宇宙戦争とは、
- H・G・ウェルズによるSF小説。本項で解説。
- 1.を原作とした映画。2作存在。本項で解説。
- 宇宙空間をまたいだ、もしくは宇宙を舞台にした戦争全般。
- beatmaniaIIDXの楽曲「恋する☆宇宙戦争っ!!」の略称。
- beatmaniaIIDX 20 tricoroのイベント「ぼくらの宇宙戦争」の略称。
- beatmaniaIIDX 20 tricoro・pop'n music Sunny Park・REFLEC BEAT coletteの連動イベント「クプロ・ミミニャミ・パステルくんのみんなで宇宙戦争!!」の略称。
概要
1898年発表。SFの父、H・G・ウェルズの代表作であり、SF界の金字塔的古典傑作として広く知られる。
原題は"The War Of The Worlds"。「宇宙戦争」という邦題はファインプレーであろう。ちなみに、日本語に翻訳された当初は、「火星戦争」という題名だった。
「宇宙人が地球移住のため侵略攻撃を仕掛けてくる」という、SFの黄金パターンの一つを確立した。
また、「タコ型」という宇宙人へのイメージを固定したのもこの作品。以降、宇宙人の典型として現在まで広く用いられる。
執筆された年代が年代であるので、現在では否定されている学説(「潮汐説」など)に立脚している部分も少なくは無いが、その魅力は未だ色褪せず、世界中のSFファンを魅了している。
あらすじ
舞台はイギリス。
物語は、火星人の襲来に翻弄される、「わたし」の回想で描かれる。
地球が現在の、生物に適した環境に落ち着くはるか昔、先に惑星として誕生した火星も、そのような時代を経ていた。動植物などの豊かな生態系、そして人類と同じ知的生命体の出現。人類の祖先すらも誕生していない時代に、彼らは文明を作り上げ、謳歌していた。
しかし、灼熱の星として誕生してから徐々に冷えていった火星は、やがて生命の繁栄に適した温度を過ぎ、彼らが生き延びることが不可能なまでに”冷え”はじめた。火星の知的生命体=火星人は、他の星への移住を決意した。すなわち、現在も多様な生物がわが世の春を謳歌し、人類が(彼らから見れば)原始的な文明を築いている、地球である。
火星人は、人類が気づかぬうちに彼らを観察し、侵略の計画を長年にわたり練った。そして、人類にとっての19世紀末、とうとう計画を実行に移した。
火星を発った彼らの乗り物は、緑色の流れ星になって、ロンドン南西のウォーキングに落下した。
近くに住んでいた「わたし」は、落下してきたそれを目撃した。
それは、直径30ヤードの円筒だった。「わたし」を含む人間達は、それが火星から来たことはおろか、乗り物であることなど知る由も無い。彼らが見物している中で、やがてそれは開き、中から火星人が姿を現した。
彼らは、異様な姿をしていた。直径1m以上の円盤のような頭から、16本の触手だけがタコのように生えていた。開ききった口から唾液を垂らし、悶えるようにのた打ち回っている。
まもなく彼らは、円筒の中に姿を消した。
敵意の無いことを伝えようとする人々。しかし、円筒の中から次に出てきた”皿のついた柱”から、緑色の煙のようなビームが迸る。次の瞬間、それを浴びた彼らはもだえ苦しみ、やがて体から炎を上げて焼け死んでいった。
彼らだけではない。木々も炎上した。円筒の周りはたちまち炎に包まれ、「わたし」は慌てて逃げ出した。
緑の高熱ビームの射程はどんどん広がり、自宅に逃げ帰った「わたし」をも脅かした。やがて軍隊が出動し、「わたし」は妻を連れてロンドン南部のレザーヘッドに逃げた。
一人自宅へ戻る途中、「わたし」は新たに落下した円筒から出現した、3本足の巨大な移動兵器――「トライポッド」に遭遇する。宇宙人の新たな兵器だった。
トライポッドは、緑の高熱ビームと、液体のように広がる黒い毒ガス弾を使い、周囲を蹂躙して行く。
軍隊も抵抗するが、彼らの兵器の前には無力であり、やがてその数は3つ、4つと増え、ロンドンを目指し始めた。
英国政府は崩壊し、ロンドン市民600万人は一斉に逃げ惑う。地球人は火星人にとって食料でしかなく、彼らは思うがままにイギリスを蹂躙する。
地球の運命はどうなるのか。そして、成すがままにそれに翻弄される「わたし」は……。
登場人物
- 「わたし」
本作の主人公。彼の回想と言う形をとっている。
妻ともども、名前は判明しない。
文筆家(哲学論文を書く場面がある)であり、平凡な人間として描かれる。宇宙人の襲撃とそれに伴う混乱に成すすべなく巻き込まれ、イギリス中を逃げ惑う。 - 妻
「わたし」の妻。火星人の襲来に伴い、彼女の従姉妹がいるレザーヘッドへ避難する。後にレザーヘッドは火星人によって壊滅したことが判明し、「わたし」は絶望したが、従姉妹とともに生き延びており、「わたし」が彼女と再会し抱き合う所で本作は締めくくられる。 - 弟
