インフレーション(inflation)とは、通貨価値の下落と物価の上昇が継続的に発生していることを示す経済学の用語である。インフレと略される。対義語はデフレーション(デフレ)。
もともとの意味は膨張する、膨らませるという意味。「すさまじい勢いでの膨張」という意味で天文学でも使われる(宇宙ヤバイ)。またスラングとして、「無駄に増え過ぎ」「増やせばいいってもんじゃねーぞ!」という意味でも使われる。
インフレーションとは、通貨価値の下落が継続的に発生していることを示す言葉である。通貨価値の下落により「同一量商品の価格の上昇」かまたは「同一価格商品の内容量の削減(シュリンクフレーション)」が発生する。
インフレーションの度合いを示すものとして採用される指標は消費者物価指数である。
インフレの中で極端なものはハイパー・インフレーションという。
最古では、紀元前三世紀からインフレが確認されている。
インフレの原因についての考え方には主に2種類あり、「インフレは需給のバランスが崩れて需要過多・供給過少になったときに発生する」という考え方と、「インフレは国内に出回る通貨の量が過剰になったときに発生する」という考え方がある。後者は貨幣数量説と呼ばれ、その支持者をマネタリストという。
インフレーションは、通貨価値の目減りをもたらし、同一量商品の価格の上昇をもたらす。
「年間インフレ率○%が10年続いたときに、通貨価値がどれだけ下がり、物価がどれだけ上がるか」というのを示す表を掲載しておく。
| インフレ率 | 通貨価値 | 物価 | 備考 |
| 7% | 0.51倍 | 1.97倍 | 高度成長期並みインフレ |
| 6% | 0.56倍 | 1.79倍 | 高度成長期並みインフレ |
| 5% | 0.61倍 | 1.63倍 | 高度成長期並みインフレ |
| 4% | 0.68倍 | 1.48倍 | |
| 3% | 0.74倍 | 1.34倍 | クリーピングインフレ |
| 2% | 0.82倍 | 1.22倍 | クリーピングインフレ |
| 1% | 0.91倍 | 1.10倍 | |
| 0% | 1.00倍 | 1.00倍 | |
| -1% | 1.11倍 | 0.90倍 | デフレ |
| -2% | 1.22倍 | 0.82倍 | デフレ |
| -3% | 1.36倍 | 0.74倍 | デフレ |
年間インフレ率が3%の状態が10年続くと、物価は1×1.0310=1.34392 なので1.34倍になり、通貨価値は1÷1.0310=0.74409なので0.74倍になる。
エクセルやオープンオフィスといった表計算ソフトを使っている人が、B1のセルに年間インフレ率(%)、B2のセルに年数を入れるとする。B2のセルに入れた数だけ年が過ぎたときの物価は「=(1+B1*0.01)^B2」の数式で計算される数値だけ倍になり、B2のセルに入れた数だけ年が過ぎたときの通貨価値は「=1/(1+B1*0.01)^B2」の数式で計算される数値だけ倍になる。
インフレになると通貨価値が下がるので「現金のままにするとお金の価値が下がっていく。それなら、現金の形態でお金を保持することを止めて、銀行に現金を貸し付けて、普通預金や定期預金といった『インフレ率と同じぐらいに利子が付く金融資産』に替えてしまおう」という考えが広まる。
インフレ率を正確に予測するのは難しいので「普通預金や定期預金はインフレ率よりも低い利子なのではないか」という疑いも出てくる[1]。その疑いが強くなると、「不動産(土地・建物)や宝飾品(金塊、宝石)や美術品(絵画)といったモノを買おう」という考えが広まる。つまり、金融資産を売り払って実物資産を購入しようという考えが広がる。
インフレに強いのは不動産、宝飾品、美術品である。インフレになったら同時にそれらの価格が上昇するので、全く平気と言える。ちょっと検索すると財テクに詳しい人が「○はインフレに強い」と語る文章が多数ヒットする(検索例1、検索例2、検索例3、検索例4)。
実物資産の中でもインフレ対策として特に人気があるのが、時間が経っても消耗しないと考えられていて法定耐用年数が定められておらず減価償却費という費用が発生しないものである。土地、金塊や銀塊といった貴金属、宝石、取得価額が100万円以上の美術品が代表例である[2]。
ただし、「時間が経っても消耗せず減価償却費を計上しなくてよい実物資産」であっても、租税負担が発生したり、それを警備する費用が発生したりする。土地には固定資産税が掛けられ、租税負担という費用がかかる。また、土地を放置して他人に占拠された状態が長く続くと、その土地は占拠していた人の所有物になってしまうので[3]、土地を所有したら定期的に交通費を負担してその土地に行かねばならない。貴金属や宝石や高額美術品も窃盗されないように厳重な警備が必要で、費用がかかる。結局のところ、インフレになったときの資産家は、通貨価値の下落を甘んじて受け入れるか、費用を払う羽目になるか、のどちらかになる。
インフレになると、同じ価格の商品の内容量が少なくなることがある。このことをシュリンクフレーション(shrinkflation)という。shrink(縮小)とinflation(インフレーション)を組み合わせた造語で、経済学者のピッパ・マルムグレンが考案したと伝えられている。
「実質値上げ」「隠れ値上げ」「ステルス値上げ」と表現されることが多い。いつの間にか容量が減っている商品wikiで価格を維持しつつ内容量を減らした商品が列挙されている。
消費者物価指数を計算するときは商品の内容量も考慮するので、シュリンクフレーションが多いと消費者物価指数に影響が及ぶ。
無利子でお金を借りた後にインフレになると、借りたときより借金を返すときの方が通貨の実質的な価値が低くなっているため、返済額が同じであっても実質的には返済額が下がったのと同じことになる。そのためインフレは、無利子の借金のある者にとってはプラスになり、無利子の金銭債権を持つ者にとってはマイナスになる。
A社が無利子で100万円を借り、そのあとにインフレが起こったとする。機械が1台100万円の時に100万円を借りると、その100万円で機械を1つ買える。借金100万円を返すときにインフレになって機械が1台200万円まで値上がりしていたとすれば、金額は同じ100万円でも、実質的な返済負担は0.5倍にも減少したことになる。機械1台の借金に対して機械0.5台の返済をしたことになり、借金したA社にとっては得である。
