ソーラーセイル実証機「IKAROS」 単語


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ソーラーセイル実証機「IKAROS」とは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の工学実証機である。

正式名称は小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」。
(IKAROS=Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun)

概要

IKAROS

2010年5月21日にH2Aロケット17号機で金星探査機「あかつき」の相乗り小型衛星のひとつとして打ち上げられた。 

「ソーラーセイルのみで宇宙空間を航行できること」「ソーラーセイルに取り付けられた薄膜太陽電池によって発電ができること」の実証を目的としたJAXAの機体である。

所属・運用はJAXA月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)、プロジェクトマネージャー(略称:PM)は森治(同グループ助教・工学博士)、本体製造はNEC東芝スペースシステム他(「はやぶさ」や「あかつき」でもおなじみ)。

ちなみに、名前の由来は「勇気一つをともにして」から。(森リーダーからのメッセージ)  

なお、火星探査機「のぞみ」からの伝統で、「君も太陽系をヨットに乗って旅しよう!」というキャンペーンが行われ、応募した15万人余りの名前が先端マスに、メッセージがDVDに入れられ搭載されている。

ミッションの目標

JAXAではIKAROSのミッションにおいて、ソーラーセイルの展開と薄膜太陽電池による発電の実現までをミニマムサクセス、ソーラーセイルによる加速と減速、軌道制御の実施までをフルサクセスと位置付けている。

私たちは、このソーラー電力セイルによって、太陽系大航海時代を先導します。

JAXA 月・惑星探査プロジェクトチーム(JSPEC)のIKAROS将来計画 より

またエクストラ実験としていくつかの工学/理学ミッションを実行する予定である。

  • 「液晶デバイス実験」 通電する事で反射特性が変わる液晶デバイスを使って噴射なしに姿勢を制御する工学ミッション。
  • 「VLBI実験」 VLBI(超長基線電波干渉法 複数の電波観測を併用して観測を行う方法)でIKAROSの位置を高精度で割り出す工学ミッション。
  • 「ALDN(ダストカウンタ)」 飛行中にIKAROSに衝突する宇宙塵の分布を測定する理学ミッション。
    ALDNとは中の人曰く、「魔法のじゅうたんのような探査機に乗った日本初の純国産宇宙塵検出器」とのこと。
  • 「GAP(ガンマ線偏光検出器)」 検出器でガンマ線バースト(宇宙最大規模の爆発現象)を観測する理学ミッション。

ソーラーセイルについて

ソーラーセイル(太陽帆)とは宇宙空間で薄膜状の帆に太陽光を受けて反射することにより、その際の太陽光圧で推進する仕組みのことである。構想自体は100年以上前から存在していたが、その開発はかなり困難であり、宇宙空間に至った実証機としては世界初となる。

ソーラーセイルの開発で苦労したのは、宇宙空間の過酷な環境に耐え得る軽量かつ薄い帆に使用する素材の開発、および宇宙空間での帆の展開方法の2点である。IKAROSの帆には厚さ0.0075mmのポリイミド樹脂が採用され、打ち上げ時には本体に折り畳まれて収納された。打ち上げ後に先端に錘を付けた一辺14mとなる正方形の帆を本体をスピンさせることで生じる遠心力を利用して展開している。

ソーラー電力セイルについて

ソーラー電力セイルとは、日本独自の手法として研究されている推進手段である。ソーラーセイルは太陽の光圧を用いて機体を駆動するが、太陽から離れるにつれ太陽光は弱くなり推進効率が低下してしまう。そこでセイルに貼付けた軽量の薄膜太陽電池で電力を起こし、その電力でイオンエンジンを駆動することで機体を加速するという「合わせ技」が考えられた。これがソーラー電力セイルである。

日本は今後トロヤ群小惑星や木星などの深宇宙探査にソーラー電力セイルを使用する計画を立てており、「IKAROS」はそのために不可欠な画期的薄膜太陽電池の技術実証を行う機体でもある。太陽電池を使うことで、これまで深宇宙探査に使われてきた原子力電池(放射性同位体の崩壊熱を用いる電池。打ち上げ失敗時のリスクに抵抗が強い)に頼らなくてよいというメリットも生じる。なお、「IKAROS」にイオンエンジンは搭載されていない。

公式マスコットキャラクター

 JAXA公式のマスコットキャラクターとして「イカロス君」がおり、金星探査機「あかつき」の「あかつきくん」「きんせいちゃん」と共に公式サイトやblogに登場している。JAXAでは子供向けの解説なども用意しており、そちらでも活躍している。

また、「イカロス君」によるTwitterでの実況も行われている。2010年6月14日頃の搭載カメラの分離から前後して、2台のカメラ「DCAM2くん」(DCAM2kun)と「DCAM1ちゃん」(DCAM1chan)もTwitterを始めている。

