部活問題 単語


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今週のおすすめ この記事は第407回の今週のオススメ記事に選ばれました!
よりニコニコできるような記事に編集していきましょう。

部活問題とは、日本の学校で行われている部活動に関する諸問題の総称であり、一刻も早い解決が望まれる。

概要

部活問題の主なものは次の通りだが、問題は多岐にわたる。

  • 生徒に対して部活動への加入を強制している学校が存在する。生徒の「部活動に参加しない自由」が保障されていない(学習指導要領では部活動は「生徒の自主的,自発的な参加によるもの」とされているのに)。部活問題の最たるものであり、現在及び将来の子どもたちのためにも一刻も早く部活動強制加入システムを完全廃止しなければならない。
  • 日本社会に根強い「学生なら部活動はやるものだ」という風潮。誰もが学生時代に何かしらの部活動をやっていることが半ば当然となってしまっている部分もあり、部活動無所属者の肩身が狭くなってしまっている部分もある(「帰宅部」という単語が存在するのもそれ故かもしれない)。なお、学習指導要領にもあるように部活動は「任意活動」である(やらなくても法的にはなんの問題もない)。
  • 教師に対して部活動の顧問を強制している学校が存在する。無賃or最低賃金以下の賃金での労働を強制されることも(あくまでも「教師が自主的にやっていること」として処理しているとかなんとか)。
  • 部活動によって生徒が民間のスポーツクラブや習い事などに通う時間を奪われており、民業圧迫と取ることもできる。部活動に「好きなときに好きなだけ休む自由」が無いのは問題でしかない。
  • 休日がほとんど設けられていない部活動が存在する(1997年に文部省(現文部科学省)が提示した指針を真っ向から無視している)。
  • 部活動の活動実績が内申書に記載され、高校入試で加点される対象になっていることがある(千葉県立高校の事例)。

他にも様々な問題があると思われる(ありましたら掲示板でご教示下さい)。

なお、これらの部活問題の解決を目指して署名活動が行われている。

生徒視点での部活問題

部活動強制加入システム(生徒の「部活動に参加しない自由」が保障されていない状態)は部活問題の最たるものである。一刻も早く撲滅しなければならない。

学校の生徒に対して部活動への加入義務を課すというもの。部活問題の中でも最大最悪、ラスボスと言っても過言ではないだろう。これについては学習指導要領違反及び世界人権宣言違反と解釈できる。学習指導要領には、部活動について次のように記述されている。

第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項

(中略)
  • (13) 生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際,地域や学校の実態に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行うようにすること。
学習指導要領 第1章 総則:文部科学省 [1]

また、世界人権宣言第二十条はこのような条文である。

世界人権宣言 第二十条

  1. すべての人は、平和的集会及び結社の自由に対する権利を有する。
  2. 何人も、結社に属することを強制されない。
世界人権宣言(仮訳文) [2]

学習指導要領にははっきりと「生徒の自主的,自発的な参加によって行われる部活動」と明記されている。これはつまり『「部活動に参加しない自由」は保障されなければならない』と解釈することが可能である。学習指導要領は日本全国の学校で適用されるので、日本全国で「部活動に参加しない自由」は保障されなければならないのである。

また、世界人権宣言第二十条第二項によって「結社しない自由」が保障されている。部活動も結社(何人かの人間が共通の目的のために作った団体)であるため、「結社しない自由=部活動に参加しない自由」と考えることができ、「部活動に参加しない自由」は学習指導要領及び世界人権宣言を根拠として当然認められる学校側が生徒に対して部活動への加入を義務付けることは世界人権宣言第二十条第二項に違反すると考えられる。それなのに、学校側が生徒に対して部活動への加入を義務付けている事例が存在するという。

例えば岩手県においては、中学校の99%で部活動への加入が義務付けられているという。あるいは「スポーツクラブ等に参加している人以外は全員加入」という学校もあるという。その辺りの話は以下のリンクで詳述されている。部活動以外のことをしたい生徒や放課後休日はのんびりしたい生徒からしてみれば迷惑極まりない話である。

