M60(戦車) 単語


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M60とは、次の事項を指す。

兵器

  • M60戦車(パットン戦車、あるいはスーパー・パットンとも)。本記事で説明する
  • M60A1 AVLB(戦車橋 Armored Vehicle Launched Bridge)。M60の車体をベースにして開発された。同名でM60戦車のバリエーションであるM60A1と混同しないよう注意。
  • M60汎用機関銃(GPMG)。ベトナム戦争で多用された.30口径(7.62mm)、ベルト給弾式、空冷の機関銃で、歩兵が1名で携行できるほか、車輌やヘリコプターなどに搭載された。ベトナム戦争ものの映画ではM16アサルトライフルとともに常連であり、また派生版が映画「ランボー」のポスターで使用されるなど、メディアでの露出もある。
  • ニューナンブM60。日本の警察および海上保安庁で広く使われた、ミネベア製.38口径・5発装填のリボルバー式拳銃。詳細については該当記事(ニューナンブM60)を参照。
  • M60無反動砲。ユーゴスラビア(当時)で開発された82mm対戦車無反動砲で、ユーゴスラビア内戦およびシリア内戦でも使われた。最大射程4,500m、有効射程は固定目標1,500m、移動目標1,000m。HEAT弾は220mmの装甲を貫徹するという情報がある。
  • M60アサルトライフル。ユーゴスラビア(当時、現セルビア)のZastava社が製造したAK-47のクローン(コピー品)。派生モデルがM70など山のようにあり、少なくとも18カ国で使われ、ユーゴスラビア内戦・コソボ戦争・湾岸戦争・マケドニア内戦・アフガニスタン戦争・イラク戦争・リビア内戦・シリア内戦など、紛争地帯の常連となっている。また後継品のM70やM72はタブク狙撃銃(サダム・フセイン政権下のイラク製造)の元となるなど、悪い意味での影響も与えた。
  • M60 105mm化学弾。各種105mm榴弾砲から発射できる米軍のガス弾。マスタード・ガス弾に分類される。
  • M60短機関銃。アルゼンチン製のハルコンHalcon ML-57の派生版ML-60がM60と混同されて呼ばれたもの。ML-57自体はアルゼンチン陸軍版が9mmパラベラム弾仕様、アルゼンチン警察版が.45 ACP仕様。製造数不明。ML-60はトリガーが単射と連射の二つあるバージョン。

その他

  • M60(メシエMessier 60)。おとめ座の楕円銀河NGC 4649。近くにM59が、ほかNGC 4647などがあってにぎやか、かつ、なんだか綺麗。
  • オリベッティ社が1984年に発売したパソコン(M20から順に続くシリーズの最後期の機種)。16ビット・Z8000系のZ8001 CPUを採用していた。
  • ハンドレページ・マラソン(Handley Page Marathon)。イギリス製の20席・4発プロペラ旅客機。1946年初飛行、1951年運行開始。この機体のプロトタイプがマイルスM.60マラソン(Miles M.60 Marathon)

M60戦車とは、アメリカ陸軍が開発した2世代MBT(主力戦車)である。

M48パットン直系の改良型であるため、「スーパーパットン」の非公式愛称で知られるが、厳密には本車両はパットンシリーズには当てはまらない。技術的に類似しているが純然たる後継車両という扱いである。しかし、それらは「公式」の話であり、搭乗者達の間では「パットン Patton」ないし前述のように「Super Patton」と呼ばれていた。

かつては米陸軍、米海兵隊に多数配備されていたが現在は退役。反面輸出された諸外国では各種改修を受けつつ現役である。

パットンの申し子達

第二次世界大戦後、アメリカ陸軍は火力や装甲は申し分無かったものの、機動性や走破性能に難のあったM26パーシングの後継としてM46パットンを開発した。

M46は朝鮮戦争において北朝鮮軍のT-34-85に対しては優位を発揮できたものの、ソビエトの虎の子たるIS-3は実戦投入されずに終わり、かの重戦車に対する優劣は依然として未知数のままであった。※1

