ナリタタイシンとは (ナリタタイシンとは) [単語記事]

ナリタタイシンとは、日本の元競走馬・種牡馬である。
1993年クラシック三強の一角であり、小さな体から研ぎ澄まされた刀のような末脚を繰り出す一方
繊細で、怪我や病気がつきまとう儚げな側面もあった。だが男だ。

概要

父は欧州最強の名牝ダリアの息子で自身もGⅠ馬のリヴリア、母はタイシンリリィ、母の父ラディガというイマイチ地味な感じの血統。
しかしこの母、子出しは抜群で初仔は重賞馬ユーセイフェアリー、タイシンの上の兄弟二頭は中央で3勝している。
遅生まれ過ぎて周囲をヤキモキさせたが、6月のある朝いつの間にか生まれてすっくと立っていたというワイルドな逸話が残っている。
しかし遅生まれのハンディは大きく、体は小さすぎて今度は競走馬になれるのかなあと周囲をヤキモキさせた。

気性が激しく振り落とさんばかりに暴れることもあり、賢いのか気が乗らないと勝手に厩舎に帰ろうとしたり、人の目も気にせずゴロリと寝そべり昼寝する問題児で
何よりいつまでも大きくならず、牝馬みたいな華奢な体付きで競走馬としてやれるのかとやっぱり心配されたが、デビューにはこぎつけた。
しかし新馬戦では人気を背負って引っかかって派手に沈むというイマイチっぷりだった。続く未勝利はスカっと勝利。
次走のきんもくせい特別ではまたひっかかってモノの見事に垂れて6着。以降は末脚に賭けることを徹底したが
500万条件では差し切れない歯がゆさを見せる。しかしラジオたんぱ杯三歳ステークスでは持ち前の切れ味を十二分に発揮し重賞初勝利。
続くシンザン記念ではアンバーライオンを差せず、若き天才武豊に乗り替わった弥生賞ではウイニングチケットの捲りに敗れ2着と
なかなか突き抜けきれない面も見せていた。追い込み馬の宿痾か。根性はあるとは言え、馬体が小さいため下手に馬群にも突っ込めないため尚の事辛い。
しかし皐月賞では、小回り急坂と追い込み馬に不利な条件が多い中山において上がり最速の末脚でビワハヤヒデを切り捨て、皐月賞馬に輝いた。
続くダービーではやはり追い込みに賭けたがウイニングチケットの執念に敗れ3着、古馬に挑んだ高松宮杯ではロンシャンボーイに逃げ切られ2着。運が離れてゆく。

秋は順調さを全く欠き、運動誘発性肺出血でトライアル回避せざるを得ず、ぶっつけで菊花賞に出走するが全く伸びるどころの話ではなく17着ブービー惨敗。
最下位は心房細動を発症し歩くのがやっとだったネーハイシーザーだったため実質最下位である。
翌年冬の目黒記念で復活勝利を挙げ、春の天皇賞に挑むが本格化したビワハヤヒデを猛追するが、影を踏むのが精一杯の2着。
宝塚記念を目指すが軽い骨折を発症し回避。秋は京都大賞典へ向かおうとするが下痢で回避。
仕方なく天皇賞ぶっつけで調整するが今度は屈腱炎を発症し長期休養を強いられる。運がないどころの話じゃない。
そして、天皇賞（春）から一年二ヶ月後、宝塚記念で復帰するが見る影もなく惨敗。
競走中止したライスシャワーを除けば最下位という体たらくではもう無理だということで引退し種牡馬入りした。

種牡馬としては早逝したリヴリアの後継として期待されたが、体の弱さが伝わったのか全く産駒が走らず、
彼に似て馬っぷりも最悪なので繁殖に上がった産駒も少なく、今では完全に彼の血を継ぐものはいなくなってしまった。
三強の中では成績を見るだけでは一番地味な印象に見えるが、レースを実際に見た人間にはそんなことはないと思えるほどの凄まじいキレを持つ、卓越した追い込み馬であった。
それだけに、血が一切残らなかったのは残念の一語である。

余談だが、その後クラシックで三強が形成されることはほとんどなくなってしまった。サンデー一極集中や、育成技術の向上で極端な脚質を取る有力馬が少なくなり
個性がなくなったからとも言われるが定かではない。おそらく一番彼らに近かったのは1999年のテイエムオペラオー・アドマイヤベガ・ナリタトップロードの三強であろう。
しかし彼らほどの情念を醸しだしてはいない。若手から強奪に等しい乗り替わりで得たチャンスを逃すまいとする岡部幸雄、
引退が近いほどの高齢であったがため、ダービージョッキーへのラストチャンスと闘志を激しく燃やしていた柴田政人、
岡部にビワを奪われた岸は同期の仲間とあって怒りに燃え、そして若き天才と言われながらダービーとは全く縁のなかった武豊…
この三人のように、様々な人の情念も渦巻かなければ、熱さに欠けるんじゃないかという疑惑が浮上する。
1999年も調教師と固い絆で結ばれた若手二人とベテランに達した天才の対決だから燃えたわけで。
そう考えれば、今の競馬界ではもう無理であろう。若手に有力馬なんて回らないだろうし、ベテランにも政人や岡部のように妖気じみた存在感を醸すような騎手はいないしね。
それが悪いこととは言わないが、何時かこの三強のような熱い戦いが見られる日があることを願いたい。
願わくばその三強には、タイシンのライバルであったウイニングチケットとビワハヤヒデの血が受け継がれていて欲しいものである。