「本好きの下剋上 〜司書になるためには手段を選んでいられません〜」とは、ネット小説である。書籍版も発売されている。
作者は香月美夜。小説投稿サイト「小説家になろう」に2013年9月から投稿されている。「小説家になろう」に投稿されている小説には「異世界もの」「転生もの」が多いが、この作品もそれらの内の一つである。
多数の類似作品に埋もれないようにするためか、「主人公が貧乏な家に生まれた非力で病弱な幼児」「転生前の曖昧な知識を使っても中々うまくいかない」など、他の異世界転生ものと比べてやや珍しい要素が多い状態から物語が始まっている。
しかし本や図書館を偏愛する主人公は、何度失敗しても本を手に入れるための試行錯誤の努力を続け、協力してくれる仲間も得て、少しずつ念願の本へと近づいていく。
そういった一歩一歩進むような地道な描写も魅力ながら、時にはタイトルにある「下剋上」の言葉通り主人公の社会的立場が大きく変化するような大事件が起こるなど、ダイナミックな展開も織り交ぜられている。
主人公は活字中毒で、読書や本や図書館に対して度を越えた程の愛を注いでいる女子大生。大学卒業後に図書館に司書として就職することも決まっており、前途は洋々であるかのように思われた。しかしある日、本に囲まれて読書をしていたときに地震が発生。倒れてきた大量の本に押しつぶされたところで、彼女の意識は暗転した――。
そして熱に浮かされるようにして目が覚めると、自分が病弱な5歳の少女になっていることに気付いた。その幼い少女「マイン」の記憶が流れ込んできた彼女は、自分が貧しい兵士の娘になっていることを理解する。そして魔法や神や魔獣などが存在する「ここ」は、明らかに歴史上の中世ヨーロッパなどですらなく、ファンタジー小説に出てくるような異世界だった。
そんな異常事態におかれても、書物を偏愛する彼女は本を読みたいという欲望を滾らせる。だが、この世界は識字率が低く、紙と言えば高価な羊皮紙しかなく、さらに本も手で書き写す貴重な「写本」しかないようなところだった。当然、貧しい平民の彼女には値の張る本を購入することなど不可能である。
それでも読書を諦めきれない彼女は、自分で紙や本を作ることを目指しはじめる。幼く病弱すぎる体のせいで空回りばかりだが、逆境を乗り越えて再び本をその手にすることはできるのか?
「こうなったら、手段は選ばない。絶対に本を手に入れる!」
WEB連載版の目次ページには、
※最初の主人公の性格が最悪です。ある程度成長するまで、気分悪くなる恐れがあります。
と注意書きが記されている。
最序盤の主人公マインは、生まれ変わった先の貧しい家族に対して「不潔で見苦しい」などと心中で罵りつつ、「本を読みたい」という自分の目的のために振り回して迷惑をかけるなど、かなり性格に難点がある人物として描写されている(書籍版では少し描写が抑えられた部分もある)。
だがストーリーが進むにつれて、マインにとって家族はかけがえのない存在になっていく。最初が「最悪」だった主人公の心情が徐々に変化していく様子は、逆に本作の見どころの一つとも言えるかもしれない。
2015年1月から、ソフトカバー単行本レーベル「TOブックス」より書籍版が発売されている。書籍版の挿絵は椎名優。電子書籍版がニコニコ静画(電子書籍)でも配信されており、各巻の冒頭が試し読みできる。第1巻の試し読み部分だけでもわかるがネット連載版から改稿・加筆されており、さらに描き下ろし番外編なども収録されている。
TOブックスの大きな判型(四六判。「講談社ノベルス」などの「新書版」よりさらにでかい)で、しかも結構厚い(特に3巻)のでちょっと重い。文庫本気分で鞄に入れて持ち歩くのは躊躇する質量。かなりの分量が書き溜められたウェブ連載版を、切り詰めずに出版することを目指した結果である。
書店ではライトノベル関連の棚に置かれていることが多いが、一般書籍の棚に置かれていることもある。これはTOブックスが小説専門レーベルではなく、グルメ本や動物本などさまざまなジャンルの本を出しているレーベルである関係かと思われる。
さらに、児童書コーナーに置かれている場合もあるとのこと。これは表紙イラストの印象が関係しているかもしれない。イラスト担当の「椎名優」氏は児童書レーベル「角川つばさ文庫」レーベルの児童書の表紙絵も複数担当しており、主人公が幼い少女という事もあって、本作の表紙にも少し児童書っぽい雰囲気が出ている。
「本好き」というところが共感を呼ぶのか書店員などからの評判がいいようで、TOブックス公式サイト内の本作特設ページでは様々な本屋の店員からの推薦コメントが紹介されている。
また、主人公が図書館好きなためか図書館業界(?)からも注目され、少年写真新聞社の学校図書館向けニュース「図書館教育ニュース」や図書館問題研究会の月刊誌「みんなの図書館」でも紹介された。
※著者本人がインタビューや活動報告などで参考にしていると言及した書籍の一部。本作を読んだ後にこれらの参考文献も読むと、「あの描写はこの本のこの部分からきているのかも」と想像する楽しみが生まれるかもしれない。
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最終更新:2025/12/07(日) 01:00
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