有利子でお金を借りた後にインフレになると、「借りたときに決めた返済額」の実質的な価値が低くなっているため、「借りたときに決めた返済額」の通りに返済したとしても実質的には返済額が下がったのと同じことになる。そのためインフレは、有利子の借金のある者にとってプラスになり、有利子の金銭債権を持つ者にとってはマイナスになる。
A社が有利子で100万円を借り、そのあとにインフレが起こったとする。機械が1台100万円の時に100万円を借りると、その100万円で機械を1つ買える。利子を付けて借金120万円を返すときにインフレになって機械が1台200万円まで値上がりしていたとすれば、実質的な返済負担は減少したことになる。A社は金を借りる前に「機械1台の借金に対して機械1.2台の返済をするのか・・・」と思っていたが、実際は機械1台の借金に対して機械0.6台の返済で済んだ。
インフレになると金銭債権者に損害が生まれつつ金銭債務者に利益がもたらされ、金銭債権者から金銭債務者へ所得が移転する格好になる。このことは経済学の教科書では「まったく恣意的な富の再分配」と表現される[4]。
お金を貸す金融業者にとってインフレ率を予測するのが重要な課題となる。
先程の例でいうと、A社にお金を貸すとき「100万円を貸すので120万円を返せ」という契約だとインフレで大損し、「100万円を貸すので200万円を返せ」という契約だとインフレになっても損得無しで収まり、「100万円を貸すので220万円を返せ」という契約だとインフレになっても利益を出せる。
インフレ率を正確に予測するのは難しいので、お金を貸す金融業者にとってインフレ予測の作業は心理的な負担が大きい。
「インフレ率の上昇が金融業者の予想よりも上回る」と借り手が予感した場合、返済価値が実質的に減少することが見込まれるため、「お金をドカンと借りて投資や消費をした方が得だ」と考えるようになり、家計の消費や企業の投資を活発化させる。
インフレーションでは物価の上昇に伴い賃金も上昇するが、物価よりも賃金のほうが高い価格硬直性を持っているので、物価の上昇に比べると賃金の上昇は時期が遅れて上昇幅が少ないものとなる。このため労働者の実質賃金は低下する。
インフレーションになると「前年の名目賃金は500万円で今年の名目賃金は525万円であり1.05倍になって少し増えたが、前年の自動車Aの価格は500万円で今年の自動車Aの価格は550万円であり1.10倍になって大きく増えた。前年の名目賃金は自動車Aを自動車Aを1.00台買える量で、今年の名目賃金は自動車Aを0.95台買える量になった。額面に注目する名目賃金は5%上昇したが、モノの購買力に注目する実質賃金は5%も下落した」といったような変化になる。
労働者の実質賃金が低下するため、雇用側としては新たに人を雇いやすくなり、失業率が低下する。
そのため、インフレーションは、失業中の者にとってはプラスとなり、すでに就職している者にとってはマイナスとなる。
インフレーションが進んですでに就職している者が損をした例は、第一次世界大戦の好景気に伴うインフレである。ヨーロッパ諸国から軍需物資の注文が殺到し、造船業などの分野で空前の好景気となって一気に経済成長が進んだが、インフレになって物価が上がり、賃金労働者は生活苦となった。大戦景気というWikipedia記事にはインフレによる生活苦が記述されている。
インフレーションになると、労働者の実質賃金が下落するが、名目賃金が上昇する。一般には人々は名目賃金で判断することが多く、名目賃金に騙されることが多い。例え実質賃金が下落している状況にあっても見た目上の名目賃金が上昇しているなら、労働者は見た目上の名目賃金にあわせて気分が高揚して消費を拡大する傾向にある。
この反対に、「インフレーションになると、労働者の名目賃金が上がるが実質賃金が下落するので労働者の消費が減る」という考え方がある。これはピグー効果の一種ともいえる考え方であり、「人は名目賃金に騙されず実質賃金を意識して消費を決める賢い生物である」という思想に基づく考え方である。しかし、2000年頃のデフレ真っ最中の日本において、労働者の名目賃金が下がって労働者の実質賃金が上がったのにもかかわらず消費が拡大しなかったので(記事)、ピグー効果は疑わしいところがある。ゆえにピグー効果の一種ともいえる「インフレーションになると、労働者の名目賃金が上がるが実質賃金が下落するので労働者の消費が減る」という考え方も疑わしい。
インフレーションにおいては、現金を保有する者が損をする。
現金を保有する者が現金を銀行や個人や企業に貸し付けて金銭債権者になったとする。契約を結んだときに予想したインフレ率を上回るインフレーションになったら、金銭債権者が損をして金銭債務者が得をする。
インフレに対応するため、現金を保有する者が現金を土地や貴金属や高額美術品といった実物資産に交換すると、租税負担や警備費用がかかるようになる。
インフレーションにおいては、すでに就職している者が損をして失業者が得をする。
インフレーションになると勝ち組が苦しみ、負け組が勝ち組に追いついていく。国内の経済格差がじわじわと縮小していき、格差社会が解消されていき、平等社会に近づいていく傾向がある。
「インフレーションの影響」の項目で述べたように、インフレになると金銭債務者の負担が減り、金銭債権者の損失が増え、富の再分配が発生する。
インフレによる富の再分配がどのように行われるかというと、「資産額の多寡にかかわらず一定割合の資産を徴収する一律課税型資産課税」や、「負債額の多寡にかかわらず一定割合の負債を免除する一律割合型給付」とよく似たものとなる。
機械1台を100万円で買える状態の時点で、Aは現金300万円(機械3台分)を持って負債を持たず、Bは現金100万円(機械1台分)を持って負債を持たず、Cは現金も負債も持っておらず、Dは現金を持たず負債100万円(機械1台分)を持ち、Eは現金を持たず負債300万円(機械3台分)を持っていた。
時間が経ってインフレになり機械1台を200万払って買える状態になり、AからEまで保有する現金額も負債額も変化がなかったが、実質的には変化している。Aは現金300万円(機械1.5台分)を持って負債を持たず、Bは現金100万円(機械0.5台分)を持って負債を持たず、Cは現金も負債も持っておらず、Dは現金を持たず負債100万円(機械0.5台分)を持ち、Eは現金を持たず負債300万円(機械1.5台分)を持っていた。
ここまでの文章を表にすると次のようになる。
| A | B | C | D | E | ||||||
| 資産 | 負債 | 資産 | 負債 | 資産 | 負債 | 資産 | 負債 | 資産 | 負債 | |
