いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばすとは (ヒトハアヤマチヲクリカエスとは) [単語記事]

「いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす」とは、戦争によるPTSDを患う年少兵の、平和への諦観が込められた呟きである。

概要

『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』第8話『ジャンクション』における、シン・アスカのセリフ。

天涯孤独の身で宇宙に渡り、ザフト軍人となったシンは、家族が最期を遂げた故国オーブを2年ぶりに訪れて「墓参り」に向かった。そこで出会った名も知らぬ青年との会話の中で、シンは絶え間のない戦乱を憂い、ふとこの言葉を漏らす。

「また戦争がしたいのか!? アンタ達は！」や「アンタは俺が討つんだ！今日！ここで！」と並ぶ主人公シンの代表的な名言であり、『DESTINY』以降のSEEDシリーズを象徴するセリフでもある。20年越しの続編となった『SEED FREEDOM』の予告編で「風に吹き飛ばされる一凛の花」のカットが流された瞬間、この時のシンを思い出したファンも多いのではないだろうか。

作中の流れ

ここから先は『SEED DESTINY』最終話＋特別編の
ネタバレが記載されています。

ザフトのザラ派残党によるコロニー落としテロを阻止できなかったザフト艦ミネルバは、地球降下後、乗艦していたカガリ・ユラ・アスハをオーブへ送り届ける。オーブ側の配慮でミネルバが修理を受ける間、クルーには上陸許可が出た。2年ぶりにオーブの地を踏んだシン・アスカは、家族と死に別れたオノゴロ島に作られた戦没者慰霊公園を訪れる。

目の前で家族が無残に吹き飛んだ「あの日」。妹マユ・アスカの千切れた右腕の前で慟哭した「あの瞬間」が、シンの脳裏にフラッシュバックする。必死に涙をこらえ、息を整えたシンは、海沿いの岩棚に黒い服を着た青年が立っていることに気付く。シンに気付いた青年の肩から、鳥型のペットロボットが飛び立っていった。

慰霊碑……ですか？

うん、そうみたいだね。よくは知らないんだ。
僕もここへは初めてだから。自分でちゃんと来るのは……。

……せっかく花が咲いたのに、波を被ったから、また枯れちゃうね。

青年の前には、花壇に囲まれた慰霊碑があった。コロニー落下に伴う津波で洗われてしまったのだろう。
シンはぶっきらぼうに、しかし重苦しく、青年に返答する。

誤魔化せないってことかも。
いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす。

キミ……

……すいません、変なこと言って

青年は驚いた様子で言い淀む。彼の連れらしき桃髪の女性が歌を歌いながら戻ってきたところで、シンは踵を返した。慰霊碑に花を手向けた女性と共に、複雑な表情でシンを見送る青年。
アーモリー・ワンのガンダム強奪事件から続く「再び戦争を望む者＝平和の花を吹き飛ばそうとする者」との戦いで、シンの心は揺られ続けていた。

そうしたシンの心を踏みにじるかのように、同時刻、地球連合がプラントに対して事実上の宣戦布告を行ったことを、彼らはまだ知らない――

お話の補足

言うまでもなく、妙にベルトがくっついた黒い服の青年はキラ・ヤマト、桃髪の女性とはラクス・クラインである。「慰霊碑に自分でちゃんと来たのは初めて」というキラの言葉が引っ掛かった視聴者もいるだろうが、『SEED』DVD13巻で初収録された特別編「AFTER-PHASE 星のはざまで」を観ていたファンなら、キラの事情を察することも出来ただろう。
戦後間もない時のキラは「どうして生き残って、食べたり眠ったりしているのか、わからない」とアスランに漏らすほど、生きることへのモチベーションが曖昧な状態であり、とてもお参りができる状態ではなかった。今回、津波から避難してきたオノゴロ島でアスランと再会したことで、ようやくその気になれたのだろう。

実は、『DESTINY』本放送でシンとキラが言葉を交わしたのはこのシーンが最初で最後だった。「いつか再び2人が再会して、物語が大きく動くのでは」と期待していたファンも多かったことだろうが……。
リアルタイムで番組を追った視聴者に突き付けられた最終回「FINAL PHASE 最後の力」は、ボロボロのデスティニーとインパルスを尻目に、ピッカピカのストライクフリーダムとインフィニットジャスティスが仁王立ちし、エピローグも無しに唐突に終わる、明らかにお話の収拾に失敗した投げっぱなしエンドだったのはご存じのとおりである。シン、レイ、デュランダルが植えようとした花は、咲く暇もなく根っこごと吹き飛ばされてしまったような結末であった。

流石にこの有様は製作スタッフとしても不本意だったようで、およそ3か月後、深夜枠で真の最終回となる特別編「FINAL PLUS 選ばれた未来」が放映された。ここで追加されたエピローグによって、唐突過ぎた結末が（完全ではないにしろ）補完され、『DESTINY』の物語に一つの決着が付けられることになる。
そのエピローグでは、再びオノゴロ慰霊公園を訪れたシンとキラが再会し、キラがあの時のシンの絶望に対する回答を告げる。シンはその言葉に涙し、キラと共に平和のために戦う道を選ぶのだった。

それから20余年後。その言葉と2人の決意は『FREEDOM』で結実することになる。