「わたし」の弟。医学生であり、ロンドンに暮らしていた。
当初は火星人の脅威がロンドンに伝わらなかったため、避難が遅れた。市民の大避難に巻き込まれるが、兄を心配しつつもロンドンから逃げる。
途中でエルフィンストーン親子と出会い、彼女達とともに避難する。最後は、イギリス東部のティリンガムからベルギーへ避難する蒸気船に乗り込む。そこで、〈サンダーチャイルド〉とトライポッドとの戦闘を目撃する。 - 兵士
「わたし」の自宅に逃げ込み、共に避難する。後にパトニー・ヒルで再開する。火星人に対して抵抗するための壮大な計画を「わたし」と話し合うが、その実は口だけの薄っぺらい人間だと「わたし」には見抜かれていた。 - 牧師補
レザーヘッドを目指す「わたし」と出会い、共に行動する。毒ガス爆弾を避けて「わたし」と共に空き家に避難するが、直近に新たな円筒が落下したことで土砂で生き埋めになり、2週間に渡って篭城することになる。
意志薄弱で臆病者であり、ひたすら神にすがる愚物。出会った当初から最期まで「わたし」の足を引っ張り続け、とうとう言い争ううちに「わたし」に殴り殺された。騒ぎに気づいた火星人によってその遺体は回収され、恐らくは彼らの食料となった。 - オーグルビー
「わたし」の友人の天文学者。初めて落下した円筒に、こちらに敵意が無いことを伝えるために旗を掲げて接近するが、高熱ビームで焼き殺された。
兵器
- トライポッド
「3本柱の上に円盤が乗った」ような、火星人の乗り物。高さは「どの建物の屋根より高い」らしいが、30メートル程という記述がある。
火星人が乗って操縦する仕組み。緑の熱線兵器と、毒ガス爆弾、通常の砲撃兵器を装備しており、「隠れる人々をいぶりだす」かのようにそれらを駆使して人々を殺戮する。
一方で耐久力は低く、作中では人類側の砲撃によって3体が撃破されている。その他、〈サンダーチャイルド〉の突進によって破損した個体もある。
複数体出現し、時には数体で役割を分担し、フォーメーションを組んで移動する。 - 円筒
火星人が地球への移動に用いた乗り物。緑色の流星となって飛来した。
直径30ヤード(訳によっては25メートル)の巨大な円筒で、先端が水筒のように回って外れる。中には、トライポッドを5体ほど収容している。 - 衝角駆逐艦〈サンダーチャイルド〉
トライポッドに対抗するために出撃した、イギリス海軍の衝角駆逐艦。
イギリス東部・ティリンガムの海岸で、「わたし」の弟達を乗せた避難船が見守る中、トライポッド3機と対決する。
海岸に並んだトライポッド目掛けて前進しつつ砲撃を加え、1体を撃破。2体目にも向かうが、高熱ビームと砲撃を受けて炎上・爆破する。しかし、猛スピードで前進していたこともあり、そのまま2体目に艦体が直撃し結果的に撃破。3体目を逃走させ、刺し違える形ではあるがトライポッドを撃退した形になった。
火星人
人類が文明を発達させるよりはるか昔に、火星で文明を築き上げていた種族。
身体
作中である科学者が提唱した「消化の良い合成食料だけを食べるようになったため、消化器官が退化している。機械の発達によって運動しなくなったため、手を残して足が退化する。脳だけが膨れ上がる」という未来の地球人像に重なる特徴を持つ。
いわゆる典型的なタコ型。全体的に赤い。
頭部の直径は1.2メートル程で、巨大な2つの目と口が、人間のそれと同じようについている。
もっとも口については、咀嚼能力が退化しているためか顎と呼べるものが無く、だらんと開いた穴から唾液をたらし続けている醜悪な部位となっている。
目も、暖色は判別できるが、青や緑の寒色を識別できないらしく、これらが全て黒に見える。
嗅覚に至ってはもともと無いのか、鼻そのものが無い。
「ティーポットの掴み手」のような耳が2つある。が、彼らは実は聴覚をも失っており、後頭部に太鼓の膜のような聴覚器官の名残が残っているのみである。
この耳が果たすのは精神的な交信であり、彼らはテレパシーで互いに会話している。
したがって彼らには、聴覚・嗅覚(・味覚)が無い代わりに、ある種の第六感が備わっていると言える。
基本的に食料は液体であり、他の生物の体液を抽出し、飲み込んで吸収する。
後に円筒内部からは、体液を吸い取られてミイラのようになった別の生物が発見されており、これは彼らにとって惑星間移動のための食料だったと考えられる。
人間に対しても同様であり、トライポッドは人間の殺戮を直接の目的とはせず、捕獲して食料にしている。
頭部の下には、16本の触手が生えており、作業の際にはより合わせて器用な動きを実現する。一方で、人間のように直立しての激しい運動には向いていないらしく、特に地球上(下述)では、地面を這いずり回るようにしか移動できなかった。
地球の気圧・重力に対応できるほどの運動能力が無く、侵略行為の殆どを機械に任せている。
