アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦とは、米海軍が保有するミサイル駆逐艦(DDG)である。
いわゆるイージス艦であり、日本の「こんごう型」「あたご型」の設計のベースとなった。
艦級名のアーレイ・バークはアメリカ海軍軍人のアーレイ・バーク(1901-1996)[1]にちなむ。最終階級は大将。
なお、戦後最も量産された駆逐艦にして世界最強クラスの戦闘能力をもつリアルチートでもある。
これだからセレブなリアルチート海軍は……
概要
ソ連海軍のミサイル飽和攻撃から空母を守る、ミサイル駆逐艦として建造された。
そのため、最高クラスの防空能力を持つ戦闘システム「イージスシステム」を搭載。
世界初のイージス艦「タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦」はスプルーアンス級を魔改造して強引にイージスを乗せた無理矢理設計だったが、アーレイ・バーク級は初めてイージスシステム搭載を前提に設計されたため、かなり合理的な構造である。
また、守りの武器であるイージスだけでなく、攻めの武器として「トマホーク巡航ミサイル」を装備。
その他、米海軍の様々なノウハウが詰め込まれ、単純な防空艦などというレベルではない、攻守共に世界最高峰の性能を有する駆逐艦として完成しており、海自の元自衛艦隊司令が「既存の中での理想の対潜艦」として名を挙げるほどである。
建造時期によって差異が存在しており、船体については「フライト」という形で共通化されている。
建造に至る経緯
1970年代半ばに発生する、大戦時に建造された駆逐艦の大量除籍問題。
米海軍は諸悪の根源マクナマラ国防長官指揮の下、安価かつ高性能な駆逐艦の建造に着手した。
大柄な船体にすることで、長射程対空ミサイルを積んだミサイル駆逐艦にもなり得る余裕のある大型駆逐艦。
バリエーション展開でコストダウン!そんな夢から生まれたのが「スプルーアンス級駆逐艦」である。
しかし、安価にするためだったはずのメーカーとの一括固定額での契約方式が裏目に出て、
1隻あたりの価格は予定のおよそ1.5倍となり、当初予定(75隻)の約半数(31隻)しか建造されなかった。
結果、防空用のミサイル駆逐艦バージョンも建造されず、別に新たなミサイル駆逐艦が求められた。
それが「アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦」の誕生経緯である。
特徴
- SPY-1Dレーダー搭載を念頭に最適化された船体設計
- イージスのレーダーであるSPY-1はきわめて巨大なため、その搭載を前提に船体が設計されている。
タイコンデロガ級では前後部に分散配置だったのを、艦橋構造物にまとめ軽量化。
煙突などもレーダーの視界の邪魔にならないよう、細く絞るなどの設計がされている。
また、船体もレーダーの性能を最大限に発揮できるよう、揺れの少ない肥えた船体となっている。
- イージスシステム搭載による高度な戦闘システム
- 主任務である「ソ連軍のミサイル飽和攻撃から空母を守る」ため、イージスシステムを装備している。
あくまで駆逐艦なので、ラージディスプレイを2面に減らしているが、システム自体は簡略化されていない。
また最高峰の対潜システムSQQ-89を装備し、対空のみならず対潜戦闘にも優れている。
- トマホーク巡航ミサイルによる長距離対地攻撃能力
- アーレイ・バーク級は当初からトマホーク巡航ミサイルを搭載し、長距離への対地攻撃が可能である。
これにより、ただの1防空艦としてレベルにとどまらない作戦行動が可能。
ソ連海軍の脅威のない現在では、アーレイ・バーク級の主武装として活躍している。
- 大量生産
- アーレイ・バーク級は第2次世界大戦後の駆逐艦としては最も多い62隻で建造を終える予定だった。
しかし、米の持病である「要求詰め込みすぎて開発失敗しちゃう病」のため新型駆逐艦の開発に失敗。
たった3隻のみの建造になったので、穴埋めのためアーレイ・バークはまだまだ増える見込みである。
- 船体の規格化「フライト」
- アーレイ・バークは「フライト」と呼ばれる規格で複数艦をまとめて建造している。
これは後のアップデートを簡単にするため。(実際は同じフライトでも差がある)
・フライトI(1番艦~21番艦)
初期型
・フライトII(22番艦~28番艦)
電子戦機能などの強化型だが、外見はフライトⅠとあまり変わらない。
・フライトIIA(29番艦~62番艦?)
