インフレーション 単語


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インフレーション

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インフレーションinflation)とは、物価の上昇と通貨価値の下落が継続的に発生していることを示す経済学の用語である。インフレと略される。対義語はデフレーション(デフレ)。

もともとの意味は膨張する、膨らませるという意味。「すさまじい勢いでの膨張」という意味で別の分野でも使われる(宇宙ヤバイ)。またスラングとして、「無駄に増え過ぎ」「増やせばいいってもんじゃねーぞ!」という意味でも使われる。
 

概要

「インフレは需給のバランスが崩れて需要過多・供給過少になったときに発生する」という考え方と、「インフレは国内に出回る通貨の量が過剰になったときに発生する」という考え方がある。

後者は貨幣数量説と呼ばれ、その支持者をマネタリストという。

インフレーションの度合いを示すものとして採用される指標は消費者物価指数である。

インフレの中で極端なものはハイパー・インフレーションという。

最古では、紀元前三世紀からインフレが確認されている。
 

インフレーションの影響

通貨価値が下がり、物価が上がる

インフレーションは、実物資産の名目価値を高め、通貨価値の目減りをもたらす。そのため、インフレーションは実物資産のある者にとってはプラスとなり、現金や当座預金などの「利子の付かない金融資産」を有する者にとってはマイナスとなる。

「年間インフレ率○%が10年続いたときに、物価がどれだけ上がり、通貨価値がどれだけ下がるか」というのを示す表を掲載しておく。

インフレ率 物価 通貨価値 備考
-3% 0.74倍 1.36倍 デフレ
-2% 0.82倍 1.22倍 デフレ
-1% 0.90倍 1.11倍 デフレ
0% 1.00倍 1.00倍
1% 1.10倍 0.91倍
2% 1.22倍 0.82倍 クリーピングインフレ
3% 1.34倍 0.74倍 クリーピングインフレ
4% 1.48倍 0.68倍
5% 1.63倍 0.61倍 高度成長期並みインフレ
6% 1.79倍 0.56倍 高度成長期並みインフレ
7% 1.97倍 0.51倍 高度成長期並みインフレ


年間インフレ率が3%の状態が10年続くと、物価は1×1.0310=1.34392 なので1.34倍になり、通貨価値は1÷1.0310=0.74409なので0.74倍になる

エクセルオープンオフィスといった表計算ソフトを使っている人が、B1のセルに年間インフレ率(%)、B2のセルに年数を入れるとする。B2のセルに入れた数だけ年が過ぎたときの物価は「=(1+B1*0.01)^B2」の数式で計算される数値だけ倍になり、B2のセルに入れた数だけ年が過ぎたときの通貨価値は「=1/(1+B1*0.01)^B2」の数式で計算される数値だけ倍になる


インフレになると通貨価値が下がるので「現金や当座預金のままにするとお金の価値が下がっていく。それなら、現金や当座預金の形態でお金を保持することを止めて、普通預金や定期預金といった『インフレ率と同じぐらいに利子が付く金融資産』に替えてしまおう」という考えが広まる。

インフレ率を正確に予測するのは難しいので「普通預金や定期預金はインフレ率よりも低い利子なのではないか」という疑いも出てくる[1]。その疑いが強くなると、「不動産(土地・建物)や株式(会社所有権)や宝飾品(金塊、宝石)や美術品(絵画)といったモノを買おう」という考えが広まる。

インフレに強いのは不動産、株式、宝飾品、美術品である。インフレになったら同時にそれらの価格が上昇するので、全く平気と言える。ちょっと検索すると財テクに詳しい人が「○はインフレに強い」と語る文章が多数ヒットする(検索例1検索例2検索例3検索例4検索例5)。
 

商品の金額が同じなのに内容量が減るというシュリンクフレーションが起こる

インフレになると同じ内容量の商品の価格が上がったり、同じ価格の商品の内容量が少なくなったりする。

後者のことをシュリンクフレーション(shrinkflation)という。shrink(縮小)とinflation(インフレーション)を組み合わせた造語で、経済学者のピッパ・マルムグレンが考案したと伝えられている。

「実質値上げ」「隠れ値上げ」「ステルス値上げ」と表現されることが多い。いつの間にか容量が減っている商品wikiで価格を維持しつつ内容量を減らした商品が列挙されている。

消費者物価指数を計算するときは商品の内容量も考慮するので、シュリンクフレーションが多いと消費者物価指数に影響が及ぶ。
 

通貨価値が下がり、金銭債務者の負担が軽減される

無利子でお金を借りた後にインフレになると、借りたときより借金を返すときの方が通貨の実質的な価値が低くなっているため、返済額が同じであっても実質的には返済額が下がったのと同じことになる。そのためインフレは、無利子の借金のある者にとってはプラスとなる。

A社が無利子で100万円を借り、そのあとにインフレが起こったとする。機械が1台100万円の時に100万円を借りると、その100万円で機械を1つ買える。借金100万円を返すときにインフレになって機械が1台200万円まで値上がりしていたとすれば、金額は同じ100万円でも、実質的な返済負担は0.5倍にも減少したことになる。機械1台の借金に対して機械0.5台の返済をしたことになり、借金したA社にとっては得である。

有利子でお金を借りた後にインフレになると、「借りたときに決めた返済額」の実質的な価値が低くなっているため、「借りたときに決めた返済額」の通りに返済したとしても実質的には返済額が下がったのと同じことになる。そのためインフレは、有利子の借金のある者にとってプラスとなる。

A社が有利子で100万円を借り、そのあとにインフレが起こったとする。機械が1台100万円の時に100万円を借りると、その100万円で機械を1つ買える。利子を付けて借金120万円を返すときにインフレになって機械が1台200万円まで値上がりしていたとすれば、実質的な返済負担は減少したことになる。A社は金を借りる前に「機械1.2台の返済をするのか・・・」と思っていたが、実際は機械0.6台の返済で済んだ。

