デルフィニア戦記とは、茅田砂胡/著、沖麻実也/イラストのファンタジー小説。1993年から1998年にかけてC★NOVELSから刊行された。全18巻+外伝3巻。略称は主に「デル戦」。
文庫版は中公文庫より刊行されている。こちらも全18巻だが、C★NOVELS版の各巻についていた副題が省かれ、代わりに1~4巻が第1部「放浪の戦士」、5~7巻が第2部「異郷の煌姫」、8~12巻が第3部「動乱の序章」、13~18巻が第4部「伝説の終焉」という副題になった。外伝は2巻まで文庫化されている。
概要
廷臣や大貴族たちのクーデターによって命からがら逃げ延びた若きデルフィニア国王ウォル・グリーク・ロウ・デルフィンと、違う世界から落ちてきたと自称する少女(中身は少年)グリンディエタ・ラーデン(リィ)が、かつての忠臣たちとともに奪われた国を取り戻すところから始まる軍記系ファンタジー。
国王軍最強の戦士、国王軍の勝利の女神として王国奪還に尽力したリィがウォルに請われて城に留まり、数年の時を経て少女から美女へとクラスチェンジしてから第2部が始まる。やがて周辺国によってデルフィニアは侵略されるが、勝利の女神からデルフィニア王妃へとジョブチェンジしたリィは王国を助け、ウォルや個性的な仲間たちとともに幾度もの戦いを繰り広げていく。
C★NOVELSファンタジアを支えた大ヒット作で、現在に至るまで多数の根強いファンを持つ名作。『デル戦』の物語は完結しているが、一部のキャラクターはその後、作者の別シリーズ『スカーレット・ウィザード』と合流して『暁の天使たち』で再登場し、『クラッシュ・ブレイズ』『トゥルークの海賊』『天使たちの課外活動』と続いていき、現在も継続中。
同人誌版・大陸書房版
なお、この作品はそもそもは『キャプテン翼』の二次創作として同人誌で書かれていた小説だった(『望園鏡』シリーズと呼ばれる)。いったいどういうこと?と思われるだろうが、同人誌版は世界観は『デルフィニア戦記』と同じで、主役格2人の名前だけが日向小次郎と若島津健になっているというもの。1作目『望園鏡』は、離宮に暮らす野生児の王子・日向小次郎と、そこへ侍女として潜入してくる女装の暗殺者サラ(本名・若島津健)の物語で、『デル戦』第2部のリィとシェラのエピソードの原型にあたる。元々オリジナル作品として構想していたものをキャプ翼二次創作として発表したらしく、好評を博してシリーズ化され、続く同人誌作品も後の様々な茅田作品の原型になっている。もちろん同人誌なので現在は通常の手段では入手不能だが、同人古書では探せば見つかるかも。
その同人誌版を完全オリジナルに書き改め、1992年、大陸書房の大陸ノベルスから〈王女グリンダ〉シリーズとして『デルフィニアの姫将軍』『グランディスの白騎士』の2冊が刊行された(この2冊は『デル戦』の第2部にあたる)。しかしこれは出版社の倒産で打ち切りになってしまい、C★NOVELSで前日譚にあたる王都奪還編から仕切り直しされたため、『デル戦』とは一部設定が異なる。こちらも長年入手困難になっていたが、2000年に2冊合本のうえ『王女グリンダ』としてC★NOVELSから再刊され、中公文庫版(上下巻)も出ている。
主な登場人物
- ウォル(ウォル・グリーク・ロウ・デルフィン)
- デルフィニア国王。先代国王と下働きの娘の間に出来た庶子で、その出自は本人にも秘密のまま辺境スーシャのフェルナン伯爵の子供として育てられた。先代王の死後、直系の王子・王女が次々と亡くなったことで伯爵から出自を明かされ、嫌々ながら王位に就くことになったが、ペールゼン侯爵ら改革派のクーデターで国を追われ、流浪の戦士となっていた。そんな彼が窮地をリィに救われたところから物語が始まる。初登場時24歳。