地球の環境に対応できないのか、機械があくせく働いている横で、ぐったりして横たわっているところなどが「わたし」に目撃されている。
それ以上に深刻な欠点は、火星に細菌がいなかったために細菌に対する免疫力の一切がないことである。
最終的に、彼らは武力で人類を圧倒したものの、もっとも下等な地球の細菌によって全滅することになった。
知識
火星-地球間の飛行を苦も無く行うことから、科学技術は非常に発達していると思われる。
特に数学的なことに対する思考力が高く、地球への移住計画は、彼らの”ほぼ全員”で考えられたと言う。よって、少なくとも科学に関しては、知識的な格差は小さいと思われる。
細菌のいない火星で発達した文明のためか、細菌に関する一切の知識が無い。
そのため、仲間が細菌感染で死亡しても、何故死亡したのか理解できなかったらしく無視して侵略を続けると言う行動をとり、最終的に全滅することになった。
文化については一切不明。
人間に対しては、人間がアリを観察するような視点と同じように見ており、食料と見なしている。
映画・ラジオドラマ
ラジオドラマ版
1938年10月30日、ハロウィン特別企画としてオーソン・ウェルズにより製作・放送。名称については『火星人襲来』とも言われている。
通常のラジオドラマではなく、ラジオ番組『マーキュリー放送劇場』の放送中に緊急ニュースが入り、原作の侵略が実際に起こったという形で流された。
もちろんフィクションである旨の断りは最初と最後に入れたものの、番組を途中から聞き始めた人が大半だった。そのため本物のニュースだと信じた聴衆が大パニックに陥り、放送局に問い合わせが殺到。真相が明らかになった後には怒りの抗議が多数寄せられ、最終的にウェルズ自らが謝罪するまでに至った。
一時は訴訟沙汰になったが、新聞のコラムニストによる「思い込みによるパニック」の論説が発表された事で下火となり、訴訟自体は回避されている。この時の聴衆の行動が後にメディアに関する研究の転換点の一つとなった。
余談だが荒木飛呂彦は、このときのウェルズについて「頭を下げながらも、きっと舌を出していたに違いない!」と推測している。
もちろんこれはあくまで荒木の推測でしかないが、実際のウェルズ本人は茶目っ気と反骨心の持ち主で、この騒動が起こったことについてある程度満足していたという。ともあれ、本作をして「モキュメンタリー」の手法はおおいに認知されることとなった。
ウェルズは後年、この事件で自分をクソミソにこきおろした新聞に意趣返しとばかりに、映画「市民ケーン」にて新聞王ランドルフ・ハーストの「秘密」を暴露。ハリウッドでまともに仕事が出来ないほど激怒させたのだった。お前こりてねえだろ。
1953年の映画
舞台をアメリカ・カリフォルニア州に移し、時代設定も、原作とは違い公開年に合わせられた。
トライポッドが円盤として描かれ、宇宙人に対して原子爆弾による攻撃が試みられるなど、原作には無い部分が追加されている。が、大筋は原作と変わっていない。
アカデミー賞特殊効果賞受賞。
2005年の映画
1億3000万ドルという、スピルバーグ作品の中でも過去最高(現在は『インディ』4作目に次いで2位)の制作費を投じて、最新鋭のVFX技術をふんだんに用いて作られた。
全世界で2億3000万ドルの興行収入を達成した。
舞台は現代のアメリカ(及び世界)に変えられており、主人公は乗用車を使うし、アメリカ軍が現代武器を使用して宇宙人に立ち向かうなど、それぞれの要素の描写は大きく変わっているが、やはり大筋は変わっていない。
自分の映画を全てトム風味にしてしまうトム・クルーズが主演に据えられているものの、宇宙人の侵略から家族を守るためにひたすら逃げ惑うという役どころを演じて、原作を知らない客に驚きを与えた。
が、トムが宇宙人相手に華麗に立ち回って撃退する、というようなストーリーを想像していた客にはこたえたのか、賛否両論が激しく、スピルバーグの最高傑作だと評する向きもあれば、逆に最大の失敗作と批難する向きもある。
ちなみに今作中では、大阪で人類がトライポッドを何体か撃破したという話が出る。これは「大混乱の最中で出回る根拠不明な噂話の一つ」として出てきたにすぎないが、スピルバーグによると、日本人はアニメやゲームで、ロボットや宇宙人に慣れっこだかららしい。
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関連項目
- SF
- スティーブン・スピルバーグ
- H・G・ウェルズ
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- 映画の一覧
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