将来的にインフレ率の上昇が予想される場合、上記理由により返済価値の実質的な減少が見込まれるため、「お金をドカンと借りて投資や消費をした方が得だ」と考えるようになり、家計の消費や企業の投資を活発化させる。
 

インフレ率を予測せねばならず、金銭債権者の負担が増える

お金を貸す業者にとってインフレ率を予測するのが重要な課題となる。

先程の例でいうと、A社にお金を貸すとき「100万円を貸すので120万円を返せ」という契約だとインフレで大損し、「100万円を貸すので200万円を返せ」という契約だとインフレになっても損得無しで収まり、「100万円を貸すので220万円を返せ」という契約だとインフレになっても利益を出せる。

インフレ率を正確に予測するのは難しいので、お金を貸す業者にとってインフレ予測の作業は心理的な負担が大きい。
  

労働者の実質賃金が低下し、失業率が低下する

インフレーションの一部のデマンド・プル・インフレーションでは、物価の上昇に伴い賃金も上昇するが、物価よりも賃金のほうが高い価格硬直性を持っているので、物価の上昇に比べると賃金の上昇は遅れ、また上昇幅も少ないため、労働者の実質賃金は低下する。

労働者の実質賃金が低下するため、雇用側としては新たに人を雇いやすくなり、失業率が低下する。

そのため、インフレーションの一部のデマンド・プル・インフレーションは、現在失業中の者にとってはプラスとなり、既に安定した職についている者にとってはマイナスとなる。

インフレーションの一部のデマンド・プル・インフレーションが進んで安定した職に就いている者が損をした例は、第一次世界大戦の好景気に伴うインフレである。ヨーロッパ諸国から軍需物資の注文が殺到し、造船業などの分野で空前の好景気となって一気に経済成長が進んだが、インフレになって物価が上がり、賃金労働者は生活苦となった。大戦景気というWikipedia記事にはインフレによる生活苦が記述されている。
 

まとめ

インフレにおいては、金銭債権者が損をして金銭債務者が得をする。インフレーションの一部のデマンド・プル・インフレーションにおいては、安定した職に就いている者が損をして失業者が得をする。

勝ち組が苦しみ、負け組が勝ち組に追いついていく。国内の経済格差がじわじわと縮小していき、格差社会が解消されていく傾向がある。
 

インフレによる金銭債権者への罰と金銭債務者への支援

インフレになると金銭債権者に損害が生まれ、金銭債務者に利益がもたらされるが、その損害や利益は一律的なものになる。
 

インフレは金銭債権者に対して一律課税(フラットタックス)のような罰となり、金銭債務者に対して「一律的支援」というべき支援となる

甲という年の1月1日に、銀行預金100億円を持ち負債を抱えていないAさんと、銀行預金100万円を持ち負債を抱えていないBさんと、一切の銀行預金を持たず負債も抱えていないCさんと、一切の銀行預金を持たず銀行への負債100万円を抱えるDさんと、一切の銀行預金を持たず銀行への負債100億円を抱えるEさんがいるとする。そしてどの銀行預金も一切の利子が付かないとする。

甲という年の1月1日にインフレ率が3%となってそのまま1年が経ち、通貨価値が(1÷1.03=0.9708...なので)0.97倍になった。そのとき、「甲という年の1月1日の通貨価値」でAさんとBさんとCさんとDさんとEさんの資産を比べてみると、Aさんは資産97億円で3億円減少、Bさんは資産97万円で3万円減少、Cさんは増減なし、Dさんは負債が3万円減少、Eさんは負債が3億円減少となった。

AさんとBさんを比べると、つまり銀行に対する債権者を比べると、資産に対する一定割合が減少している。累進課税と似ておらず[2]、逆進課税とも似ておらず[3]、累進課税と逆進課税の中間に位置する一律課税(フラットタックス)と似ていることが分かる[4]

DさんとEさんを比べると、つまり銀行に対する債務者を比べると、負債に対する一定割合が減少している。「ちょっと貧乏な人と凄まじく貧乏な人に同額の金銭支援をする」という逆進的支援ではなく[5]、「ちょっと貧乏な人にほんのちょっとの少額の金銭支援をして、凄まじく貧乏な人に超多額の金銭支援をする」という累進的支援でもない。逆進的支援と累進的支援の中間に位置する「一律的支援」となっている。
 

前項のまとめ

インフレは、金銭債権者が損をして金銭債務者が得をする。

インフレが金銭債権者に与える負担は、一律的負担であり、累進的負担でもなく、逆進的負担でもない。

インフレが金銭債務者に与える支援は、一律的支援であり、累進的支援でもなく、逆進的支援でもない。
  

インフレ税という表現

インフレーションは政府が人為的に発生させることが可能である。そしてインフレが発生すると通貨を保有している者が損をする。

政府が発生させたインフレによって通貨を保有している者が損害を被ることは、政府が行う徴税によって通貨を保有している者が損害を被ることとよく似ている。このため、政府が人為的に引き起こすインフレのことをインフレ税と呼ぶことがある。
 

インフレ税という表現は比喩的な表現

税金(租税)とは、政府の強制力によって納税者の財産権を否定し、納税者の保有する通貨を取り上げて政府に通貨を移転させることである。

一方、インフレというのは通貨を保有している者から政府に通貨が移転するわけではない。

このため、政府が人為的に引き起こすインフレのことをインフレ税と呼ぶことは、比喩的な表現というべきである。
 

インフレ税という表現は一面的な表現

また、政府が人為的に引き起こすインフレで金銭債権者に損害が与えられるが、金銭債務者には支援が与えられる。

「インフレ税」という表現は政府が人為的に引き起こすインフレで金銭債権者に損害が与えられることだけを強調しており、一面的な表現である。

「インフレ税」という表現は「インフレ税&インフレ支援」とでも言い換えると実態を正しく伝えることができる。
 

インフレーションを要因で分類

デマンド・プル・インフレーション

供給が一定であるのに対して需要が増加し、需要に対して供給が追いつかないために生じるインフレをデマンド・プル・インフレーション という。

世界のどこかで戦争が起きて軍需物資の注文が殺到することで発生するのが典型例である。日本では、第一次世界大戦や朝鮮戦争のときにそのインフレとなった。

官公需(政府や地方公共団体の需要)を高めつつ民需を抑制せずに国内の需要を高める、という政策をとるとこのインフレになる。2017年1月以降のアメリカ合衆国がその政策を採用しており、2017年~2019年の3年間は2%前後のクリーピング・インフレとなった(資料)。
 