焦った軍部はM46の砲塔を一新した改良型M47パットンを慌てて採用するも、その矢先にせっかく搭載した射撃管制装置の欠陥が判明し、早々に更なる改良型M48パットンを開発した。なおFCSの脆弱性を露呈したとはいえ、防護力などは相応の改善が認められたため、M47自体は西ドイツなどに多数が供与されている。

しかしこれら一連のパットンシリーズでもIS-3に対抗できるかどうかは甚だ怪しく、更にソ連は1世代MBTの最大派閥とも言えるT-54/55を採用。恐ろしい勢いでの量産を開始した。※2

ベトロニクスといったソフトウェアより、戦車そのもののハードウェア性能がまだ物を言った時代。優れた治金技術に支えられたソビエト製戦車に対抗するのは、自動車大国アメリカでも容易ではなかった。朝鮮戦争でイージーエイトことM4A3E8戦車はT-34/85に対し、人間工学や信頼性の面で優位に戦えたが、それが今後続くとも限らない。

しかも当時のアメリカ軍は航空機のジェット化による著しい高性能化や核兵器の登場による、一種の空軍万能論によってそれらに多くの予算を吸い上げられており、陸上戦力は二の次と考えられていたのだった。

パットンを超える者

しかし陸軍とてこの現状を黙って見ているつもりはなかった。
勿論アメリカ陸軍そのものの弱体化を防ぐ意味合いもあるが、同盟国への供与も米国製戦車の重要な任務である西側の盟主となり、戦車開発能力を持つ国家が少ない以上、半ば当然の義務とも言えた。 

そのような経緯の上で陸軍はM48の更なる改良を開始し、1959年にM60戦車としてロールアウトさせた。

主だった改良点

  • M48では改良型から搭載されたディーゼルエンジンを当初から採用(それまでは被弾すると自動消火装置を用いても乗員安全に不安のあるガソリンエンジン)。これにより駆動系破損時の引火リスクが低減され、航続距離も3倍近くに延伸されている。トルクも増大しており、不整地踏破能力や登坂能力も改善された。
  • 主砲をM3系列90mm砲からロイヤルオードナンスL7を原型とした、M68型105mmライフル砲に換装。従来よりも格段に威力の大きな105mmAPDS/APFSDS、HEATを用いることが可能となり、砲の俯仰角が大きく、優れた人間工学に基づく車内配置から発射速度に勝ることから、T-54/55、T-62などが相手であれば火力優越が見込めた。
  • 車体を従来の鋳造製造から平面溶接製造に変更。更に転輪やフェンダーをこれまた従来の鋼鉄からアルミ合金に変更して軽量化(しかし悪路での走破力は鋼鉄製に劣ったため、状況に応じて両方を使い分けていたとか)。
  • 火器管制装置の刷新。オリジナルのM60の段階で光学測距儀、弾道計算機などの信頼性や操作性を改善。1978年にロールアウトしたM60A3ではYAGレーザー測距儀、アナログ弾道計算機、垂直水平砲安定装置、パッシブ暗視装置などに刷新。従来のM60A1もRISEの名称のもとに同等に改修され、ライバルのT-62を射撃精度で凌駕した。

M48の弱点を一つずつ潰し、完全とまではゆかぬまでも地道に改善を重ねたM60戦車は、間違いなく「スーパーパットン」の愛称に相応しい性能を手に入れた。実際、同様の改修を施されたM48系列が中東戦争などでT-62を相手にしても優位に戦ったところから、その改修の堅実性が伺える。

現代の戦車で例えれば奇しくも旧ソ連、現ロシア製のT-90戦車のような存在である。湾岸戦争で大きく弱点を露呈したT-72をコストと釣り合いを図り、確実に性能向上させた点はM60-M60A3の経緯と酷似している。

一見するとお茶を濁すような戦車であるが、当面を凌ぐには十分な車両でもあった。

本車はあくまでアメリカと西ドイツが共同開発した次世代戦車MBT-70が完成するまでの布石とされ、MBT-70が就役するまでの繋として機能できれば十分だった。そのはずであった。しかし…

え? MBT-70開発中止? いつの時代も目的の異なる出資者複数の計画は下手を打つものです…

大胆不敵であれ!

