海軍の作戦である。戦争中、最後に成功した攻撃作戦とされる。ミンドロ島沖海戦とも。
1944年10月20日より始まったレイテの戦いはアメリカ軍の優勢で進み、12月15日にレイテ島は制圧された。次なる目標はフィリピンの中心であるルソン島と思われたが、すぐには上陸せず南のミンドロ島へ第24師団が上陸。現地には僅か500名の日本兵しかおらず、あっと言う間に占領される。ミンドロ島を失陥するという事はフィリピン全土の制空権を失う事を意味しており、帝國陸海軍は直ちに反撃へ移った。
まず特攻機13機が北部のクラーク基地を出撃し、2隻の戦車揚陸艇を撃沈。海軍の瑞雲も出撃し、魚雷艇群に攻撃を仕掛けた。帝國海軍の南西方面艦隊司令大河内伝七中将は翌16日に第43駆逐隊の駆逐艦榧、杉、樫を迎撃に向かわせたが、ルソン島東方に超大型台風(コブラ台風)が進んでいたため引き返した(司令官の発病が中止の原因とも)。さっそくアメリカ軍の設営隊は南のサンホセ海岸付近に2本の飛行場を作り、12月20日に完成。米陸軍航空隊第5航空軍が進出し、レイテ島からB-25、P-40、P-47などが続々と送られた。全てはルソン島攻略を見越しての行動だった。
第43駆逐隊の泊地突入に代わる攻撃作戦として、第2水雷戦隊司令の木村昌福少将による艦砲射撃が計画された。作戦名は礼号作戦と定められた。木村少将は叩き上げの司令官で、先のキスカ島撤退作戦で奇跡を起こした立役者である。南西方面艦隊は巡洋艦(足柄と大淀)と第2水雷戦隊に作戦の実行を下したが、二水戦は護衛任務で駆逐艦を出払っており、手元に残っているのは清霜と朝霜しかないという明らかな戦力不足であった。やむなく駆逐艦霞を呼び戻し、第31戦隊から第43駆逐隊を派出。仏印のカムラン湾やサンジャック方面に停泊していた第2水雷戦隊(駆逐艦霞、清霜、朝霜)、第31戦隊(重巡足柄、軽巡大淀、駆逐艦榧、杉、樫)が実行戦力となった。参加艦艇の中で最も大型な足柄が旗艦に選ばれると思われたが、木村少将は霞を旗艦に指定した。礼号作戦は12月20日に発動され、23日にカムラン湾へと集結。戦備を整え始めた。寄せ集め部隊だが合同練習を行う時間は無かった。
12月24日午前9時、木村少将座乗の旗艦霞に率いられ、第2水雷戦隊はカムラン湾を出発した。目的地のミンドロ島は東方にあったが、目的を偽装するため北東に針路を取った。翌25日未明、米潜水艦が二水戦を発見。また二水戦側も逆探が米潜水艦の無線を傍受した。対潜警戒をしながら北へ進み、日出後に東へ変針した。敵に見つかったにも関わらず何故か偵察機すら飛来せず、平穏な航海が続いた。12月26日未明、針路を南南東に変えてミンドロ島に向かう。16時3分、足柄から零式三座水偵2機が発進し、前方50海里で対潜哨戒。それから20分後、足柄の見張り員がサンホセの西北西130海里で哨戒中のB-24を発見。敵機も日本艦隊を発見し、ミンドロ島のアメリカ軍へと通報された。
「日本艦隊が向かってくる」というニュースは、アメリカ軍を驚愕させた。何故ならサンホセには護衛戦力が一切無く、無防備の輸送船団と10隻の魚雷艇が停泊しているだけだった。加えてB-24は足柄を大和型戦艦と誤認しており、ミンドロ島の第5航空軍を凍りつかせた。慌ててレイテ島からチャンドラー少将率いる
軽巡2隻、重巡2隻、駆逐艦8隻を向かわせたが、とても間に合いそうに無い。恐慌状態に陥ったサンホセの輸送船団は我先に脱出を図り、21隻が逃亡。足の遅い4隻のリバティ型貨物船は取り残された。同時に第5航空軍は準備の出来た機から出撃させ、編隊すら組ませずに攻撃へ向かわせた。爆弾の数が足りなかったので、戦闘機は機銃弾だけを満載して出撃した。
一方、28ノットの速力でミンドロ島を目指す二水戦は対空陣形を取る。霞が先頭に立ち、その後方に2隻の巡洋艦、その後ろを5隻の駆逐艦が追随した。足柄と大淀からは水偵が発進し、砲撃時の照明弾投下役を担わせた。17時35分、B-25爆撃機8機が出現。しかしB-25は一向に攻撃せず、大淀が零式三座水偵3機を発進させても反応が無かった。18時7分、清霜が発砲するとB-25は退避していった。敵機が去った後、艦内では戦闘糧食が配布された。20時頃、250kg爆弾を装備したB-25が出現。この日の月明かりは強く、敵機から艦隊が丸見えだった。20時45分に爆撃が始まり、大淀が2発の直撃弾を喰らう。幸いな事に出撃を焦った敵は爆弾に信管を付け忘れており、被害は無かった。朝霜も低空爆撃を受けたが、回避して至近弾で済んでいる。爆弾の不足と混乱から杜撰な航空攻撃だったが、そのぶん敵機も必死で機銃掃射を浴びせてきたので徐々に損傷が増してきた。21時15分、清霜の重油タンクに250kg爆弾2発が命中し、大爆発。艦隊から落伍してしまう。木村少将は現時点での救助を諦め、帰り道に救助する事を決断する。敵機の猛攻は続き、足柄の左舷甲板に撃墜されたB-25が突入。2mの穴が開くとともに火災が発生したため、8本の魚雷を投棄している。更に44機のP-38と28機のP-47が襲来し、機銃掃射により榧の後部マストが折れ、第1缶室で火災が発生。耐え凌いでいた朝霜も機銃で蜂の巣になり、全主砲が被害を受けて負傷者が続出した。だが敵機は接触を防ぐためかわざわざ味方識別灯を点けており、高角砲の狙いが付けやすかった。おかげで十数機の撃墜に成功している。