なお、「部活動強制加入システム」と一口に言っても、それをどのような形で行っているかは様々なようだ。例えば、

  • 校則で「生徒は部活動に加入しなければならない」と決める
  • 生徒会則で「生徒は部活動に加入しなければならない」と決める
  • ルールの文書化はせずに暗黙の了解で生徒に対して「部活動に加入しなければならない」と思い込ませる

…などのやり方で生徒に対して部活動への加入を強制する。生徒会則は(建前上)「生徒が制定したルール」になるため、学校サイドは「生徒が自ら『生徒は皆部活動をやらねばならない』という決まりを作った」と言い逃れることが出来てしまう。汚いなさすが悪い大人きたない。また、「1年生だけ強制加入で2年生以降は任意加入」みたいな形態を取る学校もあるとか。そしてその実態が外部に明かされる機会はそうそうない。少なくとも初版執筆者は校則や生徒会則の嘘偽りない全文を外部に向けて公開している学校を見たことがない。暗黙の了解(空気)で生徒に対して「部活動に加入しなければならない」と思い込ませるようなところではジ・エンドである。[3]

校則や生徒会則の全文が公開されれば、その学校が部活動への加入を義務付けるところかどうかを事前に知ることができる(暗黙の了解でやられたらどうしようもないが)。事前に知ることができれば、それなりの対策(高校ならそこを志望校から外す、小中学校でも事前の情報収集・あるいは引っ越し)をする時間が与えられる。学校が部活動への加入を義務付けるだけでも問題だが、それを外部に公開しないことは更に問題である。

ともあれ、公立小中学校において部活動への加入が義務付けられているのは控えめに言って万死に値する(高校での部活動強制加入も勿論問題である)。小中学校は義務教育である(そして生徒が自由に学校を選択できない場合が多い)ため、不幸にも部活動への加入が義務付けられている小中学校へ通うことになってしまったら最後、部活動を強制される運命を逃れることがほぼ不可能である。部活に入りたくないからという理由だけで越境通学が認められた事例は聞いたことがないし、仮に認められても通学の負担は確実に大きくなる。

ゆえに部活動に加入したくない場合は、部活動が強制されない小中学校に通える学区に引っ越すor部活動が強制されない私立小中学校を受験するより他にない。生き地獄である。どうあがいても絶望。[4]

学習指導要領・世界人権宣言に違反した上に生徒の自由と権利を不当に侵害しているのが部活動の真の姿である。ゆえに部活動強制加入システムは直ちに廃止されなければならない。生徒が当然有する『部活動に参加しない自由』を回復するために、Change.orgにて署名活動が行われている。 キャンペーン ・ 文部科学大臣 馳 浩 様: 生徒に部活に入部する・入部しないの自由を!入部の強制に断固反対! ・ Change.org

「部活動はやっていて当然」という風潮

日本社会に存在する「部活動はやっていて当然」という風潮も問題である…

また、制度上の強制ではないため主旨と若干ずれるかもしれないが、これと同じぐらいかあるいはそれ以上に厄介な問題として社会的問題がある。上記のような制度的強制や暗黙の了解が無かったとしても、現代の日本社会においては「なにかしらの部活動に入っているのが普通」と思われているフシがあり、「文武両道」などと掲げ、生徒にこれを実現することを求めている学校も多い。空き時間をどう使おうが自由なはずだが、「集団行動に問題がある人間なのではないかと思われる」「親や担任教師に『友達ができる』『内申書に響く』(後述)などと脅されたり家や三者面談などでネチネチ言われる(これは実際に筆者が経験したことである)」などといった不利益を被り、部活動に参加しろという圧力や、「帰宅部はよくないもの」「残念な人」などといったレッテルに苦しむことになる。

勉強に使うなどして、劇的に成績の数字を上げたなどならまだ印象は変わるかもしれないが、この段落の筆者のようにゲームばかりしていたならば批判は免れない。しかし繰り返すが空き時間をどう使おうが生徒の自由である。生徒が部活に入らない理由は様々で、本来は「なんとなく入りたくないから」「入りたい部活が無い」(運動部に比して文化部があからさまに冷遇されている、そもそも文化部がほとんどないなどというところも珍しくない)などでもOKなはずであるが、「特に理由が無ければ入るべき」という風潮は根強い。

上に「親や担任」と書いたが、ここに「親」が含まれているのが問題で、教育熱心な親などがこういった風潮を受け「真っ当な子にするため」「世間の目のため」などといった理由で子供の意思を無視して部活に入れさせることもある。これによって「暗黙の了解による部活動への加入義務付け」を日本の学校から駆逐することが困難となっている部分もある。

この社会的問題は意識の問題かつ根深いため、一朝一夕に変えられるモノではなく、仮に上記の制度的問題が解決されたとしても改善はなかなか達成されないであろう。

部活動強制加入システムは高体連の陰謀か?