コスト・プッシュ・インフレーション

需要が一定であるのに対して供給が減少し、需要に対して供給が追いつかないために生じるインフレをコスト・プッシュ・インフレーション という。

人件費(賃金)や原材料費のコスト(費用)上昇率が労働生産性の増加率を上回り、供給量が減ることによって発生する。

コスト・プッシュ・インフレーション人件費・プッシュ・インフレーション (賃金インフレ)と原材料費・プッシュ・インフレーション (資源インフレ、原材料インフレ)に分けることができる[6]

原材料費・プッシュ・インフレーションの典型は原油価格の上昇によるものである。石油はあらゆる製品の原材料となっており、物価への影響が大きい。日本では第1次オイルショックや第2次オイルショックのときにこのインフレとなった。

デマンド・プル・インフレーションや人件費・プッシュ・インフレーションは、政府が意図的に促進したり抑制したりすることができる。

国産でまかなえる原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーションは、政府が意図的に促進したり抑制したりすることができる。米や野菜や牛乳といった原材料を一部廃棄して販売を故意に抑えて価格を上昇させてインフレ促進して農家の保護をする、米や野菜や牛乳といった原材料を一切廃棄せず販売をを故意に増やして価格を下落させてインフレ抑制して外食産業の保護をする、といったものである。

石油や鉄鉱石のようにほぼ100%を外国産でまかなう原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーションも、政府が意図的に促進したり抑制したりすることがあり得る。ある資源をA国とB国から調達しているところにB国との商取引を打ち切ってA国だけと取り引きしてA国から高値で買い入れてインフレ促進してA国に恩を売ったりB国を懲罰したりする[7]、ある資源をA国から調達しているところにB国からの調達を始めて安値で仕入れてインフレ抑制する[8]、といったものである。

外国産でまかなう比率が高い原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーションは、政府が意図的に抑制することが難しい。外国の生産に影響される事象なので政府の影響力が及びにくい。外国産でまかなう比率が高い原材料による原材料費・プッシュ・インフレーションを抑制するための手段は、政府の自国通貨買い為替介入や中央銀行の利上げで自国通貨を切り上げて輸入を拡大するというものに限られる。
 

ここまでのまとめ

以上のことをまとめると次のようになる。
 

名称 状態 政府の促進 政府の抑制
デマンド・プル・インフレーション 需要増加 促進しやすい 抑制しやすい
人件費・プッシュ・インフレーション 供給減少 促進しやすい 抑制しやすい
外国産でまかなう比率が低い原材料による
原材料費・プッシュ・インフレーション
供給減少 促進しやすい 抑制しやすい
外国産でまかなう比率が高い原材料による
原材料費・プッシュ・インフレーション
供給減少 促進することは
一応あり得る
抑制が難しい
通貨切り上げで輸入を増やすしかない

 

複数の要因が合体した例

複数の要因でインフレが引き起こされることがある。

日中戦争から太平洋戦争まで、すなわち大東亜戦争の時の日本は、デマンド・プル・インフレーションとコスト・プッシュ・インフレーションの両方が合体して発生したと考えられる。軍隊の活動により日本国内の企業へ軍需物資の注文が殺到し、ABCD包囲網による禁輸措置で原材料の調達が難しくなった。
  

好景気をもたらすインフレと、不景気をもたらすインフレ

人々の収入が増加して消費や投資を活発化させることを好景気という[9]

人件費・プッシュ・インフレーションとデマンド・プル・インフレーションが連動する状態を好景気ということができる。

外国産でまかなう比率が低い原材料による原材料費・プッシュ・インフレーションは、その原材料を生産する人々の収入を増加させるので、その人たちが消費や投資を活発化させる可能性があり、そこから国内の好景気が波及する可能性がある。

外国産でまかなう比率が高い原材料による原材料費・プッシュ・インフレーションは、その原材料を生産する人々の収入を増加させるが、その人たちは海外に住んでいるので、そこから国内の好景気が発生する可能性が少ない。むしろ人々の購買力を押し下げて不景気をもたらすだけになりやすい。
 

スタグフレーション

スタグフレーションとは、賃金が一定を保ったり下落したりするのに物価が上昇していく現象のことをいう。多くは不景気を伴う。

コスト・プッシュ・インフレーションの一部の「外国産でまかなう比率が高い原材料による原材料費・プッシュ・インフレーション」であると考えてよい。

第1次オイルショックや第2次オイルショックのときに日本やアメリカ合衆国やイギリスといった先進国諸国がスタグフレーションになった。
  

インフレーションを速度で分類

  • クリーピング・インフレ   カタツムリが這い回るような(creep)ゆっくりとした速度で、緩やかに進むインフレ。マイルドなインフレとも言われる。年間インフレ率2~3%程度を指すとされる。2021年現在、世界中でインフレターゲット政策が導入されているが、その多くが2%程度に設定されている。ちなみに、インフレターゲットを設定して金融緩和だけでクリーピング・インフレを目指す政策をリフレーション政策と呼ぶ。
  • ギャロッピング・インフレ   馬が力強く駆け回るような(gallop)速い速度で、早足に進むインフレ。年間インフレ率10%を超えると、こう呼ばれる。アルゼンチンやブラジルといった南米諸国はこのインフレである時期が多い。日本では第1次オイルショックのとき経験した。
  • ハイパー・インフレ   インフレ率が極端に上昇していくインフレーション。毎月50%上昇など。猛烈かつ予測不能な勢いで進行するインフレ。最近の例として、ジンバブエではインフレ率が年率約2億3000万%に達したとされる。下記参照。
     

