純資本流出 単語

ジュンシホンリュウシュツ

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純資本流出net capital outflow)とは、経済学の言葉である。CFと略されることがある[1]。対外純投資ともいう。

概要

定義

A国の純資本流出とは、A国の資本流出からA国の資本流入を差し引いた額である。

A国の資本流出とは、ある期間においてA国が外国通貨や外国財の所有権や債権を増やすことである。

A国の資本流入とは、ある期間においてA国が自国通貨や自国財の所有権や債権を減らすことである。

閉鎖経済の国と開放経済の国

資本流出と資本流入をまったく行わず純資本流出が常にゼロの数値になる国は、完全な閉鎖経済の国と表現される。

資本流出と資本流入を行っていて純資本流出がゼロ以外の数値になる可能性を持つ国は開放経済の国と表現され、小国開放経済の国と大国開放経済の国の2種類が考えられる。

開放経済の国の恒等式その1 Y=C+G+I+CF

開放経済の国の恒等式は、Y=C+G+I+CFと書くことができる。そのことは次のように説明される。

開放経済の国において、国内の総所得Y(実質GDP)は、自国で得た資金を用いる国内消費C'と、自国で得た資金を用いる国内政府購入G'と、自国で得た資金を用いる国内投資I'と、資本流出Fの4つに対して振り分けられる。ゆえに開放経済の国の恒等式はY=C'+G'+I'+Fと書くことができる。

国内消費Cは、自国で得た資金を用いる国内消費C'と、外国から借りた資金を用いる国内消費C"の合計値である。ゆえにC=C'+C"であり、C'=C-C"である。

国内政府購入Gは、自国で得た資金を用いる国内政府購入G'と、外国から借りた資金を用いる国内政府購入G"の合計値である。ゆえにG=G'+G"であり、G'=G-G"である。

国内投資Iは、自国で得た資金を用いる国内投資I'と、外国から借りた資金を用いる国内投資I"の合計値である。ゆえにI=I'+I"であり、I'=I-I"である。

ゆえに開放経済の国の恒等式のY=C'+G'+I'+Fは、Y=C-C"+G-G"+I-I"+Fと書くことができ、Y=C+G+I-C"-G"-I"+Fと書くことができ、Y=C+G+I+F-(C"+G"+I")と書くことができる。

ここで、(C"+G"+I")というのは資本流入の総額である。そしてFが資本流出の総額である。ゆえにF-(C"+G"+I")は資本流出から資本流入を差し引いた額になり、純資本流出CFに置き換えることができる。このため、開放経済の国の恒等式はY=C+G+I+CFと書くことができる。

開放経済の国の恒等式その2 Y-C-G-I=CF

開放経済の国の恒等式は、Y=C+G+I+CFと書くことができる。それを変形すると、Y-C-G-I=CFとなる。

Y-C-Gは、国内総所得Y(実質GDP)から消費Cと政府購入Gを引いたものを指すが、特に国民貯蓄Sと呼ぶことがある[2]。つまり、Y-C-G=Sである。

Y-C-G=SをY-C-G-I=CFに代入すると、S-I=CFとなる。

国民貯蓄Sから投資Iを引いたものが純資本流出CFである[3]。投資Iは国内における投資であって国内に向けた資金の貸し付けである。純資本流出CFは外国における投資であって外国に向けた資金の貸し付けである。

S-I=CFを変形するとS=I+CFとなる。国民貯蓄Sは投資Iか純資本流出CFのどちらかに振り分けられる。

小国開放経済の国における投資と純資本流出の割合の決まりかた

Y-C-G=Sで計算される国民貯蓄Sは、投資Iと純資本流出CFに分割される。

小国開放経済の国において、投資Iと純資本流出CFの割合は投資Iの増減によって決まる。

小国開放経済の国において、政府が投資に関する税制を変更して投資に対して税的に優遇して投資需要を増やすと投資Iが増えるし、技術革新が起こって投資需要が増えると投資Iが増える。そうなると純資本流出CFが減り、投資Iと純資本流出CFの割合が変わる[4]

世界経済に影響を及ぼす大国が政府購入や消費を減らして世界共通実質利子率r*が下落すると、小国開放経済の国において投資Iが増える。そうなると小国開放経済の国において純資本流出CFが減り、投資Iと純資本流出CFの割合が変わる[5]

