核融合とは、水素やヘリウムなどの軽い原子核が融合して重い原子核になる反応である。
原子核には、原子核同士が引き合う力(核力)と反発する力(クーロン力※)がある。
核力は距離が離れるほど弱くなるため、通常はクーロン力の方が勝り、原子核同士が接触する事はない。しかし何らかの手段によって核力>クーロン力となる距離まで原子核同士を接近させてやると、2つの原子核が融合し別の原子核に変換される。
この反応が核融合である。
※ クーロン力とだけ言うと広義には引力と斥力の両方を意味するが、この場合は原子核同士の話であり、同じ電荷(+)を持つもの同士なので、クーロン力と言えば斥力を意味する。
核融合反応を起こすと、反応前の物質の総質量よりも反応後の総質量の方が少ない。
アインシュタインの特殊相対性理論:質量とエネルギーの等価性(E=mc2)という原理により、この差分の質量がエネルギーとなって放出される。(放出される形は熱だったり電荷だったり中性子だったりと様々である)
一般的には「核融合は核分裂と違って放射性廃棄物を排出しないのでクリーンかつ有用な夢のエネルギーである」と言ったようなイメージを持たれている事があるが、現実はそうそううまい話ではない。
「廃棄物」としては放射性物質を出す事は殆ど無いのである意味間違ってはいないのだが、それ以外の所では放射性物質を生じさせる所が多々あるため、少なくとも現段階の技術ではクリーンと言えるかと言うと、言えないと言わざるを得ない。
何の原子核を反応させて何の原子核に変えるのかと言う分類と、どのような手段によって反応を起こすのかと言う分類が存在する。
熱とはすなわち原子ないし分子の運動が活発である状態の事であり、温度が上昇すればするほど活発になる。
つまり、一定の空間に閉じ込めた原子の運動を活発にしてやればその分原子同士が衝突を起こす確率が高くなるため、これを利用して核融合反応を起こす手法である。
もちろん温度が上昇し運動が活発になれば膨張しようとする力が働くため、それを閉じ込めておくだけの圧力も必要である。逆に言えば、圧力によってどんどん圧縮していけばそれだけ温度が上昇する。
太陽を初めとした、一般的な恒星の内部で起こっている核融合反応は自己重力による熱核融合である。
現在の核融合炉に関する研究の主流でもあるが、恒星のような自然環境で起こる反応と違って人為的に起こす反応には、このような高温高圧の状況を確保する事が難しいという問題がある。
熱核融合を起こすためには1億℃と言った超高温が必要であるが、こんな高温ではあらゆる物質がプラズマ化してしまうため、物体による容器と言う概念が通用しない。そのためトカマク式など、磁場や電荷などによる閉じ込め方式が研究・実験されているが、まだまだ実験段階なのが実情である。
加速器などによって原子を加速してやり、原子を直接他の原子に衝突させる事で核融合反応を期待する手法。
運動エネルギーによって一時的にクーロン力を超えるという点では熱核融合と同じである。
違うのはそこに至るまでの過程だけで、自然界ではこの手の反応の仕方はあまり無い事である。
こちらは主に、エネルギーを利用するための核融合炉の研究と言うよりも、原子核そのものの研究において核融合反応を起こさせるために使われる。
これは厳密にはこれ単独で核融合を起こすための手法ではないし、また現段階ではあくまで理論上の存在である。
原子核はもとよりその中の陽子や中性子も自転(地球とかの自転と同じようなもの)をしているが、これを何らかの方法によって制御し、一定の方向に偏らせる(偏極させる)と、核融合反応が起き易くなる、と言う理論。
これを利用すれば核融合反応を起こす条件を引き下げる事が出来るのではないかと言われているが、まだ理論研究の段階である。
こちらもスピン偏極核融合と同じく、既存の核融合反応をおきやすくさせるための補助的な技術である。
文字通り、ミューオンと言う物質を触媒とするもの。
ミュー粒子(ミューオン)のうち負の電荷を持ったものを重水素と三重水素にぶつけると、それぞれの原子核がミューオンとくっついて一時的に電荷が中性になったかのような状態に陥る。このため他の原子核が接近してもクーロン力が働かず、核融合反応が起き易くなると言う現象が起こる。
これを利用するとそもそも重水素と三重水素をプラズマ状態になるまで温度を上昇させてやる必要がなくなるので、トカマク型炉のような大規模で大掛かりな炉を必要としないというメリットが存在する。実際、この手法を使って行われている核融合実験では重水素と三重水素が液体の状態でも核融合反応を起こしている。
しかしながら、そもそもこの負ミューオン自体が自然界に存在するような物質ではないため、これを生成するための装置・エネルギーが必要になるという欠点を持っている。
ミューオンはくっついた水素原子が核融合反応を起こすと放出されまた別の原子核とくっつくという循環を繰り返すが、ミューオン自体が一定の時間で自然崩壊して消えてしまうため、継続的に負ミューオンを与えてやらないと反応が継続しない。