| インフレ前 | 機械3台分 | 0 | 機械1台分 | 0 | 0 | 0 | 0 | 機械1台分 | 0 | 機械3台分 |
| インフレ後 | 機械1.5台分 | 0 | 機械0.5台分 | 0 | 0 | 0 | 0 | 機械0.5台分 | 0 | 機械1.5台分 |
AとBを比べると、資産に対する一定割合が減少している。「資産額の多いものから多い割合の資産を徴収し資産額の少ないものから少ない割合の資産を徴収する累進課税型資産課税」には似ておらず、「資産額の多いものから少ない割合の資産を徴収し資産額の少ないものから多い割合の資産を徴収する逆進課税型資産課税」にも似ていない。「資産額の多寡にかかわらず一定割合の資産を徴収する一律課税型資産課税」に似ている。
DとEを比べると、負債に対する一定割合が減少している。「負債額の多いものに対して多い割合の負債を免除し資産額の少ないものに対し少ない割合の負債を免除する給付」には似ておらず、「負債額の多いものに対して少ない割合の負債を免除し資産額の少ないものに対し多い割合の負債を免除する給付」にも似ていない。「負債額の多寡にかかわらず一定割合の負債を免除する一律割合型給付」に似ている。
インフレーションは政府が人為的に発生させることが可能である。そしてインフレが発生すると通貨を保有している者が損をする。
政府が発生させたインフレによって通貨を保有している者が損害を被ることは、政府が行う徴税によって通貨を保有している者が損害を被ることとよく似ている。このため、政府が人為的に引き起こすインフレのことをインフレ税と呼ぶことがある。
もちろん、インフレ税という表現は比喩的な表現である。税金(租税)とは政府の強制力によって納税者の基本的人権を否定し、財産権を否定し、納税者の保有する通貨を取り上げて政府に通貨を移転させることである。一方、インフレでは通貨を保有している者から政府に通貨が移転するわけではない。
また、インフレ税という表現は、インフレで金銭保有者に損害が与えられることだけを強調しており、インフレで金銭債務者に利益が与えられることを無視している。だいぶ一面的な表現であり、やや偏向した表現である。
「インフレ税」という表現は「インフレ税&インフレ給付 」とか「インフレ税給付 」とでも言い換えると実態を正しく伝えることができる。
供給が一定であるのに対して需要が増加し、需要に対して供給が追いつかないために生じるインフレをデマンド・プル・インフレーション という。
世界のどこかで戦争が起きて軍需物資の注文が殺到することで発生するのが典型例である。日本では、第一次世界大戦や朝鮮戦争のときにそのインフレとなった。
官公需(政府や地方公共団体の需要)を高めつつ民需を抑制せずに国内の需要を高める、という政策をとるとこのインフレになる。2017年1月以降のアメリカ合衆国がその政策を採用しており、2017年~2019年の3年間は2%前後のクリーピング・インフレとなった(資料)。
デマンド・プル・インフレーションの多くは、政府が意図的に促進できる。積極財政を導入して官公需を増やしたり、消費課税を減税して民需を増やしたりすれば、デマンド・プル・インフレーションを促進できる。ただし、外国の需要(外需)を政府が意図的に増やすことは極めて難しい。
デマンド・プル・インフレーションは、政府が意図的に抑制できる。緊縮財政を導入して官公需を減らしたり、消費課税を増税して民需を減らしたり、輸出規制を掛けて外国の需要(外需)に対して国内業者が販売できないようにしたりすれば、デマンド・プル・インフレーションを抑制できる。
需要が一定であるのに対して供給が減少し、需要に対して供給が追いつかないために生じるインフレをコスト・プッシュ・インフレーション という。
人件費(賃金)や原材料費のコスト(費用)上昇率が労働生産性の増加率を上回り、供給量が減ることによって発生する。
コスト・プッシュ・インフレーションは人件費・プッシュ・インフレーション (賃金インフレ)と原材料費・プッシュ・インフレーション (資源インフレ、原材料インフレ)に分けることができる[5]。
原材料費・プッシュ・インフレーションは「国産でまかなう比率が高い原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーション」と「外国産でまかなう比率が高い原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーション」に分けることができる。
ここまでの文章を表にまとめると次のようになる。
| コスト・プッシュ・インフレーション | 人件費・プッシュ・インフレーション | |
| 原材料費・プッシュ・インフレーション | 国産でまかなう比率が高い原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーション | |
| 外国産でまかなう比率が高い原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーション | ||
コスト・プッシュ・インフレーションの中で最も話題になりやすいのは「外国産でまかなう比率が高い原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーション」である。その典型は原油価格の上昇によるものである。石油はあらゆる製品の原材料となっており、物価への影響が大きい。日本では第1次オイルショックや第2次オイルショックのときにこのインフレとなった。
人件費・プッシュ・インフレーションは、政府が意図的に促進したり抑制したりすることができる。官営事業の労働者の給料を変化させれば、官営事業と労働市場で競合する民間企業もそれに応じて労働者の給料を変化させることになる。
「国産でまかなう比率が高い原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーション」は、政府が意図的に促進したり抑制したりすることができる。米や野菜や牛乳といった原材料を一部廃棄して販売を故意に抑えて価格を上昇させてインフレ促進して農家の保護をする、米や野菜や牛乳といった原材料を一切廃棄せず販売を故意に増やして価格を下落させてインフレ抑制して外食産業の保護をする、といったものである。
「外国産でまかなう比率が高い原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーション」は、政府が意図的に促進することがあり得る。ある資源をA国とB国から調達しているところにB国との商取引を打ち切ってA国だけと取り引きしてA国から高値で買い入れてインフレ促進してA国に恩を売ったりB国を懲罰したりする[6]。