大国開放経済の国における投資と純資本流出の割合の決まりかた

Y-C-G=Sで計算される国民貯蓄Sは、投資Iと純資本流出CFに分割される。

大国開放経済の国において、投資Iと純資本流出CFの割合は投資Iの増減によって決まることもあるし、純資本流出CFの増減によって決まることもある。

大国開放経済の国において、政府が投資に関する税制を変更して投資に対して税的に優遇して投資需要を増やすと投資Iが増えるし、技術革新が起こって投資需要が増えると投資Iが増える。そうなると純資本流出CFが減り、投資Iと純資本流出CFの割合が変わる[6]

大国開放経済の国Aと大国開放経済の国Bがあるとする。B国が政府購入や消費を減らして実質利子率を下落させれば、B国発のキャリートレードが発生し、A国で純資本流出CFが減り、投資Iが増え、投資Iと純資本流出CFの割合が変わる[7]

大国開放経済の国Aと大国開放経済の国Bがあるとする。B国で革命や内乱が勃発すると、B国の投資需要が減少して投資が減りつつ実質利子率が下落したり、B国の将来不安が高まって消費が減って国民貯蓄Sが増えて実質利子率が下落したりする。B国の実質利子率が下落すると、B国発のキャリートレードが発生し、A国で純資本流出CFが減り、投資Iが増え、投資Iと純資本流出CFの割合が変わる[8]

純輸出と純資本流出の一致

純輸出と純資本流出は必ず一致する[9]

Y=C+G+I+CFの恒等式が成り立ち、Y=C+G+I+NXの恒等式が成り立つのだから、CF=NXになる。

純輸出と純資本流出は必ず一致することを確認するには例を考えてみることが有効である。本記事において『純輸出と純資本流出が変動しない例』の項目や『純輸出と純資本流出が同じ額だけ変動する例』の項目で例を挙げていく。

現実世界で多く行われる貿易決済における純資本流出の変化

入門者向けの経済学の教科書で2ヶ国間の国際貿易を説明するときは、「輸入国が自国通貨を紙幣で渡して代金を支払う」と説明することが多い。例えば、「日本の業者がタイの業者から財やサービスを輸入するとき、日本の業者が日本円の紙幣をタイの業者に支払う」と説明する。

しかし現実には、2ヶ国間の国際貿易をするときに、アメリカ合衆国の銀行に預けてある米ドルを使うことが極めて多い。例えば、日本の業者がタイの業者から財やサービスを輸入するとき、日本の業者もタイの業者もアメリカ合衆国の銀行に口座を持っていることが極めて多いので、日本の業者の口座からタイの業者の口座へ米ドルで銀行振り込みされる。

本記事の『現実世界で多く行われる貿易決済における純資本流出の変化』の項目では、アメリカ合衆国の銀行を使って米ドルを振り込む形で国際貿易をするときに資本流出や資本流入や純資本流出がどうなるかを考察する。

純輸出と純資本流出が変動しない例

2ヶ国が相互に輸出して2ヶ国とも純輸出がゼロになる

タイの国民が日本の国民にサービスを輸出して5千万円ぶんの日本円紙幣を代金として受け取り、タイの国民が5千万円ぶんの日本円紙幣と引き換えに日本企業が生産するサービスを購入したとする。そしてタイと日本の両国はそれ以外の国際貿易や国際的資本移動を全く行わなかったとする。

タイにとって輸出と輸入が同じ額だけ増えたので、純輸出はゼロのまま一定である。

日本にとって輸出と輸入が同じ額だけ増えたので、純輸出はゼロのまま一定である。

タイにとって外国通貨の所有権がいったん増加してから外国通貨の所有権が減少して一定を保ったので、タイの資本流出がいったん増えて同じ額だけ減少してゼロのまま一定となり、純資本流出もゼロのまま一定である。

日本にとって自国通貨の所有権がいったん減少してから自国通貨の所有権が増加して一定を保ったので、日本の資本流入がいったん増えて同じ額だけ減少してゼロのまま一定となり、純資本流出もゼロのまま一定である。

両替だけをして輸出や輸入をせず純輸出がゼロになる

タイの国民がバーツ売り円買いの両替をしたとする。日本の国民は円売りバーツ買いの両替をしたことになる。そしてタイと日本の両国はそれ以外の国際貿易や国際的資本移動を全く行わなかったとする。

タイにとっても日本にとっても、輸出や輸入が発生せず、純輸出がゼロのまま一定である。

タイにとっても日本にとっても、外国通貨の所有権が増加したが、自国通貨の所有権が減少したので、資本流出と資本流入が同じ額だけ増え、純資本流出がゼロのまま一定である。