筆者のすさまじい邪推ではあるが、部活動強制加入システムが長きにわたって維持されてきた裏には高体連(公益財団法人 全国高等学校体育連盟)の陰謀があるのかもしれない。なお、類似組織に中体連(公益財団法人日本中学校体育連盟)や高文連(公益社団法人全国高等学校文化連盟)がある。高体連は全国高等学校総合体育大会(インターハイ)などを開催している組織だ。この手の大会は学校単位で参戦することになるため、各学校の運動部が大会出場を目指して日夜厳しい練習を行っているのだろう。学校単位で競わせているのも問題だが、高体連が部活動強制加入システムを維持させている側面もあるかもしれない。詳細については筆者のブログ記事でも述べられているが、

  • 全国高体連は各都道府県ごとの高体連から会費を徴収している。各都道府県の高体連は学校から会費を徴収する(これを全国高体連に上納)。各学校は生徒(の保護者)から会費を徴収する(これを各都道府県の高体連に上納)。なお、各学校が上納する金額は各学校に在籍する生徒数(≠部活に参加している生徒数)を基準にして算出される。
  • この会費徴収を正当化する上では、「部活動に参加していない生徒」がいると問題がある。そこで高体連が裏から手を回して部活動強制加入システムを維持するように働きかける。これによって確実に会費を徴収できるようにする。
  • また、部活動強制加入システムによって各競技の競技人口を維持し、大会を継続的に行えるようにする意図もあるかもしれない。

…我ながら言いがかりも甚だしいが、高体連が部活動強制加入システムの維持に一枚噛んでいる可能性はゼロとはいえないだろう。しかし大人の事情で自由を奪われる生徒にしてみればたまったものではない。「ともあれ、部活動強制加入システムは滅ぶべきであると考える次第である。」by大カトー

教師視点での部活問題

部活動は教師の無賃労働(労働基準法違反)で支えられている!?

ここまで生徒視点での部活問題に触れてきたが、教師視点での部活問題にも触れていきたい。部活動には大抵の場合顧問教師が1人以上ついてくる。部活動の中には平日の夜遅くまで、あるいは休日にも活動しているところがあるだろう。それらの全てを顧問教師が監督するとなれば、顧問教師は長時間労働(時間外労働)・休日出勤をこなさなければならない。ここで労働基準法について軽くおさらいしておこう。

  • 1日8時間労働
  • 週40時間労働
  • ↑が原則だが、所謂サブロク協定の締結により、時間外労働をさせることが可能(但し時間外手当を支払う義務が発生)
  • 最低でも1週間(7日)に1日の休日が必要

これくらいはおそらく誰もが知っていると思われる。詳細は労働基準法も参照

労働者に残業をさせたらきちんと残業代を支払わなければならない。誰もが知っているルールである(これを守らない企業はもれなく「ブラック企業」の烙印を押される)。しかし、教師には(明らかに残業をしているのに)残業代が出ないのである。

厳密に言うと、教師には残業代が出ないという表現は一部不正確かもしれない。「教師には原則として残業が存在しない&所謂超勤4項目で残業することを想定して追加手当を支払う代わりに残業代を出さない」という表現が正確だろうか。ここで「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法とも)及び「超勤4項目」について説明しよう。

第一条 この法律は、公立の義務教育諸学校等の教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき、その給与その他の勤務条件について特例を定めるものとする。

(中略)

第三条 教育職員(校長、副校長及び教頭を除く。以下この条において同じ。)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。

2  教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。

(中略)