敵機の空襲は終わった。サンホセまであと少しというところで、今度は魚雷艇が出現。PT-17、80、83、84が足柄の東方で併走してくる。しかし魚雷艇は不気味な沈黙を保ち、攻撃はしてこなかった。実は南西方面艦隊が二水戦の支援として「ミンドロ島へ逆上陸を企図している」と偽の平文を打っていたのだ。これに引っかかった魚雷艇群は上陸時に攻撃しようとして静観していた。二水戦は照明弾を上げ、銃砲撃で魚雷艇群を攻撃。1隻を撃沈し、2隻を座礁させて戦闘能力を奪った。ちなみにサンホセ港でも魚雷艇群が待ち伏せていたが、混乱する味方機から執拗に誤射を受けて追い散らされていた。
22時20分、巡洋艦を中央に配した単縦陣を組み、「左舷魚雷戦用意」の号令が下った。ついにサンホセに到着したが、既に敵船団は脱出していてもぬけの殻だった。また第5航空軍の敵機も大半が空中へ退避し終えており、攻撃目標が乏しかった。そこで22時45分に反転し、マンガリン湾へ移動。敵襲に備えて隠れていたリバティ型貨物船4隻を発見し、23時2分に霞が、1分後に巡洋艦2隻が砲撃開始。続いて霞、榧、樫は計10本の魚雷を発射し、1隻を撃沈。3隻を損傷させた。マンガリン湾は沈没するほど水深は深くなかったが、損傷が酷かった1隻は放棄されたようである。輸送船団を撃破した二水戦は陸岸沿いを北上しながら照明弾を撃ち、飛行場を砲撃。駐機されていた20機と爆弾庫を破壊した。各々標的になるものを見つけては、思う存分に撃ちまくった。飛行場を破壊された事で上空に退避中の敵機は降りる場所を失い、やむなくレイテ島へと向かった。しかし途中で燃料切れとなり、多くのパイロットは機を捨てて脱出しなければならなかった。23時45分からの砲撃でブスアンガ河口の物資集積所を吹き飛ばし、翌27日午前0時4分に作戦完了。霞は「ただいまより帰路に就く」と信号を発した。霞は91発、大淀は100発、足柄は226発、朝霜は58発発射した事が判明している。
任務を成功させた二水戦はカムラン湾を目指したが、道中で霞と朝霜が分離した。漂流中の清霜乗員を助けに行くためである。P-38の追跡を受けていたが、かまわず現場海域に向かった。午前0時48分、清霜のカッターを発見。どうやら清霜は沈んでしまったようだ。機関を停止させ、2時間の救助活動で生存者258名を救い上げた。救助を終えると、急いで離脱を図った。夜明けを迎えれば敵機の執拗な空襲が始まるうえ、レイテから有力な敵艦隊が接近しているとの情報も入っていた。午前4時頃、朝霜がB-25の爆撃を受けたが命中しなかった。午前9時、別行動を取っていた足柄のグループと合流。魚雷艇2隻が追いすがってきたが、砲撃で撃退した。22時、二水戦は突如として雷撃を受ける。待ち伏せしていた米潜水艦が大淀を狙って雷撃してきたのである。魚雷は命中せず、朝霜が対潜攻撃に向かったが天候の悪化に乗じて逃げられている。その後、足柄も雷撃を受けたが損害なし。潜水艦の次は敵機が出現し、爆撃を受けるなど平穏とは程遠い猛攻が続く。木村少将は高速航行が出来る霞、朝霜、足柄、大淀と、燃料不足で高速が出せない榧、杉、樫の二つに艦隊を分けた。執拗な攻撃が続いているため、巡洋艦だけでも先に帰投させる狙いがあったようだ。12月28日18時30分に霞、朝霜、足柄、大淀が、翌29日午前11時30分に榧、杉、樫がカムラン湾に入港。最後の攻撃作戦は成功に終わった。戦死者は135名(うち清霜乗員が79名)であった。
礼号作戦は成功に終わった。ミンドロ島のアメリカ軍は日本軍の逆上陸があると信じて疑わず、大して消火活動を行わずに来攻を待ち受けた。その結果、物資がみるみるうちに焼失したとか。しかしこの程度の損害ではアメリカ軍を止める事が出来ず、1945年1月9日にルソン島の攻略が始まっている。戦後、志摩中将は「戦略的には何ら価値も無く、いたずらに敵をしてこの方面に兵力の増援と警戒心を喚起せしめただけだった」と回想している。
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