モナド(数学) 単語

モナド

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モナドとは、圏論における枠組みの一つである。

概要

haskellの創始者のひとりであるフィリップ・ワドラーが「モナドとは単なる『自己関手の圏におけるモノイド対象』だよ。何か問題でも?」と言ったことで有名。

すごくシンプルだが結局何なのかよく分からないことでも有名。

準備

、関手、自然変換、モノイドの知識を前提とする。該当記事を参照のこと。

関手圏

自然変換は合成できる。関手を対象、自然変換を射と見れば、これは圏になるという事を示している。実際、C,Dを圏とするとき、DC

  • Ob(DC)を圏Cから圏Dへの関手全体
  • F,G∈Ob(DC)に対し、自然変換η:F→Gを関手Fから関手Gへの射
  • 射の合成を垂直合成・
  • F∈Ob(DC)とし、Fにおける恒等自然変換IdFを(IdF)X=IdF(X):F(X)→F(X)

で定義すれば圏となる。これを関手圏という。

随伴

圏C,Dと関手S:C→D、T:D→Cを考える。



C
S



T


D

この時、次の性質を持つ組〈S,T,φ〉をCからDへの随伴という。c,c'∈Ob(C)、d,d'∈Ob(d)とする。

Dの射 f:Sc→d に右随伴射と呼ばれるCの射 g=φ(f):c→Td を割り当てる全単射で、すべてのCの射 h:c'→c とDの射 k:d→d' について自然性条件 φ(k∘f)=T(k)∘φf、φ(f∘S(h))=φf∘h が成り立つ。このとき、φ-1(g)=fであり、φ-1(g∘h)=φ-1(g)∘S(h)、φ-1(T(k)∘g)=k∘φ-1(g)も成り立つ。


c'
h

c
g=φ(f)
 →

T(d)
T(k)

T(d')
↓S ↓S ↑T ↑T
S(c')
Sh
S(c)  →
f=φ-1(g)
d
k
d'

このような随伴が与えられたとき、SはTの左随伴、TはSの右随伴という。

この時、以下の性質を持つものが決定する。

  • 各対象cについて射ηcがcからTへの普遍射であり、各f:Sc→aの右随伴がφ(f)=T(f)∘ηc:c→T(d)であるような自然変換η:IC→T∘S。ηc:c→(T∘S)(c)、ηc=φ(idS(c))
  • 各対象dについて射εdがSからdへの普遍射であり、各g:c→Tdが左随伴射φ-1(g)=εd∘S(g):S(c)→dを持つような自然変換ε:S∘T→ID。εd:(S∘T)(d)→d、εd-1(idT(d))
  • 次の2つの合成は恒等自然変換である。
    S∘η
S∘IC=S →

S∘T∘S
ε∘S
→ S=ID∘S
      η∘T
IC∘T=T →

T∘S∘T
T∘ε 
→ T=T∘ID

成分を書くと以下の通り。


C

IC


C

C

IC


C
S↘ ⇓η T↗ ⇓ε ↘S   T↗ ⇓ε S↘ ⇓η T↗
D
ID
D D
ID
D

ηを単位元、εを余単位元という。φから一意にη,εが決まるため、しばしば随伴〈S,T,φ〉は〈S,T,η,ε〉と書かれる。

これにより、射の集合に同型写像HomC(c,Td)≅HomD(Sc,d)が存在する。

モナド

任意の自己関手U:C→Cは合成U2=U∘U:C→CやU3=U2∘U:C→Cを持つ。μ:U2→Uを、各x∈Ob(C)についてコンポーネントμx:U2(x)→U(x)を持つ自然変換とする。U∘μ:U3→U2はコンポーネント(U∘μ)x=U(μx):U3(x)→U2(x)を持つ自然変換であり、μ∘U:U3→U2はコンポーネント(μ∘U)xUxをもつ自然変換である。

圏CにおけるモナドU=〈U,η,μ〉とは、関手U:C→Cと2つの自然変換η:IC→U、μ:U2→Uからなり、次の図式を可換にするものである。


U3


U2
↓μU ↓μ
U2
μ
U


ICU
ηU

U2


UIC
id↘ ↓μ ↙id
U

形式的にモノイドの定義とよく似ていることが分かる。

  • モノイドの要素の集合M ⇔ 自己関手の集まりU:C→C
  • 単位元η:1→M ⇔ 恒等自然変換 η:IC→U

という対応関係がある。従ってηをモナドUの単位元と呼び、μを乗法を呼ぶ。はじめの図式はモナドの結合律を表し、2つ目の図式は右単位元律、および左単位元律を表している。