「外国産でまかなう比率が高い原材料によって発生する原材料費・プッシュ・インフレーション」は、政府が意図的に抑制することが難しい。外国の生産に影響される事象なので政府の影響力が及びにくい。ある資源を友好国のA国から調達しているところに、敵対国のB国からの調達を始めて安値で仕入れてインフレ抑制する[7]、といったものがありうるが、友好的なA国から嫌われるという外交的リスクがあり、いくらでも行えるわけではない。政府の自国通貨買い為替介入や中央銀行の利上げで自国通貨を切り上げて輸入を拡大するという手段でもインフレ抑制できるが、こちらも無制限に実施できるわけではない。
以上のことをまとめると次のようになる。
| 名称 | 状態 | 政府の促進 | 政府の抑制 |
| デマンド・プル・インフレーション | 需要増加 | 促進しやすい | 抑制しやすい |
| 人件費・プッシュ・インフレーション | 供給減少 | 促進しやすい | 抑制しやすい |
| 国産でまかなう比率が高い原材料による 原材料費・プッシュ・インフレーション |
供給減少 | 促進しやすい | 抑制しやすい |
| 外国産でまかなう比率が高い原材料による 原材料費・プッシュ・インフレーション |
供給減少 | 促進することは あり得る |
抑制が難しい |
複数の要因でインフレが引き起こされることがある。
日中戦争から太平洋戦争まで、すなわち大東亜戦争の時の日本は、デマンド・プル・インフレーションとコスト・プッシュ・インフレーションの両方が合体して発生したと考えられる。軍隊の活動により日本国内の企業へ軍需物資の注文が殺到し、ABCD包囲網による禁輸措置で原材料の調達が難しくなった。
人々の収入が増加して消費や投資を活発化させることを好景気という[8]。
人件費・プッシュ・インフレーションとデマンド・プル・インフレーションが連動する状態を好景気ということができる。
国産でまかなう比率が高い原材料による原材料費・プッシュ・インフレーションは、その原材料を生産する人々の収入を増加させるので、その人たちが消費や投資を活発化させる可能性があり、そこから国内の好景気が波及する可能性がある。
外国産でまかなう比率が高い原材料による原材料費・プッシュ・インフレーションは、その原材料を生産する人々の収入を増加させるが、その人たちは海外に住んでいるので、そこから国内の好景気が発生する可能性が少ない。むしろ人々の購買力を押し下げて不景気をもたらすだけになりやすい。
スタグフレーション(stagflation)とは、賃金が一定を保ったり下落したりするのに物価が上昇していく現象のことをいう。多くは不景気を伴う。
コスト・プッシュ・インフレーションの一部の「外国産でまかなう比率が高い原材料による原材料費・プッシュ・インフレーション」であると考えてよい。
第1次オイルショックや第2次オイルショックのときに日本やアメリカ合衆国やイギリスといった先進国諸国がスタグフレーションになった。
ハイパー・インフレは、先述の通り、インフレ率が予測不可能な勢いで急激に上昇していく現象のことである。
ハイパー・インフレは、「外国に占領されて今の政府が消え去るんじゃないか」とか「革命が発生して今の政府が消え去るんじゃないか」といったように通貨発行主体の継続性が疑われた場合に発生しやすい。同時に、戦争などで国土が荒廃したり経済封鎖を受けて輸入が止まったりして、市場に供給される物資そのものが決定的に不足している場合が多い。
このような状態では通貨の信用がほとんど消失し、誰もが通貨を受け取ろうとしなくなり、誰もが「通貨をさっさとモノに交換しておこう」と考えるようになる。しかも物資が決定的に不足しているため、通貨価値がどんどん下落する。そういう状況でも政府は公務員や軍人を雇い続けねばならないため、大量の紙幣を印刷して公務員や軍人に給料として渡す。
こうして、天文学的額面の紙幣が発行されたり、紙幣の重量を測って取引を行うような事態が出来する。画像検索すると、ハイパーインフレ名物ともいえる札束の画像が見つかる(検索1、検索2、検索3)。
これは同時に政府の統治能力が極端に低下していることを意味しており、社会全体が荒廃する結果さらに経済の荒廃が進行する。このような状態ではヤミ経済が横行し物価統計自体が推測に頼らざるを得なくなるようなことも多い。
ハイパーインフレの正式な定義は、アメリカの経済学者フィリップ・ケーガンによると「月率50% 」となる。月率50%が1年間続くと年率で1万2975%になるので、「年率1万3千%がハイパーインフレ」といわれることが多いのだが、それは正しい表現ではない。
また、国際会計基準ではハイパーインフレを「3年以内に累積100%、物価がちょうど2倍になる」と定義している。例えば、年率26%のインフレが3年続くと、(1×1.26×1.26×1.26=2.000となるので)累積100%となる。ある年が年間15%、次の年が年間20%、その次の年が年間45%となると、(1×1.15×1.20×1.45=2.001となるので)累積100%となる。「年率26%程度のインフレが3年 」と憶えておいても良いだろう。
フィリップ・ケーガンの定義は瞬間的な速さを重視するもので、月率のインフレ率データを作成しなければその定義に該当する現象が起きているかどうか分からない。
国際会計基準の定義は3年間通しての持続性を重視するものである。年率のインフレ率データさえあれば、その定義に該当する現象が起きたかどうかを把握できる。
ハイパーインフレの例としては第一次世界大戦後のドイツ・ワイマール共和国が有名である。
1914年7月から1918年11年まで続いた第一次世界大戦の間でずっと英国や米国やフランスとの貿易が止まっており[9]、ドイツ国内の物資が不足して供給が弱まっていた。ドイツ本国には外国軍隊の砲弾が落ちてくることがなく、ドイツの工業地帯は無傷だったが[10]、いかんせん物資不足だった。
そして総力戦の戦争だったので限られた物資は軍隊に優先して回されており、その間は民需が満たされなかった。1918年11月に戦争が終わって軍需が消えたが、大きな民需が国内に残っていた。