ハイパー・インフレーション

ハイパー・インフレは、先述の通り、インフレ率が予測不可能な勢いで急激に上昇していく現象のことである。

ハイパー・インフレは、「外国に占領されて今の政府が消え去るんじゃないか」とか「革命が発生して今の政府が消え去るんじゃないか」といったように通貨発行主体の継続性が疑われた場合に発生しやすい。同時に、戦争などで国土が荒廃したり経済封鎖を受けて輸入が止まったりして、市場に供給される物資そのものが決定的に不足している場合が多い。

このような状態では通貨の信用がほとんど消失し、誰もが通貨を受け取ろうとしなくなり、誰もが「通貨をさっさとモノに交換しておこう」と考えるようになる。しかも物資が決定的に不足しているため、通貨価値がどんどん下落する。そういう状況でも政府は公務員や軍人を雇い続けねばならないため、大量の紙幣を印刷して公務員や軍人に給料として渡す。

こうして、天文学的額面の紙幣が発行されたり、紙幣の重量を測って取引を行うような事態が出来する。画像検索すると、ハイパーインフレ名物ともいえる札束の画像が見つかる(検索1検索2検索3)。

これは同時に政府の統治能力が極端に低下していることを意味しており、社会全体が荒廃する結果さらに経済の荒廃が進行する。このような状態ではヤミ経済が横行し物価統計自体が推測に頼らざるを得なくなるようなことも多い。
  

数字での定義

ハイパーインフレの正式な定義は、アメリカの経済学者フィリップ・ケーガンによると「月率50% 」となる。月率50%が1年間続くと年率で1万2975%になるので、「年率1万3千%がハイパーインフレ」といわれることが多いのだが、それは正しい表現ではない。

また、国際会計基準ではハイパーインフレを「3年以内に累積100%、物価がちょうど2倍になる」と定義している。例えば、年率26%のインフレが3年続くと、(1×1.26×1.26×1.26=2.000となるので)累積100%となる。ある年が年間15%、次の年が年間20%、その次の年が年間45%となると、(1×1.15×1.20×1.45=2.001となるので)累積100%となる。「年率26%程度のインフレが3年 」と憶えておいても良いだろう。

フィリップ・ケーガンの定義は瞬間的な速さを重視するもので、月率のインフレ率データを作成しなければその定義に該当する現象が起きているかどうか分からない。

国際会計基準の定義は3年間通しての持続性を重視するものである。年率のインフレ率データさえあれば、その定義に該当する現象が起きたかどうかを把握できる。
 

ハイパーインフレの例

ハイパーインフレの例としては第一次世界大戦後のドイツ・ワイマール共和国が有名である。

1914年7月から1918年11年まで続いた第一次世界大戦の間でずっと英国や米国やフランスとの貿易が止まっており[10]、ドイツ国内の物資が不足して供給が弱まっていた。ドイツ本国には外国軍隊の砲弾が落ちてくることがなく、ドイツの工業地帯は無傷だったが[11]、いかんせん物資不足だった。

そして総力戦の戦争だったので限られた物資は軍隊に優先して回されており、その間は民需が満たされなかった。1918年11月に戦争が終わって軍需が消えたが、大きな民需が国内に残っていた。

1919年6月に締結されたヴェルサイユ条約と1921年5月の賠償会議で第一次世界大戦の戦勝国から巨額の賠償金を課された。ドイツは不換銀行券の自国通貨を発行しつつ外国為替市場で自国通貨売り・基軸通貨買いを行って外貨を獲得し、その外貨を賠償金として支払うことになった。1921年はそうやって必死に賠償金を払ったが、このせいで自国通貨安・基軸通貨高となり、輸入を行うのが難しくなり、国内の原材料が不足して供給が弱まり、インフレ圧力が掛かった。

1922年の7月になると、ドイツは外貨による支払いが不能となった。賠償金の一部として石炭を現物で支払うことも戦勝国フランスと約束していたが、その支払いも遅れた。

当時のフランス首相はレイモン・ポアンカレで、ドイツに対する厳罰主義の支持者だった。1923年1月にフランス軍とベルギー軍がドイツ屈指の工業地帯であるルール工業地帯を占領した(ルール占領)。ルール工業地帯はルール炭田の近くに立地しているのだが、ルール炭田はヨーロッパ最大の炭田とされ、石炭を多く産出する。この石炭を確保して賠償金を回収する狙いがあった。

これに抗議するためドイツ政府は労働者たちにストライキすることを呼びかけ、ルール工業地帯の生産がぴたりと止まった。これを消極的抵抗とか受動的抵抗という。

この生産停止をきっかけに猛烈なハイパーインフレが始まった。ドイツ政府はストライキに参加する労働者に対して紙幣を支払って報酬を与えたので、ドイツ国内に紙幣が溢れかえることになった。パン一個が1兆マルクに達した、本を買うのに札束をスーツケースにつめていったなどと逸話には事欠かない。

1918年11月までのドイツは皇帝ヴィルヘルム2世が統治する帝国だったが、1918年11月になって皇帝はオランダへ逃亡していて、帝国が崩壊していた。そういう状況だったので、ドイツ国民に「今の政府が消え去ってしまうかもしれない」という疑心暗鬼も生じていた。

「大きな民需」と「供給能力の決定的な喪失」と「通貨発行主体の継続性への懐疑」が合わさって1923年のハイパーインフレとなった。

史上最も激烈なハイパーインフレに見舞われたのは第二次世界大戦後のハンガリーであるとされており、このときには10垓ペンゲー紙幣が印刷されている(発行はされていない。発行されたのは1垓まで)。

最近ではジンバブエやベネズエラが有名。
 

デノミネーション

ハイパー・インフレが進むと通貨単位が大きくなりすぎて計算するのに不便となる。このため、新たに通貨の計算単位を作ってそれまでの単位と切り替えることがある。これをデノミネーションとかデノミという。

