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起源
漢方医学はその名前から中国伝来のものと考えがちだが、確かに中国医学がもとにはなっているものの、日本で独自に発展してきたものである。そのため、漢方薬の処方も日本で発展してきたもので、中国の処方とは差があったり、日本でしか処方されないものもあり、中国の人が必要に応じて日本へ買いに来る場合もある。
歴史
5~6世紀ごろに日本へ持ち込まれた中国伝統の医学は、その後江戸時代にかけて日本独自の発展を遂げていった。これが現在の漢方医学のベースである。
ところが時代が明治に入り、近代的な西洋医学が導入され始めると、それを中心とした医療改革が進み、漢方医学は断絶の危機に陥ってしまった。
しかし1900年代初頭頃から、徐々に漢方医学の復権を唱える医師が現れ始め、現在148処方が医療用漢方製剤として保険対象となっており、236処方が一般用医薬品としての承認基準を定められている。株式会社ツムラによると、最近では8割以上の医師が漢方薬を処方したことがあるという。
特徴
漢方薬は西洋医学に基づく医薬品と異なり、病気の原因そのものや症状に対してではなく、体全体、いわば体質に対して処方されるという特徴がある。この体質を見極めるのが漢方薬を上手く使う必須ポイントである。
例えば、頭が痛いときに西洋医学ではもちろん頭痛薬を用いる。
しかし漢方薬を用いる場合では、たとえ同じ「頭痛」という症状でも、患者がどういった体質になっているのかによって、適切な処方が異なってくることがある。頭痛の場合、第1候補は清上蠲痛湯だが、高血圧によるものなら釣藤散になるし、二日酔いによるものであれば五苓散が最適解になる。
このように、適切な漢方薬を選ぶには正しく幅広い知識と、服用者の体質の把握が必要になる。市販の漢方薬の効能効果を見ると、その多くが「体力~~程度で✕✕な方の○○の症状」などという前提条件の多い書き方をされているのは、それによって選ぶべき処方が異なるために他ならない。
選択にあたって自分ではよくわからない場合は、店頭では近くに薬剤師や登録販売者が必ずいるので、遠慮なく聞いてみるとよい。下手に生半可な知識だけで漢方薬を選ぶと、治るものも治らなくなってしまう。
生薬との違い
漢方薬を生薬と呼ぶ人がいるが、これは厳密には誤りである。
生薬とは薬効成分を含む天然素材を用いた薬の総称であるため、もちろん漢方薬もその範疇には含まれる。しかしながら、漢方薬は長い年月をかけて培われた漢方医学に基づき、正しく効果を発揮し、なおかつ副作用は起きにくいよう処方されたものである。つまり非常に洗練された明確なレシピが存在するわけで、生薬そのもの、ないしは組み合わせであっても単なるごった煮とは一線を画する。
中には甘草湯のように単材の漢方薬もあるにはあるが、非常に稀な部類である。
よくある誤解
漢方薬は作用が穏やか(効きにくい・遅い)、天然成分なので副作用が無い、長期連用しても安心……などの話をしている人もそれなりに見受けられるが、これも誤解である。
漢方薬は上述したように体質に合った処方を選べば、実際には驚くほど鋭く速く効くことも少なくなく、逆に体質に合わない処方を選んだり、不適切な服用をすると重篤な副作用を生じるおそれもある。実際、不適切な小柴胡湯の服用により過去10人が死亡する事態まで起きている。
また、一旦悪化してから快方へ向かう「好転反応」を示す場合もある。
そもそも天然素材といったってその正体が毒草だったりすることも珍しくない。例えば「附子(ぶし)」という素材は狂言にもあるようにあのトリカブトの根である。
長期連用については可能である処方もあるが、芍薬甘草湯など頓服の漢方薬ももちろんある。不適切な連用によって副作用を生じたり、臓器に負担を掛ける可能性も否めない。結論漢方薬だからといって、一概に飲み続けても良いわけではない。
いずれにせよ専門家の指示を守り、自分で買う場合は説明をしっかり読んで適切な服用を心掛けなければならない。わからないときはやはり遠慮なく相談しよう。
飲み合わせ
漢方薬は他の薬との併用をしても関係がないと考えている人もいるが、これもやはり適切ではない。
もちろん飲んでも良い場合はある。しかし場合によっては併用ができない・推奨できないことも当然ある。
例えば葛根湯と総合風邪薬を併用すると、麻黄(エフェドリン)や甘草(グリチルリチン)といった成分が被ることが多い。よって効き目が強くなりすぎたり、副作用のリスクが高まったりする。また総合風邪薬には解熱鎮痛の成分が含まれている場合が多いが、葛根湯が体を温めて発汗させる処方であるのに対し、解熱鎮痛薬は文字通り炎症を鎮め体を冷ます処方であるため、この点において互いに足を引っ張り合ってしまう可能性もある。
元々が天然素材故に、健康食品、あるいは普通の食べ物との飲み合わせによっても効果が変わったり副作用のリスクが増したりする(特に甘草は使用している処方が多いので注意)ことも無くはないので、よくわからなければやっぱり専門家に聞いてみるのが手っ取り早い。
処方名
漢字だけの並びで「〇〇湯」「××丸」「▼▼散」などの名前が多い。命名基準は長くなるので割愛する。
「柴胡加竜骨牡蛎湯」「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」などやけに長い名前の子もいる。欧米人ウケが良さそう。
ただしここで気を付けなければならないのは、こういう名前の医薬品であれば漢方薬であるかというとそうではないという点である。
有名な物では「正露丸」「龍角散」「宇津救命丸」「樋屋奇応丸」なども漢方薬ではない。
逆に小林製薬の「コムレケア」(=芍薬甘草湯)など、別の商品名で販売されている漢方薬も存在するため、名前だけで漢方薬かどうか判断しないように注意。
作用機序
最近では漢方薬の作用機序もいくつか解明されてきている。先人が長い年月をかけて培った経験と知識によって組み上げた漢方医学と、現代の最新の医学技術が結び付き、漢方薬も新たな段階を歩み始めていると言えるだろう。
関連動画
漢方薬と銘打っているが、既存の処方ではない模様。ただしうp主は原液現役の薬剤師であり、生薬の配合にも工夫がみられる動画。
関連項目
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