手形割引 単語

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手形割引とは、支払期日に到達していない手形を銀行や貸金業者に譲渡し、すぐ使える銀行預金に換金することをいう。


※本記事において、銀行とは、預貯金取扱金融機関すべてを指す。

※また、本記事において、貸金業者とは、「ノンバンク」という通称で呼ばれる存在で、貸金業法に基づいた制度に登録して金銭貸付を生業とする業者のことを指す。
 

概要

企業が商品を購入するとき、手形で代金を支払うことがある。手形を受け取った人は、手形の支払期日まで待ち、支払期日を含んだ3営業日の間に銀行へ持ち込み、手形を銀行預金に換金する。

手形の支払期日まで待ちきれず、今すぐに銀行預金に換金したいと思ったら、銀行や貸金業者に対して、手形割引を依頼することになる。

手形割引を依頼するものを割引依頼人、手形を割引いて引き受けたものを割引人、割引かれた手形のことを割引手形という。割引手形の略称は割手(わりて)

割引人になる者は、銀行や貸金業者がほとんどである。
 

割引料を引いた金額を割引依頼人に渡す

割引人が割引依頼人に渡す銀行預金の額は、割引手形の額面金額から、割引料を引いたものになる。

割引料の計算式は、次のようになる。

割引料=手形の額面金額×(支払い期日までの日数÷365)×年利の割引率×0.01


(支払い期日までの日数÷365)で、支払期日までの日数を、支払期日までの年数に変換している。

割引率は、元本に対する一年分の利息の割合のことで、百分率で表示される。割引率が3%で元本100円なら、一年分の利息は3円になる。

180日後に100万円が支払われる手形を割引率5%で手形割引すると、100万円×(180÷365)×5×0.01=2万4658円と計算でき、割引料が2万4658円で、割引依頼人に渡される銀行預金は97万5342円になる
 

手形の振出人が債務不履行をしたら、割引依頼人に遡及義務が生じる

手形というものは、資金力が高い優良企業が振り出すこともあるが、資金力が低い貧乏企業が振り出すこともある。

貧乏企業に対して商品を納入して、貧乏企業の振り出す手形を代金として受け取り、その手形を手形割引してもらったとする。そのあと、貧乏企業が手形の債務を履行できなくなり手形を不渡りにしたら、手形割引を依頼した割引依頼人に対し、割引人が手形の額面を支払うように要求する。

手形割引というのは、割引依頼人が割引人に向けて手形を裏書譲渡するという形式で行われる。手形の裏書譲渡を行うと、手形が不渡りになったときに、その手形の最終所持人に対して支払い責任を負うことになる(手形法第15条)。このことを、「手形を裏書譲渡すると、裏書譲渡した者に遡及義務が生じる」とか「手形の最終所持人は、裏書人に対する遡求権(リコース)がある」と表現する。
 

手形の振出人が債務不履行をしたら、銀行に買戻請求権が発生する

手形割引を銀行が行う場合は、割引人である銀行と割引依頼人との間に、銀行取引約定書という誓約書が作成される。その銀行取引約定書には、買い戻し特約について書かれている。

銀行が保有する手形が不渡りになったとき、銀行は、割引依頼人に対する買戻請求権を行使して、「この不渡りになった手形を買い戻せ」と要求できる。割引依頼人がその銀行にお金を預けている場合、銀行は割引依頼人の銀行預金を手形の金額だけ削除して、そうやって手形を割引依頼人に返却する。これを法律用語で「割引人の買い戻し債権と、割引依頼人の預金債権の、相殺」と表現する。

簡単に言ってしまうと、割引依頼人のお金を預かっている銀行は、割引依頼人の財布を握っているのと同じなので、割引依頼人の財布からお金を召し上げることができる、ということになる。これができるのは、銀行(預貯金取扱金融機関)のみの特権といえる。


手形が不渡りになったとき、割引人が銀行か、そうでないかで、行使する権利が異なる、ということになる。そのことを簡単にまとめると、以下のようになる。
 

割引人 銀行(預貯金取扱金融機関 貸金業者ノンバンク
割引手形が不渡りになったときに行使する権利 買戻請求権 遡求権
その権利の根拠 手形割引のときに作成した銀行取引約定書 手形法第15条

 

割引人にとっての担保付き融資になる

手形割引は、銀行や貸金業者にとって、手形を担保とした融資(金銭消費貸借契約)という位置づけになっている。担保とは、返済が履行されないときのために債権者が差し押さえておく財物のこと。


普通の担保付き融資は、次のような流れになる。

お金を100万円貸し付けて、その担保として105万円分の金塊を差し押さえておく。100万円に利息を付けた額のお金を約束通りに債務者が支払ってくれない場合、金塊を売却して105万円を確保する