第六条 教育職員(管理職手当を受ける者を除く。以下この条において同じ。)を正規の勤務時間(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律 (平成六年法律第三十三号)第五条 から第八条 まで、第十一条及び第十二条の規定に相当する条例の規定による勤務時間をいう。第三項において同じ。)を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。(注釈:「政令で定める基準」が「超勤4項目」)

公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法 [5]
(参考)『超勤4項目』:
  1. 教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務を命じないものとすること。
  2. 教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。
    • イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
    • ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
    • ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
    • ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教職員給与の在り方に関するワーキンググループ(第8回)議事録・配付資料 [資料5]-文部科学省 [6]

まず、「教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務を命じないものとすること。」より教師には残業が原則として発生しないシステムに(建前だが)なっている。つまり教師は原則として必ず定時に帰れる(という建前)。そして、教師に残業させることができる例外的な業務が『超勤4項目』。…つまり『超勤4項目』以外では教師が残業することは無いんだから、『超勤4項目』の分だけ予め支払っておけばいちいち残業代を計算して出さなくても問題ないよね!?という(問題ありまくりな)理屈である。

その理屈で公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法によって「教職調整額」(←原則として給料の4%・これが超勤4項目による残業代になると思われる)の支払いと教師が『超勤4項目』以外では残業をしないこと、そして教師に残業代を支払わないことが定められている(と初版執筆者は解釈している)。

だが実際には、部活動の顧問教師は部活の面倒を見るために残業している。部活の顧問業務は『超勤4項目』に含まれていないため、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法第六条(超勤4項目以外で教師に残業させてはいけない)に反している。法律違反がまかり通っているのだ。控えめに言って異常である。部活の面倒を見ても残業代が出ないという悲劇。部活によって休日が無くなるという悲劇。その辺りの話は部活問題 対策プロジェクト - 部活の問題点 教師編に詳しい。こちらの問題もなんとか解決すべく署名活動が行われている。 キャンペーン ・ 部活がブラックすぎて倒れそう… 教師に部活動の顧問をする・しないの選択権を下さい! ・ Change.org

学校の部活動は民業圧迫の側面も…

部活問題の被害者は何も生徒や教員(及びその家族)だけとは限らない。民間のスポーツクラブや習い事の先生などもある意味では部活問題の被害者といえる。部活動が生徒に対してスポーツ活動や文化活動に参加する機会を与えてきたことは否定しない。しかし、放課後や休日にスポーツ活動や文化活動をしたいならば、民間のスポーツクラブに入るか習い事をすれば良いだけの話である。

しかし、部活動の存在により本来ならスポーツクラブや習い事などに流れるはずの人がそちらに行かなく(行けなく)なってしまうのである。特に学校が生徒に対して部活動加入義務を課している場合は、生徒の放課後・休日の自由時間がかなり限定されてしまう(場合もある)。当然ながら、スポーツクラブや習い事に行く時間などない。見方によっては(教員を犠牲にした)民業圧迫である。

休息の必要性

旧帝国海軍でもあるまいし、月月火水木金金のスケジュールで活動するのは無茶苦茶だ!!もっときちんと休みを取るべき!!

適切な休養を取ることが健康を維持するために重要であることは、保健体育の授業で習うとおりである。過労死という言葉もあるくらいだから、やはりきちんとした休養を取ることは健康に暮らすためにも重要なのだ。1997年に文部省(現文部科学省)が提示した指針には、運動部の休養のあり方について、以下のように記述されている。

〔運動部における休養日等の設定例〕(参考)

  • 中学校の運動部では,学期中は週当たり2日以上の休養日を設定。
  • 高等学校の運動部では,学期中は週当たり1日以上の休養日を設定。
  • 練習試合や大会への参加など休業土曜日や日曜日に活動する必要がある場合は,休養日を他の曜日で確保。
  • 休業土曜日や日曜日の活動については,子供の[ゆとり]を確保し,家族や部員以外の友達,地域の人々などとより触れ合えるようにするという学校週5日制の趣旨に適切に配慮。
  • 長期休業中の活動については,上記の学期中の休養日の設定に準じた扱いを行うとともに,ある程度長期のまとまった休養日を設け,生徒に十分な休養を与える。
  • なお,効率的な練習を行い,長くても平日は2~3時間程度以内,休業土曜日や日曜日に実施する場合でも3~4時間程度以内で練習を終えることを目処とする。長期休業中の練習についても,これに準ずる。
運動部活動の在り方に関する調査研究報告 (中学生・高校生のスポーツ活動に関する調査研究協力者会議) :文部科学省 [7]