ちなみに、この場合において、タイの国民によるバーツ売り円買いの勢いと、日本の国民による円売りバーツ買いの勢いが全く同じである。ゆえにバーツと円の名目為替レートが一定を保ち、短期で物価が硬直的であるからタイと日本の実質為替レートも一定を保ち、純輸出が変化しない。

純輸出と純資本流出が同じ額だけ変動する例

片方の国民が入手した外国通貨をタンス預金する

タイの国民が日本の国民にサービスを輸出して5千万円ぶんの日本円紙幣を代金として受け取り、タイの国民が5千万円ぶんの日本円紙幣を自宅のタンスに突っ込んだとする。そしてタイと日本の両国はそれ以外の国際貿易や国際的資本移動を全く行わなかったとする。

タイにとって輸出の増加であり、純輸出がプラスになる。

タイにとって外国通貨の所有権が増加したので、資本流出となる。そして純資本流出がプラスになる。

日本にとって輸入の増加であり、純輸出がマイナスになる。

日本にとって自国通貨の所有権が減少したので、資本流入となる。そして純資本流出がマイナスになる。

片方の国民が入手した外国通貨を使って外国の財を購入する

タイの国民が日本の国民にサービスを輸出して5千万円ぶんの日本円紙幣を代金として受け取り、タイの国民が5千万円ぶんの日本円紙幣と引き換えに日本国の土地や日本企業が発行する株式を購入したとする。そしてタイと日本の両国はそれ以外の国際貿易や国際的資本移動を全く行わなかったとする。

タイにとって輸出の増加であり、純輸出がプラスになる。

タイにとって外国通貨の所有権が増加してから減少し、外国財の所有権が増加したので、資本流出となる。そして純資本流出がプラスになる。

日本にとって輸入の増加であり、純輸出がマイナスになる。

日本にとって自国通貨の所有権が減少してから増加し、自国財の所有権が減少したので、資本流入となる。そして純資本流出がマイナスになる。

片方の国民が入手した外国通貨を外国の銀行に預けたり外国の社債と交換したりする

タイの国民が日本の国民にサービスを輸出して5千万円ぶんの日本円紙幣を代金として受け取り、タイの国民が5千万円ぶんの日本円紙幣を日本の民間銀行に預けたり5千万円ぶんの日本円紙幣と引き換えに日本企業が発行する社債を購入したりしたとする。そしてタイと日本の両国はそれ以外の国際貿易や国際的資本移動を全く行わなかったとする。

タイにとって輸出の増加であり、純輸出がプラスになる。

タイにとって外国通貨の所有権が増加してから減少し、外国通貨の債権が増加したので、資本流出となる。そして純資本流出がプラスになる。

日本にとって輸入の増加であり、純輸出がマイナスになる。

日本にとって自国通貨の所有権が減少してから増加し、自国通貨の債務が増加した。自国通貨の債務が増加することは自国通貨の債権が減少することと等しいので、資本流入となる。そして純資本流出がマイナスになる。

片方の国民が入手した外国通貨を自国通貨に両替する

タイの国民が日本の国民にサービスを輸出して5千万円ぶんの日本円紙幣を代金として受け取り、タイの国民が「バーツを所有していて日本円と両替したがっている日本人」を見つけ出し、タイの国民が5千万円ぶんの日本円紙幣をそれと等価のバーツに両替したとする。そしてタイと日本の両国はそれ以外の国際貿易や国際的資本移動を全く行わなかったとする。

タイにとって輸出の増加であり、純輸出がプラスになる。

タイにとって外国通貨の所有権が増加してから減少したので、資本流出がゼロである。そして自国通貨の所有権を増やしたので、「自国通貨の所有権の減少を減らした」と解釈でき、資本流入がマイナスとなる。以上のために、純資本流出がプラスになる。

日本にとって輸入の増加であり、純輸出がマイナスになる。

日本にとって自国通貨の所有権が減少してから増加したので、資本流入がゼロである。そして外国通貨の所有権を減らしたので、資本流出がマイナスとなる。以上のために、純資本流出がマイナスになる。

ちなみに、この場合において、タイの国民によるバーツ買い円売りの勢いのほうが、日本の国民による円買いバーツ売りの勢いよりも強い。ゆえにバーツと円の名目為替レートがバーツ高円安になるように変化し、短期で物価が硬直的であるからタイと日本の実質為替レートも変化する。

