統計力学 単語


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トウケイリキガク

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統計力学とは、目に見えないミクロなスケールの物理法則と、我々が目にするようなマクロなスケールで起こる現象との関係を明らかにしようとする、物理学の一分野である。統計物理学とも呼ばれる。

概要

コップ一杯の水も莫大な数(1024個ほど)の水分子からなっている。分子が従う運動方程式を知っていたとしても、これほどの数の分子について運動方程式を解くことは、解析的にはもちろん数値的にも不可能だ。仮に解けたとしても、我々が実験的に知りうること、知りたいことは個々の分子の運動ではなく、全体としての物理的性質である。そして全体の物理的性質を知るという目的からすると、個々の分子の運動を時間を追って調べることは、実はそんなに重要ではない。

ひとつひとつの分子に対して確かなことは言えなくても、莫大な数の分子の集まりに対しては確実に予言できることがあり、このおかげで統計力学という体系が成立している。例えばコイン投げで表の出る割合は、投げる回数が少なければばらつくだろうが、投げれば投げるほど一定の値(公平なコインならば1/2)に近づく。分子の数が多いということが確実な予言を可能にしているのだ。

統計力学を学ぶ上で古典力学、量子力学、熱力学についての知識が要求さる。ミクロなスケールの物理法則が古典力学または量子力学で表され、マクロなスケールの物理法則がが熱力学で表される。それを結びつけるのが統計力学だからだ。

前提知識がそれなりに要求されるためか、非常に重要な分野であるにも関わらず、物理学を専攻した人以外には知名度がいまひとつな気がする。

歴史的にはクラウジウス、マクスウェルらの気体分子運動論に端を発し、ギブスやボルツマンによって熱平衡状態を扱う平衡統計力学の基礎が固められた。非平衡系となると扱う対象が広すぎて一般的な原理はない。状況を限定すれば線形応答理論やボルツマン方程式などが使えたりする。

平衡統計力学の基礎

熱力学によれば熱平衡状態はわずか数個の変数を指定するだけで決まってしまう。一方ミクロに見れば、一つの分子の位置や速度でも違えば異なる状態といえる。ミクロに見て区別できる膨大な数の状態が、マクロに見れば一つの熱平衡状態に対応している。

熱平衡状態に対して何らかの物理量を計測してある値を得たとする。統計力学でこれを予言するには、対応するミクロな状態に適当な確率を割り振って、求めたい物理量の期待値を算出すればよい。この期待値の揺らぎが小さければ統計力学によって確実な予言ができることになる。

ここで前提となる確率はどう決めればいいのか教えてくれるのが等重率の原理で、それに従って得られる確率分布をミクロカノニカル分布と呼ぶ。

等重率の原理とミクロカノニカル分布

熱平衡状態を記述するマクロな変数の組としてエネルギーE、体積V、分子数Nをとる。ミクロに見てエネルギー、体積、分子数がマクロな変数と同じ値をとる状態を全部持ってくる。このような状態は膨大な数あるわけだが、これら全てに同じ確率を割り振る。この確率分布をミクロカノニカル分布と呼ぶ。

注意点・コメント

  • 全部に同じ確率を割り振るので等重率(または等確率)の原理という。
  • 一般の場合には熱平衡状態を記述するマクロな変数の組としてエネルギーといくつかの相加変数をとってくればよい。
  • エネルギーには少し幅を持たせる。膨大な数のミクロな状態がないといけないから。
  • 選んできたミクロな状態の中にはマクロに見て熱平衡にない状態も含まれる。しかしそういう状態は全体から見ればごくごく少数なので効いてこない。
  • 古典統計力学の等重率の原理はエルゴード仮説から導かれるという主張があり、エルゴード仮説は不要とする説と対立している。

ボルツマンの原理

熱力学によれば、熱平衡にある系のマクロな物理量は完全な熱力学関数さえ分かれば求められる。ミクロカノニカル分布の状態の数Wから完全な熱力学関数であるエントロピーSを求めることができる。

S = k log W

ここでk = 1.38×10−23 J/Kはボルツマン定数である。正確に言えば、この式の熱力学極限(体積を無限大にする極限)をとったものが熱力学のエントロピーである。この式はボルツマンの墓にも刻まれている。

カノニカル分布

実際にはマクロな系を記述する変数としては、エネルギーよりも温度をとったほうが便利だ。完全な熱力学関数さえ分かってしまえば、熱力学を使って温度に変数を取り直すことができるが、統計力学から直接求めることもできる。そのために使われるのがカノニカル分布で、事実上ミクロカノニカル分布よりもこっちが統計力学の主役を張っている。

マクロな変数として温度Tおよび体積V、分子数N(一般には温度と、他に必要な相加変数の組)をとる。体積、分子数が同じ値で、エネルギーは任意の値のミクロな状態を持ってくる。エネルギーEnの状態には確率Z−1e−En/kTを割り振る。ここでZは全確率を1にするための規格化定数で分配関数と呼ばれる。この確率分布をカノニカル分布と呼ぶ。

分配関数Zは次の式で与えられる。

Z = ∑n eEn/kT

ここでnはとりうるすべての状態を走る添字。ただの規格化定数Zにわざわざ分配関数などという名前がついているのは、これが完全な熱力学関数のひとつ、ヘルムホルツの自由エネルギーFと関係しているからである。

F = −kT log Z

揺らぎが小さい物理量を求める上ではミクロカノニカル分布を使おうがカノニカル分布を使おうが得られる結果は同じである。

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関連項目

  • 物理学
  • 熱力学
  • 量子力学

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