女の名前なのに、
なんだ男か
……とは、ガンダムシリーズ史上最大の失言である。
『機動戦士Ζガンダム』第1話『黒いガンダム』における、ジェリド・メサの台詞。
たまたま聞こえてきた「カミーユ」と言う女の子の声に反応して振り向いたジェリドは、「カミーユ!」と呼びかけられている少年を目撃する。何の気なしに「女の名前(略」と呟いたジェリドだったが、折悪く気が立っていたカミーユ・ビダン少年は、鋭敏な感覚でその呟きを聞き取ってしまう。元々自分の名前が女性的なことにコンプレックスを持っていたカミーユは、衝動のままにジェリドに殴りかかるのだった。
主人公カミーユ・ビダンの不安定な精神を強調する展開ではあるのだが、結果的にこの一件(と、続く高圧的な取り調べ)が原因でカミーユとティターンズの間に因縁が生まれ、カミーユがエゥーゴに味方するきっかけとなってしまった。その結果としてティターンズの新型・ガンダムMk-Ⅱは全機強奪され、強力なニュータイプであるカミーユと共にエゥーゴの戦力となり、更にはMk-Ⅱの設計データとカミーユのアイデアから新鋭機Ζガンダムの開発が進行することになる。そしてカミーユとΖの活躍により、ティターンズは最終的に崩壊の憂き目にあう。更にジェリド個人もカミーユとの因縁に固執するようになり、その過程で親しい人物をカミーユによって次々と殺されていくことになる。
文字通り『機動戦士Zガンダム』の始まりとなり、ジェリドの破滅とティターンズの崩壊を招くことになったこの失言は、その後も様々なネタにされることになる。
サイド7、コロニー「グリーン・ノア1」。
学校の空手部を「病欠」したカミーユ・ビダンは、グリーン・ノア1に入港する定期便のキャプテンに会おうとしていた。以前にサインをもらったこともある憧れの人物だったのだ。
勝手についてきたファ・ユイリィを置き去りにしてドッキング・ベイの軍関係者ロビーにやってきたカミーユは、入場ゲートの向こう側で屯するエリート部隊「ティターンズ」の一団を目にする。
そのティターンズの一団は、新たに着任してきたカクリコン・カクーラー中尉やエマ・シーン中尉の出迎えに来ていたのだった。カクリコンと握手しながら談笑するジェリド・メサ中尉は、そこで女の声を聴き、振り向いた。
こちらを見ている少年が、追い付いてきたらしい少女から、大声で呼びかけられている……。
男にしては妙な名前。ジェリドは何の気なしに呟いた。
女の名前なのに、なんだ男か
それは別にわざとらしくも大声でも無い、自然な呟きであった。ロビーの利用者こそ多くなかったとはいえ、その時点でのジェリドと少年の距離は10m以上離れており、普通なら聞き取れるはずもない。しかしカミーユは、ジェリドの声を確かに聴きとった。
後に極めて高いニュータイプ能力を発揮するようになるカミーユ。ただでさえ自分の名前を気にしているのに、デリカシーのない幼馴染に大声で触れ回られている状態が、その能力を負の方向に拡大させていたのだろうか。ジェリドの小馬鹿にしたような「なんだ男か」という言葉が、カミーユの脳内ではしつこい侮蔑の言葉として響き渡った。
少年が手にした鞄を取り落とし、少女を払いのけてこちらに歩いてくる。流石に訝しみ、まずは平静を保とうと軽口を叩くジェリド。
舐めるな!
少年は無重力にまかせて入場ゲートを飛び越え、ジェリドの顎に正拳突きを叩き込んだ。吹っ飛ぶジェリド。反動でゲートに引っ掛かり、転がりながらも再度戦闘態勢をとる少年。ジェリドを庇うティターンズ兵が誰何するが、少年はなおも攻撃してくる。
こいつぅ!
意味不明な理屈をほざく少年は、更にティターンズ兵1人をノックアウト。もう一人にも連続パンチを叩き込むが無重力下では踏ん張りがきかず、ベイのMP(軍警察)に取り押さえられ、床に押し付けられた。復帰したジェリドはつかつかと歩み寄り、カミーユの顎を軍靴のつま先で持ち上げた。
言っていいことと悪いことがある!俺は……!