1919年6月に締結されたヴェルサイユ条約と1921年5月の賠償会議で第一次世界大戦の戦勝国から巨額の賠償金を課された。ドイツは不換銀行券の自国通貨を発行しつつ外国為替市場で自国通貨売り・基軸通貨買いを行って外貨を獲得し、その外貨を賠償金として支払うことになった。1921年はそうやって必死に賠償金を払ったが、このせいで自国通貨安・基軸通貨高となり、輸入を行うのが難しくなり、国内の原材料が不足して供給が弱まり、インフレ圧力が掛かった。
1922年の7月になると、ドイツは外貨による支払いが不能となった。賠償金の一部として石炭を現物で支払うことも戦勝国フランスと約束していたが、その支払いも遅れた。
当時のフランス首相はレイモン・ポアンカレで、ドイツに対する厳罰主義の支持者だった。1923年1月にフランス軍とベルギー軍がドイツ屈指の工業地帯であるルール工業地帯を占領した(ルール占領)。ルール工業地帯はルール炭田の近くに立地しているのだが、ルール炭田はヨーロッパ最大の炭田とされ、石炭を多く産出する。この石炭を確保して賠償金を回収する狙いがあった。
これに抗議するためドイツ政府は労働者たちにストライキすることを呼びかけ、ルール工業地帯の生産がぴたりと止まった。これを消極的抵抗とか受動的抵抗という。
この生産停止をきっかけに猛烈なハイパーインフレが始まった。ドイツ政府はストライキに参加する労働者に対して紙幣を支払って報酬を与えたので、ドイツ国内に紙幣が溢れかえることになった。パン一個が1兆マルクに達した、本を買うのに札束をスーツケースにつめていったなどと逸話には事欠かない。
1918年11月までのドイツは皇帝ヴィルヘルム2世が統治する帝国だったが、1918年11月になって皇帝はオランダへ逃亡していて、帝国が崩壊していた。そういう状況だったので、ドイツ国民に「今の政府が消え去ってしまうかもしれない」という疑心暗鬼も生じていた。
「大きな民需」と「供給能力の決定的な喪失」と「通貨発行主体の継続性への懐疑」が合わさって1923年のハイパーインフレとなった。
史上最も激烈なハイパーインフレに見舞われたのは第二次世界大戦後のハンガリーであるとされており、このときには10垓ペンゲー紙幣が印刷されている(発行はされていない。発行されたのは1垓まで)。
最近ではジンバブエやベネズエラが有名。
ハイパー・インフレが進むと通貨単位が大きくなりすぎて計算するのに不便となる。このため、新たに通貨の計算単位を作ってそれまでの単位と切り替えることがある。これをデノミネーションとかデノミという。
1923年のドイツのハイパー・インフレにおいても「1兆パピエルマルクを1レンテンマルクに交換する」という宣言がなされた。
ちなみにデノミネーションは平時に提案されることがある。福田赳夫総理大臣は1977年10月19日の参議院予算委員会で[11]、また1978年1月4日の恒例の伊勢神宮参拝の際の談話で、デノミに対して前向きな発言をした。「円をデノミネーションして、『1ドル=240円』という状況を『1ドル=1円』ぐらいにして計算しやすくしよう」という提案で、こういうものは国威発揚のデノミと扱われる。
近代化以前の日本において、しばしばインフレーションが発生した記録が残っている。有名なものは江戸時代に荻原重秀が貨幣を改鋳して起こした「元禄・宝永のインフレ」である。
近代化してからもしばしばインフレとなった。この記事で1902年以降の日本のインフレ率が掲載されているので、それに基づいて表を作成する。
| 年 | 年間インフレ率 | 解説 |
| 1946年 | 289.2% | 敗戦直後のインフレ。空襲で生産設備に打撃が与えられ、需要に対して供給が追いつかない状況だった。それに加え、円建てで発行された戦時国債を新規通貨発行で返済していったため、これだけのインフレとなった。 |
| 1918年 | 33.2% | 第一次世界大戦の好景気に伴うインフレ。ヨーロッパ各国から日本に軍需物資の注文が殺到し、需要に対して供給が追いつかなくなってインフレになった。米価も上昇し、大正米騒動が勃発した。 |
| 1974年 | 23.1% | 第1次オイルショックのインフレ。第4次中東戦争の末に産油諸国がOPECを結成し、原油価格を釣り上げた。石油価格が急上昇し、世の中の生産力に打撃が与えられた。 |
| 1951年 | 17.2% | 朝鮮特需のインフレ。1950年に朝鮮戦争が勃発し、朝鮮半島で戦うアメリカ軍からの発注が急増し、需要に対して供給が追いつかなくなった。 |
| 1980年 | 7.8% | 第2次オイルショックのインフレ。産油国イランで革命が起こって原油輸出が止まり、石油価格が急上昇し、世の中の生産力に打撃が与えられた。 |
主なインフレは以上の通りである。「ハイパーインフレは年間26%が3年続くなどして3年以内で物価が2倍になる状態」と国際会計基準が定義しており、それによると敗戦直後のインフレと、1917~1919年のインフレが、ハイパーインフレに該当する。
1940~1942年の3年間は物価が1.94倍、1942~1944年の3年間は物価が1.88倍なので、ハイパーインフレに該当しない。
高度経済成長期のインフレ率は5~7%の範囲に収まっている。昭和末のバブル景気のインフレ率は2~3%と、極めて穏当な水準で推移していた。
2013年3月に日本銀行総裁に黒田東彦が就任して異次元金融緩和を行ったら2014年のインフレ率が2.6%にまで上昇したが、2014年4月に消費税が8%に引き上げられたからか2015年以降のインフレ率が伸び悩んでいる。インフレターゲットを年率2%に設定しているが、達成できていない。
本項目では、インフレ率の上昇をもたらす財政政策を列挙していく。
財政政策は、国会(立法府)と内閣(行政府)が共同で行う。国会は法律議決権と予算議決権と国債の発行を承認する権限がある。内閣は法律執行権と予算編成権・予算執行権と国債を発行して市場に売却し資金を調達する権限がある。
インフレ率の上昇をもたらす財政政策は、需要を増やす政策と供給を減らす政策に大別される。本項目では見やすくするため、需要を増やす政策はピンク色の題名にして、供給を減らす政策は青色の題名にした。
官公需を増やすことで需要が増える。
国家予算の公共事業費を増やし、官公需の中の公共事業需要を増やし、政府や地方公共団体の公共事業関連の購入を増やす。こうした政策を財政出動とか積極財政などと呼ぶ。
国家予算の軍事費を増やし、官公需の中の軍需を増やし、政府の軍隊関連の購入を増やす。つまり、軍備を拡張する軍拡を行う[12]。こうした政策も財政出動とか積極財政などと呼ぶが、特に軍事ケインズ主義 と呼ぶことがある。
