アマチュア無線とは、金銭上の利益のためではなく、無線技術に対する個人的な興味により行う、自己訓練や技術的研究のための無線通信のことである。アマチュア無線を趣味とする人(アマチュア無線家)のことをハムともいう。
概要
電波は有限の資源である。同じ周波数を同時に複数人で利用すると、混信が発生してしまう。そのため、各国の所轄部署が規制を行っている(日本では総務省)その中には「ラジオ用」「テレビ用」「業務無線用」などがあり、その中に「アマチュア無線用」という専用の周波数(凡そ携帯電話キャリア10社分)が用意されている。
「私的な研究のために使う」という大義名分があるため、極めて自由度が高い。「最大1000wの高出力無線機を運用する(小規模なテレビ局より大きい。ちなみに携帯電話は0.5w)」「自作アンテナを勝手に使う(業務用では許可が必要。例えば携帯電話のアンテナは取り外し出来ない)」「出力を変更する(業務用では勝手に変更できない)」ことも(免許の範囲内で)自由である。その代わり「仕事に使えない」という規制がかかっている。
これだけ自由度が高いため、下手くそな運用をすると「テレビ・ラジオにノイズが入る」「アンテナが火を噴く」「感電する」等の悪影響が発生する。そのため、「無線機を使う人」に試験(無線従事者免許)を課し、合格者のみが利用可能にしている。試験範囲は「技術」と「法令」であり、利用可能な周波数帯や出力の上限に応じて4つの等級に分けらており、国家試験の難易度もそれに比例する。試験内容は4級と言えども大学並みであるため、何も勉強しないで行くと間違いなく不合格である。その一方で問題・出題範囲は限定されているため、問題パターンを覚えておけば小学生でも合格できる。
また、無線機そのものにも試験(無線局免許)があり、合格しないと使えない。「検定済みの無線機」であれば何の問題もないが、「古い無線機」や「自作」「外国製のアマチュア無線機」等については別途認定が必要になる場合もある。
かつて日本国内で隆盛を極めたコミュニケーションツールの一つであり、「趣味の王様」とまで呼ばれ秋葉原の市場を席巻した。しかしながら、携帯電話およびブロードバンド環境の爆発的な普及によりアドバンテージが大きく奪われ、利用者数は年々減少傾向にある。
無線従事者免許証
国家試験合格発表後40日以内に無線従事者免許が発行される。4・3級は各地方の総合通信局(沖縄は総合通信事務所)長、2・1級は総務大臣からの発行となっている。なお、この無線従事者免許証は無線運用中は常に携帯していなければならない。
アマチュア無線イベント等
いくつかあるうちの一部を紹介する。
- コンテスト
各種団体が主催する競技大会。「期間内に可能な限り多くの無線局と通信する技能」を競い、上手い人になると「1時間で200局と交信」することもある。団体によっては「商用電源(コンセント)使用不可」「初心者部門」等、様々な制約を設けている。 - ハムフェア
JARL支部主催で毎年開催される。無線クラブや個人によるジャンク市、講演会・シンポジウム、記念局運用などが開催される。加えてその場には「アマチュア無線を始めて〇十年」のおじさんがゴロゴロいるため、困ったことがあれば大抵答えてくれる。 - アワード
各種団体が定めた条件をクリアすると表彰される。条件は様々で「10局と交信する」というものから「47都道府県全部と交信する」、果ては「世界を200のブロックに分けて全てと交信する」まで難易度も様々である。下記のQSOパーティーもアワードの一種である。 - QSOパーティー
1月2日・3日に開催される交信イベント。異なる20局以上と交信するとステッカーをもらえる。 - ARDF(アマチュア無線方向探知)
Amateur Radio Directory Finding。屋外のフィールド内に設置された無線送信機を小型受信機を使い探し出す競技である。普通のアンテナでは送信機の方向が分からないため、「特定の方向しか受信しないアンテナ(テレビアンテナの類)」を振り回しながら探し出す。
QSLカード
アマチュア無線は技術研究であるため「交信の品質」「技術的課題の確認」等のため、「交信結果の確認」をする必要があった。また、上述のコンテストやアワードについても「交信したこと」を証明する必要があるため、同様に交信結果を確認する必要があった。そのため、約100年前ぐらいから「結果を書いたハガキを互いに送る」という慣習が始まった。これをQSLカードと呼ぶ。現在では「自国のアマチュア無線連盟にカードを送ると、自国・他国を問わず代理で集配してくれる」システムが確立している。なお、別に法律で強制されているわけではないので、送らずにアマチュア無線をやることには何の問題もない。
