さまよえるオランダ人とは18世紀のイギリスで発祥した怪談で、欧米圏の船乗りには数百年にわたり最も恐れられている幽霊である。比較的近年に目撃者(被害者)も出ている。
今から300年ほど昔、オランダのアムステルダム港から南洋のバタビア(現ジャカルタ)港まで、帆船で航海するのに3か月もかかっていた。まだスエズ運河がなく、アフリカの南端(喜望峰)を回る必要があったのだ。ところがオランダ人デッケンが船長を務めるフライング・ダッチマン号(ネプチューン号とする資料もある)は、わずか1か月での航海に成功する。
バタビア港にいた他の船長たちは「そんなはずはない」と口ぐちに否定し、あげくデッケンと口論になってしまう。デッケンは「だったら、さらに日数を縮めてやる」と宣言し、船長らは「そんなことができたら世界一のダイヤをくれてやる。できなければ世界一の大ぼら吹きだ」と言いかえした。
名誉をかけた大博打に乗ったデッケンは、積荷の支度を整えて好機の訪れを待った。そして5月13日の夜明け、ついに強い東風が吹くや、船員らに出発を指示。しかし縁起かつぎの船乗りたちは「今日は13の金曜日なので船出はよくない」と尻込みしてしまう。「このチャンスを逃せるか」とデッケンが強引に船出を決定すると、心配は杞憂だったのか東風に乗った船は20日かかるインド洋をわずか5日で渡り切った。
このペースならば賭けに勝てる、と確信したデッケンだったが、フライング・ダッチマンが喜望峰に差しかかったその時、突然風が西向きの猛烈な嵐に変わった。文字通りの逆風にめげず、デッケンはメインマストの帆を下ろさせ、自分で舵をとると昼夜をわかたず7週間にわたって嵐と戦い続けた。だがいっこうに嵐はやまず、しかも船は逆風にあった日とまったく変わらぬ位置にあることがわかった。
デッケンの怒りの矛先は、こんな運命を与えた神に向けられた。「神め、呪ってやる。悪魔よ力を貸せ!貴様の魔力で喜望峰を突っ切って船を進めてくれ!そのかわり、俺の魂をくれてやるぞ!」呪いの言葉を吐いたとたん、それまで吹き荒れていた嵐はピタリとやんだ。しかしデッケンの乗るフライング・ダッチマンも霞のごとく薄れてついに消え失せてしまった。
それから幾年も経ち、デッケンの記憶が人々の記憶から薄れかけたころ、大西洋の港に奇怪な噂がたちはじめた。
「嵐の起こる前の日、海上に恐ろしい幻の船が現れる」
その帆船は帆がボロボロに破けているにも関わらず、強風に逆らって突き進もうとしており、甲板には髪を振り乱して発狂した船長が、必死になって何やらわめき叫んでいる。船は霞のようにすぐ消えてしまうが、数時間後に必ず第一発見者が死ぬ、という。ある者は帆げたから甲板へまっさかさまに墜落死し、ある者は理由もないのに夜のうちに海へ身を躍らせ、またある者は寝ているうちに冷たくなっていた。
幽霊船となったフライング・ダッチマンの目撃者はしだいに増え、いつしかこの怪奇譚はヨーロッパ中に広まっていった。
怪談はおおむねこのような内容であるが、記録として残っている最も古い文献は1795年の「ボタニー湾への旅」で、「船長がオランダ人で、遭難したすえ幽霊になった」という基本設定以外、違う点がいくつか見受けられる。船長の名前も「デッケン」だったか定かではないようだ。おそらくは初期の噂が伝言ゲームなどによって変化発展し、このような怪談の形となったものと思われる。
この怪奇譚はドイツ詩人ハインリッヒ・ハイネやリヒャルト・ワグナーによって文学、演劇化されてさらに知名度をあげたが、そのままただの伝説として終わらなかった。
1881年、世界一周の航海をしていたイギリスの海軍練習船バッカント号に、当時のイギリス王太子ジョージ五世(現エリザベス女王の祖父)が乗り込んでいた。これはイギリス王室の習わしで、王座に就く前に軍人生活を送って体を鍛え、世界を回って見分を広める目的があった。
7月11日、バッカント号は南アメリカの東海岸を南へ進み、ホーン岬からかなり離れた洋上を航行中であった。その夜は空一面に雲でもかかっていたのか、月も星もない真っ暗闇ながら、海は極めて穏やかだったという。甲板勤務についていたジョージ五世は、13人の同僚とともに300m離れた洋上に、ぼうっとした赤い光を目撃した。
「あれは噂に聞く幽霊船フライング・ダッチマンに違いない!」と水兵のひとりが大声で叫んだ。その言葉に釘づけとなった水兵らが吸い込まれるように赤い光を見ていると、帆がぼろぼろになった古い帆船が浮かび上がった。不可解なことに、帆船の周りだけ強風が吹き荒れており、荒波に突き進む帆船の甲板では、船長らしき男が髪を振り乱しながら意味をなさぬ言葉をわめきたてていた。
その船は30分あまり見えていたが、やがて現れた時と同じように消え失せて、海は再び暗闇に戻ったという。ジョージ五世ら目撃者らは「今のは夢か幻か」と互いの顔を見合わせたが、一度に10人以上の人間が同じ幻覚を見ることが果たしてありえるだろうか。
……その数時間後、最初に幽霊船を発見し大声で叫んだ水兵がマストの帆げたから甲板に落ちて死んだ。
怪談として非常に興味深い「さまよえるオランダ人」だが、洋上に行かないと見ることができない、伝説通りに死者が出ている、といった理由からか、ネタにされることは少ないようである。海外の映像作品では映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズに見られる程度だろうか。ちなみに欧米のスポーツ業界ではオランダ人、オランダ系というだけで「さまよえるオランダ人」と愛称をつけられることがある。
キリスト教の概念が絡んでいるため、神道・仏教国の日本ではほとんどネタにされることはなかったが、近年になって尾田栄一郎の漫画「ONE PIECE」で鼻歌のブルックの初登場イメージや、魚人島編の敵役において「さまよえるオランダ人」が取り入れられた。
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最終更新:2025/12/06(土) 02:00
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