1923年のドイツのハイパー・インフレにおいても「1兆パピエルマルクを1レンテンマルクに交換する」という宣言がなされた。

ちなみにデノミネーションは平時に提案されることがある。福田赳夫総理大臣は1977年10月19日の参議院予算委員会で[12]、また1978年1月4日の恒例の伊勢神宮参拝の際の談話で、デノミに対して前向きな発言をした。「円をデノミネーションして、『1ドル=240円』という状況を『1ドル=1円』ぐらいにして計算しやすくしよう」という提案で、こういうものは国威発揚のデノミと扱われる。
 

日本が経験してきたインフレーション

近代化以前の日本において、しばしばインフレーションが発生した記録が残っている。有名なものは江戸時代に荻原重秀が貨幣を改鋳して起こした「元禄・宝永のインフレ」である。

近代化してからもしばしばインフレとなった。この記事1902年以降の日本のインフレ率が掲載されているので、それに基づいて表を作成する。
 

年間インフレ率 解説
1946年 289.2% 敗戦直後のインフレ。空襲で生産設備に打撃が与えられ、需要に対して供給が追いつかない状況だった。それに加え、円建てで発行された戦時国債を新規通貨発行で返済していったため、これだけのインフレとなった。
1918年 33.2% 第一次世界大戦の好景気に伴うインフレ。ヨーロッパ各国から日本に軍需物資の注文が殺到し、需要に対して供給が追いつかなくなってインフレになった。米価も上昇し、大正米騒動が勃発した。
1974年 23.1% 第1次オイルショックのインフレ。第4次中東戦争の末に産油諸国がOPECを結成し、原油価格を釣り上げた。石油価格が急上昇し、世の中の生産力に打撃が与えられた。
1951年 17.2% 朝鮮特需のインフレ。1950年に朝鮮戦争が勃発し、朝鮮半島で戦うアメリカ軍からの発注が急増し、需要に対して供給が追いつかなくなった。
1980年 7.8% 第2次オイルショックのインフレ。産油国イランで革命が起こって原油輸出が止まり、石油価格が急上昇し、世の中の生産力に打撃が与えられた。


主なインフレは以上の通りである。「ハイパーインフレは年間26%が3年続くなどして3年以内で物価が2倍になる状態」と国際会計基準が定義しており、それによると敗戦直後のインフレと、1917~1919年のインフレが、ハイパーインフレに該当する。

1940~1942年の3年間は物価が1.94倍、1942~1944年の3年間は物価が1.88倍なので、ハイパーインフレに該当しない。

高度経済成長期のインフレ率は5~7%の範囲に収まっている。昭和末のバブル景気のインフレ率は2~3%と、極めて穏当な水準で推移していた。

2013年3月に日本銀行総裁に黒田東彦が就任して異次元金融緩和を行ったら2014年のインフレ率が2.6%にまで上昇したが、2014年4月に消費税が8%に引き上げられたからか2015年以降のインフレ率が伸び悩んでいる。インフレターゲットを年率2%に設定しているが、達成できていない。
 

インフレ率の上昇をもたらす財政政策

本項目では、インフレ率の上昇をもたらす財政政策を列挙していく。

財政政策は、国会(立法府)と内閣(行政府)が共同で行う。国会は法律議決権と予算議決権と国債の発行を承認する権限がある。内閣は法律執行権と予算編成権・予算執行権と国債を発行して市場に売却し資金を調達する権限がある。

インフレ率の上昇をもたらす財政政策は、需要を増やす政策と供給を減らす政策に大別される。本項目では見やすくするため、需要を増やす政策はピンク色の題名にして、供給を減らす政策は青色の題名にした。
  

官公需を増やす

官公需を増やすことで需要が増える。

国家予算の公共事業費を増やし、官公需の中の公共事業需要を増やし、政府や地方公共団体の公共事業関連の購入を増やす。こうした政策を財政出動とか積極財政などと呼ぶ。

国家予算の軍事費を増やし、官公需の中の軍需を増やし、政府の軍隊関連の購入を増やす。つまり、軍備を拡張する軍拡を行う[13]。こうした政策も財政出動とか積極財政などと呼ぶが、特に軍事ケインズ主義 と呼ぶことがある。
 

消費課税を減らして民需を増やす

消費課税を減税すると消費が活性化し、民需が増える。消費課税とは財・サービスの消費に対して科される租税で、消費税・酒税・ガソリン税などである。なかでも消費税は消費活動に対する総合的な罰金であり、消費を冷え込ませて民需を削減する強力な力を持っている。消費税を引き下げることで民需が増える。
 

政府・地方公共団体からの給付金を増やして民需を増やす

消費を活発に行う若年層・新婚世帯・子育て世帯に対して政府や地方公共団体が給付金を支払い、消費を活発化させて民需を増やす。幼児教育無償化、高校教育無償化、大学教育無償化、大学学費の引き下げ、奨学金の金利引き下げ、奨学金の金利を引き下げてゼロやマイナスにする、奨学金の返済義務の免除、結婚した世帯への支援金(結婚新生活支援事業費補助金)の増額、児童手当(子ども手当)の増額、など。

老人に給付する年金を増やして消費の活性化を図る。ただし、老人は若年層に比べてさほど消費を活発に行わないので、効果が限定的である。
 

賃金を増やして民需を増やす

労働者の賃金を引き上げて、労働者の消費を増やして民需を増やす。

公務員の雇用を増やす。特に「団結権と団体交渉権を認められる種類の公務員」の雇用を増やすことが効果的である。そうした公務員は労働組合を結成して労働運動を行って世の中全体の労働運動を牽引する可能性が高く、世の中の賃上げの動きを作り出しやすい[14]