端的にいえば、圏Cのモナドとは自己関手U:C→Cの成す圏CCにおけるモノイドに他ならない。自己関手の合成∘に置き換えられる積⊗と恒等自己関手により定まる単位元ηを持つ3つ組(CC,∘,IC)のモノイド対象ということである。

ワドラーの説明に過不足な点は無い事が分かった。

随伴により定義されるモナド

積の記号∘は省略する。圏C,Dに対し関手S:C→D、T:D→Cが随伴〈S,T,η,ε〉であると仮定する。η:idC→TS、ε:ST→idDである。合成TSは自己関手となる。単位元と余単位元は水平合成により自然変換μ=TεS:TSTS→TS=Uを生じる。この置き換えを使うと先ほどの図式は以下のようになる。


TSTSTS
TSTεS
 →

TSTS
↓TεSTS ↓TεS
TSTS
TεS
TS


ICTS
ηTS

TSTS
TSη

TSIC
id↘ ↓TεS ↙id
TS

これは随伴に関する恒等式id=Tε・ηT:T→T、id=εS・Sη:S→Sを表す。まとめると、組〈TS,η,TεS〉を随伴により定義されるモナドという。

モナドに関する代数

〈U,η,μ〉を圏Xにおけるモナドとする。U-代数とは、対象x∈Ob(X)、Xの射h:Tx→xの組〈x,h〉からなり、以下の2つの図式を可換にする。


U2x
Th

Ux
  
x
ηx

Tx
μx ↓h idx ↓h
Ux
h
x x

U代数の射f:〈x,h〉→〈x',h'〉は図式


x
h

Tx
↓f ↓Tf
x'
h'
Tx'

を可換にするfである。

〈U,η,μ〉がCにおけるモナドであるとき、全てのU-代数とその射の集合は圏(アイレンベルク・ムーア圏)を成し、CUと書く。CからCUへの随伴〈SU,TUUU〉が存在し、関手SU,TUはそれぞれ


〈x,h〉
TU

x
  
x
SU

〈U(x),μx
 f↓ ↓f ↓f ↓f
〈x',h'〉
TU
x' x'
SU
〈U(x'),μx'

により与えられ、各U-代数〈x,h〉についてηU=ηかつεU〈x,h〉=hが成り立つ。この随伴によりCにおいて定義されるモナドは最初に与えられたモナドと一致する。

CからDへの随伴〈S,T,η,ε〉から初めて随伴によりCで定義されるモナドU=〈TS,η,TεS〉を構築し、その後U-代数の圏CUを構築するとする。このとき、TUK=T、KS=SUを満たす一意な関手K:D→CUが存在する。つまり、次の可換図式が存在する。


 D
K

 CU
S↑↓T SU↑↓TU
 C = C

多くの随伴でKは同型になり、このときのTをモナディックという。

  • 群の作用 

Gが群である時、各集合Xについてx∈X、g1,g2∈G、Gの単位元eに関する定義


U(X)=G×X
 ηx
X→G×X
     μx
G×(G×X)→G×X
x→〈u,x〉 〈g1,〈g2,x〉〉→〈g1g2,x〉

は集合の圏Set上のモナド〈U,η,ε〉を定義する。このときU-代数は集合Xと関数h:G×X→Xで、常にh(g1g2,x)=h(g1,h(g2,x))、h(e,x)=xが成り立つものである。h(g,x)をg・xと書くとこれらは通常の群Gの集合Xへの作用を定義する。

  • 加群 

Rが環である時、各アーベル群Aについて、a∈A、r1,r2∈R、Rの単位元1に関する定義


U(A)=R⊗A
 ηx
A→R⊗A
    μx
R⊗R⊗A→R⊗A
a→〈1,a〉 r1⊗(r2⊗a)→(r1r2⊗a)

はアーベル群の圏Ab上のモナド〈U,η,μ〉を定義する。このときU-代数はアーベル群Aと関数h:R⊗A→Aで常にh(r1r2,a)=h(r1,h(r2,a))、h(1,a)=aが成り立つものである。h(r,a)をr・aと書くとこれらは通常の環Rのアーベル群Aへの作用を定義する。

関連項目

  • 数学
  • 数学関連用語の一覧
  • 圏論
  • モナド/モノイド

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