消費課税を減税すると消費が活性化し、民需が増える。消費課税とは財・サービスの消費に対して科される租税で、消費税・酒税・ガソリン税などである。なかでも消費税は消費活動に対する総合的な罰金であり、消費を冷え込ませて民需を削減する強力な力を持っている。消費税を引き下げることで民需が増える。
消費を活発に行う若年層・新婚世帯・子育て世帯に対して政府や地方公共団体が給付金を支払い、消費を活発化させて民需を増やす。幼児教育無償化、高校教育無償化、大学教育無償化、大学学費の引き下げ、奨学金の金利引き下げ、奨学金の金利を引き下げてゼロやマイナスにする、奨学金の返済義務の免除、結婚した世帯への支援金(結婚新生活支援事業費補助金)の増額、児童手当(子ども手当)の増額、など。
「人が学校で学んでから卒業すると、その人自身のみならず政府も利益を享受することになる。ゆえに受益者負担の原則により、学生だけに学費を負担させるのではなく、政府にも学費を負担させる」と述べて、学費を補助するために政府が支払う給付金を増やす。受益者を個人に限定せず政府にも拡大する。
「ある世帯が出産して子育てすると、その人自身のみならず政府も利益を享受することになる。ゆえに受益者負担の原則により、子育て世帯だけに養育費を負担させるのではなく、政府にも養育費を負担させる」と述べて、養育費を補助するために政府が支払う給付金を増やす。受益者を世帯に限定せず政府にも拡大する。
老人に給付する年金を増やして消費の活性化を図る。ただし、老人は若年層に比べてさほど消費を活発に行わないので、効果が限定的である。
労働者の賃金を引き上げて、労働者の消費を増やして民需を増やす。
公務員の雇用を増やす。特に「団結権と団体交渉権を認められる種類の公務員」の雇用を増やすことが効果的である。そうした公務員は労働組合を結成して労働運動を行って世の中全体の労働運動を牽引する可能性が高く、世の中の賃上げの動きを作り出しやすい[13]。
公務員の給与を引き上げる。公務員の給与を引き上げることで、世の中の大企業の給与を引き上げる効果がある。中央政府や地方公共団体は、就職市場において大企業と競合しており、優秀な高学歴学生を奪い合っている。中央政府や地方公共団体が公務員給与を引き上げることで、大企業は「我々も給与を引き上げよう。そうしないと、優秀な学生がすべて公的職場に引き抜かれてしまう」と焦るようになり、大企業の賃上げが進んでいく。
労働に対して賃金を与えることを政府が率先して行い、世の中の企業に範を示す。災害の後片付け業務に参加した人や、国際的スポーツイベントの観戦に訪れる外国人観光客に対して案内を行う業務に参加した人や、国際的スポーツイベントの観戦に訪れる外国人観光客に対して医療サービスを提供した医師・看護師に対して、政府が謝礼金を確実に支払う。そうすることで世の中の企業に「労働者にタダ働きをさせてはいけない、やりがい搾取は許されない」という気風が生まれ、企業が労働者にサービス残業を強要することができない風潮が生まれ、賃上げの流れが生まれることが期待できる。
直接金融を弱体化させて間接金融への転換を図る。直接金融は企業が株式や社債で市場から資金調達する金融システムで、間接金融は企業が銀行からの借り入れで資金調達する金融システムである。直接金融になると多数の投資家が企業に対して「人件費を減らして財務体質を改善せよ」と要求するようになって企業が人件費を圧縮することに傾きやすくなるが、間接金融になると銀行の融資担当者だけが企業に対して「人件費を減らして財務体質を改善せよ」と要求することになり、企業が人件費を圧縮することに傾きにくくなる。間接金融の導入で人件費が削られにくくなり、国内の消費が活発化しやすくなる。
法人税を強化して、民間企業の法人所得に対して罰金を課す。そうすることで民間企業が人件費を削って法人所得を増やすことを抑制し、民間企業が人件費を増やすように誘導して、個人消費を活性化させる。
関税を高くして保護貿易にする。そうなると企業経営者たちは従業員に向かって「君たちは比較的に高賃金を得ているが、発展途上国の低賃金労働者と同じような働きをしている。君たちを雇用することをやめて、工場を低賃金の発展途上国へ移転して、発展途上国の低賃金労働者を雇用して、海外で作った製品を国内に輸入しようと思う」と宣告しても、実際にそういう行動を起こすことが難しくなる。
「自分たちの仕事が海外に流出することがない」と従業員が考えるようになり、従業員は自信を維持することができ、賃上げを要求する意気を持つことができる。国内の各企業で賃上げの傾向が強まり、国内の個人消費が活発化する。
関税を高くして保護貿易を促進すると、民間企業において従業員の給料を上げる方向に物事が進んでいきやすい。このため、保護貿易は賃上げ貿易 と表現することができる。
(以下のことは財政政策ではなく単なる依頼・説得だが、とりあえず本項目に記述しておく)
経団連のような企業の集まりに賃上げを要請する。すなわち、官製春闘をする。そして経団連のような企業の集まりに対して「賃上げをすると労働者の生活が向上し、労働者の知的水準が向上し、労働者の質が高まり、企業の国際競争力が高まる」と説き、企業が賃上げを容認する気風を作る。
成果主義を導入した企業経営者が従業員に対して「成果が伴わない労働には賃金を支払わなくてよい」という態度を示すようになったら「それはよくない。労働者から時間と体力を奪った対価として賃金をちゃんと支払うべき」と説き、企業が賃下げするのを思いとどまらせる。
「企業は株主の所有物であるが、それと同時に従業員のものでもある。株主の利益になるような行動をとることをある程度制限して、従業員の賃金を増やすべきである」という思想をステークホルダー資本主義というが、そういう思想が広がるように説いて回る。
「企業は営利追求団体であり慈善団体ではない」と企業経営者が言いだしたら、それに対して「企業は従業員の時間を奪うという罪を犯している。週40時間労働で平均睡眠時間8時間の場合、その週の合計時間の23.8%、その週の非・睡眠時間の35.7%を労働者から奪っている。その罪滅ぼしのため、企業は多少の慈善行為をすることが必要ではないか」といった調子で反論を浴びせ、企業が営利追求をやめて従業員の給与拡大という慈善行為をするように仕向け、企業が企業の社会的責任(CSR)を果たすように仕向けていく。
国内の長時間労働を抑制して労働者の余暇を増やすことで、「長時間労働から解放され、お金を使うヒマがある」という状況になり、労働者の消費を増やして民需を増やすことができる。
企業の長時間労働が減ると企業の生産量が減ることになり、国内の供給が減ることになる。
企業の長時間労働を減らすことは、労働者の消費を増やして民需を増やす効果と、企業の生産を減らして国内供給を減らす効果の2つがあり、両方ともインフレ率上昇の原因となる。
