海上護衛戦 (角川文庫)とは、第二次世界大戦で海上護衛総司令部参謀(兼連合艦隊参謀)を務めた大井篤が執筆した有名な書籍である。
初版は1953年の日本出版共同株式会社。以後原書房(『海上護衛参謀の回想』に改題)、朝日ソノラマ文庫版航空戦史シリーズ24(『海上護衛戦』に復題)、朝日ソノラマ新装版戦記文庫7、学研M文庫と様々な出版社で再版され、最新版がこの角川文庫の商品である。
日本は島国であることから補給路・シーレーンの確保が重要であり、そのために奔走し、試行錯誤した様子が記載されている。
日本海軍が艦隊決戦主義を優先するがあまりに補給・兵站を軽視しており、そのために輸送船・商船の護衛を無視し、護衛用の戦力がなかったことへの痛烈な批判が記載されている。補給がままならなければ、折角作った決戦兵器である大型艦艇すら動かせなくなるのに。
輸送船・商船が次々と沈むようになると、戦争に必要な資材が減ってジリ貧になっていく現場の様子が書かれている。
本書の内容には「米軍が効果的に輸送船・商船を沈めることができたのは無線を解読していたから。どこに何がいるのか、どこに向かっているのかを知っていたことを考慮していない。情報戦を軽視している」という批判もあるが、当時の現場レベルの体験談と回顧録・反省と思えば違和感はないだろう。
まず輸送船団に当たり前の護衛艦をつけるなど、自分達にとって理想的な状態を作ったにも関わらず問題があった場合に、初めて米軍の戦略の妙に目を向けるものだ。
華々しい表舞台の戦争とは違い、普段は描かれない裏方の戦いの様子が克明に記録された書籍として今も昔も評価は高い。
さて、角川から出版された本書籍の特徴は、その帯と解説であろう。
帯は「艦隊これくしょん~艦これ~」の赤城(艦これ)である。
輸送路の確保と護衛の大切さを解説する書籍なのに全く関係がない。
解説は艦これのプロデューサー兼ディレクターで知られる、C2プレパラート(C2機関)の田中謙介が担当している。
米軍の潜水艦が通商破壊を行ったことを卑劣だと批判を展開。
しかし本書では潜水艦の被害を殊更に取り上げたことはない。シーレーンの確保には潜水艦対策も含まれるが、航空機対策なども当然含まれる話であり、潜水艦による通商破壊だけを卑劣なことと強調した部分はない。
日本軍だって艦隊決戦志向であったため積極的ではなかったとはいえ、潜水艦による通商破壊作戦は行っているがスルーしている。
潜水艦によって金剛も信濃も沈んでしまったと書かれている。
確かにシーレーンを軽視して決戦兵器の開発・生産を優先し、大和をはじめとする大型艦を作ったことを大井氏は本書でも他の書籍でも批判をしているが、別にそんなことを強調はしていない。
本書の主題は輸送と兵站、それを確実に行うための護衛戦力の重要さである。
田中謙介は「とにかく米軍が悪い。卑怯だ」と言わんばかりの文章を書きなぐっているが、大井氏は日本海軍の補給軽視・護衛無視を批判しているのであって、本書の内容と解説がまるで噛みあっていない。
大井氏を「提督」と呼んでいる箇所があるが、最終階級が海軍大佐なので誤りである。提督の呼称は海軍の将官(元帥・大将・中将・少将・准将)に対して使われるものである。ちなみに陸軍の場合は将軍である。
当時の角川は艦これブームに乗り、艦これゴリ押しの時期だったとはいえ、なんでこんな素人に解説を書かせてしまったのであろうか。
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最終更新:2025/12/07(日) 03:00
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