棘皮動物(英:Echinoderm、羅:Echinodermata)とは、海のスターと仲間達である。
概要
棘皮動物に属する生物分類種群の歴史とかはWikipediaとかに投げて、ここでは主に現生種における解剖学的な共通点にフォーカスして述べる。
なお、内容はほぼ編者の独自研究であることをここに断るので、海洋無脊椎動物類に詳しいニキの編集参加を大いに推奨する。
この中でも特に大きな特徴は「水管系」の存在であり、化石種でもこの水管系の特徴が認められると棘皮動物と断定される。
ちなみに棘皮動物の愛好家や研究者(俗にいう「生物屋」)はキョクヒャー(棘皮er)と自称する・呼ばれることがある。
水管系
棘皮動物における最大の特徴のひとつ。
海水を専用の管系器官に取り込み、さらに遊走細胞(ヒトの血球細胞に近いアメーバ細胞)を循環させることで、多細胞動物の生命維持に必要な呼吸・栄養や老廃物の運搬・水圧調整等を担う器官。
水管系は体液の代わりに海水を循環させることから、肉体を大きく損傷しても失血死が起こる可能性はほぼ無く、棘皮動物の優れた再生能力を大いに支える要素であると考えられる。
一方、体液から積極的に老廃物や塩分等を排出する構造にはなっておらず、動物細胞の老廃物として代表的なアンモニアの濃度が濃い場合や環境塩分濃度が大きく増減した場合等には、存外に脆弱といわれる。オニヒトデ駆除には酢酸溶液の注射が有効とされるが、これも水管系の排出能力の弱さを示す一要素と思われる。
水管系は、大まかに石管・環状水管・放射水管の3区分から構成される。
石管
石管は最初に海水を取り込む部分で、水孔と名付けられた海水の入口に多孔板というフィルター構造を持ち、環状水管に海水を送り込む。
石管という名のとおり、通常は骨質で強化された管構造である。
水孔および石管の配置は綱ごとに異なり、クモヒトデは口の近くに水孔が開口するがウニとヒトデは肛門に近い反口側に開口する。
ウミユリとナマコでは水孔が体外に出ず、体腔に開口して体腔液を取り込む。ただし、ウミユリは口側の盤の体表に細かい穴が多数開口して、海水を体腔に取り込む構造になっている。
環状水管
環状水管は石管から海水を供給されて遊走細胞を海水に混ぜ込み、放射水管に海水を送り込む部分で、その名のとおり口~食道辺りを囲んだ環状構造となっている。
ポーリ嚢という袋状器官が付属し、この袋が伸縮して海水を流すポンプとして作用する。
なお、ウミユリにはポーリ嚢が無く、ヒトデではポーリ嚢に加えて、より小型のティーデマン嚢を持つ。
放射水管
放射水管は環状水管から海水を供給されて体内各部に海水を分配する部分で、付属肢である管足はこの放射水管から枝分かれする。
ウミユリ、ヒトデ、クモヒトデでは腕の中を通るのに対し、ウニとナマコでは体腔内の体表沿いを口側から反口側に向けて通る。
通常、放射水管の終端は海水に向けて開口する。
管足
管足は水管系の末端となる付属肢で、体壁の内側から体表に突き出た薄い筋肉質の筒状器官である。
放射水管から海水を供給されることで伸び、己の筋肉で縮み曲がる。
概ね先端に吸盤があって歩行に用いるものを管足、吸盤が無くて餌を口に送る際に用いるものを触手と呼ぶが、種および生える場所に合わせて非常に多様化している。
ウミユリとクモヒトデでは全て触手、ヒトデとウニでは全て管足と呼ぶ傾向がある。ナマコでは口の周囲を触手、それ以外の体側に生えるものを管足と呼ぶが、管足が分化して肬足(いぼあし)や遊泳用のヒレとなるほか、管足が退化した種もある。
キャッチ結合組織
棘皮動物に特有の、もうひとつの大きな特徴。
筋肉のように神経の指令によって力学的特性を発揮する組織だが、筋肉は筋肉細胞自体が力学的作用を発揮して収縮するのに対し、キャッチ結合組織は組織の細胞そのものではなく細胞間基質が硬化するという違いがある。