文部省が直々に「部活動は程々にして、きちんと体を休ませなさい」という指針を出した。それなのに月月火水木金金なスケジュールで活動する部活はどう考えてもおかしい。この指針をキチンと守って(学校の休日に休養日を持ってきて)いれば生徒も教師もきちんと休めるというのに。きちんと休むことは健康に過ごすためにも必要なはずなのに。日本人はもっときちんと休む習慣を身につけなければならないと思うのは私だけだろうか。精神論と非効率的なやり方から脱却し、きちんと休むようにしないとせっかくの完全週休2日制が台無しである。

政治面での動向

文部科学省も動き出したようだが、その提案が部活問題解決の決定打にはならなかった…

なお、流石に問題だと思ったのか、自民党の「教員の長時間労働の是正に関する議員連盟」の中間とりまとめでは「原則として土日を休養日とする」ことを求めているようだ(「土日は部活の休養日に」 自民議連が中間まとめ:朝日新聞デジタル(2016年5月27日)より)。もちろん月月火水木金金なスケジュールと比べれば土日休みになるのは大きな進歩である。しかし、「原則として」と付いているため、「例外」が認められる余地が残ってしまっている(「大会など特別な場合を除き」と書かれている)。日本において「例外」が常態化してしまった例は枚挙に暇がない(赤字国債、時間外労働、司法予備試験などなど)。例外についても罰則付きで規制をかける必要があるだろう。

  • 今回の場合は罰則の例で・・・
    • 土日の活動は月1日までとする
    • 活動する日も1日3時間以上の活動は禁止。
    • 週3日は必ず部活動を休みにすること(土日祝日は必ず休み)
    • これらのルールに違反した場合は校長の給料を3ヶ月の間半分にする。
    • 5年以内に2回以上違反した場合は校長と教育委員会の重役を即時懲戒免職にする。

などなど。

1997年に文部省(現文部科学省)が提示した指針は見事に無視されてしまった(強制力も罰則もなかったのが敗因)。現在の部活動は勝利至上主義と精神論に染められていることも少なくないので、強制力なきガイドラインでは意味が無い。対外試合で勝利するためという名目で堂々と土日練習を組むのが目に見えている。今度こそ文部科学省は強制力のあるルールで休日の部活動に制限をかけなければならない。

…はずだったのだが、中学高校の部活動に休養日設定を 文科省が提案へ:朝日新聞デジタル(2016年6月4日)を見る限りでは、文部科学省の案はかなり問題がある。「複数の顧問の配置」については、文部科学省の中の人は「顧問が複数いれば交代で休めるでしょ」とでも考えていたのだろう。しかし、実際にはすでに複数顧問制を敷いている学校も少なくない。そして、そのような学校では顧問が交代で休めている…わけではないらしい。書類上は複数の顧問がいても、実際には特定の人に負担が集中(その人は無休)している例もあるし、そもそも複数顧問制は乱暴に言えば「学校の先生みんなで無賃労働を分け合おう」という無茶苦茶な制度である。これでは負担の軽減になっていない。部活問題対策プロジェクトからも緊急声明が出された。(筆者としては、部活動強制加入システムの完全廃止についても文部科学省に取り組んで欲しかったが、そちらも触れられることはなかった…。)

また、「『中学高校の』部活動」としている点も問題である。最近は小学校にも(必修クラブ以外の)部活動が存在するのだ。筆者が通っていた小学校にも高学年の児童を対象とした部活動(運動系および音楽系)があった。運動系も音楽系もなかなかハードな活動をしていたと思う。中学高校でも運動系と音楽系の部活動は厳しいところが多いため、小学校で予行演習させるようになったのだろうか。恐ろしい話である。部活問題は小中高の区別なく存在するものとなってしまったのだ。また、部活問題は運動部だけのものでもない。時に文化系運動部と揶揄される吹奏楽部(などの音楽系部活動)は確かに文化部であるが、無休で練習をしていることがまれによくある。1997年に出された指針でも文化部はスルーされたが、休養日(休日)はすべての生徒(と先生)に必要なものである。休養日を設ける対象を「中学高校だけ」「運動部だけ」などと限定してはいけない。