公務員の給与を引き上げる。公務員の給与を引き上げることで、世の中の大企業の給与を引き上げる効果がある。中央政府や地方公共団体は、就職市場において大企業と競合しており、優秀な高学歴学生を奪い合っている。中央政府や地方公共団体が公務員給与を引き上げることで、大企業は「我々も給与を引き上げよう。そうしないと、優秀な学生がすべて公的職場に引き抜かれてしまう」と焦るようになり、大企業の賃上げが進んでいく。

労働に対して賃金を与えることを政府が率先して行い、世の中の企業に範を示す。災害の後片付け業務に参加した人や、国際的スポーツイベントの観戦に訪れる外国人観光客に対して案内を行う業務に参加した人や、国際的スポーツイベントの観戦に訪れる外国人観光客に対して医療サービスを提供した医師・看護師に対して、政府が謝礼金を確実に支払う。そうすることで世の中の企業に「労働者にタダ働きをさせてはいけない、やりがい搾取は許されない」という気風が生まれ、企業が労働者にサービス残業を強要することができない風潮が生まれ、賃上げの流れが生まれることが期待できる。

直接金融を弱体化させて間接金融への転換を図る。直接金融は企業が株式や社債で市場から資金調達する金融システムで、間接金融は企業が銀行からの借り入れで資金調達する金融システムである。直接金融になると多数の投資家が企業に対して「人件費を減らして財務体質を改善せよ」と要求するようになって企業が人件費を圧縮することに傾きやすくなるが、間接金融になると銀行の融資担当者だけが企業に対して「人件費を減らして財務体質を改善せよ」と要求することになり、企業が人件費を圧縮することに傾きにくくなる。間接金融の導入で人件費が削られにくくなり、国内の消費が活発化しやすくなる。

法人税を強化して、民間企業の法人所得に対して罰金を課す。そうすることで民間企業が人件費を削って法人所得を増やすことを抑制し、民間企業が人件費を増やすように誘導して、個人消費を活性化させる。

関税を高くして保護貿易にする。そうなると企業経営者たちは従業員に向かって「君たちは比較的に高賃金を得ているが、発展途上国の低賃金労働者と同じような働きをしている。君たちを雇用することをやめて、工場を低賃金の発展途上国へ移転して、発展途上国の低賃金労働者を雇用して、海外で作った製品を国内に輸入しようと思う」と宣告しても、実際にそういう行動を起こすことが難しくなる。

「自分たちの仕事が海外に流出することがない」と従業員が考えるようになり、従業員は自信を維持することができ、賃上げを要求する意気を持つことができる。国内の各企業で賃上げの傾向が強まり、国内の個人消費が活発化する。

関税を高くして保護貿易を促進すると、民間企業において従業員の給料を上げる方向に物事が進んでいきやすい。このため、保護貿易は賃上げ貿易 と表現することができる。


(以下のことは財政政策ではなく単なる依頼・説得だが、とりあえず本項目に記述しておく)

経団連のような企業の集まりに賃上げを要請する。すなわち、官製春闘をする。そして経団連のような企業の集まりに対して「賃上げをすると労働者の生活が向上し、労働者の知的水準が向上し、労働者の質が高まり、企業の国際競争力が高まる」と説き、企業が賃上げを容認する気風を作る。

成果主義を導入した企業経営者が従業員に対して「成果が伴わない労働には賃金を支払わなくてよい」という態度を示すようになったら「それはよくない。労働者から時間と体力を奪った対価として賃金をちゃんと支払うべき」と説き、企業が賃下げするのを思いとどまらせる。

「企業は株主の所有物であるが、それと同時に従業員のものでもある。株主の利益になるような行動をとることをある程度制限して、従業員の賃金を増やすべきである」という思想をステークホルダー資本主義というが、そういう思想が広がるように説いて回る。

「企業は営利追求団体であり慈善団体ではない」と企業経営者が言いだしたら、それに対して「企業は従業員の時間を奪うという罪を犯している。週40時間労働で平均睡眠時間8時間の場合、その週の合計時間の23.8%、その週の非・睡眠時間の35.7%を労働者から奪っている。その罪滅ぼしのため、企業は多少の慈善行為をすることが必要ではないか」といった調子で反論を浴びせ、企業が営利追求をやめて従業員の給与拡大という慈善行為をするように仕向け、企業が企業の社会的責任(CSR)を果たすように仕向けていく。
 

余暇を増やして民需を増やす

国内の長時間労働を抑制して労働者の余暇を増やすことで、「長時間労働から解放され、お金を使うヒマがある」という状況になり、労働者の消費を増やして民需を増やすことができる。

企業の長時間労働が減ると企業の生産量が減ることになり、国内の供給が減ることになる。

企業の長時間労働を減らすことは、労働者の消費を増やして民需を増やす効果と、企業の生産を減らして国内供給を減らす効果の2つがあり、両方ともインフレ率上昇の原因となる。

公務員の雇用を増やし、公的職場の人手を充実させて、公的職場の長時間労働を減らし、公務員の余暇を増やし、消費を活発化させる。

中央政府や地方公共団体は、就職市場において大企業と競合しており、優秀な高学歴学生を奪い合っている。中央政府や地方公共団体が公務員の余暇を増やすことで、大企業は「我々も従業員の余暇を増やそう。そうしないと、優秀な学生がすべて公的職場に引き抜かれてしまう」と焦るようになり、大企業の長時間労働が抑制されていく。

労働基準監督署の人員を増やして世の中の企業への監視が行き届くようにして、企業の長時間労働を減らし、労働者の余暇を増やし、消費を活発化させる。

所得税の累進課税を強めて、労働意欲を抑制し、「仕事すればするほど金を稼げるというわけではない」という状況にして、仕事中毒(ワーカホリック)の人を減らして、長時間労働を好まない社会的風潮を作り上げ、労働者の余暇を増やし、消費を活発化させる。