現実世界で多く行われる貿易決済における純資本流出の変化

タイと日本の貿易

タイから日本にサービスを輸出するとき、日本の業者は、円売り米ドル買いを行い、日本の銀行に対して持つ日本円債権を減らし、アメリカ合衆国の銀行に対して持つ米ドル債権を増やす。

そして日本の業者からタイの業者へ米ドルの銀行振り込みが行われる。日本の業者はアメリカ合衆国の銀行に対して持つ米ドル債権を減らす。タイの業者はアメリカ合衆国の銀行に対して持つ米ドル債権を増やす。

タイの業者は米ドル売りバーツ買いを行い、アメリカ合衆国の銀行に対して持つ米ドル債権を減らし、タイの銀行に対して持つバーツ債権を増やす。

そして、タイと日本とアメリカ合衆国の3ヶ国はそれ以外の国際貿易や国際的資本移動を全く行わなかったとする。

全体を見渡すと、円売りバーツ買いが行われている。

アメリカ合衆国にとって、輸出や輸入が発生せず、純輸出がゼロのまま一定である。

アメリカ合衆国にとって、円という外国通貨の所有権が増加したが、バーツという外国通貨の所有権が減少し、外国通貨の所有権は一定を保った。資本流出がいったん増えて同じ額だけ減少してゼロのまま一定となっている。

またアメリカ合衆国にとって、米ドルという自国通貨の所有権がいったん減ったが同じ額だけ増え、自国通貨の所有権も一定を保った。資本流入がいったん増えて同じ額だけ減少してゼロのまま一定となっている。

このためアメリカ合衆国にとって、純資本流出もゼロのまま一定である。

タイにとって、輸出が増え、純輸出がプラスになっている。

タイにとって、バーツという自国通貨の所有権が増えていて、資本流入のマイナスが発生しており、純資本流出がプラスになっている。

日本にとって、輸入が増え、純輸出がマイナスになっている。

日本にとって、円という自国通貨の所有権が減っていて、資本流入のプラスが発生しており、純資本流出がマイナスになっている。

日本とアメリカ合衆国の貿易

日本からアメリカ合衆国にサービスを輸出するとき、アメリカ合衆国の業者から日本の業者へ米ドルの銀行振り込みが行われる。アメリカ合衆国の業者はアメリカ合衆国の銀行に対して持つ米ドル債権を減らす。日本の業者はアメリカ合衆国の銀行に対して持つ米ドル債権を増やす。

日本の業者は米ドル売り円買いを行い、アメリカ合衆国の銀行に対して持つ米ドル債権を減らし、日本の銀行に対して持つ日本円債権を増やす。

そして、日本とアメリカ合衆国の2ヶ国はそれ以外の国際貿易や国際的資本移動を全く行わなかったとする。

全体を見渡すと、米ドル売り円買いが行われている。

アメリカ合衆国にとって、輸入が増え、純輸出がマイナスになっている。

アメリカ合衆国にとって、米ドルという自国通貨の所有権がいったん減ったが同じ額だけ増え、自国通貨の所有権は一定を保った。資本流入がいったん増えて同じ額だけ減少してゼロのまま一定となっている。

アメリカ合衆国にとって、円という外国通貨の所有権が減少し、外国通貨の所有権が減少し、資本流出が減少した。

このためアメリカ合衆国にとって、純資本流出がマイナスになった。

日本にとって、輸出が増え、純輸出がプラスになっている。

日本にとって、米ドルという外国通貨の所有権がいったん増えたが同じ額だけ減り、外国通貨の所有権は一定を保った。資本流出がいったん増えて同じ額だけ減少してゼロのまま一定となっている。

日本にとって、円という自国通貨の所有権が増えて、資本流入のマイナスが発生しており、純資本流出がプラスになっている。

関連項目

  • 純輸出
  • 実質為替レート
  • 名目為替レート
  • 国際金融のトリレンマ
  • 小国開放経済
  • 大国開放経済
  • 変動相場制
  • 固定相場制
  • 為替
  • キャリートレード
  • 実質利子率
  • 名目利子率
  • 経済に関する記事の一覧

脚注

  1. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』207ページ
  2. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』91ページ
  3. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』167~168ページ
  4. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』98~99ページ、178ページ
  5. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』176~177ページ
  6. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』98~99ページ、214~215ページ
  7. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』216ページ
  8. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』216ページ
  9. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版(東洋経済新報社)N・グレゴリー・マンキュー』168ページ

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