アンドリュー・フォークとは、「銀河英雄伝説」に登場するキャラクターである。
声優は古谷徹(石黒監督版)、神谷浩史(Die Neue These)。
概要
士官学校を首席で卒業。同期にはアレクサンドル・ビュコック元帥の副官を勤めたスーン・スールズカリッターがいる。卒業後、作戦参謀として宇宙艦隊総司令部勤務となる。
時系列上で初めて名前が出るのは外伝「千億の星、千億の光」内、第六次イゼルローン要塞攻防戦(直接の登場はない)。宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥のお気に入りの部下であり、ウィレム・ホーランド少将の提案と並行して同様のミサイル艦による要塞攻撃作戦を立案・提出したことで、同作戦の採用に大きく寄与した。
作中の初登場は1巻黎明篇第七章「幕間狂言」(石黒監督版アニメでは第12話「帝国領侵攻」、Die Neue Theseでは第10話「幕間狂言」)。自由惑星同盟軍准将として、帝国領侵攻作戦において作戦参謀を務める。
初登場時26歳という年齢よりやや老けて見え、血色が悪く肉付きの薄い顔とされる。といっても容貌そのものは悪くないレベルだが、(ヤンの偏見が混じっている可能性はあるものの)目つきと口もとがなんかイラッとくる感じ(超意訳)の模様。前述のように士官学校を首席で卒業した点では秀才であるが、後述する事柄により戦略面においてはほぼ無能であった(ただし、上記のミサイル艦作戦は迎え撃って頓挫させたラインハルト・フォン・ミューゼルにも評価されており、まったく戦術眼がないわけではない)。
キャラクターとしては純然たる嫌われ者・やっかい者である。銀英伝の嫌われ者としては帝国のオーベルシュタイン軍務尚書やラング内務次官、同盟のトリューニヒト議長などがいる。だが、彼らが人々からは嫌われながらも優れた策略を行ったり、私人としては善良な人間であったり、強い政治生命力や洞察力を有しているのに対し、フォークにはそのような優れたものは一切存在しない。肥大したプライドと口先だけの男で、見るべき点は何もなく、声を当てた古谷徹からも「自分が今まで演じて来た役の中でも特にイヤな奴で嫌い」とまで言われる始末である。
故に銀英伝ファンで「私はフォークのファンです」などという人は、殆どいないと思われる。
概要だけでは収まりきらないので、次項で彼の「罪」について記す。
フォークの罪
彼の最大の罪は生まれてきたことであるが、ここでは本編で描かれた彼の軍人としての罪を記述する。
帝国領侵攻作戦
後々まで自由惑星同盟に禍根を残したのが帝国領侵攻作戦である。
まず、この作戦が実施された背景として以下のようなものがある。
- 第13艦隊のヤン少将(当時)が、イゼルローン要塞を味方の犠牲を出さずに陥落させたことで、同盟全体が勝利に沸き浮き足立っていた。
- 最高評議会の支持率が下がり不支持率が上がっており、選挙を控えて国民に成果を示す必要があった。
- ヤンを一方的にライバル視するフォーク准将が、なんらかの個人的成果を示したがっていた。
これらから政治家とフォークは利害が一致し、それを受け入れる世論の土壌があったことがわかる。フォークは個人的なコネで作戦案を最高評議会に持ち込み、これを最高評議会は「軍部からの作戦案」として承認した。話の流れからこの作戦案が、当時のシトレ統合作戦本部長の決裁を受けていないことは明白であるが、そのようなものが何ゆえに軍部からの作戦案として公式に承認されたかは不明である。
肝心の作戦案は「多数の同盟艦隊で侵攻し」「臨機応変に対応する」という、作戦の目的が全くないものであった。会議に同席していたアレクサンドル・ビュコックは「要するに、行き当たりばったり」と酷評し、同じく同席していたウランフらも呆れていた。フォークには「軍事行動はそれを実施・成功することにより、政治及び社会目的を達成する助けとなる」という、軍事の常識が全く欠如していたことは明白である。また彼の作戦案を承認した政治家も、その軍事常識を欠いていたと言わざるを得ない。
戦果とは政治目的や戦略を満たす為の道具に過ぎず、戦果それ自体はなんらの目的性を持つものではない。具体的に作戦のなにをもって「成功」あるいは「政治目標の達成」とするものがなく、目標・目的の不明確さにより実施に伴う兵力や財政、物資負担がどの程度になるかの算定も困難で、さらにはフォークに補給を重視する概念が欠けていたことから、作戦の失敗は必然であった。侵攻軍司令官であるロボス元帥に精細さが欠けていたのも、大きな影響があったと言えるだろう。
同盟軍を迎え撃つラインハルト・フォン・ローエングラムは周到な焦土戦術を取っていた。この為、同盟軍は解放の大義を満たすために大量の物資を占領した諸惑星に投じざるを得ず、物資の消費量が著しく増大。後方主任参謀のアレックス・キャゼルヌは補給計画を修正して要求に応えようとするも、イゼルローンの貯蔵・生産能力は限界に達し、各艦隊は深刻な物資不足に陥る。各艦隊は補給を急ぐよう司令部に求めるが、これに対する総司令部の答えは「各艦隊が現地調達すること」であった。元々焦土戦術で現地に物資が無いにも関わらず、同盟軍にそれを取られてしまえば、諸惑星の住民は飢えて死ぬしかなくなる。同盟軍の略奪に反抗した住民らは暴動を起こす。侵攻部隊は行動の限界に達していた。