参考記事 → 広報実証機「IKAROS」

ちなみに、JAXA関係のtwitterにおいては、はやぶさに次いで2番目にフォロー数が多い。

イカロス君

航行履歴・ニュース

  • 2010年5月21日:打ち上げ成功
    • H2A17号機にて打ち上げられ、金星探査機「あかつき」に続きスピン分離される。 

  • 2010年6月10日:ミニマムサクセス達成
    • 6月3日から行われていたソーラーセイルの展開作業が6月10日に成功したことが11日発表された。その際に薄膜太陽電池の発電も確認され、ミニマムサクセスを達成している。
      展開作業は折りたたまれたソーラーセイルを伸ばす一次展開と広げる二次展開の二段階で行われたが、一次展開の最中にソーラーセイルを伸ばすにしたがって徐々に落ちるはずのスピンレートが逆に僅かに上がる現象が確認され、経過を観察するために一次展開の作業を途中で停止することとなった。しかし、問題無しとして8日に一次展開作業を再開し完了。一次展開されたソーラーセイルの安定を待って、9日に二次展開作業が行われ完了した。
      この後、「IKAROS」は膜面デバイスの試験を経て、ソーラーセイルによる航行技術の確立というフルサクセスへ向け、金星を目指して航行する。

  • 2010年6月14日:分離カメラ「DCAM2」による機体撮影成功 → 撮影された画像
    • 6月14日、「IKAROS」上面に搭載された分離カメラ「DCAM2」を切り離し、ソーラーセイル展開後の「IKAROS」の撮影を試みた。結果は上々で、想定通りに遠心力で正方形に開いたソーラーセイルの写真が送られてきた。
      なお、この分離カメラ「DCAM」は、探査機「はやぶさ」に搭載された小惑星探査ロボット「ミネルバ」が「はやぶさ」の撮影に成功した経験が生かされている。

  • 2010年6月19日:分離カメラ「DCAM1」による機体撮影成功 → 撮影された画像
    • 6月19日、「IKAROS」上面に搭載された分離カメラ「DCAM1」を切り離し、スピンレートを下げたソーラーセイルの状態確認に成功。「DCAM1」は「DCAM2」よりも打ち出しに使われるバネが弱いため、より至近で撮影された写真が送られてきた。2台の「DCAM」によって撮影された写真は、ソーラーセイルの制御に最適なスピンレートを割り出すデータとして使用される。
      なお、この撮影の際に「DCAM1」は自身の影が「IKAROS」上面に映ったのも撮影しており、計らず自身の間接的撮影にも成功している。また、エクストラ実験に使用する液晶デバイスの正常動作も確認された。

  • 2010年7月9日:IKAROS、太陽光圧による加速を確認! → 該当記事
    • 7月9日、セイル完全展開後に実施した精密軌道決定により、太陽光圧による光子加速が確認された。これにより、太陽系空間を「ソーラーセイリング!」していることが確認された。

  • 2010年7月14日:ガンマ線バーストの観測成功 → 該当記事
    • 7月7日、航行とは別の理学ミッション(上記エクストラ実験のひとつ)の一部として搭載していたガンマ線バースト観測装置(GAP)により、ガンマ線バーストを観測していたことが詳細な解析で判明した。今後は世界で初めてとなるガンマ線の偏光観測を目指す。

  • 2010年7月23日:液晶デバイスによる姿勢制御実験成功 → 該当記事
    • 7月13日に行った液晶デバイスによる姿勢制御の成功が、太陽角の変化から確認された。これにより搭載燃料の消耗を押さえて姿勢制御ができるようになり、より長期間の航行が可能となる。まさに太陽系大航海時代へ帆を上げる実験成功である。

  • 2010年9月14日~18日:通信不可帯に突入するも、無事に通信復帰 → 該当記事(公式ブログより)

  • 2010年12月8日16時39分:金星最接近点を通過  → 該当記事(公式ブログより)
    • これにより「IKAROS」は世界初の惑星間航行を行ったソーラーセイル航行宇宙機となった。
      また、フライバイ時に本体カメラにより金星の撮影が試みられた。

  • 2011年1月26日:定常運用終了宣言、フルサクセス達成 → 該当記事
    • 加速技術の実証、航行技術の獲得がほぼ確認された。光子加速に基づく軌道決定手法も確立。
      金星フライバイ時に撮影した画像も公開された。通信速度が極端に低下している中、まず各カメラが撮影した画像のサムネイルを圧縮して送信、その中から金星が映っているものを運用スタッフが選び、選択画像を「IKAROS」が圧縮して送信、という連携プレーである。

これにて、「IKAROS」は予定されていた全ての実験を終えた

エクストラミッション(後期運用)

フルサクセス達成から2012年3月までの1年間、引き続き新たなテーマで帆の挙動を試験する他、追加観測機器によるのダスト観測やガンマ線偏光の初観測を目指して運用中。運用の継続是非は状況を見て適宜判断するとのこと。

フルサクセス達成時点で既に通信可能な範囲を出始めており、姿勢制御に必要な燃料も半分を切っている。サブチームリーダーの津田氏は、「通信が出来なくなるまでの間、帆が大きく変形するような思い切った姿勢変更を試してみたい」と話している。