返済期日が来たらとりあえず債務者に金銭の返済を促し、返済されないなら初めて担保の財物を換金する。



手形割引は、手形を担保とした融資となり、次のような流れになる。

お金を100万円貸し付けて、その担保として105万円分の手形を差し押さえておく。100万円に利息を付けた額のお金を債務者が支払ってくれないということは分かっているので、手形を銀行に呈示して105万円を確保する

返済期日が来ても債務者に金銭の返済を促さず、すぐさま担保の手形を換金する。普通の金銭貸借契約とは取り立て方が少し異なっている。
 

割引人の種類による手形割引の違い

手形割引のほとんどは銀行(預貯金取扱金融機関)か、貸金業者(ノンバンク)の2種類が行っている。


銀行の手形割引と、貸金業者の手形割引は、すこし傾向が異なるとされている。

銀行の割引率は2~5%あたりで、貸金業者の割引率は3~20%とされている(資料記事)。つまり、銀行で手形割引をすると多くのお金に換金できるのに対し、貸金業者で手形割引をすると少ないお金にしか換金できない。

銀行の審査は厳しめで、担保や連帯保証人を要求することもある。貸金業者の審査は緩めで、基本的に担保や連帯保証人を要求しない。

銀行は、割引依頼人の信用力を重視し、割引依頼人の信用力に応じて割引するかどうかを決める。日本を代表するような超優良大企業が振り出した手形を貧乏な中小企業が入手して、その貧乏企業が銀行に手形割引を依頼する場合、ひょっとしたら手形割引を断られるかもしれない。

貸金業者は、手形の振出人の信用力を重視する傾向にあるといわれている。日本を代表するような超優良大企業が振り出した手形を貧乏な中小企業が入手して、その貧乏企業が銀行に手形割引を依頼する場合、手形割引をする可能性が銀行よりも高い。


表にしてまとめると、次のようになる。

割引人 銀行(預貯金取扱金融機関 貸金業者(ノンバンク)
割引率 低めで、割引依頼人は大目に銀行預金を入手できる 高めで、割引依頼人は比較的に少ない額の銀行預金を入手することになる
審査 厳しい。担保や連帯保証人を要求することもある 緩い。基本的に、担保や連帯保証人を要求しない
重視する信用力 割引依頼人の信用力を重視する 手形振出人の信用力を重視する

 

売買説と貸借説

手形割引を法律的にどう捉えるかについて、売買説と貸借説で法律界の意見が分かれている。
 

売買説

手形を商品と扱い、手形割引を売買と見なす法律学者は多く、従来の通説とされている。また、その考えに沿った最高裁の判例がある。
 

本件各約束手形は、上告人石橋食品工業株式会社が商品売買代金支払いのために振り出したいわゆる商業手形であって、被上告人は、上告人株式会社永松商店の代表者上告人永松亀一からその現金化を依頼され、原判示の割引料名義の金額を差し引いた金員を交付して、右手形の裏書譲渡を受けたものであり、右手形の授受は手形自体の価値に重点を置いてなされたものであり、手形以外に借用証書の交付や担保の提供はなされなかったなど、原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人株式会社永松商店と被上告人との間の本件各約束手形の授受はいわゆる手形の割引として手形の売買たる実質を有し、前記金員の交付は手形の売買代金の授受にあたるものであって、これについては利息制限法の適用がないとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

1973年(昭和48年)4月12日 最高裁第一小法廷判決

 

貸借説

一方、貸借説を唱える法律学者も存在する。貸借説を支持する法律学者が書いた学術文章の1つはこちらである。

貸借説に基づいて立法された法律が、いくつか存在する。出資法第7条貸金業法第2条貸金業法第42条が、手形割引を金銭消費貸借と見なしている。

銀行法第10条は銀行の業務を定めているが、その第2項で「資金の貸付け又は手形の割引」と書いており、手形割引を貸付の1つとみなす思想をにじませている。
 

手形割引の利息上限

手形割引の利息上限がどうなるかは、先ほどの項目に大きく影響される。
 

売買説に従うと割引料が制限されず、貸借説に従うと割引料が制限される

手形割引売買説に従うと、利息制限法にも出資法にも貸金業法にも該当しないことになり、割引料が制限されない。このため、割引料を高く設定することができ、額面金額に比べて非常に安い値段で手形を買い叩くことができる。

手形割引貸借説に従うと、利息制限法や出資法や貸金業法によって割引料が制限される。割引料というのは利息と同じと扱われる。
  

銀行や貸金業者が手形割引をするときの利息上限

金銭の貸借を業とする者、すなわち銀行や貸金業者は、年間利息20%が上限となる。出資法第5条第2項でそのように定められており、違反した場合は5年以下の懲役または1000万円以下の罰金となる。