現段階の技術ではミューオン1個につき最高でも150個程度の原子核を反応させるに留まっている。ミューオンの生成のためのエネルギーを差し引いた上でエネルギーを黒字にするためにはミューオン1個あたり500回は反応を起こしてもらわないと採算が取れないが、核融合反応によって生成されるヘリウムは原子核の電荷が水素よりも大きいため、水素よりミューオンとくっつきやすく、そして一旦くっつくとミューオンをまず放出する事がないため、ミューオンによる触媒効果の「限界」を作っているという問題が存在する。
理論上のものや可能性の話を入れると非常に多くのパターンが存在するが、キリが無いのでいくつか主流のものを記述する。
Dは重水素、Tは三重水素を表す。
それぞれ水素の同位体で、重水素は原子核が陽子1個・中性子1個、三重水素は陽子1個・中性子2個で構成される。
核融合反応の中で最も反応の条件が緩く、起き易いため、現在主流として研究されている反応である。
重水素 + 三重水素 = ヘリウム4 + 中性子 + エネルギー
この反応によって放出されるエネルギーはウランによる核分裂反応のおよそ4.5倍、石油を燃やして得られるエネルギーの8000万倍に達する。(このエネルギーの一部は下記の中性子線と言う形で放出されているため、全部が全部利用可能なエネルギーと言う訳ではない。)
問題点として、あまった中性子が非常に高エネルギーの中性子線として放出されると言う点が挙げられる。
中性子は文字通り電気的・磁気的に中性であり、現在主流のトカマク式核融合炉では閉じ込めておく事が難しく、いくらか漏れてきてしまう。
この中性子線により炉自体やその周辺の物質を放射化してしまうと言う問題が存在する。
また、原料となる三重水素が自然界には殆ど存在しない物質であり、材料を得るための施設が必要であるという欠点もある。
全く存在しない訳では無いが、あるとしても大気上層の宇宙に晒されているような部分で僅かに存在するだけなので、採取して使うなんて事はほぼ不可能である。
さらに、この三重水素はこれ自体が放射性物質であり、扱いが難しいという問題もある。(三重水素の半減期はとても短いので、核分裂によって生じた放射性廃棄物に比べたらずっとマシではあるが。)
現在の核融合炉研究では以下のような反応で三重水素が生成されている。
※ リチウム6:原子核が陽子3個+中性子3個で構成されるリチウム。リチウム7は中性子4個バージョン。
リチウム電池のアレ。自然界では92%以上がリチウム7として存在する。
上記の通りエネルギーを放出する反応と吸収する反応が混在するため、これ自体がエネルギーを産出する役割を果たす事は無いが、先述の核融合反応によって放出される中性子を利用して、燃料生成兼中性子遮断の装置としての利用が研究されている。
先述の通りDは重水素の事。重水素同士の2個を反応させる。
原始的な恒星の内部で初期に起こる反応である。
この2つの反応に付随して、生成された三重水素が先述のD-T反応を起こしたり、ヘリウム3が重水素と反応してヘリウム4と水素原子核(陽子)を精製したりする反応が僅かに起こる。
見ての通り三重水素を使わない点が最大のメリットである。
重水素は比率としては0.015%と僅かではあるが自然界に普通に存在し、そしてそもそも主な水素の存在形態である水自体が自然界に無尽蔵に近いほど存在するため、重水素もほぼ無尽蔵に得られる。
もう一つ、発生する中性子線の危険性が殆ど無い事が挙げられる。
中性子自体は発生するのだが、中性子に持たされるエネルギーがD-T反応の物と比べて非常に低いため危険性が低い。
付随するD-T反応では高エネルギーの中性子線は発生するが、全反応数の1/400以下の割合であるため、やはり反応数と同数の高エネルギー中性子線が発生するD-T反応に比べて危険度は少ない。
デメリットとしては、この反応で得られるエネルギーはD-T反応のおよそ1/5程度であるが、その代わりに反応を開始するのに要する温度がD-T反応の10倍近くに達するため、現段階ではとても実用化には及ばない技術として考えられている。(反応自体は実験的には成功しているが)
普通の水素(軽水素)=陽子同士が直接核融合反応を起こすもの。
現在の太陽など、黎明期を脱した若い恒星の内部で主に起こっている反応である。
この反応は次の3段階に分かれて起こる。
※ ニュートリノ=1の反応において陽子が1つ中性子へと変化しているため、その副産物として放出される物質。
陽電子=通常の電子と逆の電荷を持つ電子。ニュートリノと同じく中性子変換の副産物だが、
普通の電子とくっついてすぐ消える。
この反応が上記のD-T反応やD-D反応と大きく異なる点は、反応が進行するスピードが非常に緩やかであるという点である。