また、「休養日を設ける」という提案は今回の文部科学省案の中では唯一評価できるところである(少なくとも筆者としては)。しかし、そのために作られるという「ガイドライン」には法的拘束力がない。1997年に文部省が出した指針(先述したように「中学なら週休2日以上、高校でも週休1日以上は必要」と記述されている)がガン無視されて月月火水木金金で部活動が行われているのも、指針に法的拘束力がなかったからである。この指針に法的拘束力があれば、現在の部活問題もここまで深刻化することはなかったかもしれない。今回の提案でも、法的拘束力があるルールで「土日は部活も休み」と定められることはなかった。

…対外試合に勝つために厳しい練習をする。勝利のための努力は美談として語られることもしばしばあるが、そこには大きな犠牲もある。「部活動強制加入システム」の存在により、強制的に厳しい練習の餌食になってしまう人だっている。そして、「よその学校に勝つ」ために戦力の強化に努める姿は、(言い方に問題があるかもしれないが)「軍拡競争」そのものであり、部活動強制加入システムによって無理やり部活参加者を確保しようとする姿はまさしく「根こそぎ徴兵」そのものである。休養日の規定には法的拘束力がないため、無視しようと思えばいくらでも無視できてしまう。その結果、大会での勝利のために無休で練習をするのが当たり前となってしまった。軍拡競争を止めるためには、法的拘束力のある軍縮条約が必要となる。際限なき部活動の暴走を止めるためには、法的拘束力のあるルールで部活動の活動日数・時間などを規制する必要があるだろう。部活動強制加入システムをあらゆる手段を用いて徹底破壊しなければならないことはもはや言うまでもない。

中学校の部活動が高校受験にも影響を与えるという現実

「部活動をしないと内申に響く」と教師に言われた(脅された)経験がある人はいるだろうか。中学時代の部活経験が高校受験に影響を及ぼすと言われてもいまいちピンとこない人もいるかもしれないが、(少なくとも千葉県においては)中学時代の部活の実績が高校受験をある程度左右するといえるのだ。その実態はこちらの記事(初版執筆者が運営しているブログの記事)でも述べているが、

  • 高校受験時に中学校から送られる内申書(調査書)に「部活動」について記述する欄が独立して存在している
  • 高校によっては一定の基準で「部活動」についての記述を点数化し、入試の得点にプラス(合否判定を直接左右する資料になる)
  • 得点化はしなくても、やっぱり内申書の内容(部活や生活態度等の記述)が良い人のほうが受かりやすい(特に最後の一人を決定するときなど)

…などの事情で、中学校の部活動は高校受験に対して一定の影響力を持っている。所謂「幽霊部員」が発生する原因の一つはこれであろう。部活に所属してさえいれば(サボりまくっても)「〇〇部所属」の肩書だけは得ることができるため、相対的に帰宅部(部活動について記述する欄には「特記事項なし」とだけ書かれる)よりも有利になる。入試で有利になるならとりあえずサボり通しても文句を言われ無い〇〇部に籍を置いておこう…となるのもお分かりいただけるかと。もっとも、所定日数以上サボり続ける、進級時に継続届を出さない等すれば強制退部となる学校もある。継続届を必要とする学校の場合は、サボりまくっているのに継続届を提出すれば怪しまれ顧問に呼び出しを受けるこもあるかもしれない。

また、部活動が内申書を左右する=部活動が受験を左右するという構造になっている関係上、どうしても部活動は学校側が生徒を管理するために使われてしまう側面は否定出来ない(何かあれば「内申書に響くぞ」の一言を放てば、生徒はもう学校に逆らえない)。「生徒が自主的に行うもの」であるはずの部活動が「生徒を学校に縛り付けて生徒の自由を奪うもの」になってしまっているのも嫌な話だ。これも立派な部活問題である。