天下無双の剣士であり、公正無私で無欲、それでいて食えない性格をした、人としての器がやたらとデカい型破りな王様。その人柄で多くの味方を惹き付ける一方、庶出という出自ゆえ血統を重んじる貴族から敵視されたり、女性の気持ちが理解できなかったりする。通称「駄熊」。王位奪還後、リィを養女にしたのち王妃とするが、男女の関係は一切なく、同盟者としての強い絆で結ばれている。
- リィ(グリンディエタ・ラーデン)
- 異世界から落ちてきた少女。初登場時13歳。見た目は超絶美少女だが、中身は野生児の少年。大男を片手で持ち上げたり、何メートルもの高さの城壁を跳び越えたりといった人間離れした身体能力を持ち、また馬や狼といった獣に敬意を示される。右も左もわからない世界でたまたまウォルを助けたことがきっかけでウォルの同盟者となり、国王軍最強の戦士、勝利の女神として無双することになる。ウォルたちが何か困難な状況に直面すると、だいたいリィがひとりでなんとかするのがお約束。身体能力の他にも、様々な特殊な能力を持っている。
ウォルが王位を取り戻したあとはウォルの養女となり、さらに王妃となるが、王妃らしいことは一切しない。
- シェラ
- 第2部(5巻)から登場する暗殺者の男の娘。暗殺集団ファロットの刺客としてリィを暗殺するするため侍女として王宮に潜入するが、いいようにリィにあしらわれてしまう。結局リィを殺せないまま、暗殺の指示を出していた本拠が消滅してしまい、そのままリィの女官となる。
- イヴン
- ウォルのスーシャ時代の幼なじみで、タウ山脈の自由民。タウの山賊を率いてウォルの王位奪還に大きく貢献し、デルフィニアの独立騎兵隊長となる。ウォルたちデルフィニア側と、独立独歩のタウの自由民との間を取り持つ立場。バルロとは仲が悪い。
- バルロ(ノラ・バルロ・デル・サヴォア)
- ウォルの従弟で、デルフィニア国内でも随一の力を持つサヴォア家の公爵であり、ティレドン騎士団を率いる。直系の王子・王女が次々と亡くなった際、本来は王位に就くはずの立場だったが、本人は王冠を自分で被るより国王も無視できない有力貴族の立場の方がいいと、断固として即位を拒否した。ウォルのことは「従兄上」と呼んで強く慕う。私生活では派手な女たらしだが、後腐れを残さず関係を清算する達人。
- ナシアス
- バルロの親友でラモナ騎士団の団長。物腰は穏やかだが、鋼のような強い意志を持ち、それが最善と思えば騎士の面子など一顧だにしない手段を選ぶことも少なくない。バルロと違って過去のトラウマのせいで女性に対して奥手。
- ガレンス
- ラモナ騎士団の副団長。ナシアスの盾を務めることが多い怪力の巨漢。
- シャーミアン
- ロアの領主であるドラ将軍の一人娘で、軟禁状態から監視を振り切って国王軍に馳せ参じるなど勇ましき女騎士。
- ブルクス
- デルフィニアの外交官、のち宰相。タンガ・パラストとの外交交渉などに優れた手腕を発揮し、デルフィニアの内政を支える名宰相。
- カリン
- 王宮の女官長。先代王の時代から王室の奥の間を取り仕切ってきた女傑で、ウォルの出生にまつわる重要な真実を知る人物。4巻の彼女の告白は本作随一の名場面のひとつ。
- フェルナン伯爵
- ウォルの義父。ウォルが王位を継ぐにあたって父と呼ばせるのを断固として止めさせたほど、頑固で高潔な貴族。クーデターでウォルが王位を追われた際、ペールゼンの陰謀で投獄されてしまう。
- ポーラ・ダルシニ
- 9巻から登場。地方の下級貴族の娘で、小犬のような女性。とある晩餐会で、ウォルとリィを国王と王妃だと知らないまま出会う。
- ヴァンツァー
- シェラの命を狙うファロットの暗殺者。鉛玉を飛ばすのが武器。
- ルウ
- 10巻から登場するリィの相棒。
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関連項目
- 小説作品一覧
- 茅田砂胡
- ライトノベル:C★NOVELS
- 文芸:中公文庫