公務員の雇用を増やし、公的職場の人手を充実させて、公的職場の長時間労働を減らし、公務員の余暇を増やし、消費を活発化させる。
中央政府や地方公共団体は、就職市場において大企業と競合しており、優秀な高学歴学生を奪い合っている。中央政府や地方公共団体が公務員の余暇を増やすことで、大企業は「我々も従業員の余暇を増やそう。そうしないと、優秀な学生がすべて公的職場に引き抜かれてしまう」と焦るようになり、大企業の長時間労働が抑制されていく。
労働基準監督署の人員を増やして世の中の企業への監視が行き届くようにして、企業の長時間労働を減らし、労働者の余暇を増やし、消費を活発化させる。
所得税の累進課税を強めて、労働意欲を抑制し、「仕事すればするほど金を稼げるというわけではない」という状況にして、仕事中毒(ワーカホリック)の人を減らして、長時間労働を好まない社会的風潮を作り上げ、労働者の余暇を増やし、消費を活発化させる。
株式や債券といった証券の売買や、先物取引や、外国通貨の売買(外国為替証拠金取引)や、暗号資産の売買に、個人が参加しにくい体制を作り上げる。キャピタルゲイン税(株式等譲渡益課税)やインカムゲイン税(株式等配当課税)について、一律課税をとりやめて累進課税にしたり、累進課税を強化したりして、「やればやるほど稼げるわけではない」と考えさせる。そうすると、「寝ても覚めてもお金を増やすことばかり考えていて、消費をしようとしない人」の割合が減って、余暇と消費を重視する気風が強くなり、国内の消費が活発化していく。
賃金が上がって余暇が増えた労働者であっても、「この高賃金と豊富な余暇の状態は、いつまでも続くと保障されているわけではない」とか「自分は不確実性に直面している」とか「将来が不安である」と考えるようになると消費を控えて貯蓄するようになる[14]。このため、労働者が消費をして民需を拡大するように仕向けるには、労働者に対して労働待遇の継続性を保障して労働者に確実性を与えることが必要になる。
労働待遇の継続性を保障されて確実性に恵まれるようになって消費をする勇気を持つ労働者は、消費の必要が増える結婚に対して積極的になるので非婚率が減少する。また消費をする勇気を持つ労働者は、結婚したあと、消費の必要が増える出産に対して積極的になるので出生率が増加する。非婚率の減少や出生率の増加によって少子化が解消され、激しい消費を行う若年層の人数が増え、消費が拡大する。
労働待遇の継続性を保障されて確実性に恵まれるようになった労働者は、銀行からお金を借りることが容易になり、大量のお金を借り入れて自動車や住宅を購入するような大きい消費・投資をすることが可能になり、民需を増やす要因となる。銀行は、所属する組織から長期にわたって安定した給料を確実に受け取る者に対して融資する傾向があり、収入が途絶える危険性がある者に対して融資しない傾向がある[15]。
民間企業に対して解雇規制を掛け、民間企業が正社員を簡単に解雇できないようにする。また民間企業に対して派遣社員の使用を禁止する。解雇規制や派遣社員規制によって労働力の流動化を阻止し、労働待遇の継続性を保障された労働者を増やし、確実性に恵まれた労働者を増やし、労働者が将来不安に備えて貯蓄する必要性を減らし、労働者が安心して消費できるようにする。
政府や地方公共団体が終身雇用する公務員を増やす。先述のように中央政府や地方公共団体は、就職市場において大企業と競合しており、優秀な高学歴学生を奪い合っている。公的職場における終身雇用が増加すると、大企業は「終身雇用を従業員に約束せず、企業の業績が悪くなったら早期退職を強いることを宣言すると、優秀な就職希望者が公的職場に流れてしまう。終身雇用を従業員に約束しよう」と考えるようになり、大企業の終身雇用が増えていく。
政府や地方公共団体が公務員の給与体系から成果主義・能力主義を排除して年功序列を導入したり、従業員の給与体系から成果主義・能力主義を排除して年功序列を導入した民間企業に対して政府や地方公共団体が「そのほうがいい」と賞賛したりして、世の中に年功序列を広める。成果主義・能力主義に直面せず年功序列に組み込まれた労働者が増加すると、労働者の不確実性が減り、労働者が「将来に成果が減ったり能力が落ちたりしても給与を大きく減らされることがない」と考えるようになり、労働者が不確実性に備えるための貯蓄に励む必要が無くなり、労働者が消費をする勇気を持つようになる。
老人に対する年金の支給額を増やす。あるいは政府高官が率先して「将来も必ず年金制度を維持する」と発言する。もしくは政府高官が率先して「老人は病気になりやすい存在であり、医療器具への需要を作り出す存在である。医療器具は生産するのが難しいものが多く[16]、医療器具への需要はそれを生産する製造業の技術力を向上させる力がある。ゆえに老人をできるかぎり生存させることは国策として非常に大事である」などと発言する。そうすると労働者の不確実性が減り、労働者が「定年を迎えても収入が大きく減ることがない」と考えるようになり、労働者が不確実性に備えるための貯蓄に励む必要が無くなり、労働者が消費をする勇気を持つようになる。
犯罪を減らし、良好な治安を維持する。そうすることで人々が「将来に自分や身内が犯罪に巻きこまれることがない」と考えるようになり、人々が確実性・安定性に恵まれることになり、人々が予備的貯蓄を積み立てる義務から解放され、人々が消費をする勇気を持つようになる。
凶悪犯罪を減らすには様々な努力をしなければならないが、最も重要なことの一つは、国内において人口空白地域を発生させないことである。人口空白地域を作ってしまうと、凶悪犯罪の証拠を隠滅しやすい土地が増えることになり、凶悪犯罪をしやすい状態になり、治安が急激に悪化する。つまり、地方への支援をして、地方にお金を投入して、地方に人を張り付かせるという地方振興政策を継続的に行う。1972年から1974年まで首相を務めて1980年代中盤まで日本政治の実権を握った田中角栄と同じような政策を行う。
地方振興政策は多くの場合において公共事業を伴い、官公需が拡大することになる。人口が少ない地域において官公需を拡大させることによって人口空白地域が減り、凶悪犯罪の証拠を隠滅しにくくなり、凶悪犯罪の発生が抑制され、人々の不確実性が減り、人々が安心して消費を行うようになり、民需が拡大する。