この硬化は筋肉の約1/10の作動エネルギーで約10倍のヤング率(≒単位断面積あたりの剛性)を発揮可能といわれ、俗に「筋肉の100倍の効率」とも称される。
一般的なキャッチ結合組織では筋肉とは異なり力学的仕事を積極的に出力しないが、ウミユリの腕では関節の反口側にあるキャッチ結合組織が収縮機能を持ち、口側にある筋肉と連携することで腕の上下運動を行う。この収縮するキャッチ結合組織は、特に収縮性結合組織と名付けられている。
現存する棘皮動物では、このキャッチ結合組織を用いて腕を海流中に固定したり、二枚貝をこじ開ける力をかけ続けたり、棘を倒されないように保持したり、釘が打てるくらい皮下組織を硬化させたりする。この用途に合わせたものか、ヒトデとウニでは管足にまでキャッチ結合組織があることが知られている。
分類
現存する棘皮動物は5ないし6綱に分類される。何かと5に縁のある生き物である。
本稿では、便宜的に6綱分類に基づいて表記する。
ウミユリ綱
現存する棘皮動物の中で最も古くから化石が産出されるグループ。
腕は根元付近で分枝して十数本~百本以上に増えるが、大元では5本である。
なお綱の代表名はウミユリ(英:Sea Lily)なのに現生種の約9割がウミシダ(英:Feather Star)である。
クモヒトデ綱
棘皮動物門最速の脚力(移動は腕で行う)を誇るスピードスター。
顎と歯を持ち食物を咀嚼する機能を持つが、なんと肛門が無いので糞は口から出すらしい。
一般的なクモヒトデ(英:Brittle Star)の他に、腕が複雑怪奇に分枝するテヅルモヅル(英:Basket Star)を含む。
多くの種は5放射相称を保つが、種単位で6~8放射に増加するものもある。
ヒトデとは別の生き物で体の構造も異なるが、現生の棘皮動物では最もヒトデ綱に近縁。
ヒトデ綱
ヒトデ(英:Sea Star)はまさしく海のスター。ただし漁業者にはだいたい嫌われるギャングスター。
クモヒトデと同じく5放射相称が分かりやすいが、最も守られてないグループでもある。キチンと5放射相称を維持する種の方が多数派だが、8とか11とか26とか、成長するほど腕が増える種も多い。
再生力に優れた棘皮動物の中でも特に再生力が強く、また消化器系にある幽門盲嚢という袋が腕内に延びている効果か、腕1本から小さなヒトデ1体を再生することも可能。
シャリンヒトデ綱
近年になって発見された新種・新綱だが、ヒトデ綱に含む議論もある。
放射水管がなく、代わりに環状水管が内外2系統ある。
外側環状水管から管足が生えることから、ここが放射水管の変異したものと見られている。
ウニ綱
棘皮動物の語源となった、体表に棘のある動物がウニ(英:Sea Urchin)である。Urchinとはハリネズミまたは身なりの汚い子供を指す古英語だが、今では概ねそのままウニを指すようになった。
綺麗な5放射相称を保つ正形類と、肛門が特定後方に偏ることで左右対称に移行した「ウニらしくない」不正形類がいる。
アルキメデスの提灯と呼ばれる頑丈な咀嚼器を持つが、一部の不正形類では退化している。
ナマコ綱
現存する棘皮動物の中で、最も左右対称への変異が進んだグループ。
ナマコ(英:Sea Cucumber)は特にマナマコを指す名前だが、キュウリっぽくない種も数多い。
肛門から繋がる呼吸樹で呼吸する、敵に襲われるとキュヴィエ器官または胃腸丸ごとを肛門から吐き出す、肛門歯があるなど、やけに肛門にギミックを搭載してる種が多い。
現生の棘皮動物ではウニ綱と近縁とされる。
関連動画
関連リンク
関連項目
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脚注
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