ビュコックは撤退を司令部に進言するも、対応したフォークはまともに取り合わなかった。これに対し、ビュコックは次のようにフォークを強く叱責している。
「貴官は自己の才能をしめすのに、弁舌ではなく実績をもってすべきだろう。他人に命令するようなことが自分にはできるかどうか、やってみたらどうだ」
これでフォークは転換性ヒステリー症を起こして卒倒してしまう。代わりに対応したグリーンヒル大将に、ビュコックはロボス元帥への直接進言を依頼するも、ロボスが昼寝をしていたために適わなかった。
同盟軍の限界を見計らい、ローエングラム艦隊は同盟軍の輸送船団を撃破。つづいて全面的な攻勢に出る。物資不足で士気が下がり、また分担ごとに諸惑星を占領したために戦力分散していた同盟軍は、ローエングラム艦隊の攻勢に対し圧倒的に不利になる。次々と艦隊が撃破されていくなか、ロボスは残存艦隊をアムリッツァ恒星系に集めて反撃に出る。しかし時既に遅く、勢力を大幅に殺がれていた同盟軍は敗北してしまう。ヤン・ウェンリー指揮の第13艦隊の活躍により、ビッテンフェルト艦隊に大打撃を与えることと、敗北した艦隊をイゼルローン方面に撤退させることには成功したものの、被った被害は尋常なものではなかった。
同盟が被った損失は以下のようなものである。
- 作戦に投入した正規艦隊8個の内、7個艦隊分の戦力を喪失。投入した将兵約3000万人中、約2000万人が戦死ないし捕虜に(その時点の同盟軍総兵力の4割にあたる)。
- ウランフ、ボロディン(自決)など第一線級将官の大半が戦死。
- 戦後、戦力の補てんを行おうとした結果、人的資源の枯渇を招き、ただでさえ悪化していた同盟の社会システムが余計に悪化。
- 失敗の責任からロボス宇宙艦隊司令長官、シトレ統合作戦本部長らが退役。グリーンヒル総参謀長、キャゼルヌ後方主任参謀らが左遷。
- 最高評議会の全員が辞表を提出を強いられる。この際、侵攻に反対したトリューニヒト、レベロ、ホワン各議員が慰留され、後にトリューニヒトが最高評議会議長として権力を手に入れる。
これらの要素が同盟の帝国に対する戦略的不利につながり、後の同盟滅亡へと繋がっていく。
作戦失敗における決定的な原因を作ったフォークだったが、ビュコックに叱責されて卒倒した後に病院に後送され療養に入ったため、それ以上の追及はされず、責を負うこともなかった。ありえん。
クブルスリー統合作戦本部長暗殺未遂事件
ラインハルトの陰謀とも知らず、一部憂国軍人らが救国軍事会議を結成してクーデターを起こした。これに煽動されたフォークは、決起に先立ちクブルスリー統作本部長の暗殺を試みた。彼は幸いに一命を取り留めたものの、この負傷が辞任の一因となる。クブルスリーは良識派の軍人で、ヤンのことも高く評価している人物であった。
救国軍事会議はヤンが制圧したことで失敗に終わったが、軍人への不審を利用したトリューニヒト閥による干渉は酷くなる。この軍内部の腐敗進行と負傷による体調悪化が、クブルスリー勇退の要因となった。さらに後任が、トリューニヒト閥で平時の管理に特化した才能の(このような非常事態の人事としては最悪の)「ジャガイモ野郎」ドーソン大将であったことから、同盟軍は完全な機能不全に陥った。
救国軍事会議の罪は当然ながら、これに参加しクブルスリーに危害を加えたフォークの罪は重い。
ヤン・ウェンリー暗殺事件
以上だけでも相当な罪だが、これ以上に後世の人々の怒りを買ったのがヤン暗殺への加担である。
ヤンがイレギュラーズを率いてイゼルローン要塞に立て篭もり、帝国軍と回廊の戦いを行っていた頃、フォークは精神病院に収容されていた。この精神病院が何者かに放火され全焼するが、この事件の死亡者名簿の中に入っていたフォークは、実際には地球教徒によって身柄を確保されていた。地球教はヤン暗殺を確かなものとする為の撒き餌として、フォークを使った。ド・ヴィリエ大主教はフォークをそそのかし、ヤンを暗殺するようにけしかける。ヤンに対する嫉妬からくる敵意を救国的と思い込んだフォークは、彼らの意図したように行動する。
回廊の戦いの後、ヤンとラインハルトの会談が行われる事になった。ヤンは巡航艦「レダⅡ」に乗り会談場所へと向かうが、これをフォーク指揮の武装商船が襲う。しかし、実際の暗殺部隊は帝国軍の駆逐艦に乗る地球教徒の帝国兵であり、彼らはフォークの武装商船を撃破して助けたフリをしてレダⅡに接舷、移乗。ヤンを始め、パトリチェフやブルームハルト、ロムスキーなど軍・官の要人多数を暗殺。エル・ファシル革命政府を崩壊させて和平会談を阻止した。
フォーク自身すでに精神の正常を欠いていたうえ、地球教徒に騙されたのも間違いないが、しかし彼は自分の矮小なプライドから、最期までヤンの足を引っ張る選択をし続けたのだ。
関連動画
関連項目
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