知能犯罪を減らして治安を維持すると消費が拡大する。知能犯罪の典型例はカルト宗教団体の霊感商法である。警察がカルト宗教団体の霊感商法を摘発しようとしたときに、政治家が警察に政治的な圧力を掛けない。政治家がカルト宗教団体のイベントに出席せず、カルト宗教団体の教祖を褒め讃えず、カルト宗教団体の広告塔にならず、カルト宗教団体の霊感商法を支援しない。以上のことを繰り返してカルト宗教団体を弱体化させて霊感商法が少ない国にすれば、人々が知能犯罪の脅威から解放され、人々の消費意欲が増加し、インフレ圧力が掛かる。
関税を高くして保護貿易にして、海外からの供給を減らす。
関税を低くして自由貿易を促進すると、安価な海外製品が大量に入ってくるようになり、供給が需要よりも大きくなってデフレになる。こうした考え方を輸入デフレ論という。
関税を高くして保護貿易を促進すると、企業経営者が従業員に「君たちは比較的に高賃金を得ているが、発展途上国の低賃金労働者と同じような働きをしている。君たちを雇用することをやめて、工場を低賃金の発展途上国へ移転して、発展途上国の低賃金労働者を雇用して、海外で作った製品を国内に輸入しようと思う」と言っても、それを実行することが難しくなる。従業員は自信を維持することができ、賃上げを要求する意気を持つことができる。国内の各企業で賃上げの傾向が強まり、国内の個人消費が活発化する。
関税を高くして保護貿易を促進すると、海外供給の削減と、国内従業員の賃上げによる民需拡大という2つの効果がある。どちらもインフレ率の上昇の原因となるものである。
政府が経済に介入する統制経済 を採用し、国内業者に様々な規制を掛け、国内の供給を減らす。
天候に恵まれて農産物が豊作になったとき、農産物をそのまま大量に出荷すると市場で値崩れを起こして物価が下がる。そうなると農家の売上が減り、豊作貧乏という状況になる。豊作貧乏になることを防ぐため、農林水産省や農協が指導して緊急需給調整施策 を行い、農家の手によって農産物を地中に廃棄する。
農業を主な産業とする地方は数多い。農林水産省や農協が指導して緊急需給調整施策を行って供給の過大化を防ぎ、農家の貧困化を防ぎ、農家が廃業することを防ぎ、人口空白地域の発生を抑制し、凶悪犯罪の証拠を隠滅しやすい土地が発生することを防ぎ、良好な治安が維持されるようにしている。良好な治安が維持されたら、人々の不確実性が減り、人々が安心して消費を行うようになり、民需が拡大する。
つまり、農林水産省や農協が指導して行われる緊急需給調整施策は、供給の削減と需要の増加という2つの効果がある。どちらもインフレ率の上昇の原因となるものである。
大規模小売店舗法(大店法)を制定し、大規模な商業施設が登場することを防ぎ、商品の供給の過大化を防ぐ。
本項目では、インフレ率の上昇をもたらす金融政策を列挙していく。
金融政策は、中央銀行(日本なら日銀、アメリカ合衆国ならFRBが主導するFRS)が単独で行う。中央銀行は早くて機動的な行動をとることができる。
中央銀行が資金供給オペレーションをして、短期金融市場に出回る余剰通貨の量を増やし、短期金利を下げて利下げし、金融緩和する。
日銀が短期金利を下げて利下げすると、市中銀行が企業・家計に貸し出す際に掛けられる「市中の金利」も下がる。市中銀行は短期金融市場のインターバンク市場(銀行間取引市場)で借り入れる金利よりも高い金利で企業・家計に貸し出して利鞘(利ざや)を稼いでいるからである。このため企業・家計は借り入れが容易になり、消費が活発化することが期待できる。
デフレというのは借り手(企業・家計)にとって過剰に厳しく、貸し手(銀行)にとって過剰に優しい状態である。その状態を是正するため、中央銀行が利下げして銀行の貸出金利を低め、借り手(企業・家計)を助けつつ貸し手(銀行)に懲罰を与える。
短期金利を0%近くにする、すなわち短期金融市場のインターバンク市場(銀行間取引市場)の金利を0%近くにする政策をゼロ金利政策という。
短期金利をマイナスにする、すなわち短期金融市場のインターバンク市場(銀行間取引市場)の金利をマイナスにする政策をマイナス金利政策という。
日銀が1年を超える期間の国債を大量に買い込み、長期金利を下落させる政策を量的金融緩和という。ただし、「量的金融緩和をすると、短期金利と長期金利の金利差が小さくなり、長短金利差が縮小し、銀行の経営を圧迫する。経営に余裕がなくなった銀行は、優良な借り手にだけ融資するようになり、貸し渋りをする。このため量的金融緩和は無駄で逆効果な政策である」という考え方もある。この考え方をリバーサル・レート理論という。
中央銀行が資金供給オペレーションをして、短期金融市場に出回る余剰通貨の量を増やし、短期金利を下げて利下げし、アメリカ合衆国の短期金利よりも自国の短期金利を低くすると、国際的に活動する機関投資家が「日本で日本円を借りて入手し、日本円をアメリカ合衆国ドルに交換してアメリカ合衆国ドルを入手し、アメリカ合衆国ドルを持ってアメリカ合衆国の短期国債市場へ行き、アメリカ合衆国の短期国債を購入しよう」と考えるようになり、つまり円のキャリートレードを狙うようになり、外国為替市場で円売りドル買いが進んで円安ドル高になる。
円安ドル高になると、輸出企業は輸出しやすくなるので国内への出荷を減らすようになり、輸入企業は輸入しにくくなる。国内のモノの供給が減り、国内において需要よりも供給が劣勢になり、インフレ圧力がかかり、デフレが抑制される。
本項目では政府の指示を受けた中央銀行が実行する政策を解説する[17]。
ある国が固定相場制や中間的為替相場制を採用している場合、政府が自国通貨の切り下げをするとインフレ圧力が働く。
自国通貨の切り下げというのは自国通貨安・基準通貨高のことであり、アメリカ合衆国ドルが基準通貨であることを踏まえると自国通貨安・ドル高のことになる。日本でいうと円安ドル高である。
日本なら、政府の指示を受けた中央銀行が外国為替市場に為替介入し、外貨準備高を増やしながら円売りドル買いをして、円安ドル高に導いていく。
円安ドル高になると、輸出企業は輸出しやすくなるので国内への出荷を減らすようになり、輸入企業は輸入しにくくなる。国内のモノの供給が減り、国内において需要よりも供給が劣勢になり、インフレ圧力がかかり、デフレが抑制される。
世の中は通貨以外にも様々なインフレに包まれている。
要するに、「ありがたみがどんどん減っていく」と言うこと全般を指す。
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最終更新:2025/12/10(水) 19:00
最終更新:2025/12/10(水) 19:00
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