とまあ、図らずともM1エイブラムスの登場まで長きに渡ってアメリカ陸軍の主力戦車となり続けたM60。

しかしその性能はT-54/55やT-62相手には互角以上に戦えるが、T-72には完敗といった有様であった(湾岸戦争でT-72を撃破した事例もあるが、練度の低い戦車兵の操るモンキーモデル相手である)。シレイラ対戦車ミサイルを発射可能なガンランチャー搭載のM60A2も開発されたが、実用性の低さから早々に退役している。

更にM48のガソリンエンジンによる発火リスクこそ低減できたが、砲塔駆動系が油圧式のままであったため、貫通弾で砲塔の油圧機構を損傷すると車内にブチ撒けられた作動油で乗員が燃え尽きるほどヒート! という乗員安全性に対する重大な欠陥があったのだが、油圧式のまま故にM60でも根本的な解決が成されていない。※3

西側ですら真面目に乗員の安全を重視するようになったのは3世代MBTの時代になってからだったのだ。

とはいえその合計生産数は2万両にも及び、レオパルド1と並んで現在でも中小国陸軍の主力を担っている。
本国アメリカでも改修を重ね、1991年の湾岸戦争に至るまで第一線で戦い続けたのだった。因みに運用していたのは米海兵隊であり、些か古くとも信頼できる戦車として高く評価されていた模様である。

因みに性能の優劣はそれぞれの派生型、比較対象によるが、人間工学に基づいた設計や機械的信頼性は非常に優れており、故障件数はレオパルド1と比較しても少ない。この辺りは自動車大国の洗車の面目躍如であり、輸出先において各種改修を受け入れる余裕と合わせ、本社が西側戦後第二世代の傑作と言われる所以である。

T-62と比較した場合

M60など戦後第二世代戦車がライバルとしたのは、ソ連製T-62戦車である。ここでは両者の最終改良型、M60A3とT-62Mの優劣、特性の違いなどを比較してみたい。

  • 防御力:増加装甲など防御力を向上させているが、APFSDSが直撃した場合、1弾で大破することに変わりはない。
    M60A3は爆発反応装甲を、T-62Mは簡易複合装甲を増設したが、1970年代後半以降に開発された徹甲弾を前には脆弱である。M60A3は各種動作油による引火、T-62は車内レイアウト故の弱点があり、大差ないと言えよう。
  • 火力:両者ともに1弾で相手を大破させうる火力を持っている。但し命中精度、射撃速度などは火器管制装置の性能、車内レイアウトからM60A3に一日の長がある。砲の俯仰角が大きいことから稜線射撃でも優位に立てる。但しT-62は9M117対戦車ミサイルを主砲から発射可能で、条件次第ではアウトレンジされる可能性はある。
  • 機動性:カタログスペックでの最大速度、航続距離は両者ともに変わりない。しかしT-62系列が変速機、旋回性などに難を抱えているのに対し、M60は当初よりクロスドライブのオートマチックであり、操縦性や乗員の習熟といった数値に出ない面で優れている。
  • 製造台数:ほぼ互角で両者ともに2万台前後である。但し赤軍がT-72という新世代を除外しても、T-54/55戦車。あるいはT-10M重戦車などを数倍製造しているあたり、数量的には劣後している。M1A1、レオパルド2の製造が軌道に乗るまで、赤軍スチームローラーに対向するには戦術核しかないと言われたのも、頷ける数量差である。
  • 総合面:先に砲弾を当てたほうが勝利するという意味では、両者に大きな違いはないともいえる。しかし信頼性、操縦性、訓練の容易さなど人間工学ではM60A3が大きく勝っており、 兵器という工業製品としてはM60A3に軍配が上がるであろう。現在でもM60が各国で多数、独自改良型を生み出しているのも頷ける。

バリエーション

M60:初期生産型。車体以外はM48A5と大差ない

M60A1:主力生産型。新型砲塔の採用で防御力が大幅アップ。

M60A2:152mmガンランチャー搭載型。M551シェリダンと同じくシレイラミサイルの運用能力を持つ。そのキモい奇妙な砲塔形状やシレイラ関連の扱いづらさから「宇宙船」と渾名された。

