油冷エンジンとは、スズキの技術の粋を極めたバイク用エンジンである。
概要
1985年初登場したGSX-R750、これが油冷エンジンのデビューであった。
最も優れた冷却方式である水冷(液冷)はどうしても重量がかさみ車体軽量化では不利。そこで以前から行なっていた空冷エンジンにおけるオイルでの冷却(主にピストン冷却)をさらに発展させ、水冷エンジンに迫る冷却効率を達成させた、という謳い文句での華々しい登場であった。実際GSX-R750の重量は乾燥で179kgという圧倒的なクラス最軽量(もちろんアルミフレームとかその他での軽量化も大きかったが)、事実上のスズキワークスであったヨシムラからは各種チューニングパーツの他コンプリートマシンまで発売されるなど、スズキの力の入れようがうかがえる。
レシプロエンジンでもっとも高温にさらされるのが燃焼室周り。普通の空冷エンジンは出来るだけ冷却フィンを設けて放熱面積を増やす工夫がされる。水冷エンジンはダイレクトに燃焼室の裏側まで水が回り(ウォータージャケットという)ラジエータで冷やされた水が最優先で回される。油冷エンジンは、ピストンの裏側にオイルを吹きつけて冷やすオイルジェットを燃焼室裏側にも設け、大量の油を吹き付けることで熱境界層を破壊、より積極的なオイル冷却を行う。
油冷エンジンの発想はなんと「風呂は適度にかき混ぜると早く沸く」という開発主任の過去の経験からの産物であった。空冷エンジンのヘッドに水を掛ける実験も行い、スタッフ一同びしょ濡れになってしまった、というエピソードも残っている。
鮮烈なデビューを飾ったGSX-R750は、辻本聡・大島行弥の名コンビにより全日本ロードレース選手権TT-F1クラスで3年連続チャンピオンとなった。しかしそれ以降、他社の追い上げと馬力アップに伴う高熱による問題を解決出来ずに苦戦を強いられ、1992年にはエンジンが水冷化。レースシーンからは姿を消すこととなる。
その後も、「究極の性能を追求されない市販車ならまだ勝負できる」と生産が続行され、独特のフィン形状からくる「エンジンとしての美しさ」と「チューニングしやすくマスプロダクションレースで強い」という評判から熱烈なファンを獲得したが、緻密な温度コントロールを要求される排気ガス規制についていけなくなり、GSX1400を最後に市販も終了した。
Goose350・250に搭載された「もう一つの油冷エンジン」にもここでふれておく。輸出用エンデューロレーサー、DR350をベースにヘッドを油冷化、単気筒エンジンながらオイルはドライサンプ、オイルタンクに冷却フィンを設け(350ではさらにオイルクーラーも追加)、さらに一軸バランサーで振動を低減。33ps/8000rpm(250ccは30ps/9000rpm)という高回転型シングルを積んだカフェレーサーとして「直線は退屈だ」という挑戦的なキャッチコピーと共に1991年に売りだされた。しかし当時はバリバリのレーサーレプリカブーム、アルミツインチューブフレームであらずんば売れず、の渦に巻き込まれ不人気車化。6000台あまりを売っただけで1999年に姿を消した。
油冷エンジン第二章
突然の復活であった。 2014年より東南アジア市場で発売されたGIXXER(150cc)には完全新開発の油冷単気筒エンジンが搭載されていた。 システムは渦巻状のオイルジャケット方式に変更され、スズキ技術陣も「空冷と水冷の中間あたりの性能を担う目的で開発した。コンパクトで汎用性の高いエンジンが出来たと思う」と自信を見せる。 250ccにスープアップされたGIXXER250が2020年内にも日本販売開始予定。
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