「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」とは、福島第一原子力発電所をテーマとしたルポ漫画である。
作者は竜田一人(たつたかずと)。
概要
作者の竜田一人が、東日本大震災を機に福島および原発の真実に興味を持ったことをきっかけに、いち作業員として福島第一原子力発電所に、漫画家としての顔を隠した"覆面漫画家"として潜入し、福島と原発の内情と仕事を描いたルポルタージュ漫画。
ただ、"福島の隠された真実"とかそういった政治的なものではなく、単純に「どんな飯を食った」「仲間と共にアパートを借りた」など作業員同士の日常生活ややりとり、「今日はどんな検査を受けた」「こういう下請け構造になっている」など、仕事で知った事柄を描いただけで、本当に文字通りのルポ漫画である。
しかし、話が進むにつれて「封鎖されていた道路がとうとう開通した」や「ここの瓦礫が撤去されている」など、福島の進みゆく復興の様子を描くと同時に、「介護施設のボランティアがわずか数年で激減した」「放射能の濃いところは未だに分単位でしか人間は滞在できない」など現在にも続いている問題もまた描いている。
なお、物語は2014年の仕事を最後に、一度中締めとして完結させている。ただ作者によると、この先もまた働くことがあったらマンガにするかもしれないと語っていたものの、2015年以降は仕事は来ていないという。
登場人物
- ■竜田一人
- マンガの作者。一作業員として1F(原発)に潜入し、その内情をマンガとして描いている。当初は売れない雑誌漫画を書いていたが、東日本大震災での福島や放射能に関する噂やデマを見るにつれて「実際はどんなもんなのか」と知りたくなったことがきっかけらしい。
- ちなみに2012年に一度働きに行った後でその内情をマンガとして出版社に持ち込んだことから連載が決まる。ただ、本人的には職場の仁義を踏み越えて描いているというところには自責の念はあるという。
- ギターもやっており、仕事の合間に介護施設などをまわって高齢者のレクレーションや歌イベントなども参加している。
- なおプロレス好きらしく、メディアからの取材の際には、ルチャ・リブレのマスクをわざわざ買ってつけている。[1]
- ■編集
- 講談社の雑誌「モーニング」で竜田のマンガを担当する編集。竜田が持ち込んだマンガを読んで上にかけあい連載を決定させた。それ以降は竜田と組んでマンガや取材で福島に関する現状を伝えていく。
- ただ、原発の仕事は割と急に決まるものらしく、竜田が突発的に原発の仕事が入って福島に飛ぶことになった時は、やむを得ず送り出しているものの、「話は聞いていたものの、実際に(原稿があがるのを)待たされる側になるときつい」とのこと。
用語
| 1F (いちえふ) |
「福島第一原子力発電所」を指す用語。メディアなどでは「フクイチ」という呼び名が使われているとしていたが、竜田によると現地の人間はそんな呼び方はしておらず「1F」と呼んでいるという。 |
| お客さん |
下請け会社の人間が呼ぶ呼称で、東電さん(東京電力)のこと、および一次下請けなどの下請けの中でも上位の立場にある会社のことを指すという。事前に様子見に来るときなどは「お客さん来るから」という感じで使われるらしい。 |
| 線量 |
被爆した放射線量のこと。作業員は人体に影響が出ない範囲の放射線量を守るためガイガーカウンターを着けて作業しており、一定レベルを超えるとアラームが鳴るのですぐに離脱しなければならない。
一定期間に一定以上の放射線を浴びたものは期間をおいてからでないと再び原発の仕事につけないよう規定されているため、作業員が一定線量を超えて原発の仕事場から離れることを「線量を使い切った」「線量いっぱい」と表現する。 |
| タイベック |
防護スーツのこと。タイベックは企業名で、実際には様々な企業の防護スーツが用意されているらしいが、名前に区別はつけられておらず、みんな「タイベック」と呼んでいる。ちなみにガスマスクも色々あるが、こちらは「マスク」と呼んでいる。 |
| 会社 |
漫画においては複数の企業名が出ているが、全て特定されないよう企業名を変えてあるとのこと。
しかし、竜田と同じところで働いた経験のある者もいたためか、実際の企業名を言い当てた匿名の電話がきたこともあるという(余談・その他を参照)。 |
余談・その他
- 竜田が当初マンガを書いた時は、「もっと面白くなるようなの」をと思い、沈黙の〇〇的なアクションものはどうかなどとも考えてもいた。しかし、それをやったら事実からかけ離れてしまい「嘘やデマを流している連中と同じになってしまう」と思い、見てきたもの以上のことを書くことしかできないということで、過剰にふくらませるのはやめたという。
- このマンガが公開されるや、国内外からかなりの反響があったという。特に海外のメディアからの取材では「ぜひ国連総会でスピーチすべきよ!」と記者から言われて、編集とともに「やはり世界はスケールが違う」と思ったらしい。
- メディアの一部では「作業員」として取り上げられているが、概要のとおり本人の仕事はもともと雑誌を中心に描いてきた漫画家である。本人の語ったところでは、持ち込みの際に「福島の方から来た作業員」という触れ込みの方が上手くいくんではないかという打算もあったらしい。ただ、メディアの取材においては、実際「向こう(福島)にいる時間が長かったせいで作業員という感覚になっている」とも語っている。
- マンガを見た人の中には竜田の正体に気づいた知り合いもおり、感想を伝えてきたものもいたという。また、一部の登場人物のモデルとした相手には竜田自ら連絡している。ただ、編集部に竜田の務めていた下請け会社を言い当てた匿名の人物から電話で「上の方々(東京電力や政府?)がこの漫画の中身を気にしているようだから気をつけたほうが良い」と警告された事もあったという。[2]
- 2020年に福島を題材にした映画「Fukushima 50」に関して、原発の現場を描いた著名人としてコメントを載せており、「現場の再現度は保証付き」としている。 [3]
関連商品

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関連リンク
関連項目
- 漫画
- 東日本大震災
- 福島第一原子力発電所
- 福島 / 福島県
脚注
- *なお場面がシュール過ぎたのか、実際のニュースに掲載されていたものは首から上はカットされてたという。
- *これについて竜田は、「こちらにその意図がなくても(警備上のポイントや秘密にすべき技術や配線など)睨まれるようなものを書いてしまうことは十分ありえる」「東電や国が本気になったら自分みたいな一漫画家などかんたんに見つけ出してしまうだろう」と振り返っている。
- *坂本龍一「フクシマのことを、僕らは忘れてはいけない」明日公開の『Fukushima 50』に著名人の賞賛相次ぐ (Yahoo!ニュース 3/5(木) 23:00配信)