M60A3:A2でやらかしちゃったので、A1をベースに堅実な改良を加えたタイプ。

M60A1RISE:A3を採用しなかった米海兵隊が独自にA3相当に改修したタイプ。湾岸戦争では旧式ながら爆発反応装甲を搭載して、機甲戦力の第一波としてM1エイブラムス到着まで戦線を支えた。

諸外国派生型

M60は戦車としては依然、砲塔駆動に油圧系統を使うなど弱点を有していたが、大型故に発達余裕も大きく本家米国でも自走架橋、戦闘工兵車、果ては無人式の無線操作地雷処理車など多数の派生形が存在する。それなり以上に重装甲で、大柄で信頼性の高い車体は色々とつぶしが利いたのである。

そして他国…というか具体的にはイスラエルではMBTとしても積層複合装甲をまとったマガフ、ラインメタル系120ミリ滑腔砲に主砲を換装したサブラなどが生まれ、一部はトルコなどに輸出さえされている。欠点を抱えていたものの基礎設計がそれなりに堅実で、大型な戦車の発達余裕の大きさを感じさせるものである。

なおイスラエルのみならず台湾でもM60にM1A1相当の国産FCSを搭載したCM11戦車が就役。相対する中共の最新戦車には劣るものの、相応に有力な抑止力として今も現役にある。この点はロイヤルオードナンス系列の主砲が1990年代に至るまで新型弾薬に対応しえた傑作であったことも大きな要因である。

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同名のマシンガンの方がヒットするなぁ・・・


Steel Armor Blaze of WarにおけるM60A1。光学測距儀と連動する弾道計算機を完全シミュレートしている。

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関連項目

  • 軍事/戦争
  • 戦車/AFV/軍用車両の一覧
  • アメリカ
  • マガフ

各種補足

※1

事実、第3次中東戦争ではエジプト軍のIS-3Mに対し、イスラエル軍のM48A2は正面からの撃ち合いでは歯が立たなかった。中近距離ならば高い貫通力を発揮する高速徹甲弾も、その重装甲を前にしては無力だった。しかし機転を効かせたイスラエル軍の戦車兵はIS-3Mの後部燃料タンクを曳光弾で狙撃、炎上させる。

大したダメージにはならなかったものの、練度の低いエジプト軍の戦車兵達はパニクった挙句、無傷の車両を置いて逃走するというどこぞのうさぎさんチームのような醜態を演じてしまった。ただこれはエジプト軍の醜態のみならず戦車兵にとって「火災発生」というのが、どれほど恐るべき状況なのかも物語っている

※2

恐ろしいことにこの戦車は最終的に10万台も製造されている。加えて同時期にIS-3の後継となるT-10/T-10M重戦車も8000台製造されており、米国でもM103重戦車が少数製造されるなど、脅威を感じていないわけではなかった。ロイヤルオードナンス原型の105mm砲さまさまである。

因みにユーゴスラビア内戦ではクロアチア軍のM47は、セルビア軍のT-55はおろかT-34-85にすら劣っていたと評価されたという話もあるが、情報不足で真偽の程は不明。何れの戦車も老朽化が著しいため、単純な性能だけではなく経年劣化、整備状態、兵站状況の善し悪しで左右された可能性もある。

※3

第4次中東戦争ではイスラエル軍のM48、M60が被弾で次々とバースデーケーキのろうそくのようにきれいに火を灯した。ディーゼルに換装して一安心かと思いきや、作動油だけでも燃え上がるには十分だったようである。

その為、その直系の独自改修型であるマガフ(Magach)は「Movil Gviyot Charukhot(焼死体運搬車)」の略だというブラックジョークが広まったとか。現在主力となった国産のメルカバ戦車シリーズが、特に引火対策や対成形炸薬弾防御を重視しているのは、この苦い戦訓にも基づいている。

無論この教訓は日本を含む西側諸国にも継承されており、我が国では74式戦車以降。旧西側他国では第3世代以降の戦車は全て戦闘艤装駆動を電気式に、エンジンを難燃性の高いディーゼルに置き換えている。

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