1の水素が重水素に変わる反応は、1つの反応が完了するのに平均して10億年もかかる。
軽水素は重水素よりもさらに自然界に大量に存在するため材料の入手性と言う点では申し分がなく、さらにD-D反応よりも放射線に関する危険性が少ない(と言うか、全くない)のだが、この通り反応の回転率が非常に悪いため、人間の尺度で測れる規模の融合炉では実用化は非常に困難というのが現状である。
Bはホウ素の事。原子核が陽子5個と中性子5~6個からなる原子である。
(中性子5個のものをホウ素10、6個のものをホウ素11。自然界ではおよそ8割がホウ素11)
ホウ素11 + 陽子 = ヘリウム4 3個 + エネルギー
見ての通り自然界に存在する物質だけで反応が構成されるため非常にクリーンである。
ホウ素自体も水素ほど無尽蔵には存在しないもののそれでも入手性は悪くなく、実用化されれば非常に期待ができる。
が、D-D反応と同じく反応を開始するための条件が格段に厳しく、実用化のメドが全く立っていない技術である。
重水素 + ヘリウム3 = ヘリウム4 + 陽子
こちらも放射性物質などを全く生じない反応である。
クリーンさに加えて、D-T反応の5~6倍程度と比較的条件が緩く、放出されるエネルギーが荷電粒子である陽子と言う形であるためエネルギー変換が非常に容易と言うメリットを持っている。
ここまでだといい事尽くめの夢のエネルギーに見えるが、原料であるヘリウム3が地球上に殆ど存在しないと言う大きな問題を抱えている。ヘリウム自体が現在既に枯渇が心配されている資源である上、ヘリウム3はその中の0.0001%程度である。
人工的にヘリウム3を生成する事は出来るが、主にリチウムに中性子線を当てて三重水素を精製し(D-T反応の下の方参照)、その三重水素がベータ崩壊を起こすのを待つという手法であるためかなり気が長い。
※ ベータ崩壊:ベータ崩壊とだけ言った場合、中性子が崩壊して陽子とその他に変化する現象の事。
陽子が1個増えるので水素がヘリウムに変わる。
なお三重水素におけるベータ崩壊は、12.5年かけて三重水素の全体数のうちの半分がヘリウム3に変わる程度の速度。
少し前にヘリウム3が月面に豊富に存在する事が明らかになり、主に中国とかがこれを最終目的とした月面探査計画を推し進めているが、月からヘリウム3を持って帰ってきて…と言うのは現段階では残念ながら絵空事と言っても過言ではないほど、実用レベルには遠い。
概要の項でも書いたとおり、既に実用化が行われている核分裂反応炉と違って「放射線を出さない」と言うイメージが多い。
しかし実際は、少なくとも現在研究の主流であるD-T反応は高速中性子を放出するため核分裂に比べて安全と言う事はまったく無い。
「放射性廃棄物を出さない」という言われ方をする事もあるが、これもD-T反応の項にある通り、直接的な残りカスと言う形でないだけで同じような問題を抱えているため、安全とは言いがたい。
もちろんD-T反応で無い核融合反応、例えばpB反応やD-3He反応を使った核融合炉が実現すれば、文字通り放射能を持つ物質を全く生じないでエネルギーを取り出す事が出来るため全くの嘘ではないが、少なくとも現段階では絵空事である。
臨界事故についての詳細は核分裂を参照。
核融合反応は少なくとも地球上の自然現象ではあり得ない高温高圧が必要であり、偶発的な事故によって反応が始まると言った事が原理上あり得ない。
この点は核分裂に比べ、現段階で明確に存在するメリットと言える。
メルトダウンとも言う。
炉心溶融についての詳細は同じく核分裂を参照。
炉心溶融には冷却機能の異常によるものと反応の暴走によるものの2つがあるが、核融合においては原理上どちらのパターンもおき得ない。
核分裂と違って反応によって生まれるエネルギーと反応を開始するために必要なエネルギーが違うため、制御を誤ったとしてもその時点で反応が停止してしまうだけであり、連鎖反応による暴走を起こす事が無い。
また何らかの理由で温度が上昇したとしても、そもそも核融合反応炉は億単位の温度を閉じ込める関係上、温度によって融解するような構造をしていないため、事故の可能性は無い。
こちらもまだまだ理論研究段階の反応を用いた炉が実現すれば、の話である。
D-T反応の項にあるとおり、現在目されている核融合炉の燃料は人工的に精製しないと手に入らない。
題名の曲では、「核融合炉にさ飛び込んでみたいと思う 真っ青な光包まれて綺麗」というサビ部分があるが
前々項目の通り炉心熔融が起きないため、歌詞としては非常におかしい
(のちに作者が公式に、核融合炉では炉心熔融が起きないことを知らなかったという無知さを謝罪している)
急上昇ワード改
最終更新:2025/12/21(日) 07:00
最終更新:2025/12/21(日) 07:00
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