株式や債券といった証券の売買や、先物取引や、外国通貨の売買(外国為替証拠金取引)や、暗号資産の売買に、個人が参加しにくい体制を作り上げる。キャピタルゲイン税(株式等譲渡益課税)やインカムゲイン税(株式等配当課税)について、一律課税をとりやめて累進課税にしたり、累進課税を強化したりして、「やればやるほど稼げるわけではない」と考えさせる。そうすると、「寝ても覚めてもお金を増やすことばかり考えていて、消費をしようとしない人」の割合が減って、余暇と消費を重視する気風が強くなり、国内の消費が活発化していく。
 

労働者の不確実性を減らして民需を増やす

賃金が上がって余暇が増えた労働者であっても、「この高賃金と豊富な余暇の状態は、いつまでも続くと保障されているわけではない」とか「自分は不確実性に直面している」とか「将来が不安である」と考えるようになると消費を控えて貯蓄するようになる[15]。このため、労働者が消費をして民需を拡大するように仕向けるには、労働者に対して労働待遇の継続性を保障して労働者に確実性を与えることが必要になる。

労働待遇の継続性を保障されて確実性に恵まれるようになって消費をする勇気を持つ労働者は、消費の必要が増える結婚に対して積極的になるので非婚率が減少する。また消費をする勇気を持つ労働者は、結婚したあと、消費の必要が増える出産に対して積極的になるので出生率が増加する。非婚率の減少や出生率の増加によって少子化が解消され、激しい消費を行う若年層の人数が増え、消費が拡大する。

民間企業に対して解雇規制を掛け、民間企業が正社員を簡単に解雇できないようにする。また民間企業に対して派遣社員の使用を禁止する。解雇規制や派遣社員規制によって労働市場の流動化を阻止し、労働待遇の継続性を保障された労働者を増やし、確実性に恵まれた労働者を増やし、労働者が将来不安に備えて貯蓄する必要性を減らし、労働者が安心して消費できるようにする。

政府や地方公共団体が終身雇用する公務員を増やす。先述のように中央政府や地方公共団体は、就職市場において大企業と競合しており、優秀な高学歴学生を奪い合っている。公的職場における終身雇用が増加すると、大企業は「終身雇用を従業員に約束せず、企業の業績が悪くなったら早期退職を強いることを宣言すると、優秀な就職希望者が公的職場に流れてしまう。終身雇用を従業員に約束しよう」と考えるようになり、大企業の終身雇用が増えていく。

政府や地方公共団体が公務員の給与体系から成果主義・能力主義を排除して年功序列を導入したり、従業員の給与体系から成果主義・能力主義を排除して年功序列を導入した民間企業に対して政府や地方公共団体が「そのほうがいい」と賞賛したりして、世の中に年功序列を広める。成果主義・能力主義に直面せず年功序列に組み込まれた労働者が増加すると、労働者の不確実性が減り、労働者が「将来に成果が減ったり能力が落ちたりしても給与を大きく減らされることがない」と考えるようになり、労働者が不確実性に備えるための貯蓄に励む必要が無くなり、労働者が消費をする勇気を持つようになる。

老人に対する年金の支給額を増やす。あるいは政府高官が率先して「将来も必ず年金制度を維持する」と発言する。そうすると労働者の不確実性が減り、労働者が「定年を迎えても収入が大きく減ることがない」と考えるようになり、労働者が不確実性に備えるための貯蓄に励む必要が無くなり、労働者が消費をする勇気を持つようになる。

良好な治安を維持し、凶悪犯罪の発生を抑制する。そうすることで労働者が「将来に自分や身内が凶悪犯罪に巻きこまれることがない」と考えるようになり、労働者が不確実性に備えるための貯蓄に励む必要が無くなり、労働者が消費をする勇気を持つようになる。

良好な治安を維持し、凶悪犯罪の発生を抑制するには様々な努力をしなければならないが、最も重要なことの一つは、国内において人口空白地域を発生させないことである。人口空白地域を作ってしまうと、凶悪犯罪の証拠を隠滅しやすい土地が増えることになり、凶悪犯罪をしやすい状態になり、治安が急激に悪化する。つまり、地方への支援をして、地方にお金を投入して、地方に人を張り付かせるという地方振興政策を継続的に行う。1972年から1974年まで首相を務めて1980年代中盤まで日本政治の実権を握った田中角栄と同じような政策を行う。

地方振興政策は多くの場合において公共事業を伴い、官公需が拡大することになる。人口が少ない地域において官公需を拡大させることによって人口空白地域が減り、凶悪犯罪の証拠を隠滅しにくくなり、凶悪犯罪の発生が抑制され、人々の不確実性が減り、人々が安心して消費を行うようになり、民需が拡大する。
 

保護貿易にして海外からの供給を減らす

関税を高くして保護貿易にして、海外からの供給を減らす。

関税を低くして自由貿易を促進すると、安価な海外製品が大量に入ってくるようになり、供給が需要よりも大きくなってデフレになる。こうした考え方を輸入デフレ論という。

関税を高くして保護貿易を促進すると、企業経営者が従業員に「君たちは比較的に高賃金を得ているが、発展途上国の低賃金労働者と同じような働きをしている。君たちを雇用することをやめて、工場を低賃金の発展途上国へ移転して、発展途上国の低賃金労働者を雇用して、海外で作った製品を国内に輸入しようと思う」と言っても、それを実行することが難しくなる。従業員は自信を維持することができ、賃上げを要求する意気を持つことができる。国内の各企業で賃上げの傾向が強まり、国内の個人消費が活発化する。

関税を高くして保護貿易を促進すると、海外供給の削減と、国内従業員の賃上げによる民需拡大という2つの効果がある。どちらもインフレ率の上昇の原因となるものである。
 

統制経済にして国内の供給を減らす

政府が経済に介入する統制経済 を採用し、国内業者に様々な規制を掛け、国内の供給を減らす。

天候に恵まれて農産物が豊作になったとき、農産物をそのまま大量に出荷すると市場で値崩れを起こして物価が下がる。そうなると農家の売上が減り、豊作貧乏という状況になる。豊作貧乏になることを防ぐため、農林水産省や農協が指導して緊急需給調整施策 を行い、農家の手によって農産物を地中に廃棄する。