ブラック部活がブラック企業を延命している疑惑

また、現行の部活動システムとブラック企業にはそれなりの関係があるのかもしれない。現行の部活動システム(ブラック部活)に強制的に洗脳された子どもたちは、ブラック部活での理不尽や法律違反、世界人権宣言違反等が当然だと思い込んでしまうおそれがある。ネット上でも時折「部活動は加入するのが当たり前」という意見が見受けられるし、部活動が義務付けられているのが当たり前の地域で育った人間がそのまま教師になって部活動加入強制システムの維持に大いに貢献しているのもまた理解できなくもない話ではある。ブラック部活に加入するのが当たり前の地域で育ってしまった子どもは、ブラック部活が当たり前だと思い込む(部活動が任意参加のものだとは考えもしない)場合もあるのだ。

そして法律違反上等・世界人権宣言ガン無視のブラック部活に洗脳されて育った子どももどこかしらのタイミングで就職することになるだろう。彼らはブラック部活で洗脳されたため、理不尽なことや法律違反をそのまま受け入れてしまう下地がすでに出来ている(つまり労働基準法ガン無視の労働条件で働かせても文句は出ない)。上司の言うことを聞かせるのも簡単である(特に運動部だとブラック部活で「上の存在の命令には絶対服従」というルールが染み付いているため)。こうしてブラック部活で洗脳された子どもたちがブラック企業の犠牲になる。もしかしたらブラック企業と学校が裏で手を組んでブラック部活を維持しているのかもしれない(あくまで筆者の邪推だが)。

また、学校というものは基本的に毎年新たな生徒が入学してくる。特に中学校は義務教育であるから、それこそ寝ていても新たな生徒がやってくる。そしてその中学校がブラック部活を行っている(部活動加入義務付けをしている、部活動が月月火水木金金で行われている、体罰(肉体的暴力)や精神的暴力が横行している、など)となれば、生徒はブラック部活に洗脳され、ブラック企業に就職する下地が作られる。ブラック部活によってブラック企業が社員を毎年のように補充できる体制が作られ、ブラック企業の延命に貢献してしまっている側面もあるのかもしれない。

部活問題のすべてを完全かつ永久に解決するために

部活問題のすべてを完全かつ永久に解決するためには、現行の部活動システムは廃止すべきかもしれない。

…正直な話、これだけの問題を抱えた現行の部活動システムをこのまま継続することは不可能である。問題点があまりにも多すぎて最早どこからツッコミを入れればいいか分からない状況であり、部活問題のすべてを完全かつ永久に解決するためには現行の部活動システムを完全廃止した上で学校とは無関係の別組織に再編(当然ながら「加入しない自由」を確実に保障)するより他にないのではないかとさえ思える。初版執筆者もまた部活廃止論者である。

日本の学校の部活動は、内部にとてつもなく大きな歪みを抱えながら、更には法律にも違反したまま肥大化しすぎてしまった。部活動への加入を義務付ける学校で生徒はやりたくもない部活動に時間も自由も奪われて苦しみ、教師も部活動に時間を奪われて授業の準備やプライベートを奪われて苦しみ、生徒や教師の家族もまた部活動に支配されて苦しんでいる(その辺りの話は部活問題 対策プロジェクトで詳述されている)。これだけの人を苦しめながら現行の部活動システムを維持する意義はどこにあるのか?そもそも法律違反な現状を放置している事自体がおかしいのではないか?…現行の部活動システムは、すでに終わるべき時を迎えたのかもしれない。時には伝統や慣習を破壊する勇気も必要である。伝統や慣習だからといって、法律違反を放置することが認められる理由はない。

もちろん部活動には良い面もあるかもしれないし、良い面を残したまま現行の部活動システムが抱えた負の側面をすべて解決できるというのであれば、それがベストかもしれない。伝統を断ち切ることには抵抗もあるのかもしれない。しかし、現行の部活動システムに苦しめられている人がいることはきちんと考えなければならない。部活動システムで苦しむ人の存在や、部活動システムが法律や学習指導要領、さらには世界人権宣言にも違反している事、そして「部活動は入るもの」という社会的風潮を現在のシステムのまま覆すことの難しさを考慮すれば、現行の部活動システムに「現状維持」の選択肢はもはや許されていないのだ。これまで日本の学校で大きな影響力を持っていた部活動について、現行システムの完全廃止も視野に今一度考えなおすことが求められているのではないだろうか。

