反物質とは、ある物質と比べて質量と角運動量が同じで、電荷などの性質が全く逆である物質である。
陽子・電子・中性子などの粒子に限定して「反粒子」と呼ぶ事もある。
概要
原子は陽子・中性子・電子に分解する事が出来る。原子の種類の違いは含まれる陽子・中性子・電子の数が違うだけであり、「陽子と中性子と電子から出来ている」と言う点はどの原子でも一緒である。
陽子・中性子・電子の反粒子同士で構成された原子、すなわち「反原子」も存在する。
反物質の例としては、例えば電子は1個あたりで以下のような性質を持つ。
- 電荷 1.60217653×10−19クーロンで、負の電荷
(1アンペアの電流を1秒間流すと、電子624京1506兆個分の電荷が運ばれる) - 角運動量 ±1/2
- 質量が9.1093826×10−31キログラム
(電子1097秭7692垓個で1円玉(1グラム)と同じ重さになる)
である。
電子の反物質、「陽電子」は電荷のプラスマイナスが逆なだけで他は電子と同じと言う粒子。
なお電荷的に中性である中性子などを含めた、あらゆる物質に対してそれぞれ反物質が存在し得る。
20世紀初頭ではあくまで仮説の上での存在であった。
最初に可能性を提唱されたのは上記の陽電子であり、「電子と全く同じ質量・電荷を持ちながら、正の電荷である粒子」の存在が示唆された。と言っても当初はこれは陽子の事であると考えられており、反物質と言う概念が出来たのはもう少し後である。(陽子と電子では質量がおよそ1836倍も違うのだが、この質量の違いについては未解決問題として後に回してしまっていた。)
電子に対応する正の電荷を持つ粒子は質量も同じはずである、と言う指摘は当時からあったが、上記の陽電子の存在を示唆する研究が発表された1930年の2年後、宇宙線の研究の中で陽電子が実際に発見され、「正の電荷を持った電子」として「陽電子」と命名される。
それからしばらくして1955年、粒子加速器の研究において反陽子と反中性子が発見される。
さらに1995年には反陽子1個と陽電子1個を組み合わせた物質、すなわち「反水素」を生成することに成功している。
対消滅
反物質は、対になる反物質と接触すると消滅する。これを対消滅と言う。
詳しくは対消滅の項を参照。
宇宙の始まり
ビッグバン直後の極めて高いエネルギー状態の宇宙では、おびただしい量の物質と反物質が生成と消滅を繰り返していた。エネルギーからは物質と反物質が必ず同数生まれる。なのでこのままでは全て対消滅して消えてしまうはずである。ところが物質と反物質には性質に極々僅かな違いがあり(CP対称性の破れと言う)、これにより極々僅かな物質だけが生き残った。今あるすべての物質はこれら生き残りの物質である。
反物質の作り方
反物質のうち、比較的質量の小さい陽電子を得ることは実はあまり難しいことではない。放射性物質の中には陽電子を放出するものが多く(カリウム40が代表的)、実験で少量だけ必要な場合や、医療用の陽電子断層撮影診療にはこれらを用いる。加速器実験などで大量の陽電子が必要な場合は、強力なレーザーを金属に照射することで得られる。
ところが、質量が陽電子とは比較にならないくらい重い反陽子などの場合は、これらの手法は使えない。現在のところ加速器で加速させた陽子を金属にぶつけ、稀に発生する反陽子を少しづつ集めることしか方法がない。
遠い未来、遠方の惑星や他星系などへ人類が進出するためには反物質を用いた推進機関が不可欠になってくる。これらの燃料となる大量の反物質を生産する方法として『真空の対生成』が考えられる。
“真空”は全くの“無”ではない。ミクロの世界では量子論的効果により“存在という概念”自体が揺らいでいるため、無数の物質と反物質が生成と消滅を繰り返している。ただこれらのプロセスがプランク時間(5.39106×10−44 秒)、プランク長(1.616199×10−35m)の範囲内で起きているためマクロの世界からは“観測されない”だけなのである。これらの粒子を“仮想粒子”と呼び、真空はこれら仮想粒子で満たされている。
ところが、真空に超強力な電界をかけると仮想粒子の中の物質と反物質を引き剥がし、マクロの世界に連れてくる事ができる。具体的には超強力なレーザーを収束して、発生する電界を用いて真空から反物質を取り出し、磁場で選り分けるという手法が考えられている。この手法なら質量の大きい反陽子も量産可能である。
ただし、現在存在するどんなに強力なレーザーでもこの手法に使うには出力が小さすぎる。将来的には太陽光をエネルギー源にとするレーザーを多数搭載した工場を可能な限り太陽に近い軌道にのせて反物質を生産させようというプランが存在する。
フィクションに登場する反物質
- スターオーシャンセカンドストーリー
十賢者は身体の表面に「反物質フィールド」と言う防護フィールドを張り巡らせている、と言われる。
なおここでの反物質は対消滅を起こすためのものかは定かでは無いが、通常の物質による兵器が一切通じず、同じ反物質による武器でしか貫通出来ない。そのため、主人公らに反物質を用いた武器を作成するイベントがある。
なお、このゲームにも地球は登場し、現在の地球よりも遥かに高い文明レベルを持つサイエンスフィクションの世界であるが、その地球出身である主人公が「反物質を空間に安定して存在させるのは物理的に不可能」と断言するシーンがある。(実際は、その地球よりもさらに高いレベルの文明を持つネーデ人によって、数億年前に反物質を用いた武器の技術は確立されていた。) - 新世紀エヴァンゲリオン
第5使徒ラミエル殲滅に際し、陽電子を用いた兵器「ポジトロンスナイパーライフル」を使用する。 - スタートレックシリーズ
登場する宇宙艦の動力源「ワープコア」は、重水素と反重水素の対消滅反応で出力を得ている。
また、標準搭載される火器「光子魚雷」は反物質ミサイルである。 - 2001夜物語
太陽系外縁部に反物質星「ルシファー(魔王星)」が発見された世界を描くSF作品。
劇中では反物質星への開拓、その過程で明かされる太陽系、宇宙誕生に纏わるキリスト教創造神話との符合、
そして、反物質によって恒星間移動技術を実用化した人類が外宇宙探査を行う様相が描かれる。 - ARMS
高槻涼のARMS「ジャバウォック」が対キース・シルバー戦で体内生成し変形した腕から発射したとされる。
強大な爆発のあと、周辺の軍事機器が電磁波の影響で故障したが、放射線反応がないため劇中の博士が核爆発ではなく対消滅ではないかと推測した。 - 鋼鉄の咆哮シリーズ
反物質を利用した巨大な衝撃波を引き起こす「光子榴弾砲」や「光子魚雷」、「反物質ビーム砲」などが登場。WSG2では反物質自体を撃つ超兵器フィンブルヴィンテルが登場、弾体の見た目は黒い球体で、誘導されながらゆっくりと接近し、命中すると大ダメージを受ける。PSP版ではキョウフノダイオウイカも搭載しており、自艦にも搭載することが可能となった。 - 極黒のブリュンヒルデ
魔女「ヴァルキュリア」の最大攻撃。反物質を生成して辺り一帯を消し飛ばした。一度作ってしまうと、自然対消滅するまで本人にも取り消せない。 - 暗殺教室
マッハ20で飛び回ったり、月の7割を蒸発させたりするエネルギーの出所が、体内の「反物質臓」。触手質量の一部をエネルギー変換してかめはめ波もどきを撃てるなど、やりたい放題である。
関連動画
関連項目
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