通信が出来なくなった後の「IKAROS」は、いわば人工惑星となって、地球〜金星の軌道間で太陽を周回し続けることになるという。そのままの軌道で行けば2015年に地球に再接近すると予測されており、その姿を拝むことが出来るかもしれない。期待して待とう。


  • 2011年9月21日:理学ミッション(GAP)達成
    • イカロスに搭載されたガンマ線バースト観測装置(GAP)のデータを解析していた金沢大学を中心とした研究チームより、ガンマ線バーストの放射メカニズムを一部解明できたことが発表された。

  • 2011年10月時点:運用継続中
    • 事前に言われているように、後期運用ではソーラーセイルが大きく変形すると予測されるほど低回転(最低で0.055rpm付近)までスピンレートを落とした。結果は予想された太陽光圧による帆の変形はさほど確認されず、むしろIKAROS本体の方が首振り運動を行う結果が出るなど、興味深い挙動データが蓄積されている。
    • ただし、後期運用に入ってからはアンテナを地球に向け続けることが困難となっており、たびたびビーコン運用が行われている。また、データを地球に送る為にはアンテナを地球に向ける姿勢変更が必須となっているため、燃料の消費が大きい模様。

  • 2011年10月18日:逆スピン運用に成功 → 該当記事
    • セイル展開時より行っていたスピンの方向を逆向きにすることに成功。これにより今までの回転方向とは違った軌道制御データや、減速方向に掛かっていた太陽光圧の風車効果がどうなるのかなど、運用終盤になって興味深いデータが得られることになった。

関連動画

 
 

*イカロス君
   

*関連曲

 

こぼればなし

  • ソーラーセイル実証機としては「IKAROS」が世界初となるが、運用トラブルによりソーラーセイル効果による姿勢制御を行った機体としては、小惑星探査機「はやぶさ」がある。また、太陽光圧を考慮に入れた設計は、地球近傍の人工衛星においてもなされている。

MTSAT-1R(ひまわり6号) MTSAT-2(ひまわり7号)
気象庁HP

       φ ← ココの金色の傘がソーラーセイル
       /     太陽電池の光圧と釣り合いをとるための「帆」
      / 
      /
   η, /      地球近傍の静止軌道でも
  / /_/_    太陽の光圧はいろいろといたずらする
  (/   /|
  |´Д`|/
  /' ̄./~ヽ
  /' ̄./ヽ__)
 /' ̄./
 /ニニ/

 

  • 黒幕の人など居ない・・・・・・はず。でもバレバレw
                   → 川口研究室HPのトップがイカロスな件
    と思ったら、黒幕自らカミングアウトした。
    (2010年8月8日 神奈川県立川崎図書館でのはやぶさ講演にて)

   , ノ)
  ノ)ノ,(ノi
  (    (ノし
┐) ∧,∧  ノ
..|( ( ....:::::::) ( 「黒幕が自ら正体を明かす展開にみんな衝撃を受けているだろう」
 ̄⊂/ ̄ ̄7 )
 (/ 黒幕 /ノ
   ̄TT ̄

( ´・森・`)「アチコチの講演でカミングアウトしているでしょ。もはや黒幕とはいえません」

ちなみに、森PM率いるイカロスチームは、30代の研究者を中心に構成されている若いチームで(はやぶさプロジェクトに関った人も多い)、ISASで学んでいる現役の学生たちも機体の制作から関わっているほどである。この中から、黒幕の跡を継ぐ者が生まれるかもしれない。

なお、あかつきの打ち上げまでに機体が完成しなかった場合は、単なる「オモリ」として乗せることになっていたとのこと(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル

 

  • 過去のソーラーセイル実験機としては、米国惑星協会(民間)の「コスモス1号」やNASAの「ナノセイルD1」があったが、どちらもロケットの調子に恵まれず、軌道に乗れなくて肝心の試験が行えないという不幸な過去があった。

    またソーラーセイルのような野心的な計画には手堅い他の科学衛星と違ってなかなか予算が降りないということもあったそうで、「IKAROS」はロケットの調子と打ち上げチャンスどちらにも恵まれた希有な例と言えるかもしれない。

    なお、NASAのリベンジマッチである「ナノセイルD2」(日本では「なのっち」と呼ばれることが多い。公式Twitterあり)は今度こそ打ち上げに成功。しかし分離に失敗しいったん消息不明となった。...と思っていたら2011年1月に奇跡の復活を遂げた。なのっちは燃料いらずのスペースデブリ処理に向けたデータ収集を予定している。

    また、惑星協会も「ライトセイル1」によるリベンジを狙っており、「IKAROS」とも相互応援キャンペーンを張っている。皆も応援してあげよう。

 

関連商品

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関連項目

  • JAXA
  • 打ち上げロケット・宇宙機の一覧
    • 金星探査機「あかつき」
    • 準天頂衛星初号機「みちびき」
    • 小惑星探査機「はやぶさ」
    • 気象衛星ひまわり
  • 臼田さん(アンテナ)
  • 広報実証機「IKAROS」

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