天天天国地獄国カバー曲配信問題 単語

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天天天国地獄国カバー曲配信問題とは、ミュージシャンのAiobahn氏が作曲した楽曲を、タカオカミズキ氏がカバーした事に端を発する、著作権に関する問題である。

本記事では、この問題の経緯の説明をした上で、著作権の仕組みに基づく解説と検討を行う。

経緯

きっかけ

Aiobahn氏が作曲した楽曲『天天天国地獄国』のカバーを、タカオカミズキ氏が制作。これを、ニコニコ動画やYouTubeといった動画共有サービス、Spotifyといった音楽サブスクリプション・サービス等で配信し始めた。

詳細は後述するが、この『天天天国地獄国』は、NexToneという著作権管理団体が権利を管理しているとされており、NexToneと契約したりすれば、楽曲をクリーンにカバー出来る状態となっていた。

→【問題1】当該カバー曲は合法なのか?

Aiobahn氏による反応①

同月、作曲者であるAiobahn氏は、当該カバー曲に対して否定的な発言を行った。

2025年9月3日現在で確認出来る最古のXのポストは、2025年8月26日の物で、次の様に主張している。

  1. 事前に話を通さずに、サブスクリプション・サービスで配信された。
  2. 当該原曲をサンプリングしていると疑っている。ただし、これはどうしようも無い。
  3. こちらがクレームを出したのに、あちら側が「法の隙間」を狙って逆にクレームを仕掛けてきた。

このポストでは、はっきりと何について語っているかは明言していないが、多くの人物によって、タカオカミズキ氏によるカバー曲についての発言だと受け取られた。

そして、Aiobahn氏のファンから同情の声があがった一方で、法的に問題ないという指摘もされた。

→【問題2】当該カバー曲は「法の隙間」なのか?

Aiobahn氏による反応②

法的に問題ないという指摘があった為か、8月27日、Aiobahn氏が再び口を開いた。

要約すると、次の通りである。

  1. 法的に問題ないからこそ、自分やレーベル(エイベックス)からは何も出来ないし、ただのお気持ち表明にしかならないのだろう。
  2. だからといって、私の意思を無視してまでやっていいのかという話である。
  3. どうしようもないので諦めるが、悲しい。

一連のAiobahn氏の発言によって、XやYouTubeのコメント欄等で、Aiobahn氏の支持者が「原作者の意思を尊重すべき」とタカオカミズキ氏を批判し始めた。

その一方で、著作権制度を重視する立場からは、「それでは著作権管理団体の意味が無くなってしまう」と反論がなされた(後述)。

→【問題3】当該カバー曲で「原作者の意思を尊重すべき」論は妥当なのか?

タカオカミズキ氏の反応

9月1日になり、当のタカオカミズキ氏が反応し、次の様に発言した。

  1. 楽曲の権利がAiobahn氏の意向とは異なる形で管理されているのではないか。
  2. 権利はレーベル(エイベックス)から著作権管理団体(NexTone)に管理委託されているから、サブスクリプション・サービスでも利用可能な状態になっている。
  3. Aiobahn氏にはレーベルに確認することを勧める。

Aiobahn氏のログアウト宣言

9月1日深夜、Aiobarn氏はXをログアウトする宣言をした。この中では、「ちょっと気持ちを語っただけ」だと弁明をした。

解説と検討

当該カバー曲は合法なのか?

本事案において、『天天天国地獄国』(以下「当該原曲」と言う。)のカバー曲を制作し、それを動画共有サイトや、有料サブスクリプション・サービスで配信する事は、合法である可能性が高い

先述の通り、当該原曲の著作権の多くは、NexToneという著作権管理団体が管理しているとされる(NexTone作品コード:N01563433)。この「著作権管理団体」とは、雑に言えば「著作権の管理を代わりに勝手にやってくれる団体」の事である。特に有名なのがJASRACとNexToneであり、これらでは、他者に有料で著作物の利用を許諾して、そのお金を権利者に分配している。

つまり、NexToneに許諾を得れば、その許諾の範囲内で、当該原曲の利用が許されるのである。この観点で本事案を検証すれば、次の通りとなる。

  • ニコニコ動画とYouTubeは、それぞれの運営会社がNexToneと契約を結んでおり、NexToneが管理している楽曲が利用できる。
  • サブスクリプション・サービスでの配信では、利用者自身がNexToneと契約する必要があるが、タカオカミズキ氏はJASRACとNexToneの許諾番号を公表している為、契約をしている可能性が高い。
  • NexToneの当該原曲の著作権管理範囲に、インターネット上での利用も含まれている。

以上のことから、合法の可能性が高いと言える。

当該カバー曲が合法でない可能性は考えられるのか?