ヘリコプター2機分の格納庫追加、後部側SPY-1レーダーの設置位置上昇などの大規模な改良型。
曳航ソナーの廃止、対機雷ソナー追加、ハープーンの非搭載など数多くの変更点がある。
・フライトIII
現在検討中の新型。SPY-1レーダーを新開発のAMDR「SPY-3」に換装する予定。
また、低空警戒用のSPQ-9Bレーダーの装備、低速用の電気推進装置の搭載などが検討されている。
イージス搭載の代償
アーレイ・バーク級は間違いなく世界最高峰の駆逐艦だが、欠点がないわけではない。
本来原子力ミサイル巡洋艦に搭載すべく開発されたイージスシステムは、あまりに巨大。
さまざまな軽量化策が施された物の、イージス搭載の代償としてアーレイ・バークは無理のある設計である。
- SPY-1レーダーの視界確保のための後部構造物の高さ制限
- 軽量化のため、SPY-1レーダーは艦橋構造物にまとめて配置されている。
しかし、レーダーの視界確保のため煙突などの後部構造物にかなり厳しいサイズ制限が発生している。
フライトIIAでは発電機とヘリ格納庫とMk41VLSで後部はギチギチ。
- 居住区のゆとりのなさ
- 軍艦でスペースがなくなった時、真っ先に切り捨てられるのは兵員の居住区である。
300名あまりの乗員の割に、居住区はあまり広くないので居住性は決して良くはない。
また、ヘリを搭載するフライトⅡAまではフィンスタビライザー[2]がない。
- 発電機配置のむりやりさ
- SPY-1レーダーにより煙突のサイズが制限を受けた結果か、3号発電機がヘリ甲板直前に配置されている。
このため、3号発電機の排煙が甲板上のヘリを直撃するので、ヘリ運用中は発電機の運転に制限がある模様。
- 各種艤装物の簡略化
- イージスの分軽量化するため、錨を巻き上げる揚錨機は通常2台のところ1台のみとなっている。
さらに搭載艇を軽量な複合艇にする、舷梯は片側のみにするなど軽量化への苦労が伺われる。
なお、海自の「こんごう型」「あたご型」では、船体を大型化しているので問題はある程度解決している。
現在の状況
当初、アーレイ・バーク級は62隻で建造を中止する予定だったが、状況は一変。
新型駆逐艦ズムウォルトが3隻で建造中止となったため、計画は大幅に変更。
現在63~65番艦の「再開型」66~71番艦の「技術挿入型」と呼ばれるフライトIIAの改良型を建造。
そこからフライトIIIの建造に移行する計画である。
現在の計画だとフライトIIIも含めれば100隻以上の建造がほぼ確実な情勢であり、
さらにはフライトIVの計画すら持ち上がる始末で、 どうなるかもう意味不明な状況となっている。
小ネタその一 (船体形状について)
アーレイ・バーク級の船体を揺れにくい太い船体にするか、速度を出しやすい細い船体にするかについては議論がまとまらず、最終的にコイントスで決められたという冗談のようなエピソードがある。
小ネタその二 (艦名について)
アーレイ・バーク級各艦はすべて海軍に縁が深い人物、あるいは軍の功績が認められた人物の名前が由来となっている。代表的なものは以下の通り。
- DDG-53 ジョン・ポール・ジョーンズ 言わずと知れたアメリカ海軍の伝説的英雄。
- DDG-70 ホッパー 米海軍初の女性提督にしてプログラム言語COBOLの開発者でもある"アメージング・グレース"ことグレース・ホッパー。
- DDG-81 ウィンストン・S・チャーチル なぜか英国首相の名前がここに。(よもやルーズベルト大統領の前でフルチン全裸で挨拶した罰ゲームとかが理由じゃないと思うけど)
- DDG-93 チャン=フー 米海軍初のアジア系出身提督(実際は中国人、英国人、ハワイ人の混血)であるコードン・バイア・チャン=フー提督から。
- DDG-108 ウェイン・E・マイヤー 記念すべきイージス艦通算100隻目は開発責任者である"最高の戦闘システムエンジニア"で知られたマイヤー提督から。
- DDG-118 ダニエル・イノウエ 日系アメリカ人で米陸軍442連隊戦闘団出身、のちに上院議員を長らくつとめた。
この他、ハルゼーとかスプルーアンスなど色々馴染みの深い人がいるので興味のある人はwikipediaなどから調べてみるといいかも。
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関連項目
- 軍事 / 軍艦 / 軍用艦艇の一覧
- 駆逐艦
- イージス艦 / ミサイル防衛
- タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦
- こんごう型護衛艦
- あたご型護衛艦
- 世宗大王級駆逐艦
- アーレイ・バーク
脚注
- *アーレイ・バークは麾下の駆逐艦隊に31ノットというという当時の常識を超えた艦隊速度を取らせ『31ノット・バーク』の異名を持つことに。彼の死去に際し、当時就役していた全アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦は1分間31ノットで航行し哀悼の意を表した
- *水中で小翼を動かし揺れを少なくする装置。乗員にもヘリにも嬉しい。海自護衛艦では標準装備