金銭の貸借を業とする者、すなわち銀行や貸金業者が、年間109.5%(一日に換算すると0.3%)を超える利息を得ると、さらに厳しい罰を科せられる。出資法第5条第3項によって、違反者には10年以下の懲役または3000万円以下の罰金が科せられる。さらに、貸金業法第42条によって、金銭消費貸借契約そのものが無効化される。

さらに、利息制限法第1条で、すべての人に対して、「元本が10万円未満なら年間利息20%、元本が10万円以上100万円未満なら年間利息18%、元本が100万円以上なら年間利息15%。それを超えたら無効である」と定めている。利息制限法には罰則規定がなく、違反しても警察に捕まえられないのだが、違反すると金融庁など行政機関から行政処分を受ける。そのため、利息制限法を守る銀行・貸金業者が多い。


表にまとめると、次のようになる。

条文で定める金利上限 違反したときの制裁
利息制限法第1条 元本が10万円未満なら年間20%以下、元本が10万円以上100万円未満なら年間18%以下、元本が100万円以上なら年間15%以下 警察や裁判所の厄介になるわけではないが、金融庁などから行政処分を受ける。
出資法第5条第2項 年間20%以下 警察に逮捕され、裁判に掛けられる。有罪判決なら5年以下の懲役または1000万円以下の罰金
出資法第5条第3項

貸金業法第42条
年間109.5%(一日に換算すると0.3%)以下 警察に逮捕され、裁判に掛けられる。有罪判決なら10年以下の懲役または3000万円以下の罰金。さらに、金銭消費貸借契約そのものが無効化される

 

銀行・貸金業者以外の者が手形割引をするときの利息上限

金銭の貸借を業とする者(銀行・貸金業者)以外の存在が、手形割引をすることがある。その場合は、貸金業者よりも高い金利を得ることを認めている。


金銭の貸借を業とする者(銀行・貸金業者)以外の存在が、年間109.5%(一日に換算すると0.3%)を超える利息を得ると、罰を科せられる。出資法第5条第1項によって、違反者には5年以下の懲役または1000万円以下の罰金が科せられる。

利息制限法第1条で、すべての人に対して、「元本が10万円未満なら年間利息20%、元本が10万円以上100万円未満なら年間利息18%、元本が100万円以上なら年間利息15%。それを超えたら無効である」と定めている。ただ、利息制限法には罰則規定がなく、違反しても警察に捕まえられない。また、貸金業者以外の存在なら、金融庁などの行政機関から行政処分を受けることもない。


表にまとめると、次のようになる。

条文で定める金利上限 違反したときの制裁
利息制限法第1条 元本が10万円未満なら年間20%以下、元本が10万円以上100万円未満なら年間18%以下、元本が100万円以上なら年間15%以下 特に罰則がないので、警察や裁判所の厄介になるわけではない。銀行・貸金業者以外の存在なら、行政処分を受けない。
出資法第5条第1項 年間109.5%(一日に換算すると0.3%)以下 警察に逮捕され、裁判に掛けられる。有罪判決なら5年以下の懲役または1000万円以下の罰金

 

でんさい割引

2008年12月1日から、手形に酷似したものとして、電子記録債権(電子債権、でんさい)の運用を開始することができるようになった。

それと同時に、銀行・貸金業者が、電子記録債権の割引をするようになった。でんさい割引という名でサービスを提供する銀行・貸金業者が多い。期日が来る前の電子記録債権を銀行・貸金業者が受け取り、その対価として、割引料を引いた額の銀行預金を割引依頼人の口座に振り込むのである。

手形と電子記録債権はとてもよく似ているので、手形割引とでんさい割引もよく似ている。ただ、一点だけ違うところがあり、手形割引は分割ができないが、でんさい割引は分割できるというところである。100万円の手形は全く分割できず、100万円手形1枚をそのまま割引依頼するしかない。一方、100万円の電子記録債権は分割することが可能で、「10万円だけをでんさい割引してもらい、90万円は電子記録債権のままにする」ということが可能である。
 

関連リンク

Wikipedia記事

コトバンク記事

関連項目

  • 売掛債権
    • 手形
    • 電子記録債権(電子債権)
    • 売掛金
  • 融通手形
  • 手形貸付
  • ファクタリング
    • 保証ファクタリング
    • 国際ファクタリング
  • 抗弁
  • 手形抗弁
  • 原因関係
  • 簿記
    • 貸借対照表(バランスシート)
  • 民法
    • 民法(日本)

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