農業を主な産業とする地方は数多い。農林水産省や農協が指導して緊急需給調整施策を行って供給の過大化を防ぎ、農家の貧困化を防ぎ、農家が廃業することを防ぎ、人口空白地域の発生を抑制し、凶悪犯罪の証拠を隠滅しやすい土地が発生することを防ぎ、良好な治安が維持されるようにしている。良好な治安が維持されたら、人々の不確実性が減り、人々が安心して消費を行うようになり、民需が拡大する。

つまり、農林水産省や農協が指導して行われる緊急需給調整施策は、供給の削減と需要の増加という2つの効果がある。どちらもインフレ率の上昇の原因となるものである。

大規模小売店舗法(大店法)を制定し、大規模な商業施設が登場することを防ぎ、商品の供給の過大化を防ぐ。
 

通貨以外では

世の中は通貨以外にも様々なインフレに包まれている。

  • 宇宙の初期にあったとされる現象。宇宙のインフレーション。インフレーション理論。
  • 某レッドカーペット番組の「大笑」(初期の中笑相当)
  • 某ボードゲーム連盟の「アマチュア免状」(買う感覚)
  • バトル漫画の「戦闘力」(初期のままでは通用しない)

要するに、「ありがたみがどんどん減っていく」と言うこと全般を指す。

関連商品

ニコニコ市場は2023年11月に終了しました。 ニコニコ市場は2023年11月に終了しました。

関連Wikipedia記事

関連コトバンク記事

関連項目

  • デフレーション
  • 消費者物価指数
  • ジンバブエ / ジンバブエ・ドル
  • お金(貨幣)(通貨)
  • 紙幣
    • 政府紙幣
    • 不換銀行券
    • 兌換銀行券
  • 銀行
  • 中央銀行
  • 日本銀行
  • 信用創造
  • 準備預金制度
  • マネタリーベース(日銀当座預金)
  • マネーストック(マネーサプライ)
  • ゼロ金利政策
  • マイナス金利政策
  • 短期金利
  • 長期金利
  • 為替
    • 固定相場制
      • 金本位制
    • 中間的為替相場制
    • 変動相場制
    • 通貨バスケット
    • 国際金融のトリレンマ
    • キャリートレード
    • 米国債
  • 国債
    • 固定利付債
    • 割引債
  • 資金吸収オペレーション
    • 売りオペレーション
  • 資金供給オペレーション
    • 買いオペレーション
  • 中央銀行の国債直接引き受け(マネタイゼーション)(財政ファイナンス)
  • ヘリコプターマネー(ヘリマネ)
  • クラウディングアウト
  • プライマリーバランス
  • インフレ恐怖症
  • 国債恐怖症
  • 財政再建(緊縮財政)
  • 累進課税
  • 仕事中毒(ワーカホリック)
  • トリクルダウン
  • 機能的財政論
  • 経済に関する記事の一覧

脚注

  1. *普通預金や定期預金の利率がインフレ率よりも低い利率になることを「実質金利がマイナスになる」と表現する。詳しくは利子の記事を参照のこと。
  2. *累進課税は「富裕な人ほど税率が増えて納税額が増える」といった税制で、課税所得金額300万円に5%の課税をして15万円を徴税し、課税所得金額3億円に70%の課税をして2億1千万円を徴税する、というようなものである。
  3. *逆進課税の典型例は人頭税で、すべての人が全く同じ額の税金を支払うものである。課税所得金額300万円から15万円を徴税し、課税所得金額3億円から15万円を徴税する、というようなものである。
  4. *一律課税(フラットタックス)は「富裕な人と貧乏人の税率が同じである」といった税制で、課税所得金額300万円に10%の課税をして30万円を徴税し、課税所得金額3億円に10%の課税をして3000万円を徴税する、というようなものである。
  5. *2020年にはコロナ禍の経済対策として全国民に一律10万円の特別定額給付金が実施された。これは逆進的支援と言うべきものである。
  6. *野村證券の用語解説ウェブサイトでは、人件費・プッシュ・インフレーションを賃金インフレと呼び、原材料費・プッシュ・インフレーションを資源インフレと呼んでいる。
  7. *2019年5月にアメリカ合衆国からの要請を受けてイランからの石油の輸入を停止した事例はこれに近いものである(記事1記事2
  8. *1958年に日本がソ連から石油を輸入するようになった事例はこれに近いものである(記事
  9. *野村證券・証券用語解説集の『金利と景気』『景気循環』を参考にした。
  10. *1914年の開戦直後からイギリス海軍が海上封鎖しており(ドイツ封鎖)、1917年4月まで中立を保っていた米国とドイツの貿易は行われなかった
  11. *第一次世界大戦の西部戦線はベルギーとフランス北部で膠着し、そのまま1918年11月にドイツ国内で反乱と革命が起こり、皇帝ヴィルヘルム2世がオランダに亡命してドイツ帝国が崩壊し、終戦を迎えた。ドイツは敵国領土に押し入りつつ自国領土が無傷のまま負けるという珍妙な負け方をした。
  12. *会議録の13ページあたりにデノミに関する福田赳夫総理の発言がある。
  13. *もちろん日本なら、軍事費が防衛費、軍隊が自衛隊、軍備が装備、軍拡が防衛力拡大に、それぞれ言い直される。「自衛隊は軍隊ではない」という建前が尊重される。
  14. *「自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士以外の公務員」は、団体行動権(争議権、ストライキ権、スト権)を法律によって否定されているが団結権と団体交渉権を認められていて、労働組合を結成できる。ちなみに、公務員の中でも自衛官・海上保安官・刑務官・警察官・消防士は法律によって労働三権の全てを否定されており、労働組合を結成して労働運動を行うことができず、世の中の賃上げの動きを作り出すことが難しい。
  15. *経済学ではこういう貯蓄を予備的貯蓄という。

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