問題についての声

義務化されていない以上、「やらない」選択肢も認められるべき。「そんなことを認めたら部活が成立しなくなる」との声もあるが、教員への強制によって成り立たせている現状がおかしい。

(タレント) 乙武洋匡 ‏@h_ototake 19:43 - 2015年12月19日

部活動の素晴らしいところは、無償(お金を払わず)スポーツ指導を受けられたというところで、それらは教員の善意とそれから犠牲の上で成り立っていた。一方でスポーツ指導に関してお金が発生するという感覚を持っている人がかなり少ない国になった。

(元アスリート) 為末大 @daijapan 2015年12月28日 16:59

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関連項目

  • 中学校 …部活問題の主戦場その1。地域全体で中学生に対して部活動への加入を義務付けるようなところ(岩手県など)だったらどうあがいても絶望。
  • 高等学校 …部活問題の主戦場その2。「強制退学」という伝家の宝刀があるため、もしかしたら中学校よりも問題が深刻かもしれない。通信制高校という選択肢もあるにはあるが…
  • 小学校 …最近は小学校でも(必修クラブ以外の)部活動が行われているとか。
  • 管理教育 …部活動強制加入システムなどと関係あり。部活動によって休日も生徒を学校に縛り付けるとかなんとか。
  • 幽霊部員 …部活動強制加入システムに対する抵抗の一形態。不幸にも部活動への加入が義務付けられている学校へ通うことになってしまったら、これに最後の望みを賭けるより他にないかもしれない。
  • 帰宅部 …部活動無所属が(特別な事情がなくても)認められるのは当たり前だが、こんな言葉が浸透していること自体が「何かしら部活動は入るもの」という風潮の表れであるともいえる。
  • 部活免役心得 …部活動を回避して自由を守るための戦術が記された本があれば、救われる人もいるかもしれない。徴兵免役心得との関連は不明。なお、筆者はこのようなタイトルの本を見たことはない。
  • 高等学校卒業程度認定試験(高卒認定試験・高認) …部活問題渦巻く高校を回避しながら大学を目指す人は、通信制高校の他にこれを受験することを検討する価値が有るかもしれない。かなりの茨の道ではあるが、全日制高校に通わずとも大学受験資格を得る道はきちんと用意されているのだ。文部科学省のせめてもの慈悲だろうか。
  • 入学試験 …内申書対策として幽霊部員化する人もいるようだ(一切活動していなくても「〇〇部所属」の肩書があったほうがシステム上は帰宅部よりも有利になるらしい)。
  • ブラック企業 …ブラック部活に洗脳された子どもたちの一部はここへ送り込まれるらしい。こちらについても労働基準法違反は徹底的に取り締まるべきである。

関連リンク

脚注

  1. *学習指導要領 第1章 総則:文部科学省
  2. *世界人権宣言(仮訳文)
  3. *とはいえこの場合は「校則で部活動への加入を義務付けているわけではない」という理屈で反抗することも不可能ではない。覚悟が必要かもしれないが。)いい加減日本の学校も校則を全文公開すべきではなかろうか(これについては初版執筆者のブログ記事でも「校則の全文公開」を主張している。
  4. *余談だが、初版執筆者は千葉県で小中高と通った。小中高とも部活動は任意参加だったが、部活加入率はかなり高かった。小学生時代に中学校説明会で「部活動は任意加入かどうか」を質問した記憶があるが、それほどまでに初版執筆者は部活動に対して恐怖心を抱いていたようだ。学校に拘束されていじめ(という名の犯罪)の脅威にさらされる時間が増えるだけでも地獄である
  5. *公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
  6. *中央教育審議会 初等中等教育分科会 教職員給与の在り方に関するワーキンググループ(第8回)議事録・配付資料 [資料5]-文部科学省
  7. *運動部活動の在り方に関する調査研究報告 (中学生・高校生のスポーツ活動に関する調査研究協力者会議) :文部科学省
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