しかしながら「送るのが面倒」「JARL(日本アマチュア無線連盟)の年会費が高い」等の理由でQSLカードを嫌がる人も多い。そのため「カードを出さないなら出るな!」&「メンコなんぞやめちまえ」という不毛な争いが生じている。
ちなみに、最近では「電子QSL:インターネット上でQSLカードを発行する」サービスもあり、DX(遠距離通信)の世界で普及しているが、一部コンテスト・アワードでは受け付けられないデメリットもある。利用料は無料~安価なので「紙じゃなければOK」という人は検討してみてもよいだろう。
非常通信
アマチュア無線を業務で使ってはいけないが、一部例外がある。その一つが非常通信である。大雑把に言えば「非常時(細かい規定がある)」で「有線通信が使えない」場合に限り「指定された業務を超えて」運用できる。
業務利用の歴史は非常に古く、例えばアメリカではアマチュア無線の解禁と同時に「非常時の協力」が定められていた。また、ARRL(アメリカ無線中継連盟)の"Relay"には「非常時に通信を中継する」という意図が含まれている。
日本の場合は法的に強制されたことは無く、ボランティアとして活動している。代表的な例としては、1964年の新潟地震では「新潟~東京間の警察無線の補完」「本部~支部の連絡」、1995年の阪神淡路大震災では「護衛艦しらね~神戸港間の連絡」「本部~避難所・被災地の連絡」が行われており、「登山中の救助要請」はきりがない程である。しかしながら「携帯電話が普及しているから大丈夫。輻輳はしても不通にはならない」「通信衛星があるから平気」という意見もあり、アマチュア無線は軽視されていた。ぶっちゃけて言えば、真面目に取り組んでいたのは災害に駆り出される日赤と救急医ぐらいのものだろう。
ところが、東日本大震災では携帯電話・衛星電話の弱点が明らかになった。当時の資料では「広範囲の携帯電話基地局が一斉に破壊される」「衛星電話が津波で壊れる、使える人がいない、輻輳する」等の事態に陥ることになった。その一方でアマチュア無線は「被災地の孤立集落の救助要請を中継する」「被災地内の情報(ぶっちゃけて言えば道路情報)交換」で一定の役割を果たした。そのため、2017年に総務省は見解を発表し、非常時にはアマチュア無線を積極的に活用することになった。
最近では「防災訓練にアマチュア無線を取り入れる」「病院にアマチュア無線の中継局を設置する」などの対策がされるようになっている。特に南海トラフ地震に襲われそうな地域については「四の五の言っていられない」と言わんばかりにアマチュア無線を使う気満々である。また、大阪の某社は「スマホと無線機を接続し、位置情報・画像・チャット・データ等を送受信できる」アプリを開発した。いわばアマチュア無線版のLINEである。
とはいえ少子高齢化が著しいアマチュア無線がどこまで貢献できるかは不透明である。また一昔前と比べるとJARLの会員が減少しており「組織だって活動する防災活動には貢献できないのではないか?」という懸念も強くなっている。
アマチュア無線と通信の秘密
アマチュア業務には「守るべき秘密が存在しない」とされているため、アマチュア無線の会話を動画共有サイトにアップしても法的な問題は生じない。また、通信の秘密は「第三者の通信を傍受してアップすること」が問題になるため、自分が会話した会話をアップしても同様に問題は発生しない。
加えて電波法令を遵守しない会話(例えば仕事に使う目的外通信、コールサインを創出しない会話、脅迫など)については「電波法令に反する会話には守るべき法益が存在しない」ことから晒しても法的な問題は発生しないとされている(但し、晒すことによる報復が発生する可能性はある)
但し、非常通信はアマチュア業務に当たらないため、非常通信をアップすることは問題が生じる可能性があるので注意が必要である。
関連動画
関連コミュニティ
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関連項目
- CB無線…免許不要だが規制が厳しい。アマチュア無線と掛け持ちしている人もいる。
- えなりかずき
- CQ
- アマチュア無線機…アマチュア無線の規格に合った無線機。出来合いの製品を使う人もいれば、自作している人もいる。
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