仮に合法ではない可能性として考えられるのは、主に、次の2点である。

  • タカオカミズキ氏とNexToneとの間の契約が適切でなかった場合
    1. NexToneの使用料は、楽曲の利用形態や曲数等によって異なり、その処理を適切に行わなかった等があげられる。
    2. しかし、本事案がこれに該当するという根拠は現時点において無い。
  • Aiobahn氏とエイベックスとの間の契約が適切でなかった場合
    1. 当該原曲の権利者は、NexToneによるとエイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社とされている。その為、著作者であるAiobahn氏から、エイベックスに著作権を移転する手続きが不適切だった場合、NexToneによる利用許諾がそもそも不適切である可能性がある。
    2. ただし、本事案がこれに該当する根拠は現時点において無い。一般的に考えれば、アーティストのレーベル所属契約に、著作権に関する規定も含まれている可能性が高いと考えられる。
  • タカオカミズキ氏がレコード製作者の権利(原盤権)を侵害していた場合
    1. 「レコード製作者の権利」(原盤権)は、NexToneの管理範囲外である。その為、当該カバー曲で当該原曲音源をそのまま使用していた場合、原盤権の侵害が成立しうる。
    2. ただし、本事案がこれに該当する根拠は現時点において無い。Aiobahn氏も「サンプリング」について言及しているが、「怪しいがどうしようもない」としており、根拠は示せていない。
    3. なお、Aiobahn氏が「レコード製作者」に該当するか、該当するとして今も権利を持っているか(エイベックス等の他者に譲渡していないか)は不明である。

当該カバー曲は「法の隙間」なのか?

まず、Aiobahn氏の言う「サンプリング」については現時点で根拠が示されておらず、氏自身も「怪しいがどうしようもない」という旨の発言をしている為、置いておく。

「サブスクリプション・サービスでの配信」については、「法の隙間」とは言いづらい。

前述の通り、当該カバー曲は、世間一般で広く用いられている「著作権管理団体」という仕組みによって、楽曲の利用許諾を得ている可能性が高い。その為、その許諾に則ってカバーを制作し配信する事は、「法の隙間」ではなく、むしろ「真正面に法に則った行為」と言える。

当該カバー曲で「原作者の意思を尊重すべき」論は妥当なのか?

「原作者の意思を尊重すべき」という論調は、二次創作に関する議論でしばしば出てくる物である。

本事案においても、Aiobahn氏やその支持者の一部が、この論理を主張している。しかし、この論理を本事案に採用してしまうと、現状の音楽著作権管理団体の仕組み自体が破綻してしまう

そもそも、JASRACやNexToneといった音楽著作権管理団体という仕組み自体が、原作者と利用者がやり取りする手間を省くという性質の物なのである。管理団体と契約を行った上での利用を、この論理で否定してしまえば、JASRACやNexToneは正常に機能しなくなってしまい、誰も安心してこれらを利用できなくなってしまう。

もし、原作者が「私の意思を尊重すべき」と考えるならば、究極的には、管理を委託する範囲を限定するとか、自前ですべての権利を管理するといった対応が必要であるだろう。

この様に、著作権は創作物全般に関わる物であるから、1つの事案のみで物事を考えるのではなく、視野を広く持って考えなければ、様々な問題が生じてしまうことに注意が必要である。

関連リンク

関連項目

  • Aiobahn
  • タカオカミズキ
  • 著作権
  • カバー曲
  • 大地讃頌 - PE'Zカバーにおける類似事例。この事例では、原曲をアレンジをしていた為、JASRACでは管理されない翻案権や同一性保持権も関係してくる。

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最終更新:2025/12/08(月) 12:00

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