男に向かって「なんだ」はないだろう!
そうか、そういうことか
なら、男らしく扱ってやるよぉ!やめてぇ!
少女の制止を無視し、ジェリドはカミーユの眉間を蹴り上げるのだった──
第2話以降で判明するが、宇宙生活者に高圧的な地球連邦軍の中でもとりわけ強硬なティターンズは、カミーユの大嫌いな集団だった。グリーン・ノアを軍事基地化したのもティターンズであり、スペースノイド達からは結構目の敵にされていたのである。
カミーユが当初会おうとしていた定期便のキャプテン、ブライト・ノアは一般の連邦軍人であり、旧大戦の英雄として人気も高かった。空手部を病欠してまで会いに来たのに、いざ出くわしたのが思いっきり大きな顔をしたティターンズの一団だったことが、カミーユの機嫌を損ねたことは想像に難しくない。
しかし何よりも、カミーユが自らの名前に抱くコンプレックスが、ここまでの道中でファに刺激されまくっていたことが、ジェリドにとっては最大の不運であった。本来「カミーユ」という名は、別に女性名寄りというわけではないのだが……宇宙世紀0087では違うのだろう。とにもかくにも、カミーユは自分の名前が嫌で仕方なかった。
幼馴染の子が母親代わりに僕に言うんだよな
『爪を噛む癖を止めなさい、カミーユ!』って
いつもだ!『カミーユ止めなさい!』って
僕にはそれが嫌だった
だってさ、『カミーユ』ってのは女の子の名前だ!
大っ嫌いだったよ!ずっと!……そう、だから、僕は空手をやった
ホモ・アビスもやったし、モビルスーツも作ったりもした
男の証明を手に入れたかったんだ
彼にその名を送った両親は、父は愛人にかまけて家庭を顧みず、母はそれを知りながら黙殺し、仕事に没頭していた。親からまともな愛情を向けられていない子供が、そんな親に与えられた名前を好きになれるはずもない。そして大きな顔をしてくる幼馴染も鬱陶しいと来ている。
先述のダイジェストでは省いているが、カミーユは学校から宇宙港に来るまでの間、ファから6回も名前を呼ばれた上に「クラブをさぼるな」「そんなに急ぐな」「爪を噛むな」「ただの船でしょ?」「(ブライトが英雄だって)どうよ?」などなど、非常に事細かくお小言を言われ続け、自分の好みに否定的な反応を返されていた。その最後に見も知らぬティターンズ兵から「なんだ男か」と言い放たれたのが、トドメになったのである。
時は流れ2025年。ガンダムシリーズ最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』と、米津玄師による主題歌「Plazma」が公開された。その歌い出しの歌詞がこれである。
……これ『Ζ』第一話だな?
かくして生まれたMADムービー「PlaZmaシリーズ」。令和の世にジェリドが振り向くサムネイルが爆増したのであった。
掲示板
128 ななしのよっしん
2025/03/19(水) 01:51:21 ID: ZXHp0XnvaB
>>126
カミーユは大人しそうに見えて恐らくUCニュータイプの中では一番過激で激高しやすいタイプだからな
ユニコーンもUCだから紛らわしいがバナージも同じタイプな気がする
129 ななしのよっしん
2025/03/19(水) 11:28:31 ID: m5wDC426xt
監督がシリーズに終止符を打ちたかったとしか思えないもんな初期カミーユは
後半に向けて落ち着いてきてニュータイプならではの超感受性を持ってなんとか足掻いてるのがまた良い
この大河ものの良さは昨今の1~2クールで畳まざるを得ない製作体制では味わえない
130 ななしのよっしん
2025/03/19(水) 23:25:40 ID: mD+INc9pKM
>>126
暴力的な側面はよく描かれてるけど、カミーユ・トーレス・サエグサの三馬鹿は微笑ましいんだよね
喧嘩してもすぐ仲直りしてたし
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最終更新:2025/03/20(木) 17:00
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